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第50話『補導』

 謎の手につかみ取られ、俺はロッカーの奥……壁の裏側へと引き込まれた。暗い空間の中で、目のようなものが光り、俺を見下ろしている。俺をつかんだ何者かの顔は見えないが、真上から女の子らしい甲高い声が聞こえてくる。


 「なにこれ?ねぇ」

 

 相手は俺がなんなのかと、暗闇の中で探っているらしい。なお、ここは本来、人の立ち入る場所ではないようで、周囲からは物音の1つも聞こえてこない。ただ、なんとなくだけど……俺を掴み取った人は温泉の関係者ではない気がする。そこへ、先程とは別の声が横から聞こえてきた。


 「こんなの売れるのカナ……それより、財布とかの方が必要ダヨ」


 財布……そうか!この人たち、ドロボウだ!そのセリフで相手の正体に勘付き、俺はスキルを使用して体を光らせた。茶色い髪で頭にネコの耳がある子どもと、隣の子より少し背が高く、灰色の髪でウサギみたいな耳のある子。2人の姿が露わとなった。俺を持っている茶色い髪の人物はビックリした拍子に、ヒザを壁へと強くぶつけた。


 「いたっ!」

 「……なにやつ!」


 ロッカーの向こうで大きな足音が聞こえた。シロガネさんの声もする。今の物音に気づいたのか?ドロボウの2人はロッカーに開けた穴を閉めて、俺だけを奪って逃げ出した。どうやら、2人は建物の壁に穴を開けて、温泉施設の中へと忍び込んだようだな。茶色い髪の女の子は俺の放つ輝きに戸惑っているのか、もたもたと壁の穴に引っかかっている。

 

 「まだ、お財布はとってないよ」

 「いいから、とにかく逃げヨウ!」


 どうやらリディアさんのお財布は無事だったようだが、俺自身が盗まれてしまった。これは不幸中の幸い……だろうか。俺としては困ったことになったが、2人の通っている穴は……どこまで続いているのか。前の方からは、ザッザッと土の削られる音が鳴っている。


 「せっかく、あそこまで進入路を繫げたノニ。通路が気づかれるのも時間の問題……」


 前を進んでいた灰色の髪の人に続いて、俺を持っている子も穴から身を出した。ここは……どこだろう。せまい場所だけど、屋根と屋根の間から、かろうじて空が見えている。道ではないな。建物と建物の間のスキマだ。あまり人目につかない場所らしい。改めて2人は、俺の姿に目を向ける。


 「で、何を盗ったンダ?」


 「ネックレス……かな。ペンダントかもしれないけど」


 「……さっきは光ったりもしたが、こうして見れば、ただの石ダナ。こんなものにヒモをつけてアクセサリーにするトハ。財布の中身もたかがしれてたカモ」


 擬態スキルの効果もあってか、この2人には俺が普通の石に見えているらしい。話している感じからして、リディアさんを標的に選んだわけではないらしく、無差別な犯行に及んだ見られる。そんな偶然の事件に巻き込まれるとは運が悪い。無事にドロボウの手を逃れられた時には、ラックを上げるスキルがないか探すとしよう。


 それにしても、俺のことはとにかくとして、リンちゃんが頑張って作ったネックレスを気持ち安く言われたのも気になるし、リディアさんを貧乏人みたいに思われたのも申し訳ない。なんとかして、この子たちに反省をうながせないだろうか。


 「高いものじゃなさそうだけど……これ、商人のおっちゃんのとこ、持っていく?」

 「もう光ってナイ。こんなの持って行っても、1ジュエルもくれないダロ」


 スキルは解除しているから、もう俺の体は光っていない。灰色の髪の子どもは見るからに興味を失っていて、うまくいけば捨ててくれるのかもしれない。それならそれで、俺はリディアさんのところに1人で帰るけど……。


 「だが、ここで捨てたあとにピカピカされても、侵入経路が辿られてシマウ。すぐ穴を埋めて逃げヨウ」


 「はい」


 灰色の髪の子は、なかなか用心深いようだな。茶色い髪の子は腰につけているボロボロの袋へと俺を入れる。もう、俺には袋の内側しか見えていない。


 「行くゾ」

 「はい」


 ザザッと土を投げる音が聞こえた。温泉から逃げて来た穴をふさいだのだろう。袋の布越しに見えている光が強まり、2人が屋根の下を出たのが解った。周囲から人の話し声も聞こえるから、それなりに人通りの多い道だと思われる。ええっと……こうして視界がふさがれた時は、とりあえずマップに頼ろう。


 「……」


 視界の中にウィンドウを開き、俺は周囲の状況をマップで確認する。うわぁ……人の居場所を示す緑色の丸印が、数えきれないくらいあるぞ。さすがは帝国、村とは人口総数が段違いだ。移動スピードから見て、ドロボウの2人は足が速いな。


 温泉の場所は城壁付近のはずだが、それがどこなのかまではマップを見ても解らない。あまり遠くへ行ってしまうと、リディアさんの家に帰る道を解らなくなる。早めに逃げ出さなくては……。


 「……」


 とはいえ、ただの石である俺が、袋から抜け出すのは難しい。とすれば、2人が俺を捨てるように仕向けるとかどうだろうか。ええと……そうだ。スキルで重さを増してみたら、俺を置いてってくれるかもしれない。よし。


