第5話『クエスト』
今、俺は鎧を着た女の人に抱えられて、森の中を勢いよく運搬されている。声の低さからして大人の女の人のようだけど、暗くて顔は見えない。というか……俺はバスケットボールサイズの岩ではあるのだけど、ステータス上では80キロはあることになっている。この人、かなり怪力なのか?
「エメリア!これ、見てくれ。光る石だ」
「……そーですか」
深い森を抜け、木の少ない開けた場所に出た。そこに大きな帽子を被った女の人が待っていて、俺を抱えている人は嬉しそうに俺を差し出した。ただ、すでに発光はおさめている。光のない俺の体は、やや光沢のある白っぽい岩だ。エメリアさんと呼ばれた人は俺をじっと見下ろして、持っている杖でつついたりしていたが、結局は興味なさそうに革袋を取り出して食事を始めた。
「エメリア。なにを食べている?」
「体力のタネ」
「ほしい。これと交換しよう」
「やですー」
『これ』というのは俺のことであって、取得から間を置かずしてトレードの危機にさらされた。しかし、光っていない少し大きいだけの石に価値はなく、体力のタネとの交換は決裂となった。なお、明るい場所に出た今、やっと彼女たちの顔や容姿がうかがいしれた。
「いいもん。私は私で、ごはんにする。木の実パンだ。うまいぞ。木の実パンは。体力のタネより何倍も美しい味なんだ」
俺を運んできた女の人は細身で背が高く、がっちりとした重そうな鎧に身を包んでいる。頭には大きなティアラのようなものをつけていて、それが防具の役目も果たしているように見える。腰には……剣らしきものがぶら下げてある。冒険者っぽく見えるが、防具からのぞいている髪はつややかな黒色で、肌は色白。顔にも傷が無く、モデルか女優でもやってそうな美人だ。
「木の実パンより、ケーキの方がおいしーですもの」
体力のタネをかじっている女の人は魔法使いっぽいファッションで、ローブや日よけボウシなど、ゆったりとした服を着ている。だが、それでも隠せないほどに体の肉付きがよく、足元が見えないのではないかと思うくらい胸が大きい。おっとりとした感じを受ける垂れ目で、髪は灰色。あと、耳がとがっていて、ファンタジーで出てくるエルフ族のようでもある。
「む……こほこほっ」
黙々と食事を続ける途中、鎧を着ている女の人がパンでむせた。ビンに入った飲み物で喉をうるおした後、しばし間を置いて改めて、俺についての話題を持ち出した。
「この石、絶対に光ってたんだよ。お宝だと思う」
「リディアは目利きの能力ないでしょー?魔力も感じないし、ただの石ですよ。石」
俺を運んできた人は、リディアさんというらしい。なんだかんだ言いつつ、エメリアさんはリディアさんに体力のタネを1つだけ渡した。それをかじって元気を回復したところで、リディアさんは森の中へ入ってきた当初の目的に向き合った。
「ううん……魔人の襲来は3日後の赤い月の夜との事。村を守るのに役立ちそうなものはあったか?」
「ないでーす」
「エメリア。結界は?」
「はれません。あれは上級魔法ですもの。私ごときでは到底」
魔人の襲来。襲われる村。この人たちは、魔人から村を守るためにやってきたのか。だとすると、深夜に俺の元へとやってきた女の子は……魔人にケガを負わされたのかもしれない。よかった。助けが来たのなら、これで解決だ。
「でもさー。リディア。ほんとーに魔人と戦うんですか?」
「だから、ここまで依頼を受けて来た」
「勝てるんですか?」
「勝ちたい」
モンスターと同様、この人たちのレベルやステータスも確認できた。リディアさんがレベル37のアーマーナイト。エメリアさんはレベル35の魔術師。この人たちも弱くはないようだが、2人の会話やお気持ちを聞く限り、魔人とやらの凶悪さも相当なものらしい。
「……」
