表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/978

第47話『夜食』

 「リディア~。他にはない?」

 「そうだな。他に魔法の話は……」


 リディアさんが魔法の話を始めて、そろそろ1時間くらいが経過しただろう。お話が上手なのもあってか、あまり魔法の勉強をしてこなかったというエメリアさんも、飽きずに講義を受け続けている。その向かいに座っているシロガネさんはお酒が軽く4杯目で、リディアさんのお話が聞こえているのかいないのか、ほてった顔でリディアさんを見つめている。


 「話は尽きないのだが……1人で喋りすぎて、そろそろ口の中が乾燥してきた。少し休ませてくれ」


 「ん~……ところで、リディア。パン、食べたくないですか?」


 「それは朝ご飯に食べる為に買ってきたものだぞ……」


 エメリアさんはお酒がすすんでしまった結果、おつまみのチカラの種以外のものも食べたくなったらしい。リディアさんの返答には動じず、大きな紙袋から丸いパンを取り出す。


 「ちょっと下、行ってきます~」


 パンを取り出してお皿に乗せたと思うと、急にエメリアさんは寝室を出て1階へと行ってしまった。そこでリディアさんも1階に用があるのを思い出したようで、飲み続けているシロガネさんに声をかけつつ席を立った。


 「エメリアを見てくるついで、お手洗いに行ってくる」

 「ええと……あの、もしや……化粧室は、1階で?」

 「そうだぞ」

 「……ワタクシも参ります」


 気兼ねなくお酒を飲んでしまった末、シロガネさんはお手洗いが1階にしかない事実に気づいたようだ。幽霊……管理人さんがいる1階に1人で行くのは怖いらしく、こちらもリディアさんの後ろに隠れながらお手洗いにつきあう事となった。


 「……」


 廊下にあるランプらしきものへリディアさんが指で触れると、炎とも電気とも違う粒子の荒い光が灯った。窓の外には夜空が広がる。夜空の手前には大きな城がある。城の窓には、まだ光があふれていて、街は夜でもかなり明るい。まだ城では働いている人もいるかもしれないな。


 「シロガネさん。先に入るか?」

 「いえ、お先にどうぞ」


 リディアさんがお手洗いに入る。さすがに、その様子を近くで見ているのも気が引けた為、俺は一時的にリンちゃんの家の前にある石へと意識を転送した。


 「……」


 街と比べると、村は非常に灯りが少ない。リンちゃんの家の窓にも、ガラス越しに炎の明るさが見える。ランプに火が灯っているようだな。


 「……」


 少し前までは村に騎士団のテントがあったから、その灯りのおかげで村も幾分か明るかった。少しでも村を照らす手助けをしたいと考え、俺は発光スキルの説明文に目を通した。


 『スキル:発光 説明:スキルレベル3以上の場合、体の発光を常時固定可能』


 このスキルはレベル3には達しているから、光り続けたまま他の体へ意識を移せば、ずっと光が持続するはずだ。これで俺が意識を宿していなくても、村の灯りの足しにはなることができるだろう。俺は輝きを調整し、その光を頼りに村の様子へと目を向けた。


 「……」


 このまま村の静寂さに身をゆだねているのもいいんだけど、リディアさん達のお話を聞いて、この世界について勉強したい気持ちもある。そろそろお手洗いも終わった頃かと思い、俺はリディアさんの胸に乗っている石へと意識を戻した。


 「……シロガネさん。中は灯りがないから、気をつけて入ってくれ」

 「……あの、待っていてくださいね。置いていかないで」


 リディアさんと入れ替わりで、シロガネさんがお手洗いに入っていく。管理人さんは近くにいないな。そうして廊下を見回していると、ダイニングのドアを開いてエメリアさんが現れた。


 「……エメリア。それ、なんだ?」

 「リディアがつけてた野菜のお漬物と、ねりカラシ」


 エメリアさんが持っている2つのビンには、キュウリの漬物みたいなものと、緑色の液体が入っている。あの緑色のドロッとしたものがカラシなのかな。


 「先に行ってます~」

 「ああ。シロガネさんが出たら上に戻る」

 「お嬢様……そこにいますか?」

 「ちゃんといるから……急がなくていいぞ」


 お手洗いの中からザバッと水の流れる音が聞こえ、置いていかれまいとシロガネさんが急いで出てくる。2階の寝室へ戻ると、エメリアさんがスプーンを使って、パンに緑色の液体を塗りたくっているのが見えた。


 「エメリア。何をしているんだ?」

 「チカラの種パンを作ってます~」

 「チカラの種パン?」

 

 おつまみに食べていたチカラの種をパンの切り込みに詰め、ねりからしをスプーンでパンの内側に塗る。お漬物は……乱雑に切ってお皿に置いてある。


 「えええ……チカラの種をパンに入れるのか?」

 「絶対、おいしいですって」

 「そんな料理、聞いたことないぞ……いつも作っているのか?」

 「今日、初めて作りました」


 お酒の酔いに任せて、即興で料理をしているらしい。あまりにもエメリアさんの手際が怪しいからして、リディアさんは怪訝な面持ちでパンを観察している。


 「はい。どうぞ。あなた」

 「……くれるの?」

 「1口、お試しで」


 チカラの種……多分、ナッツみたいなものだろう。それと練りカラシ。2つをはさみ込んだパン、通称・チカラの種パンである。ところで、一緒に持ってきたお漬物は何に使うのかと、リディアさんはパンより先に些細な疑問を口にする。


