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第71話『受理』

 そこまで欲しいのならばと、リディアさんはマントをゆずる意思を見せている。でも、今はマントを脱ぐわけにはいかないので、ひとまずは住所の書いた紙を女の人へと渡した。聖女の服を見て動揺している彼女が、わざわざ訪ねてきてくれるかは解らない……。


 「では、失礼する」 

 「が……がんばってください」


 女の人は、ふるふると体を震わせながら、涙ながらに応援の言葉をかけてくれている。どういう心境なのかは不明だけど、持ち前のカッコいい口調が崩れてふわふわしてしまっているところから察するに、かなり動揺していることは間違いないと見られた。


 「……お嬢様、無事に到着いたしましたわ」

 「ここへ来るだけで、少し精神的に疲れたな……」


 入国門近くへと到着し、大きな熊のマークがついた看板の前に立った。ここがギルドの支部であると思われる。装備を整えた冒険者らしきや、民間人っぽい人も出入りしている。開きっぱなしとなっている戸口をくぐって中へ入ると、リディアさんも少し落ち着いた様子でマントをゆるめていた。そんなリディアさんに後ろから抱き着きながら、エメリアさんがお仕事の話を始めている。


 「リディアー。ギルドの人じゃないのに、シロガネちゃんも一緒に仕事していいんですか?」

 「ギルドからの支給は受けられないが、同行する分には問題ないと思うぞ」

 「ええ。本日は、よろしくお願いいたしますわ」


 みんなはギルド支部の奥へと向かい、たくさんの貼り紙がある場所で立ち止まった。これが全部、各地各所から届いた依頼なのかな。ギルドの事務員と見られる人が、今も新しい依頼書をコルクボードへと貼りだしている。リディアさん達の他にも、貼り紙に目を向けている人の姿が多く見られる。


 「……リディア!これとかどうですか?」

 「……?」


 お仕事依頼の紙を指さして、エメリアさんが依頼の1つに目星をつけている。

 

 『女性限定。お客様と軽い食事をしながらお話をするだけ。短時間で高収入!初心者歓迎!にゃんにゃん喫茶・キャッツアイクラブ』


 「ごはん食べて、お話しするだけみたいです」

 「怪しくないか?過激な服を着せられたりするかも解らない」 


 書いてある報酬の金額は魅力的であるが、リディアさんの言う通り、業務内容が微妙に怪しい。なお、すでにリディアさんの衣服が過激な点についてはエメリアさんも言及はしない。


 「お嬢様!こちらなどいかがでしょうか!」


 別の依頼の内容を見つめ、シロガネさんが自信満々といった声でリディアさんに呼びかけている。


 『本日13時以降、お皿洗いの人員が足りません。お手伝い求む。スイカ食堂』


 「洗い散らしてやりますわ!」

 「シロガネさんはいいが……それを後ろで見ている私は、どうしていたらいいんだ」

 「ささやかながら、応援をくださいませ」


 シロガネさんのやる気が上々なので、午後からはお皿洗いに行くこととなった。リディアさんはお皿洗いの依頼書を手に取り、受付の窓口へと持って行く。お皿を洗うことに関して、ややエメリアさんは不安を抱いている様子だ。


 「私、お皿を割っちゃうかもしれないですけど」

 「恐らく、シロガネさん1人で事足りてしまうから、お前も見てるだけになるぞ……」


 シロガネさんのお皿を洗うスキルは人並外れているようで、この件に関してリディアさんとエメリアさんの出る幕はないらしい。お皿洗いの依頼書に窓口でハンコをもらい、リディアさんは場所と日時を再確認してバッグへと入れた。


 まだ朝も早いし、お皿洗いまでは時間がある。リディアさんは、別の依頼にも目を向けている。


 「時間に縛りのないものであれば、昼まで手伝えると思うのだが……」


 どんな依頼が並んでいるのかと、俺もリディアさんの胸元から依頼書を拝見している。野草収集や輸送の護衛、販売接客……なんでもあるな。こうしてみると、冒険者って日雇いのアルバイトみたいなものなのかもしれない。そうした求人情報の中に、ちょっと気になる文面を発見した……。


 『希少動物捜索願い。以前に北の森で見かけた、体が岩でできたオオカミを探して欲しい。備考:ワンコロちゃんとの愛称がついている為、呼ぶと出てくる可能性あり』


 「……」


 これを出したの、アネットさん……じゃないよな。思うに、帝国の研究室からの依頼じゃないのだろうか。なお、依頼主は秘匿となっている。それとは別の依頼として、似た内容のものが近くに貼り出されている。


 『ペットにしようとした魔獣が森で行方不明になってしまったので探してもらいたい。特徴:体が岩でできているオオカミ 体は手のひらサイズ 名前:ワンコロちゃん』


 こちらも依頼主の名前は非公開となっているが、これを出した人の心当たりが数人しか思い当らない。俺の預かり知らないところで、ワンコロちゃんは人気らしい。だが、これらの依頼が達成されることは、残念ながら絶対にないのである。なぜなら、ワンコロちゃんというのは、俺のことだから。


 「リディアー。これとか、どうです?」

 「……なんだこれ」


 またエメリアさんが、面白そうな依頼を見つけてくれたらしい。ええと……。


 『ライト地区にある行き止まりの数を調べてください。行き止まりかどうか判断の難しいものは別カウントとし、地図に印をつけて提出してください。期限:受理より半年 行き止まり研究会』