村の人たちも心配だけど、どこまで彼女たちも頼りになるのか不明だ。ちょっとだけの沈黙をはさんで、エメリアさんがリディアさんに告げた。
「リディア。魔人ってさー」
「なんだ?」
「魔人ってさ……聞く話では、他種族と繁殖行為に及ぶ種族らしいです」
「……」
「村の娘がつれていかれるのも、それが理由ですって」
それを聞いて、リディアさんは飲み物を口に含んだまま、しかめっつらで体を硬直させた。2人はお互いに顔を見合わせて、エメリアさんの方が先に顔をそむけた。
「報酬は後払いだしー……私、勝てなそうだったら逃げるんで。よろしくー」
「私は強いから、逃げない」
「そも、みんなヤバいから依頼を受けなかったんですよね。相手、魔人ですよ?なんで受けちゃったの?」
「……」
半分だけ食べたパンを袋に戻して、リディアさんは剣の鞘を触りながら立ち上がった。そして、依頼を受けた理由を率直に明かした。
「だって、悲しいだろう?誰も助けてくれないなんて」
村から依頼を出しても、魔人を恐れて誰も助けに来なかったらしい。魔人と戦って、かなうかどうかも解らない。最悪の場合、死ぬかも死ぬより辛い思いをするかもしれないのに、同情だけを理由にして村へやってきたのだ。俺からすれば、おせっかいというか……そんな生き方、怖くてマネできない。
「……あーあ。みんな、村なんて捨てて、別の場所で生きればいいのに」
「人質がいる。できない相談だ」
「ふーん……そういうものですか」
そうして会話をしつつ、エメリアさんは周辺の草や花を採集、リディアさんも荷物持ちを手伝っている。リディアさんは俺を紐で縛ってネットに入れたスイカみたいにした後、それも持って移動を開始した。暗い森の中をエメリアさんは魔法の光で照らしながら歩き、村を守るための作戦会議を続けている。
「リディア。村に来る途中、崖に橋があったじゃん」
「あったな」
「あれ、落とせば魔人も来れないんじゃない?」
「あれを落とすと、港街までのアクセスが最悪だぞ。通行貿易妨害の罪で指名手配されかねない」
「ありゃー……それはマズい」
魔人の住処から村までは、1つガケを超えないと遠回りになるらしい。村は守らないといけないが、他所に迷惑をかけると、別の場所から制裁されるのだろう。下手に勝手なことをすると、逆に迷惑をかけそうだな。
「……うんん」
リディアさん……重そうだな。その負担の大部分は俺なのだけど、だったら置いていってくれてもいいのではとも思う。まあ、このまま村まで連れて行ってくれそうだし、なるべく体を軽くできないか努力だけはしてみよう。
『重量操作 レベル1(スキルポイント1)』
これが重さを変えるスキルだ。あとは……。
『重量軽減 レベル1(スキルポイント1)』
このスキルのレベルを上げれば、軽くできそうだな。レベルは……5くらいまで上げてオンにすればいいか。
「おい!エメリア!」
「んー?」
ステータス画面を閉じる。あれ……俺、リディアさんを見下ろしてる。なぜ?
「この岩、浮いたぞ!」
「ほぉ」
ああ!軽くし過ぎて重量をなくしてしまった!いけない。レベル2くらいに戻そう。
「……」
「……」
なんとか地面には落ち着いたが……リディアさんとエメリアさんがしゃがみ込んで、困惑の表情を俺に向けている。確実に怪しまれている。でも、黙ってれば大丈夫……だよな?
「……」
「……」
『宝石化《赤色》 レベル1(スキルポイント1)』
……あっ!変なスキルが手違いでオンになってる!すぐにオフに切り替えた。怪しむように見下ろしていた2人も、俺が普通の岩に戻ると、不審な点を探すのを諦めたように腰を持ち上げた。た……助かった。
「……リディアー」
「ん?」
「私……それ好きかも。捨てないでくださいね?」
「現金なやつだな……」
売り払われるかもしれない。そんな心配が、ふとして俺の中に芽生えた……。
第6話へ続く