 「それは使わないのか?」

 「これは台所で見つけたから、持ってきただけ~」


 これはパンとは別にして食べるらしい。作った本人すら食べたことがないパン、それをリディアさんが試食してみる。ナッツをかみくだく音が、ぽりぽりと鳴っている。カラシの味が襲ってきたのか、リディアさんはムッとした顔をしてエメリアさんにパンを返した。


 「……おいしいな。エメリア、料理はしないのに、こういうのは作れるのか」

 「でしょう。もう1個、リディアの分も作ってあげる~」


 エメリアさんは料理自体は得意ではないらしいけど、おいしいものに対しての嗅覚は確からしい。日本で言うならば、カップラーメンをアレンジして美味しく食べたり、出来合いのものに一手間を加えてオリジナルメニューにしたり、そういったユーモアレシピに近いと思われる。


 「しかし、お嬢様。夜分、寝る前にパンを食べるなど……」

 「夕食を早めに摂ったからな。シロガネさんもやってみるといい」

 「そのようなもの、絶対に料理として間違っております。おいしいわけが……」


 注意をうながしているシロガネさんにも構わず、2人でもくもくとパンを食べている次第、シロガネさんも食べてみたくなったらしい。エメリアさんのマネをして、チカラの種とカラシをパンに入れていく。そして、恐る恐る口へと運んだ。


 「……塩辛いですわ。塩辛いですわ」


 呪文のようにつぶやきつつ、シロガネさんはお酒を飲んでいた。しばらくは会話もなく、みんなお酒やパン、塩漬け野菜に舌鼓をうっていた。パンを半分も食べたところで、唐突にエメリアさんがシロガネさんへと尋ねた。


 「……ちょっと聞いていいですか?」

 「いけません」

 「……シロガネちゃんって、いつからリディアについてきてたんですか?」


 本人が黙秘権を主張しても、気にせず聞いてしまうエメリアさん。それに関してはリディアさんも気になっていたようである。白状せねば都合が悪いと見て、小さな声で語り出す。


 「……お嬢様が家を出て以来、ずっと観察を」

 「もう200日も前じゃないか……よく今まで気づかれなかったな」

 「幼いころより隠密の技を教え込まれた故、その筋のものでなければ気づきませんわ」


 スキルを使用して見れるマップにも、シロガネさんの居場所は映っていなかったからな。完全に存在を隠せる技があるとは思わなかったし、それについても今まで警戒していなかった。これからはマップだけに頼らず、しっかり確認して動くようにしよう。

  

 「それで……お義兄さんに、いくら詰まれたんです?」

 「お前……すぐにお金の話をする……」

 「……」


 その件についてはリディアさんに聞かれたくなかったようで、こっそりとシロガネさんはエメリアさんにだけ耳打ちした。


 「……ああ……私たちの稼ぎよりお給料がいい」

 「本当か……」

 「え……あ……すみません。お嬢様……」


 騎士団長はお金持ちだったし、シロガネさんの業務も一般的なものではなかったから、それなりにお給料も高いらしい。言われてみれば、シロガネさんの買ったパンだけ、見た目が少しお高そう。


 「シロガネさんに心配をかけないよう、私も明日から頑張らないと……2人は私に構わず飲んでいてくれ」


 「……あれ。リディア~。もう寝るんですか~?」


 シロガネさんの監視がなくてもよくなるようにと、リディアさんは明日の頑張りにそなえて眠る様子だ。使い終わった食器とグラスを持って1階へと降り、歯を磨いてから2階へと戻ってきた。寝間着に着替えようとするも、やはり胸が大きくて入りきらない為、服のボタンは止めずに開けっぴろげにしていた。


 「……」

 

 リディアさんは一度だけ俺を手に取ったが、胸元から外すことなく、そのままベッドに倒れ込んだ。そんなリディアさんへ、おもむろにエメリアさんが抱き着いてくる。


 「……約束、忘れてないですか?」

 「ああ……大丈夫だ。私を好きにしてくれ」


 寝る前に少しだけ、エメリアさんの魔力供給を手伝うらしい。リディアさんは抵抗も見せずに脱力し、エメリアさんへと体をゆだねている。そんなリディアさんの大きな胸をなでるようにして、そっとエメリアさんは右手を押しつけた。


 「やった~。では、早速……」

 「お待ちを。お嬢様がお許しになったとしても、ワタクシは絶対に許しませんわ!」


 そう言いつつ、なぜかシロガネさんもベッドに入ってくる。ベッドは大きめだけど、さすがに3人も乗ると少しギシギシ鳴っていた。


 「……じゃあ、シロガネちゃんが、リディアの代わりになってくれるんですか~?」

 「それは……今日は無理ですわ。あなたのせいで、魔力が足りませんもの……」

 「……だったら、シロガネちゃんも一緒に楽しも?ほらほら」

 「……」


 酔った勢いで平常心が損なわれているのか、シロガネさんもリディアさんの体を熱っぽくながめている。もはや、1人相手にするのも2人相手にするのも大して変わらないようで、リディアさんの方も特に嫌がる素振りがない。


 「……お嬢様。不埒なワタクシを許してくださいまし」

 「はい。けってー。では、私も失礼します~……」


 女の人が3人、ベッドの上でおたわむれを始めた。その様子といえば……ちょっと生々し過ぎたからして、とても俺には言葉にできない。俺は再びリンちゃんの家の前にある石へと意識を飛ばし、平穏な村の風景へと視線を逃がしていた……。

第48話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  「それで……お義兄さんに、いくら詰まれたんです?」  …。ピンク脳なので胸に詰める>胸元に突っ込むとなってしまいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