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第64話『飲み会』

 「つっても、ジェラよぉ。胸が大きいのが好きなのは、人間だけだぜ?お前が気にしてどうする」

 「だってギルド長。私、背ばっかり高くて体が細いから、なんだか弱そうって言われるんです」

 「筋肉をつけろ。俺の種族だったら、がっちりしてるほうがモテる」


 ジェラさんは色気が欲しくて胸を大きくしたい訳じゃなくて、それなりの肉付きが欲しいだけの様子だ。種族によって魅力を感じる部分も違うようで、ギルド長は自慢の筋肉を隆起させて見せている。エアーズさんも筋肉主義に賛同している。


 「筋肉を見れば、その人となりの全てが解ります。筋肉は心の肉です」

 「お前は筋肉を鍛えるのはいいが、すぐイライラするくせもなおすことだぜ」

 「筋肉の震えは心の震え。高ぶる感情は本能なのです」


 ギルドの入会試験内容に腕相撲をチョイスをした理由も、エアーズさんが筋肉を見たいが為なのではないかと思われた。普段より腕相撲で合否を決めているとしたら、エメリアさんが落とされたのも納得がいく。引き続き、エアーズさんの筋肉談議が続く。


 「ですが、先程の少女……やや変わった筋肉をしておりました。細くて強い。鉄で編んだヒモのような筋肉。私も見た試しがない」


 「ギルド長。あの子……おそらく」


 「ああ。魔人の魔素を色濃く体に宿していた」


 前に村で会った時も、リディアさんは彼女の姿に覚えを感じた様子であった。知り合いではないみたいだけど、魔人と関わりがあることはギルド長も認めている。


 「まあ、あれだけ根気のあるやつだ。ギルドに入りたければ、うちは迎え入れるがな。ギルド・鉄の森は、そういうやつらのための場所だ。あんまり弱ェやつは、ケガする前に退会させるがよ」


 「私もエメリアも、ここを紹介してもらえて助かりました。人々の頼りになれていれば幸いです」


 「我々は助ける人種を選ばない。騎士団は公務と割り切り、国民の筋肉……心を見ていない。新聞社のリサーチによれば、我々の方が民からの信頼においては分があります」

 

 リディアさんのお兄さんが騎士団長なのを知ってか知らずか、エアーズさんが騎士団に敵対心を見せている。よく理由は解らないが、騎士団と仲がよくないのは、ギルド長だけではないのだとうかがえる。騎士団の話題が出たところで、ジェラさんがリディアさんに質問を預けた。


 「ところで……どうしてリディアさんは、騎士団には入らなかったんですか?」

 「それはジェラさん。リディアさんの筋肉が夢魔だからではないのですか?」

 「いえ……私は夢魔じゃないです。人間です」

 「そうでしたか……そういう筋肉をしているのですがね」


 エアーズさんから見ても、リディアさんは微妙に夢魔っぽいのだという。エメリアさんの魔素が染みついているので体も引っ張られているのだろうけど、魔素鑑定の結果も見ていない様子なのに、そこまで解るあたり……筋肉鑑定もあながち見当違いではないと思われる。エアーズさんの横やりをおさめて、リディアさんはジェラさんの質問に答えた。


 「騎士団は、魔素に混じりけのない人間しか入れないんだ。騎士団だけじゃない。政府関係者も、城周辺のライト地区の管理者も、公務にたずさわる者は人間だけと決まっている」


 「そうだったんですか……じゃあ、リディアさんはエメリアさんと一緒にいる内は、公務員にはなれないんですね」


 「そりゃあよ。アレクシアは人間の作った国だ。だから、人間が仕切るのはいい。だが、他種族とも上手く協力したら、もっと仕事の効率はよくなると思うがね」


 ギルド長の話を聞いて、騎士団が人間だけだった理由にも合点がいった。日本でも政治家には日本人が多かったし、他国出身者が国の核心に入り込んだら、乗っ取られてしまうのではないかと思うのは国民心情だろう。でも、得意なことは民族によって違うわけで、部分的に協力することができれば、更なる発展を得られるかも解らない。何事も、適切な距離でつきあうのが一番なのだろう。


 「はい!ギルド長!私たちも、みんなの役に立ってますよね!」


 「おお、なってるぞ!しっかりとお金が入って来てるのも、その証拠だ!半端な頼りにしかならねぇ騎士団のやつらに代わって、俺らでみんなを助けていくぜ!」


 「さすがギルド長!だてに100年も生きてないですね!」


 ジェラさんのコップにジュースをつぎながら、ギルド長は自分たちの役割を再確認している。というか……ギルド長って、100歳なのか?若いな……とても100歳には見えない。


 「ところで、リディアさん」

 「あ……はい」


 ジェラさんとギルド長が楽しげにしている横で、エアーズさんがリディアさんに声をかけている。


 「リディアさんの筋肉……やや質が変わったようにうかがえます。差し出がましいことですが、今のあなたでは、ガードマンには向かないのでは?」


 筋肉を見ればなんでも解るエアーズさんなので、リディアさんの変化にもすぐに気づく。ふくろダケの効果で体に脂肪が増えたのもあって、重たいヨロイを来ての活動に影響が出ると見抜いたようである。


 「私も、それが気がかりで……今日、職業適性検査を受けてきました」

 「リディアさん!あれ、受けたんですか?どんな職業をオススメされましたか?」

 「そうですわ。お嬢様。どのような結果でしたでしょうか」


 その話を聞き、ジェラさんが関心をリディアさんへと戻す。シロガネさんも聞き忘れていたとばかり、席を近づけてリディアさんへと詰め寄っていた。ただ、リディアさん自身、適性と判断された職業に見聞がない為、やや自信がなさそうな声で伝える。

