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第63話『試験』

 「まあ、このガンガン。お嬢ちゃんの1人くらい、一ひねりにしちゃうんだよね」

 「勝負。お願い。します」


 ガンガンさんと腕相撲で勝負しようとしているのは……背の低い女の人だ。というか、この人……俺の本体である大きな岩を調べていた人だな。サブウィンドウの映像を確認してみるが、やはり俺の大きな体が鎮座している丘には、もう女の人はいなくなっている。朝から移動を始めたとして、かなりの速さで街に帰ってきたと見られる。


 「腕相撲、一本勝負。このエアーズが取り仕切らせていただきます。では、組み合って」


 腕相撲のレフェリーをしているあの人が、副ギルド長のエアーズさんか。エアーズさんの肉体もガンガンさんに負けず、かなりの筋肉質だ。そちらの人たちと比べて、相手となっている女の人は背も低いし、腕だってか細い。手の大きさなんて、ガンガンさんの2分の1くらいしかない。ケガなどしなければいいが……頼りのギルド長が観客に混じっていて、あまり抑えにはなってくれそうにない。


 「よーい……始め!」

 「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 手を組み合った……というか、完全にガンガンさんの手が女の人の手におおいかぶさっている形だ。ガンガンさんは大きな掛け声を出し、勢いよく女の人の腕を押し倒そうと試みている。しかし、不思議と腕は動かない。


 「……ぬぬ?」

 「……」


 女の人の方も精いっぱいの力を振り絞っているのか、すごく苦しそうな顔をしている。なんとか負けじと持ちこたえている。ガンガンさんが見かけの割に強くないのか、あの女の人が強いのか。一向に腕は右にも左にも振れない。力は拮抗している。


 「おーい、ガンガン!手加減すんなよー!」

 「ギルド長!手加減なんてしてないっすよぉ!」


 ギルド長は茶化しているが、ガンガンさんも手を抜いているわけではないらしい。空気が震えるほどの大声を出して、ガンガンさんは腕の力に意気込みを乗せた。


 「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「……んん」


 ここでようやく、ガンガンさんの腕が優勢に傾いた。負けじと、女の人は腕相撲に使っていない左手で何かを取り出し、緑色のものをかみしめた。


 「ぐぐぐ……」

 「ぬおおおおおぉぉぉぉぉ!ドーピングなんて卑怯だああぁぁぁぁ!」

 「ガンガン!そういうお前も、変なキノコで筋肉つけたじゃねぇか!」


 女の人が噛みしめているものが何かは解らないが、ガンガンさんの言い分についてはギルド長からつっこみが入った。確かに、先にドーピングしたのはガンガンさんのような気もしないでもない。そして、キノコを食べる前のガンガンさんは、どんな姿をしていたのか。それが俺には逆に気になる……。


 「ちょ……ちょっとねぇ!あんた!それ、何を噛んでるんだあああぁぁぁ!」

 「く……く……茎の根」

 「もらったああぁぁぁ!」


 ガンガンさんが質問を差し向ける。律義に答えてくれたすきをついて、ガンガンさんが一気に攻勢をかけた。グググと女の人の腕が押し倒され、音も立てずに勝負がついた。勝ったガンガンさんは両手を上げて喜びの声を上げている。


 「やったー!」

 「すごいな!お前!小さいのに!」


 みんなは勝ったガンガンさんには目もくれず、女の人に声をかけている。まあ、あの体格差で、あれだけ耐えたのだ。負けたとはいえ、それなりに力があるのは確かとなっただろう。その点が評価されたのか、エアーズさんからも入会の許しが出た。


 「力は見させてもらいました。入会、おめでとう」

 「ようこそ、ギルド・鉄の森へ!俺がギルド長だ!ははは!」


 試験だからと言って、別に勝たなくてもよかったらしい。ギルド長は女の人の肩を軽く叩き、ギルドへ迎え入れる気持ちを見せている。入会が決まって改めて、その人に名前を尋ねている。


 「で、名前は?」

 「……これで、仕事の依頼。できる?」

 「……んん?依頼?」


 名乗るより先に、女の人はギルド長へと質問を返した。依頼を……受けられる。じゃなくて、できる?とすると、やや意味合いが違うような気がする。そこに悩んだ様子で、ギルド長も疑問に疑問でで返している。


