第72話『魔物ショップ』
「いえ、あの……こちらの普通の壺で結構です。いいだろう?シロガネさん」
「ええ……お嬢様が、そうおっしゃるのであれば」
「そうかい?うちの番犬は、高価な壺が好きなんだがね」
逃げ出した使い魔を入れておくだけの用途なので、高価な金色の壺ではなく、フタのついている普通の壺を購入した。ちなみに店主の言い分も間違いではないらしく、キラキラピカピカした壺の中には、白い犬っぽい生き物がしっくりとおさまっていた。ツボわんこだ。
「というかシロガネさん……そんな大金を持って歩いているのか。落としたら大変だぞ」
「懐より安全な場所はございませんわ」
そういやシロガネさんって、リディアさんに発見されるまでは、どこに住んでいたのだろうか。リディアさんを常に監視していたせいで住所がなかったとなれば、全財産を持ち歩いていても仕方がないと思われる。そんなシロガネさんの奇行を目の当たりとして、エメリアさんからは金銭感覚に疑問の声が上がる。
「もしかして、シロガネちゃんって……リディアよりお金に疎いんです?」
「そういう訳ではないのだが……どうしたんですか?私も驚きましたが」
「お……お嬢様のためと思ったが最後、お財布に手がのびていましたわ」
普段は冷静沈着な彼女だが、リディアさんの為となると自我がなくなってしまう訳で、その点に限ってみれば非常に心配な人物である。それはともかく、シロガネさんは購入したツボを手にして、改めて使い魔の捜索作戦にと動き出した。
「気をとりなおしまして……捜索開始ですわ」
「よーし。やりますよー」
やっとクエストがスタートすると見て、エメリアさんもやる気を見せている。とはいえ、闇雲に捜索を開始しようにも、どこから探していいのか迷うくらいに街は広い。そして、街の中に生きて残存している保証もない訳で、容易くはないクエストだと俺も認識した。少しでも助けになれないかと思い、俺も視界の中にあるウィンドウへとマップを表示し、近くにいる魔物の居場所を探ってみた。
「……」
うわぁ……さすが街中だ。人の居場所を示している緑色の印が、星の数ほどに散らばっている。しかも、魔物の位置を表す赤い印も、思った以上に街中には存在していた。そんなに魔物って、街の中にいるものなのか?
「……」
空を飛んでいく鳥や、人々の足元を歩く四足歩行のケモノ。そういった人々の生活に溶け込んだ生き物も、魔物として認識されているらしい。使い魔は人間と契約しているからマップ上でのマークも魔物とは少し違っていて、こちらはピンク色の丸印となっている。使い魔も街には点在しており、どれがターゲットの使い魔なのか特定するのは難しい。
「で、どうするんですか?街をぶらぶらします?」
「そのような非効率的な探し方では日が暮れますわ。今、メイド七つ道具の1つを明らかとします」
シロガネさんはスカートのスリットへ手を入れ、ヒモのついたクリスタルのようなものを取り出して見せた。それが何に使うものなのかは見た目では解らないが、七つ道具に数えられる代物となれば、それ相応な力を持っているに違いない。自然と期待も高まる。
「どうやって使うんです?」
「特定の魔力を探知するダウジングですわ。ご主人様の探し物、失せ物、そういった問題を一瞬にして解決いたします。メイドの必須アイテムでございます」
そうか。魔物を探すのが目的なのだから、それに近い魔力を辿っていけば、そこへ自ずと行き着くという道理である。これなら、すぐに依頼も解決するかもしれないな。
「すごいですね~。では、先生。お願いします~」
「では、まずは魔物ショップへ参りましょう」
「……?」
いざ、捜索を開始する前に……魔物の売っているショップへ行くらしい。しかし、なぜ。
「ヘビの魔物の魔力を知らねば、どのような魔力を辿るかも明らかとなりませんわ」
「理解しました。行きましょう」
理由を聞いて納得した。においで物を探ろうとするならば、まずは探しもののにおいを知らないといけない。それと同じで、魔力を探すためには、似た魔力を知っておかないといけないのだろう。シロガネさんは暴走することこそあれど、1つ1つの判断は堅実かつ冷静である。リディアさんも今回の行動に問題はないと見て、何も言わずに2人の後ろをついていく。
魔物のショップはアネットさんの家の近くにあり、お店の前には鳥かごにはいった鳥がいる。でも、鳥には羽毛がなく、肌は派手な赤色。尻尾もある。どちらかというと、小さなプテラノドンという感じの生き物である。
「オキャクサーン!オキャクサーン!」
「おお……この鳥、しゃべりましたよ」
プテラノドンみたいな生き物が、エメリアさんに話しかけている。しゃべれる魔物もいるのか。エメリアさんが、プテラノドンに名前を尋ねている。
「お名前は、なんっていうんですか?」
「オキャクサーン!」
あの鳥の名前が『お客さん』……なわけじゃないよな。とすると、きっとオウムみたいに、覚えた言葉を口にしているだけなのだと思われる。シロガネさんは生き物が苦手なので、七つ道具のクリスタルを差し出しつつ、プテラノドンの動きに警戒を見せている。