 『重量アップ スキル:レベル3 スキルポイント3』


 「……わっ!」

 「どうシタ?」

 「あ……これ……」


 ズサッと音がして、俺の入っている袋が地面に落ちたのを感じた。どうやら、俺が急に重くなったせいで女の子は転んだらしい。俺を持ち上げようと2人はもがいているようだが、頑張っても持ち上げられずにいる。


 「おい!みんなに見られてルゾ!もう置いてイケ!」

 「わ……解った!」


 灰色の髪の人が指示を出し、俺は地面へと袋ごと置き去りにされたらしい。この場から逃げるようにして、軽い足音が遠ざかっていく。


 「……」


 で、俺は……どうやって袋から出よう。袋の口はヒモで縛られているし、だからって街の中で魔物の姿に変形するのはリスクが大きい。とりあえず、体を軽くして、体を転がして回転してみよう……。


 「おいっ!落とし物だぞ!」


 突然、俺の入った袋を誰かが拾い上げた。男らしい声だ。袋越しの声だから何者なのか確証は得られないが、ひとまずリディアさんではないと思われる。


 「てめぇら、聞こえてんだろうが!待て!」

 「うわっ!」


 声からするに、茶色い髪の子がつかまったらしい。拾った人が俺を差し出したのは動きで解ったが、女の子は急に重たくなった俺を不審に思っているのか、なかなか受け取ろうとはしない。茶色い髪の子には任せていられないとばかり、灰色の髪の女の子が、かばうようにして横から口を出した。


 「ソレ。ボクたちのじゃナイ」


 「そうそう!」


 「おめぇらが置いてったの、俺は見たんだぞ?それともなにか?自分のもんでもねぇのに、街に捨ててったってのか?」


 段々、話の雲行きが怪しくなってきた。とりあえず、俺を拾ってくれた人は悪い人ではないようだが……やや語気が荒い。女の子たちは気圧されているのか、やや答えに困っているようだ。そうしている内、俺を拾った人は袋の口を開いた。


 「中を見るぞ。ええっと……なんだこれ?」


 俺を拾った人は袋の中から俺を取り出し、自分の顔の前へとぶら下げた。目つきの鋭い、男らしい顔。この人は……騎士団のクリスさんだ。なんでこんなところに……。


 「お前ら、これなんだ?」

 「な……なんだろう」

 「どこで見つけた?」

 「……」


 俺を受け取ってしまうと、また持ち上げられずに動けなくなってしまう。だからといって、本当のことを言ってしまえば、ドロボウだとバレるのは明白だ。もはや、ウソで乗り切るしかないと見て、灰色の髪の女の子が言い訳を始める。


 「解んないけど、拾ったンダ。落し物、騎士団支部に持って行くつもりだったカラ」


 「そんじゃあ、預かっていいんだな?魔素鑑定にかければ、誰のものなのか、大方の目星はつくからな。お前ら、念のために名前と住所を書け」


 魔素を調べれば、誰のものなのか解る。つまり、リディアさんのものだと解れば、温泉のロッカーからなくなったことも知れる訳だ。氏名や住所を捏造したところで、顔はバッチリ見られている。これで恐らく……手詰まりだな。かわいそうだが、こんなことを続けていても2人のためにはならない。これでよかったのかな。


 「住所……書けナイ」

 「文字、解んねぇか。じゃあ、両親は?」

 「……イナイ」

 「……」


 両親がいない。うつむいた女の子のさみしそうな顔を見るに、それは本当だと思う。2人はケモノの耳が生えた獣人のような姿をしているが、種族は違っていて姉妹ではないと考えられる。家が貧乏で、おこづかい欲しさにやったのかとも思ったが、そうじゃないなら……気の毒なことだ。


 「……解った。ついて来い」

 「え……いやダヨ」

 「住所のねぇ子どもをぶらぶらさせとけねぇだろ。補導だ。支部で話を聞く」


 灰色の髪の子どもは嫌がっていたが、クリスさんの見た目と態度が怖いからか、何分かごねた末に2人とも背中を押されて歩き出した。ドロボウをした事や、温泉施設に穴を開けたことなどがバレたら、2人はどうなるのだろう。日本だったら子どもには、それなりの優しい措置をとってくれるだろうけど、ここは異世界だ。予想もつかない。


 「こっちだ。逃げんなよ」


 2人が逃げないよう、クリスさんは後ろを歩きつつ騎士団支部へと案内している。徐々に道が広くなっているからして、大通りへと向かっているとは考えられる。温泉の入っている建物は

大きかったから、近くを通れば見えそうだけど、今のところは視界に入ってこない。


 「はぁ……はぁ……見つけましたわ!」

 「……?」


 女の子2人を補導しているクリスさんへ、誰かが後ろから声をかけてきた。この声は……シロガネさんだ。俺がロッカーからなくなったのを察知して、追いかけてきてくれたのだろうか。そちらへ俺も視線を向ける。


 「……」


 俺を指さしているシロガネさん。その姿は……ほとんど下着だけといった格好で、走ってきたからか息も上がっている。顔も赤い。シロガネさんはクリスさんへと駆け寄りつつ、俺を取り戻そうと手をのばした。そんな彼女の手へと……クリスさんは鉄でできた輪っかをかけた。


 「……な。なんですの?」

 「露出魔との疑いで逮捕する。ちょっと支部まで来い」

 「ちが……違いますわ!お嬢様!お助けくださいまし!」


 近くにはリディアさんもエメリアさんもいない。誰にもフォローしてもらえず、半裸のシロガネさんはクリスさんに連行された……。

第51話へ続く

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