 「ギルドへ依頼するならば、入国門近くの支部で受け付けているが?」

 「ありがとう!」


 ギルドへ仕事を依頼する方法を教えてもらうと、女の人は軽快にギルドの入り口へと走り出した。


 「お……おいおい。入会すんじゃないのか?」

 「……」


 もう声は聞こえていないようで、女の人は何も言わずに集会所の広場から立ち去った。あ……そうか。あの人、ギルドの人に依頼するには、ギルドに入らないといけないと思っていたのか。ギルド長は面食らったような顔こそしていたが、特に気分を害した様子もなく、ガンガンさんの大きな背中を叩いていた。


 「まあ……いいか。ガンガン、お前は、もっと頑張れ!」

 「え?僕、勝ったのに……」

 「そっちの人間。お前もやるか?」

 「……本日は、やめておきますわ」


 気づくと、女の人が立ち去った通路の方に、シロガネさんと受付のエンガさんがやってきていた。入会の意思をかためていたシロガネさんも、今の勝負を見て思い改めたらしい。今日のところはやめておくと遠慮の姿勢を見せていた。


 「よかった……挑んだのがシロガネさんじゃなくて」

 「お嬢様。ワタクシ、腕力には自信がありませんので……」

 「あんたも、リディアの知り合いか?いいぜ。こっち来て、一緒に飲めよ」


 村から受けたクエストについて、ギルド長はリディアさんより詳しい話を聞きたいと見える。リディアさんの仲間であるシロガネさんにも参考話をもらおうと、ギルド長は飲みの席へと手招きしていた。


 「……ん?あと、マラリアみたいな名前のやつも仲間にいなかったか?」

 「エメリアです……あいつ、朝から出かけたせいで疲れたと言って、今は家で寝てます」

 「そうかぁ。生きてるならいいぜ」


 腕相撲対決が終了し、ギャラリーの人々も解散していく。テーブルの空いている場所にリディアさんはとシロガネさんがお邪魔している。そんな2人から話を聞こうと、ジェラさんとエアーズさん、ギルド長がお酒の場に立った。お酒でノドをうるおした後、ギルド長がリディアさんに活動内容を尋ねた。


 「で?魔人とは戦わなかったんだろ?結局、なにしてきた?」


 「魔人襲来の当日まで封印の準備を進め、決戦の時を待っていたのですが……」


 「まさか、エメリアのやつが封印の魔法が使えるとはな。あいつ、夢魔だろ?意外だぜ」


 封印の術というのは、そう簡単に使えるものではないらしい。どのような方法で魔人に対抗しようとしたのか解ったところで、ギルド長は話を次のステップへと進める。


 「しかし、事故で魔人が全滅。それも、血の跡も残らんとはな……おかしいねぇ」


 「あ……あの!ワタクシ、見ましたわ!」


 「んん?何を?」


 「ええ。村へと続く橋のところに突然、巨大な石が現れたのです!それが、魔人の魔法を跳ね返して、魔人が全滅しましたの!」


 手に拳を作って、シロガネさんが熱弁している。その石というのは、まぎれもない俺のことである。一瞬の沈黙をはさんで、エアーズさんが笑い声を上げた。


 「ははは。あなた、空想作家の方ですか?もしくは実際に、動く石をお持ちだとか?」


 「持ってはおりませんが……お嬢様!お嬢様は、信じていただけますわよね?」


 「あ……ああ。そうとでも考えなければ、魔人が一掃されるなどありえない話だ」


 「……では、そもそも魔人ではなかったのでは?あの辺りは、黒い熊が出るとか。でしょう?ギルド長」


 シロガネさんの話す絵空事にリディアさんが同調しており、やや困惑した様子でエアーズさんはギルド長へ助けを求めている。しかし、ギルド長は考え込むようにして、無言であごひげをさすっていた。


