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第46話『歓談』

 「はぁ……はぁ……」

 「シロガネさん。落ち着いて」


 リディアさんの家の管理人さんが正体不明すぎて、シロガネさんが体を震わせながら息を荒げている。そうした中、エメリアさんがシロガネさんの口にチカラの種を押し込んでいる。物を口に入れたらシロガネさんも少し落ち着いてきたのか、リディアさんに寄りかかっていた体を離した。


 「お嬢様……申し訳ございません。少々、気が動転してしまい」

 「疲れが出たのだろう。寝室へ行こう」


 2階にある寝室へ、リディアさんとエメリアさんはシロガネさんを案内していく。建物は細長い形をしていたけど、それなりに奥行きはあるらしい。2階の壁にはドアが4つ並んでいて、手前から見て3つ目のトビラをリディアさんは開いた。トビラは立て付けが悪いのか、体重をかけて強く押さないと開かなかった。


 「シロガネさんは、この部屋を使ってくれ」

 「部屋まで与えていただき、ありがたき幸せでございます……」


 部屋の広さは5畳くらいかな。ベッドとテーブルとイスと他もろもろ、最低限の家具こそ置かれているものの、窓にはカーテンがない。予想するに、普段は誰も使っていない空き部屋なのだと思われる。


 「では、私たちは階段近くの部屋にいる。用があれば声をかけてほしい」

 「あ……ちょ……ちょっと待って」

 「……?」


 部屋に1人にされるのを恐れて、シロガネさんはリディアさんのそでをつかんだ。管理人さんは幽霊ではないのかもしれないし、悪いことをしてくる訳でもないようだけど……やっぱりシロガネさんは彼女のことが怖いのだろう。俺だって一晩、この家に1人で置き去りにされたら、恐怖で泣くかも解らない……。


 「わ……ワタクシは、お嬢様をお守りするのがつとめ。決して、1人で眠るのが怖いとか、そういうのではないのですわよ」


 「……ああ。では、私の部屋へ行こう」


 ツンデレなシロガネさんの気持ちをくんで、3人は階段の近くにある部屋へと移動した。こちらの部屋の間取りも先程の部屋と同じに見えるけど、微妙にベッドの大きさや窓の位置が違う。リディアさんが普段から使用している部屋だから、それなりに小物が多くて生活感がある。


 「はい。リディアのグラス、ここー」

 「なんで、エメリアが席を決める……」

 「……それは」


 エメリアさんは具体的な答えを告げず、目をパチパチさせながらリディアさんに微笑んでいる。なお、リディアさんのグラスが置かれた席はベッドに近い場所で、エメリアさんの座った席はリディアさんの隣。きっちりシロガネさんの分のグラスも用意があって、そちらはテーブルをはさんだ向こうに置かれている。


 「うふふ……私は、リディアの横~」

 「ふ……ふーん。こちらの方が、お嬢様のお顔を正面から拝見できますわ!」

 

 エメリアさんはリディアさんに肩を寄せつつ、リンちゃんの家からもらったお酒をグラスに注いであげている。ピンク色をしたキレイなお酒だ。お酒の中では炭酸のようなものが光っていて、それは蒸発でもするかのごとく、空気中へとキラキラを放出している。そんなお酒を見て、リディアさんは思い出したようにつぶやいた。


 「……ミルク割りもオススメとの事だったな。買ってくればよかった」

 「……あーっ。完全に忘れました。私としたことが。リディアー……買ってきてよ~」

 「お嬢様。おつかいとあらば、ワタクシめが」

 「いいよ……今日で全て、飲み終わるものでもないし」


 俺は未成年だから詳しくないけど、お酒には水や氷で薄めて飲むものもあるんだよな。みんなが飲もうとしているものは小さなグラスに注がれていて、ビンのフタを開いただけで伝わってくるほどに香りも強かった。それなりにアルコール度が強いものだと推測される。


 「では、お嬢様。お水をご用意いたしましょうか?」

 「いや、いい。エメリアの忍耐も切れそうだし、このまま飲むとしよう」


 一応、シロガネさんは使用人という立場だが、リディアさんとしては身分を使って何かしてもらおうという気はないらしい。エメリアさんはチカラの種が入っている袋を開け、自分の口にリディアさんの口にと指先で運んでいる。ついでにシロガネさんにも食べさせてあげている。


 「シロガネさん。はい。あーん」

 「ふん……自分で食べられます。お嬢様のお食事も、ワタクシに全てお任せを!」

 「私だって、自分で食べるからいい……」


 まず、エメリアさんがお酒に口をつけて、グラスの半分くらい飲んだ後に、大きく息を吐き出しながらグラスを置いた。リディアさんは口に含む程度にお酒を楽しんでいる。シロガネさんはグラスを持たず、ぽりぽりとチカラの種を食べている。


 「シロガネさん、飲まないの~?」


 「ワタクシは、お嬢様の身を守るのが使命。意思を強く保たねばなりません」


 「今夜、リディアから魔力をもらう約束なんですけど……もしかして、しらふで見てるんですか?」


 「……」


 リンちゃんの家の寝室でやっていたことの延長を今夜、ここでエメリアさん達はするという。首をなめたり耳をかんだり、それを横で黙って見ているシロガネさん。なんか想像したらシュールだな……。


 「……お嬢様。ワタクシも、よろしいでしょうか?」

 「ああ。いいぞ」


 リディアさんからの了解を得て、シロガネさんはグラスに入っているお酒をグッと飲み干した。本格的な酒盛りが始まったところで、エメリアさんがリディアさんに魔法講座の続きをねだっている。


