表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/978

第65話『遊び』

 「……おお。神様が光っとる。はああぁ」


 周囲に誰もいなくなったところで体を発光させてみたところ、のちのち近くを通りかかったお爺ちゃんが驚いて腰を抜かしてしまった。手がないから助け起こしてあげることもできず、俺は緊張ながらに様子を見守っている。


 「……あー、ビックリした」


 おじいちゃんは体を悪くした様子もなく、よそよそと立ち上がって俺に頭を下げた。暗くなりかけた時間に体を光らせると、みんなを怖がらせてしまうかもしれない。ちょっと早めを心がけて、明るい内に発光を始めた方が目立たないかな。


 「……」


 こうして、のどかな村の風景をながめていると、この世界には問題なんて何1つないようにすら思える。平和だ。まだ大きなネズミと荷車は家に戻っていないから、リンちゃんのお父さんも仕事を終えて帰ってはいないと見える。リンちゃんの家の煙突からは白い煙が出ており、料理か何かをしているのだろうとうかがい知ることができた。


 「……」


 太陽が沈んでいく。夜が近い。村では洗濯ものを入れている人もいる。雑草を抜いている人もいるな。俺は1人で景色をながめているのが好きだけど、こうして人の姿を見て、生活に触れて、確かな安心を得ている自覚もあった。あまり人と関わるのは好きじゃないけど、人の近くにいさせてもらいたいとは望んでいる。自分でも結構、わがままだなとは思う。


 「ジェム姉!イッキタクートンやろう!」

 「いいわよ」


 リンちゃんがジェムちゃんをつれてきて、家の前の広い場所にて何やら謎の遊びを始めた。ひょいひょいと長いヒモらしきものを振っており、リンちゃんとジェムちゃんはヒモの両端をそれぞれ持って踊っている。なんだろう……なわとびのような遊びかな?


 「イッキタクートン!イッキタクートン!」

 「はいっ!」


 リンちゃんが謎の言葉を口ずさみ、ジェムちゃんが掛け声をつけている。2人は持っているヒモを引っ張り、なにやらポーズをとった。ええと……綱引きか?


 「……はい!リンの勝ちー」

 「じゃあ、次いくわね」


 リンちゃんはヒモの端をおしりの近くに持ってきていて、ジェムちゃんは逆側の末端を頭の上に乗せている。そして、結果的にはリンちゃんが勝ったらしい。再びリンちゃんが歌い始め、それにあわせて2人はヒモを振り回している。


 「はい!」


 今度はリンちゃんが胸にヒモを当てていて、ジェムちゃんは右腕にヒモを巻いている。


 「はい。今度は私の勝ちよー」

 「負けたか……」


 今度はジェムちゃんが勝ったらしい。解んねぇ……どういうルールなんだこれ。俺が困惑している中、近くで遊びを見ていたおじちゃんから物言いが入った。


 「違う違う。イッキタクートンはな。もっとこう……厳粛で、清らかでないといけないんだ。見てな」


 2人の踊りがなっていないとして、おじさんはヒモを借りて実演を始めた。ジェムちゃんにヒモの片方を持ってもらい、もう片方のはしを自分の頭の上にそえる。


 「このポーズは、天を支えるレイヤクートン。世界を見通す巨大な体を想像し、つまさきを強く立てるんだ」


 おじさんの解説を聞くところによると、遊びの中でリンちゃんたちがとっていたポーズにも、ちゃんと意味があったらしい。頭の上以外にも、腕や胴体にヒモを当てたポーズにも言及し、おじちゃんは尾てい骨あたりにヒモを持ってきたところで説明を終えた。


 「このポーズ。水底をはうロンクートンは、巨体を自在にうねらせる。そして、太くて硬い。猛々しさを秘めたシッポなのだ。よし。これらをふまえて、もう一度、イッキタクートン!」


 「はい!」


 みんなで掛け声を出しながら、おじちゃんとリンちゃんとジェムちゃんの3人は不思議な踊りを始める。そんな様子を遠巻きにながめながら、俺の近くにいるおじいさんが独り言をつぶやいている。


 「いやはや……さすがじゃ。あやつのイッキタクートンは村一番じゃな」


 うまいとか下手とかあるのだろうか。解らないことだらけである。それはともかく……踊っているリンちゃんとジェムちゃんを見て、俺は勝手に癒されていた。


 「ふう……今日は、いっぱいイッキタクートンした」

 「リンー。悪いけど、お水をくんできてー」

 「はーい。リン、もう帰る。じゃあね」

 「はい。お疲れ様でした」


 たくさん遊んで汗を流したところで、家の窓からリンちゃんのお母さんが顔を出した。ジェムちゃんとオジサンに別れを告げて、リンちゃんは家のお手伝いへと走っていく。村には娯楽が少なそうだから、村の人から教わった遊びでリンちゃんとジェムちゃんは楽しんでいるんだな。


 「……」


 楽しそうに遊んでいる子どもたちを見て、なんとなくだけど……俺も自分の時間を満喫したい気持ちがこみあげた。今日、リディアさん達が眠ったら、久々にゲームでもやってみようかな。そう決めて、俺はリディアさんの胸にさがっている石の方へと意識を移した。