 「……ギルド長?」


 「ん?ああ……ああ……どうした?」


 「どうにも都合がよく、大きな石が現れ、魔人を退治した。そのようなことはありえない。と、このエアーズは申し上げております」


 「そうだなぁ……」


 先程までは語気にも豪快さを含んでいたギルド長が、エアーズさんの言葉を受けても、ぽわんとした返事を繰り返している。そんなギルド長にやきもきした様子で、エアーズさんはリディアさんたちに向き直った。


 「しかしです。リディア氏が魔人へ必死の抵抗を練っている間、ギルド長は……10日間以上もギルドを留守にし、どこかで遊び呆けていた事実です。まったくもって、どこへ行っていたのやら」


 「そ……そうなんですか。ギルドに何かあったのか?ジェラ」


 「ええ。リディアさんが出たあと、港町の方に仕事で行ったとかで。私もおみやげをもらいました」


 「おいおい、俺だってなぁ。外せねぇ用事くらいあんの。そう責めるなっての」


 夕方前からお酒を飲んでいるとはいえ、ギルド長だってギルドを運営している以上は、やることがたくさんあるのだろう。そんなギルド長は、ちらちらとシロガネさんの方を見ている。しかし、シロガネさんの顔に何かがついているわけでもない。もっと話をうながそうと、ギルド長はシロガネさんへとお酒をすすめてみたりしている。

 

 「お嬢ちゃん。旅先の話を聞かせてくれ。まずは一杯どうだ?」


 「ワタクシ、お酒はちょっと……」


 「ギルド長。シロガネさん、泣き上戸なんです……」


 「あー、そうかそうか。それはめんどくせぇから、飲ません方がいいなぁ!ま、おやつでも食っとけ」


 無理に飲ませようという気はないらしく、ギルド長はお酒の代わりにジュースとおつまみを並べてくれた。ギルド長、すごく年上なのだとは思うけど、そんなに偉ぶっている感じは受けないな。なんというか、おじいちゃんと一緒にご飯を食べている感じの雰囲気である。


 「んで、リディア。それ、どうした?」

 「これは……キノコを食べて大きくなりました」

 「そっちじゃねぇ。その石。それだ」


 リディアさんがギルドに来てからというもの、大きくなった胸の方ばかりみんなに言われていたので、ギルド長にも同じことを聞かれたと思ったらしい。ただ、興味の先は胸に下がっている俺の方だったようだ。擬態のスキルも使用しているし、はた目には少しピカピカする普通の石に見えるはずだけど……何が気になったのだろう。


 「そいつは?前はつけてなかっただろ?」

 「村の女の子から、帰り際にもらいました」

 「ふ~ん……」


 リディアさんは俺を首から外して、ギルド長の大きな手へと渡した。こんなに注目されるなんて、ちょっと緊張するな……。


 「これがねぇ……ほら、大事にするんだぜ」

 「あ……はい」


 俺を指先でコロコロした後、別に感想もなくギルド長はリディアさんへと返却した。石が魔人を倒したとシロガネさんが話していたから、俺にも疑惑の目が向けられたのだろうか。リディアさんの胸へと戻され、俺も少し安心した。


 「……リディアさん。それ」

 「……ジェラも見るか?」

 「いえいえ、私は……そっちがうらやましいと思いまして」


 今まで聞きに徹していたジェラさんだったが、彼女はギルド長とは違い、リディアさんの胸の方に視線が向いている。ジェラさんは自分の薄い胸を触りつつ、リディアさんの食べたキノコの効果について言及した。


 「うううう……私も、ちょっとは欲しい……」

 「でも、そのキノコ……食べると妊娠したみたいにお腹が膨らむんだぞ……」

 「ひえ……」


 胸は少しは欲しいらしいけど、さすがにそれは怖かったらしい。おろおろと目を泳がせて悩み始め、うらやみと恐怖を天秤にかけた結果、ジェラさんはジュースを口に運びながら小さくつぶやいた。


 「……でも、ちょっとは欲しい」

 「泣くな……ジェラ。まだ成長の余地はある……」


第64話へ続く

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  「マラリアみたいな名前のやつも仲間にいなかったか?」  マラリアとはとんでもない名前ですね。  フィラリアじゃないから犬の獣人さんが近づいても平気?
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