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第48話『徹夜』

 リディアさんがエメリアさんに魔力を分け与える行為は視覚的に刺激が強いので、俺はリンちゃんの家の前にある石へと意識を転送して、村の様子をぼーっとながめている。一応、別の体の視点の映像も小さいウィンドウに表示してはいるのだけど、そちらはなるべく気にしないよう努めた……。


 「……」


 もう夕食の時間も過ぎているし、村の門も閉めてある。外を歩いている人の姿もなく、とても静かだ。


 「……?」


 いや……村の中に、何かいるぞ。4足歩行の動物が、群れを成して歩いている。それらは俺の体から発されている光に気づいたのか、こちらへと集団で寄ってきた。


 「……」


 この生き物は……クルクルだ。クルクルというのは村で飼われているバッファローみたいな生き物なのだが、それらが散歩でもするかのように群れで自由に歩き回っている。クルクルたちは興味津々といった様子で、俺に鼻を押しつけてにおいをかいでいる。


 こうして近くでクルクルの顔を見ると、毛に隠れている目もつぶらである。かわいいけど、あんまり舐められると……せっかくリンちゃんに拭いてもらった体がベトベトになってしまう。執拗なまでのベロベロ攻撃に耐え続けた後、クルクルたちも俺が食べ物でないことに気づいたのか、長い尻尾を振りながら次第に離れていった。


 しかし、どうしてクルクルが柵の外を歩いているのだろう。逃げ出したのか?でも……まあ、村の門は閉じられているから、逃げ出していなくなる心配もない。クルクルだって、たまには広いところを自由に歩きたいに違いない。


 「……?」


 おや……クルクルたちが、畑の近くに建っている小屋のようなもに入っていくぞ。それも、人間みたいに行儀よく、1頭ずつ順番に。あの中で一体、何が行われているのか。たぶん、見に行こうと動いたら、クルクルたちはビックリしてしまうだろう。よし、予想を立ててみよう。


 「……」


 あそこは畑だ。すると……そうか。あの小屋の中には畑で採れた野菜を入れてあって、それを食べる為に中に入っていくのか。でも……小屋から出てきたクルクルは口をもぐもぐさせていないし、ジェムちゃんの家の牧場でクルクルはワラを食べていた。野菜も食べるのかは疑問だ。


 ……更に、よくよく観察してみると、出てきたクルクルは尻尾を振っている。あと、足の裏を土にこすりつける動きも見て取れる。これは……ああ、なるほど。あそこはたい肥を作る場所なのかもしれない。つまり、クルクルのトイレだ。その線が正しければ、しっかりと自分たちの用を足す場所を理解しているということになる。とても知能の高い生き物だ。


 そういや、こうして村で夜を過ごしたのは今日が初めてではないけど、柵から出回っているクルクルを見つけたのは初めてだな。日によって、放牧する日としない日があるのかも。そして、クルクルに混じって、リンちゃんの家で飼っている荷車引きの大ネズミも歩いている。なんだか、こうして見るとサファリパークにでも来たみたいだな……。


 「……リン。そろそろ寝なさーい」

 「はーい」


 家の上の方から、お母さんとリンちゃんの声が聞こえてきた。リンちゃんの家は低めの2階建てなんだけど、実際には3階の高さに位置する屋根の辺りにも窓がある。そこから顔を出して、リンちゃんは遠くをながめている。


 「……」


 あちらの方角には……リディアさん達が向かった帝国があるはずだ。俺のいる場所からは村の外壁しか見えないけど、屋根裏部屋の窓からなら、大きな城の先っぽくらいは拝めるかもしれない。帰っていったリディアさんやエメリアさん、フローラさんのことを考えているのかな……。


 「……?」


 今、俺の体は世界に全部で3つある。1つはリンちゃんの家の前、ここが俺の現在地だ。もう1つは、リディアさん達のいる部屋。リディアさんのネックレスについた石。そして、最後の1つ……それは、俺の本体ともいえる大きな岩だ。これは村から少し離れた場所の丘の上にある。


 その丘の上にある大きな岩。その場所から見える風景が現在、サブウィンドウに表示されているのだが……そこで何かの動く影がうかがえた。近くに誰かいるのかな。俺は大きな岩へと意識を転送し、周囲を見回してみた。


 「擬態……擬態……う~ん。構造……実体……何か」

 「……」


 背の小さな女の人が俺の目の前に立ち、暗闇の中でノートをめくりながら何かをつぶやいている。この人は……前に会ったことがあるぞ。紫色の髪で、肌は灰色。失踪したエメリアさんを探しに出た時、川の近くで会った人だ。もう、すっかり夜だというのに、こんなところで調べものをしているのだろうか。


 「魔力……集中……反応……」


 月明かりしか目の頼りがないから、俺には彼女が何をしているのかまでは解らない。女の人は俺に手を押し当てて、ぐっと目をつむっている。彼女の手から光がもれ出す。攻撃……じゃないみたいだな。それを察しつつ、俺は魔法反射のスキルがオフになっているのを確かめた。


 「魔力照射……変化……なし」


 特に反応がないことを知り、女の人は俺から手を離して目を開いた。今度はカバンの中からランプを取り出して、指先をこするようにして火をともす。それは、青い炎だ。ランプをかかげて、その灯りに目をくぐらせ、彼女は俺を観察している。この青い炎も……どこかで見たな。


 「……!」


 そうだ。思い出した。魔人が俺に放った炎の魔法。あれが、青色の炎だった。すると、まさか……この人、魔人か?ステータス画面を開き、女の人の素性を調べてみた。


 『 身長:153センチ 体重:40キロ スリーサイズ:78・54・80 』

 

