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第51話『聴取』

 「とにかく、持ってる服は羽織っとけ。その格好のままじゃ風邪をひく」

 「言われずとも、そうしますわ!ですので、手錠は外してくださいまし!」


 下着姿で街に出たことがたたって、シロガネさんはクリスさんに騎士団支部へと連行されている。手錠を掛けられていて服を着るのは難しそうなので、小脇に抱えてきた服を適当に体にかけておく。シロガネさんの服はヒラヒラしているから、かけるだけでも辛うじて体は隠すことができる。


 「お前らも、逃げんなよ。じゃなきゃあ、手を縛んぞ」

 「……」


 混乱に乗じて灰色の髪の子は逃げ出そうとするが、クリスさんに肩をつかんで引き止められてしまった。一方、茶色い髪の子は抵抗する様子もなく、灰色の髪の子の顔をちらちらと見ている。恐らく今回の窃盗も、灰色の髪の子が先導して、もう一人の子が協力した形と見られる。


 「あら……クリス。どうしたの?」

 「ああ。こいつら、ちょっと怪しいんで連行してるところです」


 クリスさんと似た服を着た女の人が、俺たちに気づいて声をかけた。この人は、リンちゃんのいた村への遠征に参加していたお姉さんだ。こうして騎士団の人たちが歩いてるということは、朝のパトロールか何かをしているのだと考えられる。帝国での騎士団のポジションは、きっと警察に近いものなんだろうな。


 「ええと……あなた、村で会わなかった?」


 「はい!わたくし、リディアお嬢様のお世話をさせていただいております。シロガネでございますわ」


 「ああ……どっかで見たと思ったら、リディアさんの仲間か」


 シロガネさんをつれて村に戻ったあと、すぐに騎士団は帝国へ帰還したからな。クリスさんはシロガネさんのことを忘れていたらしい。露出魔扱いされたシロガネさんの素性が知れたとはいえ、盗まれた俺と関りがある以上は、事情を聴取する必要は残っている。


 「ええ、そうですわ!お嬢様は温泉施設の入り口で、ワタクシをお待ちになっておられます。ワタクシが戻るのを今か今かと!」


 「……私、リディアさんを呼んでくるわ。クリスは先に支部へ行ってちょうだい」


 「解りました。頼みます」

 

 騎士団のお姉さんが呼んできてくれるなら、すぐにリディアさんとエメリアさんも来てくれるだろう。そちらはお姉さんに任せて、俺たちは再び大通りを進む。家1軒分くらいの広さの公園があり、その隣に竜の顔のオブジェがついた建物を見つけた。入り口には大きなガラス戸がついていて、建物の雰囲気は交番に似ている。


 「ほら、入れ」

 「……」


 クリスさんが子どもたちを建物へと入れる。交番内では男の人が事務仕事をこなしており、ぞろぞろと入ってきた俺たちを見て、何事かと怪訝な顔を向けていた。


 「クリス。どうしました?そんなに大勢で」

 「多分、大した事件じゃねぇと思うんすが、ちょっと事情聴取が必要かと」

 「では、私が代わりに巡回へ行くので、ここはよろしくお願いします」


 半分くらい服を着ていないシロガネさんを見て、これは女の人が対処した方がいいと考えたらしく、交番にいた男の人は入れ替わりで街へと出て行った。交番のトビラを閉め、クリスさんは子どもたちをイスに座らせる。テーブルをはさんだ向かい側の席にクリスさんが腰を降ろし、手錠を外してもらったシロガネさんは横で服を着直している。


 「で、着替え中に悪いんだがシロガネさん。この……石?ネックレス……装備品は、リディアさんのものでいいんだな?」


 「ええ。間違いありませんわ。お嬢様の下着の色から、睡眠時に多い寝言や癖、お風呂で最初に洗う場所まで、全てを知り尽くしたワタクシが保証いたします」


 「あんた……それは合意の上で知り尽くしてるんだよな?」


 そう誇らしげに言っているシロガネさん。そして、街中で露出したこととは別の罪状を疑っているクリスさん。まあ、200日近くもリディアさんを尾行していた人なので、それ自体が犯罪の一歩手前まで来ている気はするのだけど……その実、尾行を指示したのは騎士団長だという闇も抱えている。


 「とりあえず、これは魔素鑑定にかけるぞ。ちょっと待ってろ」


 クリスさんは俺を持ったまま建物の奥へと移動し、戸棚に乗っている壺みたいなものを持ち上げた。入国審査では係員の人が湿布みたいなもので魔素の鑑定をしてくれたけど、ここでは別の方法で行うようだ。壺を子どもたちの前に置き、俺は壺の中へと入れられた。


 「……」


 壺の大きさは、おなべくらいのサイズだな。大根1本も切って入れたら、いっぱいになるくらいの容量だ。そこにポツンと俺は入れられ、フタを閉められてしまう。少しすると、茶色がかっていた壺が白い光を放ち始める。


 「……結果が出た。最も強く出ている魔素は、人間特有のものだな」


 クリスさんの声が壺の外から聞こえている。壺の光が消えた後、クリスさんは俺を壺から取り出した。特に衝撃もなかったし、壺が揺れたり熱されたりしたわけでもない。俺を縛っているヒモにも特に劣化は見られない。クリスさんの手に捕まれたまま壺を見てみたところ、壺の表面にある目のような模様へと色がついているのを知った。