 

 「どうも、聖女と呼ばれるものに適している……らしい。ただ、それが何かは、検査員の人たちにも解らないという」


 「なんだぁ?そりゃあ、検査員も適当な仕事だなぁ」


 「一応、資料はもらったんですけど……」


 聖女についての資料は持ってきていたようで、それをカバンから取り出し、呆れているギルド長へと手渡す。やはりジェラさんとシロガネさんも、聖女という言葉に聞き覚えを見い出せていないらしい。100年も生きているというギルド長ですら、資料を目にしてまゆを寄せている。


 「なんだこりゃあ。だが、聖女……どっかで聞いたな」

 「本当ですか?」

 「いつだったか……どっかで、誰かから……聞いたような、気がするが……」


 全ての項目があやふやであり、ここまでくると本当に聞いたのかどうかすら定かではない。みんなは期待の視線を向けているのだが、うんうんとうなりつつもギルド長は、おでこをおさえながら資料を返した。


 「……歳だな。うまく記憶が出てこねぇ。思い出したら教えてやる」

 「お願いします」

 「んで、リディアは、それになってみようってのか?」

 「まだ、考えています。しかし、聖女を極められたならば、優しさで平和をもたらせるとか」

 「ん。結構じゃねぇか。よく解んねぇが、がんばれ」


 その後も、お酒を楽しみがてらに会話を1時間ほど続け、徐々にギルドにも人の姿が少なくなってきた。そこへエンガさんがやってきて、ギルドの終業を報せてくれた。


 「私、帰りますっ。入り口は閉めますので、裏口から出てください」

 「おお。リディアとシロガネさんも、もう帰るか?」

 「エメリアを家に置いてきたので、そろそろ帰ります。明日から仕事を再開します」

 「そうか。じゃあな。また顔を見せろよ」


 エンガさんが表門を閉めると聞き、リディアさんとシロガネさん、ジェラさんも一緒に外へと出た。ギルド長とエアーズさんは飲み会を続けるらしく、追加の食料を蔵から取り出して集会所へと戻っていった。

 

 「では!リディアさん、私も帰ります」

 「久々に会えてよかった。気をつけて帰るんだぞ」


 ギルドの入り口にて、ジェラさんは羽を動かして空へと飛び立っていった。白い羽を優雅に揺らして飛ぶ姿は、どこか天使にも似ている。飛行していく方向から察するに、彼女はリディアさん達が住んでいる街とは別の地区に住んでいると考えられた。リディアさんたちは山の緑や畑の作物をながめながら、街へと続く道を歩み始める。


 「あの子、ちゃんとギルド支部に着いたかなっ?」

 「……ああ。腕相撲の人か。支部は看板も出ている。探さずとも見つかるだろう」


 エンガさんの言う『あの子』というのは腕相撲をした後、ギルドの入会を断って帰っていった女の人のことである。思えば、彼女は昨日の夜からずっと俺を調査していた。そこから急いで帰って来て、ギルドに依頼を出そうと考えたのならば、その依頼内容についても俺の本体に関わっている可能性はある。気になるな……。


 「リディア、何か食べてくっ?」

 「いや、朝から、食べっぱなしだからな……あまり体に贅肉をつけたくない」

 「そっ。また今度、つき合ってねっ」


 ツタの巻き付いているアーチを抜けて、街のある地区へと戻ってきた。エンガさんはギルド本部への勤務である為、ギルドのある地区と街の境目あたりに住んでいるようだ。商店街へ行き着く前にリディアさんたちと別れ、アパートらしき建物へと入っていく。2人きりになったところで、シロガネさんがリディアさんの隣に位置を構えた。


 「お嬢様。夕食の材料はそろっておりますが……他にご用事はございますか?」

 「エメリアにお酒を頼まれているからな。それだけ買って帰ろう」


 そういや、そんな用事も頼まれていたな。空は赤く染まり始めている。この調子なら、お酒を買って帰っても、暗くなる前には家に着くだろう。


 「……」


 そろそろ、街に灯が点き始める頃合いか。リンちゃんの家の前も照らした方がいいと見て、俺は視点を変更して村へと意識を転移させた。


 「ありがたやー……」


 今まさに、おじいちゃんが俺に手をあわせ、頭を下げているところであった。その内、飽きたらおがむのも止めてくれるだろうか。それより……リンちゃんの家の前には祭壇らしきものが新設されていて、お花や食べ物が飾り付けられている。これは……お供えだ。近くにいるリンちゃんが、それを食べたそうに見つめている。


 「……じっちゃん。これ、このまま置いておくの?」

 「晩ご飯までは飾るべ。そしたら、神様に、たんと感謝して頂くんじゃぞ」


 ありがたいんだけど……俺、食べれないから。全然、食べてもらっていいと思います。


 「……早く食べたいけど、ヒカリちゃんのだから、明日まで置いておくね」

 「鳥も食うかもしれん。網だけかけとくべ」


 食べ物をもらっても食べられないし、ただただ手間だけかけて申し訳ない思いである。しかも、俺ができることなんて、ちょっと村を照らすくらいなもの。どんな気持ちで鎮座していればいいのか、日本のお地蔵様に教えを乞いたい今である。

 

第65話へ続く

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