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第67話『媚薬』

 「シロガネさん。これ、なんだと思う?」


 「こちらは……干し肉を細切りにし、ピヨ豆のペーストと一緒に油で炒めたものですわ。お野菜は……マキシーの皮と、ヒョロの根でございます」


 料理は管理人さんが作った為、その概要については味から察するばかりである。リディアさんの疑問に対し、シロガネさんは己の舌を使って答えを導き出していた。豆も野菜も俺が地球で見知ったものではなく、見た目も蛍光っぽい青だったり赤だったりと、かなり派手。口に入れた時の音ははシャキシャキとしている。

 

 「おいしくて、いくらでも食べれるな」

 「これ、おつまみに持って行きましょう」


 かなり美味しいらしく、リディアさんはおかわりをよそっており、エメリアさんはお酒のおともによさそうなものを別のお皿へと取り分けている。シロガネさんは先に食事を終え、溜めた水に食器をつけて手でこすりはじめた。リディアさんたちのお皿についても、空いたものから下げてしまう。


 「食べ終わったものをお下げいたしますわ」

 「あっ。自分のお皿は自分で洗うから、シロガネさんは先に上へ戻ってもらっていいぞ」

 「え……あの……ワタクシ、お待ちしておりますわ」

 「そうか……悪いな」

 

 なぜかシロガネさんの視線は泳いでおり、廊下の方をちらちらと意識していると見える。なんとなくだが、管理人さんと通路ではちあわせるのが怖いのではないだろうかと思われた。シロガネさんは部屋のすみにあるイスへと座って、リディアさんがご飯を食べている姿をじっと観察している。


 「……そういや、エメリアは結局、お酒は開けなかったのか?」

 「これは、リディアとシロガネちゃんと一緒に飲む~」


 あまり量も多くないので、ピンクのビンのお酒は寝室に持ち込むことにしたらしい。夕食の片付けまで終え、新しいグラスと小皿を用意してダイニングを出た。廊下で管理人さんとすれちがったので、軽く頭を下げてアイサツする。階段を上がる途中で、エメリアさんが軽い疑問を口にする。


 「管理人ちゃんて、どこで寝てるんですかね」

 「階段下に入っていくのを見たことがあるが……」

 「お嬢様……あそこにあるのは、化粧室だけですわ」

 「きっと隠し部屋があるんですね~」

 

 家に隠し部屋がある可能性が浮上してしまったら、それはそれで怖くて気が気じゃないように思うけど……リディアさんとエメリアさんは至って問題視していない。3人は2階にあるリディアさんの寝室へと入り、窓を開いて部屋に風を取り入れる。天気のよさもあって、今日の空は月明かりが降っているように錯覚するくらい明るい。ろうそくがなくても、部屋全体が見通せる。


 「リディアー……これ、水割りでいいですか?」

 「ああ、いいぞ」


 鳴くようなキュッとした音をたてて、ビンのコルクらしきものが抜かれる。同時に、空気のもれだす音が聞こえた。その様は炭酸みたいに見えるけど、この世界にも炭酸飲料があるだろうか。ビンの口からは紫色をした煙が立ち昇る。変わったお酒だな。


 「今日は、貝の干物も持ってきました~」

 「それ、夕食のために買ってきたやつだろ……くすねたな」


 夕食に使われる予定だったものをエメリアさんは取っておいたようで、1人に1つずつ干物を手渡している。みんなはお酒を飲む前に干物を口に入れ、ほほをふくらませてころころさせていた。なめている舌づかいが次第に、咀嚼へと変わっていく。


 「リディア。お酒、どのくらい入れます?」

 「グラスの3分の1くらいでいいぞ」

 「シロガネちゃんは?」

 「やや少なめでお願いいたしますわ……」


 エメリアさんがお酒をグラスにそそぐ。お酒の色は透きとおったピンクで、金色の泡がこぽこぽと浮かんでいる。グラスの口からは、紫色の煙があふれ出している。お酒屋さんで売っていたものだからお酒で間違いないとは思うのだけど、見た目は外国のアニメにでも出てきそうな怪しい薬のそれである。異様に値段も安かったし……なんか怪しい。


 「リディア。ところで、これ……なんのお酒なんですか?」

 「よく解らないが、酒屋の目立たない場所に置いてあった。なんと、3ジュエルだ」

 「お安いですね~」


 干物でしょっぱくなった口へと、エメリアさんとリディアさんがお酒を入れる。少量を味わい、飲み込みつつも顔をしかめた。


 「甘いな」

 「うわぁ。甘いですね」


 味は甘めらしい。アルコール度は高いのか、水で薄めたにも関わらず、2人のほほがピンクに色づいている。シロガネさんはお酒の香りをかぎながら、飲まずにグラスをゆすっている。


 「……」


 唐突に訪れた不思議な沈黙の末、エメリアさんがギルドの様子についてリディアさんへと尋ねた。


 「ギルド長、何か言ってましたか?」

 「無事に帰ってきてなによりと言っていたぞ。帰還祝いももらった」

 「そうでした。帰還祝いがあるんでした……でも、行くと他の冒険者にからまれるんですよね」


 エメリアさんは酒盛り自体は好きだけど、色々な人に囲まれるのは嫌らしい。村で宴会をやった時も、絶対にリディアさんの隣から動かなかったし、公園では見知らぬ子どもたちにすらいじられていた。案外、いじられキャラなのかもしれない。