 「……エメリアは、どのような味のお酒が良いと言っていたんだったか」

 「あの人でしたら、飲めればなんでもよいのではなくて?」

 「ああ、それは違いないだろうな……」


 リディアさんとシロガネさんは今、お酒のボトルが並んでいる店で買い物をしているところである。リディアさんが家を出る時に、エメリアさんがおみやげとしてお酒を欲しがったんだったっけ。お酒の味についてもオーダーがあった気がするけど……なんだったかな。俺も忘れてしまった……。


 「……これでいいか」

 「お嬢様。そちら、どのようなお酒なのですか?」

 「解らない。とりあえず、ビンがキレイだ」


 リディアさんはギルドでも少し飲んできた為、軽く酔っているらしい。中身はともかく、ビンの形と色でお酒を選んでいる。ビンはイチゴ牛乳みたいな色をしており、なんだか甘そうなお酒だ。そんなにアルコール度は高くなさそうかな。ボトルの大きさは缶ビール1本くらいで、値段は3ジュエルとお安めである。


 「よし。帰ろう」

 「……夕食はワタクシが準備いたしますわ」

 「シロガネさんこそ、私の服を作ってくれていたようだが……疲れていないのか?」

 「あと3着は製作しますわ」


 服を作ってくれていたというか、作りたくて仕方がないだけの模様である。夜通し俺の本体を調べていた女の人といい、疲れが気にならないくらい夢中になれるものがあるというのは、ちょっとうらやましいな。俺はゲームだって、一晩中やり続けるのは少しキツイ。


 「……あら。あちらの方、ギルドでお見かけしませんでしたか?」

 「……?」


 店を出て商店街を歩く中で、シロガネさんが飲食店の中を指さした。窓際の席に座り、お一人様でごはんを食べている人がいる。


 「彼女は……腕相撲の人だな」

 「あの様子からうかがい知るに、依頼は無事に受理されたようですわね」


 リディアさんの中では完全に腕相撲の人で定着したようだが、あの人はギルドに来て入会を断った人である。お皿を3枚も重ねていて、今も一生懸命に料理を口へと運んでいる。結構、あの人も大食いなんだな。


 「あれは……ラピスラズリーさんだ」

 「どちらでしょうか?」

 「あのネコさんだ」


 自宅のある細い路地へ入ったところで、ピンク色の毛並みをしたネコと遭遇した。ノラ猫かとも思ったけど、首にネックレスみたいなものをさげているから、ラピスラズリーで間違いないと思われる。休暇をとっているラピスラズリーさんなのかな?


 「……いや、大人しいから、急に引っかいたりはしないぞ」

 「……ワタクシ、動物は……ああ……やはり恐ろしいですわ」


 リディアさんはラピスラズリーさんに触っているが、シロガネさんは5歩ほど下がってゴミバケツの後ろに隠れている。村でクルクルに会った時も怖がっていたけど、何か動物に悪い思い出があるのかな。


 「……そういえば、温泉で石を盗った子どもたち、どうしているだろうか」

 「騎士団が保護した様子でしたので、あちらで適切な処置がとられているかと」

 「……ちゃんとご飯を食べているといいが」

 「お嬢様……それは、あの子たちの母親が心配することですわ」


 ラピスラズリーさんのネコ耳を見て、リディアさんは盗みを働いた子どもたちを思い出したようだ。相変わらず、リディアさんは母性が強い。


 「エメリアも今頃、お腹を空かせているだろうか」

 「あれはお腹が空けば、路傍の花でも勝手に食べていることでしょう」


 母性は子どもだけでなくエメリアさんにも発揮されているようで、お腹をすかせた彼女のことを思い、2人は再び帰路を辿っていく。


 「……ただいま」

 

 家へと入り、リディアさんは管理人さんと会釈をかわした。台所には買ってきた材料はなく、代わりに鍋から湯気がこぼれ出していた。


 「……シロガネさん。管理人さんが料理を作ってくれたぞ。ありがとうございます」

 「え……彼女が?」


 シロガネさんは動物だけでなく、幽霊っぽい管理人さんに対しても恐怖を向けている。管理人さん、料理までしてくれるのか。頼りになるな。


 「エメリアは……まだ寝ているのか」


 台所やリビングにエメリアさんがいないと見て、リディアさんとシロガネさんは2階へと上がり、エメリアさんの使っている部屋のトビラをノックした。


 「あ……あの……リディアですか~?助けてください~」

 「どうした。入るぞ」


 部屋の中から、弱々しい声が聞こえてきた。中で何をしているのか。リディアさんはエメリアさんの部屋のトビラを開く。


 「……あ」

 

 部屋にいたエメリアさんは……リディアさんの聖女の服を着ていた。着ているというか……胸とおしりが大きすぎて、服に縛られているといった方が適切である。


 「なにしてるんだ、お前……」

 「ちょっと興味本位で……脱げなくなりまして」

 「仕方ないやつだな……」


 ヒモをきつく結んだせいか、脱げなくなったらしい。エメリアさんの豊満な肉体を救出すべく、リディアさんとシロガネさんが結び目をほどきにかかっている。そんな中で、リディアさんは初めて聖女の服を客観的に見たらしく、控え目にも感想を述べている。


 「……改めて見ると……これ、すごい服だな」

 「あんまり見られると照れます。かわいいですか?似合ってます?」

 「……」


 2人は手を止めて、少し離れた場所からエメリアさんを観察している。そして、あまり考え込む様子もなく、簡潔に答えを出した。


 「痴女だな……」

 「ですわね」


第66話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