「あなた。中へ入って、ヘビに似た魔物に、こちらの石を近づけてきてくださいまし」
「ラジャ……おおっ」
エメリアさんがシロガネさんの頼みを受けたと同時に、魔物ショップの中から大きな人が出てきてぶつかりそうになった。エメリアさんが相手を見上げたと同時に、その大きな人も口元をムッとさせて見返してくる。
「あ……リディアのお兄さんじゃないですか」
「君は……ということは、リディアもいるな」
「……」
魔物ショップから出てきたのが騎士団長と解り、すぐにリディアさんはプテラノドンの後ろに隠れる。だが、それも無駄だと観念した様子で、しぶしぶ兄の前へと姿を現した。
「ご……ごきげんよう。お兄様」
「……どうした。そのマントは」
「……」
リディアさんが全身をマントで隠しているので、騎士団長は怪しむ気持ちを込めて見下ろしている。マントの中を見られたら、絶対に怒られる……。
「ふっ……竜の紋章を編み込んだマント。お前にも、我が一族の誇りが理解できたようだな」
ほめられた……騎士団長、マントをつけたスタイルが好みなのかな。笑みを見せている騎士団長を追いかけて、魔物ショップの店員さんが店から出てくる。
「本日は、御足労をいただきまして……今後とも、誠実な営業につとめさせていただきます」
「邪魔をしたな。失礼する」
なんだか今日の騎士団長は、機嫌がいいらしい。小言の1つも口から出さず、中央通りへ続く道へと軽く踏み出していった。そちらの姿が見えなくなると、店員さんがエメリアさんへと向き合って接客を始めた。
「ようこそいらっしゃいました。本日は、どのようなご用件で?」
「あ……ヘビさんをお探しなのですが、います?」
「ヘビの魔物でございますか?あいにく、うちでは取り扱いが……」
ここは鳥っぽい生き物と哺乳類が専門で、爬虫類や両生類は扱っていないと見える。それはともかく、店員さんの後ろからリスとかウサギみたいな生き物が俺たちをのぞいていて、なんというか……見ているだけで癒される。エメリアさんと店員さんの会話を受けて、遠巻きにシロガネさんが質問を重ねる。
「遠くより失礼いたします。この付近でヘビのお取り扱いをしているお店はございますか?」
「いえいえ、とんでもない。ヘビを店に置いていると知られては、騎士団の捜査が入ってしまいます」
「……?」
そんなに珍しい生き物なのだろうか。騎士団長は騎士団の制服を着ていたし、遊びに来ていたとも考えにくい。他にお客さんも今はいないと見て、魔物ショップの店員さんはエメリアさんとリディアさんを中へ招いてくれた。
「ワタクシ、入り口でお待ちしておりますわ……」
中に入るのが怖いようなので、シロガネさんは入り口から中をうかがっている。魔物たちはエメリアさんの方には近づいていかないのだけど、リディアさんの足元には大集合している。ごはんをもらえると思ったのだろうか。小さな舌をぺろりと出して、かわいい顔で見上げていた。
「お客様。動物に好かれる体質で?」
「昔は、そうでもなかったのだが……おい。こら……中に入るんじゃない」
動物たちがマントの中に入ろうとする為、リディアさんはしゃがみ込んでガードしている。リディアさんは動物とたわむれるのに忙しいと見て、エメリアさんが店員さんの話をうかがっている。
「なんでヘビさんは、置いてないんですか?」
「ちなみに……魔物ショップの営業理念や仕組みは、ご存じで?」
「いえ、全然」
1から説明が必要と見て、咳ばらいをしたのちに店員さんは解説を始めた。
「魔物ショップというのは、自然な環境へ帰ることができない魔物を保護し、育てる能力のあるお客様へとお譲りしているお店でございます。ですが、ヘビ類は環境適応能力に優れております故、人の手で保護する必要が、ほとんどございません」
「捕まえてきて売ってるわけじゃないんですか?」
「はい。先程も、騎士団長様が直々に訪問され、違法な売買が行われてはいないかと、監査されておりました」
店員さんのいうところによれば、地球にあるペットショップとは少し目的が異なっているようだな。ここにいる子たちはケガなどをしている様子はないけど、無責任に野に放つこともできない状況に置かれているのだと思われる。そして、騎士団長がやってきていた理由も、なんとなくは頭に入ってきた。
「兄……騎士団長は、こちらへは頻繁に?」
「ははぁー……3日に一度はお見えになり、厳重な目を向けられております。騎士団長様のおかげで我々も、安心して営業を続けられます」
お店の人には一応、感謝はされているらしい。でも、忙しいはずの騎士団長が3日に一度の頻度で来店とは、かなり厳しく見回っているんだな。
「特にネココの取り扱いに問題を感じておられるのか、来店されるたびにネココはいないかと……」
それを聞いて、やっぱり私的な理由での来店なのではないかと疑惑が立った。しかし……騎士団長、本当にネココが好きだな。いつか、仲良くなれるネココが見つかることを願うばかりである。
第73話へ続く