 身体的な特徴こそ事細かに記載されているが、肝心な情報は書かれていない。そういや、エメリアさんの種族についても今でこそ表記されているけれど、最初の内は詳しく載っていなかったな。おそらく、俺が聞いたり調べたこと、体験に基づいてステータス画面の機能も更新されるのだろうと思う。


 だとすれば、俺は魔人をじかに見た経験があるし、その存在をそれなりに知っている。その上で彼女のステータスには種族が明言されていないとすれば、この人は魔人ではないとも考えられる。ひとまず、俺は相手が魔人ではないと考え、ステータス画面を閉じて相手の姿に目を向けた。


 「……」


 不気味な青い炎に照らされた彼女の瞳は、宝石みたいにキレイだ。村で会った時も非常にマイペースではあったが、とても悪い人には見えなかった。俺自身でも現状、自分の体や正体が解らない。少しでも解き明かしてくれるならば喜ばしい限りだ。されるがまま、存分に調べてもらおう。


 「反射……違い。光……ううん」


 小づちで軽く俺を叩いてみたり、様々な鉱物を近づけて反応を見たり。彼女のカバンから、あらゆるアイテムが次から次へと出てくる。中には、ぬいぐるみとかボールとか、調査には必要なさそうなものも入っている。そして、鉄球や鉄のカタマリなどなど、かなり重そうなものも入っている。見かけによらず力持ちだな。


 「睡眠……まだ調査が……」


 彼女の頑張りを俺は、一晩中ながめていた。次第に空が明るんでくる。朝だ。俺に聴診器とおでこをつきつけたまま、うつらうつらと女の人は眠りについている。


 「魔人……外の世界……災厄……」


 ただの寝言だとは思うが、なにやら不穏な単語が聞こえてくる。結局、あれこれ頑張ってはくれたようだが、成果は得られなかったみたいだな。しかし、こんなところで寝たら、風邪を引いてしまうかもしれない。


 「……」


 毛布をかけてあげることはできないけど、オリハルコンにはステータスアップの効果があると騎士団長も言っていた。それを信じて、このまま俺は彼女の枕として役に立とうと思う。


 さあ、1日の始まりだ。視点を変更し、リンちゃんの家の前にある体の光も消した。日中も光ってる必要はないもんな。村の人たちも、もうすでに活動を開始している。


 「……」


 そして、恐る恐る……俺はリディアさんの部屋へと意識を転送した。さすがに一晩中、魔力供給が行われていた訳ではないようであり、すでにリディアさんは着替えを済ませて、1階のダイニングでパンを食べていた。


 「……シロガネさん。大丈夫か?」

 「……本当に、申し訳ございませんでした。申し訳ございません」


 キッチンに立っているシロガネさんが、なにやらうなだれた様子でリディアさんに謝っている。お酒が入っていたとはいえ、お嬢様に手を出してしまったからして、それも仕方ないかもしれない。だけど、襲われていたリディアさんよりも、どちらかといえばシロガネさんの方が疲れているように見える。


 「ですが、お嬢様が、まさか……あれほどたくましくなられていたとは。ワタクシ……もっと強くならねば」


 「寝床でのやりとりをほめられても、あまり嬉しくない……」


 「ほんと、リディア……すごかったです。また今日も、お願いします~」


 やつれているシロガネさんとは違い、エメリアさんの肌がツルツルしていて健康的だ。親愛度も更に上がっているようで、わざわざイスをリディアさんの横に持ってきて、体を押しつけながら食事をしていた。そうしつつ、エメリアさんはほれぼれとした表情で昨晩の感想を述べている。


 「うふふ~……いつもはリディアが先に寝ちゃうのに、昨日は私がやっつけられちゃいました。一体、どうしちゃったんですか?」


 「私は特に何も……しかし、エメリアに魔力を分けると、いつもは疲れが出るのに、今日は全く問題ないな」


 リディアさんは胸に俺をつけたまま眠ったから、ステータスアップの効果も持続していたと考えられる。こんな俺でも、少しは役に立ったならよかった。だが、そんなニコニコしているエメリアさんを見ながら、リディアさんはふとして疑問を取り出した。


 「そういや、エメリア。前に家出した時、手紙を書いたよな?私では満足できないみたいなこと……」


 「あ……はい」


 「あれ……本当?それとも、別れを告げる言い訳か?」


 手紙……俺の記憶によると、手紙の内容は……。


 『エメリアです。リディアって一緒に寝ても、自分だけ満足して先に寝ちゃうし、反応も単調だし、あんまり楽しくありません。相性が悪いので、旅に出ます。探さないでください』


 確か、こんなだったな。てっきり、リディアさんと関係を切るための口実かと思ってたが……。


 「あれは……半分、本当ですけど」

 「……そ……そうか。すまない」

 「あ……すみません。全部、ウソです。許してね。お願いします~」

 「……どっちだ。まあ、別にいいけど」


 もう済んだことなので、そこのところはエメリアさんもうやむやにしたいらしい。あれが本当かウソかはさておき、これからも2人が不満なく仲良くできそうと見て、俺としては何よりです。

 

第49話へ続く

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― 新着の感想 ―
小説の中の小説を読んでる気分 もう少し主人公を前に出して欲しい
[気になる点] 主人公そっちのけでレズ話しすぎて、話が全然進んでないように見える。 女同士のガチ恋愛を横から見てる出歯亀野郎の話って感じ。
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