 「クリス様。そちらの石は、お嬢様の大事にしているもの。傷をつけることは許しませんわよ」

 「それは大丈夫だ。ただ光を当てただけだからな」


 目を厳しくしながら、シロガネさんも壺の模様についた色をながめている。きっと、これが魔素の種類を表しているのだろう。目の模様は3つ並んでいて、色は左から白、黒、紫。それを見つめているクリスさんの反応からして、先にシロガネさんの言った通り、リディアさんのものと思われる結果が出たらしい。


 「で、どう見ますの?」


 「この魔道具の模様についた色で、物に付着している魔素を調べる。白色は人間の魔力。この黒色は、育った地域からくる色だな。一番右の模様に出ている紫は……魔族の反応だが、これは最近のできごとによって変わる。魔族とふれあいがあったんだろう」


 いつもリディアさんはエメリアさんと一緒にいるから、その色が紫色として出たのかな。そう考えると、結果としては大体あっている。以上のことからして、この壺を使っての調査は、かなり信憑性が高いのではないかと俺は思う。


 「姉さん、まだ来ねぇな……先に、事情聴取するぞ。まずは、背の高い方の子、名前は?」

 「……」


 クリスさんの言う背の高い子というのは、灰色の髪でウサギ耳のある女の子だ。隣の子より2歳くらい年上だと思うが、それでも小学6年生くらいに見える。名前を言いたくないのか、言うべき名前がないのか、うつむいたままくちびるをかんでいる。


 「……言わねぇなら、帝国中の孤児院を全部、訪ねて回ることになる。いいか?」


 「……」


 「……あのなぁ。まだ子どもなんだぜ?人でも殺してねぇ限りは、いくらでもやり直せんだ。それとも、お前……その身に覚えでもあんのか?」


 「な……ない!それは、やってナイ!」


 まだクリスさんは、2人が窃盗を働いた事実もつかめていないはずだ。でも、なんとなく悪い予感はあるようで、その線も含めて話を聞いているようだ。さすがに殺しの容疑をかけられてはたまらないと見て、背の高い方の女の子は急いで口を開いた。


 「ボクの名前は……たぶん、ギンカ。こっち、キンコ」


 「ギンカとキンコな。で、これはどこで拾った?」


 「クリス様!そ……それはまぎれもなく、お嬢様のもの。温泉のロッカーへ保管した後、ロッカー裏からの物音を察知し、ワタクシは盗みの主を捕まえるべく、急遽として外へ!」


 「……なるほどな」


 2人が盗んだ現場は俺も見ていた訳で、シロガネさんの言っていることは全てあっている。この証言を受け、クリスさんも大体の事情が解ってきたらしい。今にも子どもたちへ食ってかかろうというシロガネさんを押し止めつつ、クリスさんが別の方向でギンカちゃんに質問をぶつけた。


 「灰耳族は、穴を掘るのが上手い一族だったはずだがよ。これ、お前が自分で考えて、温泉への進入路を作ったのか?」


 「……」


 「……解った。今から、そいつのとこ案内しろ。で、それから、穴を開けたところに謝罪巡りだ。いいな?」


 「そ……それは」


 「リディアさんとエメリアさんをつれてきたわよ」


 なかなか口を割らないギンカちゃんへの尋問を一方的に終わらせ、クリスさんは俺をシロガネさんへと手渡して立ち上がった。そこへ、リディアさんたちをつれて騎士団のお姉さんが戻ってきた。


 「ミルアさん。こいつら、例の地下組織にからんでやがる。逃げられる前に、とっつかまえに行くぞ」


 「……解ったわ。応援を要請しましょう」


 「……っと、リディアさん。住民登録証、見せてくれ」


 「ああ……うん」


 リディアさんの住民登録証と、壺の模様についた色を見比べる。そして、クリスさんはシロガネさんが手にしている俺を指さし、子どもたちへと呼びかけながら交番の戸を開いた。


 「あれ、リディアさんのだろ?持って帰ってくれ。お前らは来い。入れ知恵したやつのところ案内しろ」


 「……」


 「大丈夫。あなたたちは騎士団で保護するから、安心して」


 騎士団のお姉さん……ミルアさんに連れられ、子どもたちも交番も出て行った。よく事情が解らず、残されたリディアさんたちはシロガネさんに説明を求めている。


 「な……何があった?クリスさん、かなり物騒な物言いだったが」


 「あの子供たちが盗んだ犯人でしたの。それに気づいたワタクシは、お嬢様のネックレスをこうして、見事に取り戻しましたわ」


 「……で、シロガネちゃんは、なんで手錠されたあとがついてるんです?」


 「……」


 エメリアさんがシロガネさんの手首を見つめている。そこには白いあとがくっきりと残っていて、手錠をかけられた痕跡が丸わかりだ。半裸で街へ出てつかまったなんて、シロガネさんもリディアさんには言いづらいだろうな……。


 「……こ……これはですわね」

 「……?」

 「……あの……お嬢様好き過ぎ疑惑で、逮捕されてしまいましたわ」

 「……なんだそれは。どんな罪だ」


 本当のことを言うのは辛かったのか、シロガネさんは適当な罪を勝手に作り上げていた。ただ、クリスさんからはストーカー疑惑も掛けられていたからして、その罪状も半分はあっているのではないかとも思われる……。

第52話へ続く

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