 「そうだ。魔法のこと、もっと聞かせて~」

 「といっても、何について話せばいいかな……」

 「なんか、面白い話がいいな~」

 「面白い話か……」


 芸人さんじゃあるまいし、面白い魔法の話と言われても……。


 「うん。あるぞ」


 あるらしい。こういうアドリブきくところ、リディアさんってタフだよな。


 「先程、黒魔法は炎や冷気、雷といった自然の力を利用すると説明したが、最も使うのが難しい魔法は雷なんだ」


 「なんでですか?」


 「雲から発せられる雷を常に使えるならばいいが、天気を操るのは賢者や老師といえども至難の技。そこで、雷と相性のいい魔法使いは、別の雷を使わなければならない」


 雷以外の別の電気か。コンセントや、電池なんてものが、この世界にあるとは思えない。それ以外の電気というと……エメリアさんにも想像がつかないみたいだな。


 「別の電気……むむ」

 「鉄製のものに触れると、パチッと痛みが走ることがあるだろう?あれだ」

 「えっ……あれって、雷なんですか?」


 金属に触るとパチッと痛みが……ああ、静電気か。なるほど。


 「常時、あれを放つことができるよう、雷使いはパチパチを集めやすい服装と髪型をしている。全身、白いモコモコした格好で歩いている人をたまに街で見かけると思うのだが、あれがそうだ」


 「……あれが、雷使いなんですか?今日も街にいましたね」


 そんな人が街に……いや、思い出してみたら、ここへ来る途中で俺も見たな。街の風景に見とれる方で忙しかったから特に言及しなかったけど、ワタアメが人の形をして歩いてるみたいな人を確かに見た。あれが雷の黒魔法使いなのか……なんか、かわいいな。


 「しかもだ。あれ……すごく暑いらしい。毛布を5枚くらい来て歩くくらい暑いという。だが、体がモコモコしていればしているほど雷魔法は強力になるぞ」


 「知らなかったです……他にも面白い話あります?」


 思ったより興味深い話が飛び出した為、他にも面白い話がないかとエメリアさんが要求している。リディアさんは記憶の中を探りつつ、次の話を始めた。


 「では、次は白魔法の話だ。時に傷を癒し、時に人の心をまどわす白魔法。これは生き物相手にしか使えないと入国審査場で説明したが……まれに無機物に影響を及ぼすことがあるんだ」


 「そうなんですか?」


 「ああ。白魔法の魔力というのは、生き物の意思が入り込んだ特殊な魔力だ。だから通常、それは精神を持つ相手にしか通用しないのだけど、長い時の中で、じっくりと道具などに入り込むことがある。そういったものが、武器屋などで高値で取り引きされている、特殊効果持ちの装備だ」


 「……だったら、これもそうかもしれないですね」


 エメリアさんは自分のリュックから飛び出している、木でできた杖を見つめている。お酒が体に回ってきたのか、その目はうっとりとしている。


 「なのだが、もっと珍しい事象として……特定の場所などに白魔法が残留することがあるらしい。これは父が聞かせてくれた話なのだけど、凶暴な魔獣が入り込んだとの事件を受け、それを退治すべく父は村の墓地を訪れたという。その時……」


 やや話の方向性がホラーへと変わってきたと見て、ぽりぽりとタネをかじっていたシロガネさんの手がピタリと止まった。


 「父は、夜の墓地に女の人が立っているのを見つけたらしい。危険だから村に帰るようにと声をかけたところ、その人影は墓地の何もない場所を指さし、何も言わずに霧散して消えていったという」


 「そういうことができる種族もいるんですか?」


 「どうだろう。魔獣を退治した翌日、どうしても気になった父は村の許可を得て、その場所を掘ってみたという」


 「……あの、ちょっと待ってもらっていいですか?」


 「……?」

 

 リディアさんの話を一時停止させ、シロガネさんは不自然な体勢でほおづえをついた。しかも、両手でである。ばれないように装って入るが、完全に耳をふさぐ形だ。


 「……お嬢様。続きをどうぞ」


 「うん……女の指し示した場所を掘ってみたところ、遺骨が出て来たという」


 「人の骨ですか?」


 「うん。結局、誰の骨なのか解らず、父は元あった場所へと埋め直したという。後日、国営調査団の調べが入ったところによると……その骨の埋まっていた場所の隣にある墓、そこに埋葬されている人物の恋人の骨ではないかと特定された」

  

 ……それって、つまり。


 「としますと?」


 「つまり、恋人と同じ墓に入れなかった未練が白魔法として残り、その想いを誰かに伝えようとして墓地に残っていた……んじゃないかという話」


 「ひゃああぁぁ……」


 耳をふさいでいても聞こえてはいたらしく、シロガネさんが控え目な悲鳴をあげている。ただ、そんなことは、この世界でも滅多に聞かない話のようで、興味半分、疑い半分といった口調でエメリアさんはリディアさんに伝える。


 「お義父さんの言う事が本当なら、ちょっと悲しいですね。でも、魔法が人の形になって残るなんて、そんなことがあるんですかね」


 「そうだな。まあ……うちの父は、よく冗談も言う人だから」


 リディアさんとエメリアさんはお酒を口に含み、チカラのタネをパリパリとかじっている。そして、考え込むような顔をしてつぶやいた。


 「う~ん……面白いですけど、奇妙な話でした」

 「実際、そんな現象は私も見た事はないし……本当かどうかは、よく解らないな」


 2人はそろって、そんなものは見たことがないと口にしている……が、俺はつい10分くらい前、この家の1階で見たような気がしている。大丈夫なのかな……この家。

 

第47話へ続く

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