 「あの子、ジェラちゃん。いました?」

 「いたぞ」


 ジェラさんというのは、ギルドで会った天使の羽がある女の子だったな。その子のことを聞いた矢先、エメリアさんはお酒の味を舌にからめ、全く関係ない話題を持ちかけた。


 「リディア。その服、かわいいですね」

 「そうだな」


 エメリアさんはイスを動かして、何か期待するようにしてリディアさんの横へと移動する。


 「ねえ、私のこと、どう思ってます?」

 「んん……エメリアは……」

 「……?」

 「……のんきだよな」


 エメリアさんの質問の意図も謎だが、リディアさんの素直な返答もどうなのか。特別、その返事に気分を害したといった態度も見せず、エメリアさんは自分のグラスにスッとお酒をつぎ足している。リディアさんも甘いお酒に顔をしかめながらも、先程の言葉に続きを付け加えた。


 「のんきなのを見ていると、和む……」

 「ほんとですか?ん……もう1回、言ってください」

 「和むな……」

 「こっち見て言ってください」

 「うん……和むぞ」


 あれ……なんか、リディアさんとエメリアさんの会話がおかしい。リディアさんはエメリアさんの髪をなでて、指先で流して楽しんでいる。もう酔ったのだろうか。まだお酒に口をつけていないシロガネさんが、怪訝そうな顔で2人を見ている。


 「リディア。私のこと好き?」

 「うん」

 「例えば、どこが好きですか?」

 「ん……和む」

 「それ以外ないんですか~?」

 「それ以外は……」


 エメリアさんのいいところを探すかのようにして、リディアさんは顔や体を観察している。最終的に視線は胸に行き着くのだが、そこも含めて別のことを褒め始める。


 「触り心地とか……」

 「やだ~。リディアったら~」


 昨日もお酒は飲んでいたけど、ここまで変な雰囲気になっていなかった。すると……これは間違いなく、お酒特有の効果と見ていい。幸せ気分を高めながら、リディアさんとエメリアさんは体を寄り添わせている。グラスの中身を飲み干して、じゃれあうようにしてベッドに転がった。


 「リディア~。私のこと、好き~?」

 「うん……」


 触れあっている様は普段の魔力補給と変わりないのだけど、ラブラブ度が増している。このお酒……どんな効果があるんだろう。ステータス画面で鑑定できないかと試してみた。


 『幸福度プラス・心境自白』


 幸福度プラスは指につけているリングと同じ効果だろう。それに加えて……自白という効果がついている。これは、心に思っていることが、口から出てしまう効能と見られる。リディアさんがエメリアさんへ発言した内容は、普段から抱いているイメージであっているらしい。


 「エメリアは私をどう思っているんだ?」

 「んふふ……ぜんぶ好き~」

 「エメリアはかわいいなぁ」


 本人たちは幸せそうだが、これ……あとで酔いが覚めた時に、恥ずかしくて死にたくなるやつじゃないのだろうか。まだお酒を飲んでいないシロガネさんも、制止しようかしまいかといった態度でイスから腰を浮かせている。


 「……愛してるって言って~。ねえ、リディア~」

 「お……お嬢様!さすがに、ふしだらが過ぎますわ!淫魔も、少しは離れなさい!」


 リディアさんが愛の告白をせがまれており、それを見たシロガネさんがついにキレた。ただ、それは怒っているというよりは、2人の関係をやっかんでいるといった素振りである。その言葉を受けて、リディアさんはベッドに寝転がったまま、立ち上がったシロガネさんをじっと見つめている。


 「シロガネさん……」

 「は……はい」


 眠そうな目を向けて、リディアさんがシロガネさんに声をかける。その表情はうっとりとしていて、目がうるんでいる。


 「……シロガネさんって、本当にキレイだな」

 「え……」

 「昔から、ずっと思っていた。キレイだ……」

 「……お嬢様」


 シロガネさんは美人だし、その点で疑う余地はない。でも、リディアさんだって街では滅多に見かけないくらいにキレイだ。リディアさんはシロガネさんの見た目をほめている……というか、どちらかといえば、その凛とした立ち振るまいや、芯の通った真っ直ぐな姿勢に羨望をもっている。女性的な美しさに憧れている。そんな口ぶりであった


 「お嬢様……」


 シロガネさんは葛藤するように涙を流し、やや迷った末に、手にしていたお酒を飲み込んだ。あ……飲んじゃうんだ。


 「すみません……お嬢様。今夜限り……今夜限りは、お許しください」


 もう3人とも飲んでしまったが最後、あとは止める人もいない訳で……その後のベッドでのおたわむれといったら、もう言葉にするのもはばかられる乱れようであった。


 「……」

 

 いいや。俺は、ゲームでもやろっと……。


第68話へ続く

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