 「エメリアって、こういう地味なの、意外と好きだよな」

 「忙しくなさそうなのがいいです」


 俺も、こういうマイペースに探検できる仕事は魅力的に感じてしまう。解る。しかし、行き止まり研究会なんて団体があるとは思わなかったな……世界は広い。この依頼書に目を通し、シロガネさんがエメリアさんへと苦言を呈している。


 「あなた。こういった仕事は、空を飛べる方の専売特許ですわよ」

 「実は、エメリアは飛べるぞ」

 「えっ……飛べますの?」

 「がんばったら飛べます」


 エメリアさん、飛べるんだ。羽もないのに、空が飛べるとは不思議だ。そう考えて彼女の背中へ視線を向けてみたのだが……よく見ると、背中に少し膨らみがある。もしかして……あれって、羽なのか?裸っぽい姿は見た事があったけど、今までずっと気づかなかったな……。


 「あなた。どうして飛べるというのに、いつもお嬢様に買い出しの手間をおかけしているのですか!」


 「だって、頼んだらやってくれるんだもん」


 空を飛べる事がばれたらばれたで、家での仕事を色々と増やされるのだ。これを危惧して、飛べることは公にしていないのかもしれない。とにもかくにも時間がかかるとして、行き止まりを数える仕事は今回は見送りとなった。


 「これでよくないか?」


 シロガネさんとエメリアさんが、やや特殊な仕事ばかり探し出してくれるので、リディアさんが適当な内容のものを選びだした。


 『家からいなくなった使い魔を探しています。連れ戻し次第、500ジュエルをお渡しします。詳細は、写真を参照のこと』


 魔物探しか。写真を見たところによると、黒いヘビみたいな生き物がいなくなってしまったとのことらしい。魔物の種族はゼルベルトといい、人を襲う習性はなく、毒も持っていないと書かれているな。体が細い生き物であるからして、せまいところに入り込んでしまったら、なかなか見つからないかもしれない。


 「リディア。これ、かなり依頼から時間が経ってますよ?」

 「まだ見つかっていないようだな。さぞや主人も心配しているだろう」


 報酬の数字には何度も書き直されたあとがあり、ついには500ジュエルまで上がってしまったと見られる。いまだ発見されていないとなると、どこか遠くへ行っちゃった可能性もある。今日の午前で見つかるだろうか。


 「こちらの依頼を受けてみる。待っていてくれ」

 

 すぐにでも仕事を始めようと、リディアさんは窓口へ書類を提出している。使い魔が見つからなかったとしても怒られる訳ではないし、その点においてはエメリアさんも気楽そうにしている。


 「では、行こう」

 「は~い」


 魔物探しとお皿洗い、2つのクエストを受けた後、3人はギルドの支部から出て行動を開始した。そういや、昨日のギルド本部に来ていた人、ちゃんと依頼は出せたのだろうか。どんな内容なのか気にはなるけど、あの人の名前が解らないから調べようもないな。


 「エメリア。魔物のいそうな場所に心当たりはないか?」

 「そうですね~……レストランの食糧庫とか」

 「食べ物のある場所は、確かに怪しいな。食料にも困っているだろう」

 「なんでも食べる種族もいますからね」


 なんとなくだけど、2人の会話には思い違いが感じられる。肝心なのは、使い魔がレストランの食糧庫に侵入しているのか、食材にされて保管されているかの違い。食べられてしまっていたならば、もう見つかりっこない事この上ない。。


 「……あの、リディア?」


 「なんだ?」


 「なんで、率先して働こうとしてるんですか……今日は、私とシロガネちゃんがやるって言ったじゃないですか」


 「なんで、働いて怒られないといけないのか……」


 自然と2人を引率しようとするので、リディアさんがエメリアさんに怒られている。そこで、今回はシロガネさんが代わりに指揮をとろうと動いた。


 「淫魔。あなた、この魔物を捕獲するに当たり、必要なものをご理解しておりますの?」

 「なんか必要なんですか?」

 「入れ物ですわ。捕獲に成功した後、素手で持ち運ぶ訳にはまいりません」

 「そっか!シロガネちゃん、頭いいですね」


 言っていることは間違っていないのだけど、なんだか先行きが不安になる会話である。入れ物を調達するべく、まずは商店街へと足を戻した。


 「……リディア~。これとか、どうですか?」


 エメリアさんが、丸くて大きなフルーツを持っている。ピンク色をしているけれど、模様はメロンに似ているな。


 「夕食のデザートの話か?」

 「いえ、これの中身をくりぬいて食べて、残った皮に魔物を入れます」

 「食べたいだけだろ……」


 この大きさなら確かに入るだろうけど、果物を食べるだけで午前が終わりそうである。そんな相談をしている中で、シロガネさんが近くにいないことにリディアさんは気がついた。


 「あれ……シロガネさんは?」

 「……」


 シロガネさんは、お店に並んだ壺を真剣に見つめている。あれに魔物を入れるのかな?


 「お客さん。どんなもんをお探しで?」

 「ええ……一時的に魔物を収容する用途でございますわ」


 フタのついたものなら、どれでも魔物を入れておけそうだし、安いものでいいとは思われる。そうして迷っているシロガネさんに、店主らしき人がオススメのツボを差し出している。


 「それなら、これ。やっぱり、高価な壺に入れられた方が、魔物も喜ぶはずですぜ」

 「一理ありますわ!そうですわね!」

 「こっちの壺には、宝石もついていますぜ。お客さん、どれにされます?」

 「では、こちらの金色の壺を……」

 「シロガネさん……ちょっと……」


 500ジュエルの仕事の為に、500ジュエルの壺を買おうとするシロガネさん。当然、リディアさんからストップがかかった……。

第72話へ続く

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