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第31話『帰還』

 失踪したエメリアさんも元気な姿で発見されたし、シロガネさんもリディアさんの髪の香りにほほを赤らめる程度には元気そうである。シロガネさんを背負ったリディアさんも、騎士団長に遅れることなくあとを追っている。


 「だんちょーさん。帰りも歩いてくの?」

 「いや、魔人が一掃されたことは帝国本部へ伝達済みだ。じきに迎えが来るだろう」


 アネットさんが帰り道の足について騎士団長と話し合っている。村へ来た時、騎士団のみんなは徒歩だったように見えた。というか、シミュレーションゲームで得た知識でなんなんだけど、騎士団って普通は、馬に乗った人たちのことをいうと思うんだ。文字通りの騎士団なら、乗り物となる生き物がいて相応である。


 「……?」


 サブウィンドウとして表示している別視点に、やや違和感のある影が見えた。そちらはリンちゃんの家の前にある石の視点なのだが、村の門の近くに大きな鳥みたいなものが映っている。でも、画面が小さいから、具体的にはなにがいるのか解らないな……。


 「そーいえば、リディアちゃんとエメリアちゃんの胸、どうしちゃったの?」

 「昨日、食べたキノコのせいみたいで、おっきくなっちゃいました。アネットも欲しいですか?」

 「う~ん……別にいいかなー」


 騎士団長が浮かない顔をしているので、アネットさんは後ろを歩いているエメリアさんと会話を始めた。かまってちゃんというわけでもなく、空気が読めないわけでもなく、誰とでも打ち解けられるアネットさん。俺も、そういう人間だったら、学校でも楽しく過ごせただろうか。しかし、今の石の体も割と気に入っているから、これはこれで捨てがたいところではある。


 「リディアちゃんが騎士団に入ってたら、きっとアネットの先輩だったんだよね」

 「そ……そうだろうな」


 リディアさんはシロガネさんを背負っているから、あまり口も達者に動かない。そこで、エメリアさんがアネットさんの話し相手をかって出ている。


 「ところで騎士団って、どんな感じなんですか~?」


 「えっと……なんかね。変な人、たくさんいて楽しいよ?お医者さんのムースさん、会った?」


 「あの頭よさそうな人?」


 「誰の悪いとこでもなおしちゃうくらいスゴイ人なのに、自分はいっつも胃が痛いって言ってるんだー。お酒も飲めないの」


 お医者さんというと、倒れた騎士団長を診察に来た人かな。ふくろダケをもらっていってたのも、自分の胃薬として使うためだったらしい。仕事のし過ぎか。はたまた心労が絶えないのか。どちらにせよ、お体は大事にしていただきたい。


 お医者さん以外の団員さんについては……俺も魔人のアジトへ向かうまでの間に何人か会ったが、騎士団長も含めて、そこまで悪い人はいなかったし、それなりに個性的な面々だった記憶だ。こうしてアネットさん達の話を聞いている今も、リンちゃんの家の前の俺を博士が真剣に観察している。


 「いやらしい話、お給料とかいいんですか~?」

 「多分、普通。でも、実家で武器屋やってるし、お金は困ってないからいいかなって」


 アネットさんは新人さんだから、まだお給料も高くないんだろう。しかし、実家が近くて両親の稼ぎもあるとなれば、苦しい生活はしていないのかと思う。そんな話に耳を向けている内にも、村を囲っている壁が見えてきた。村の前では白くて大きな生き物が、大きな羽をふさふさと動かしている。


 「騎士団長。大変、お待ちしておりましたが?」

 「すまない……副団長」


 騎士団長が副団長から微妙に嫌味を言われているけど、それより俺は白い生き物に目が釘付けであった。あれは、まぎれもなくドラゴンだ!体は中型トラックくらいの大きさで、全部で10頭ちょっといる。色は白色や灰色のものが多いけど、緑色のもカッコいいなぁ。


 「医者様。うちの娘……フローラをよろしくお願いします」

 「数日で村へ送り届けます。ご安心ください」


 村では、フローラさんの見送りが行われている。そうだった。魔人に捕らわれていた間に何かされていないか、帝国に戻って検査するんだな。とはいえ、暴行を受けた痕や大きなケガなども体には見られなかった為、村の人たちも安心した様子で手を振っている。

 

 「……」


 初めてみる翼竜に興奮気味の俺だったのだが、ふと翼竜と目が合ってまばたきをした。むしろ……翼竜はみんな、こっちを見ている。俺を持っているアネットさん……じゃないな。間違いなく、俺を見ている。


 「……」


 にらまれてはいないのだけど、つぶらな瞳は、じっと俺に向いている。俺、何か悪い事でもしたかな……緊張してきた。


 「ハクリュー。ワンコロちゃんは悪い魔物じゃないよー。食べないでー」


 あ……そうか。俺はオオカミの姿だから、敵だと思われたのか。というか、悪い魔物だったら食べられてしまうのか。もし食べられるなら、美食スキルをオンにして美味しく召し上がられよう。別の体に意識を移せば問題ないし……。


 「……」


 白いドラゴンが俺に鼻を近づけて、スースーとにおいを確認している。でも、俺は無機物だから、ケモノ特有のにおいはしない。生き物ではないと解ったからか、ドラゴンたちは俺から興味をそむけた。


 「では、準備が完了次第、出発する。一頭に5人ずつ、各々の体重を考えて、バランスよく乗るように」


 騎士団長が指揮をとっている。このドラゴンに乗って帝国に帰るのか。空を飛んで行けるなら、きっと1時間もかからずに到着するだろうな。


 「アネット。そのワンコは、どうすんだ?」

 「え?連れてくけど?」


 クリスさんだ。ちゃんとエメリアさんが帰ってきたのを見て安心しているが、リディアさんたちの胸の成長ぶりには目を丸くしている。それはともかく、アネットさんが俺を連れて行きたいと言っているからして、クリスさんは難しい顔をして俺を見つめている。


 「連れてくのはいいが、国には連れて入れねぇぞ?」

 「なんで?」

 「だって、お前……魔獣契約できてねぇじゃん」

 「……あ」


 ……そうだよな。どこの何かも解らない魔獣を国に連れて入ることなんでできないし、門前払いされるか、もしくは駆除されてしまう恐れだってある。アネットさん。今までありがとうございました。


 「じゃあ、ちゃんと契約する」

 「やれんのか?あっ……先輩、魔獣契約検定1級ですよね。指導してやってもらえませんか?」

 「またやるの?ちょっと待ってね」


 クリスさんに呼ばれて、騎士団のお姉さんがやってきた。お姉さんは魔獣契約に慣れているようで、バッグから光るペンを取り出して地面に陣を描き始める。お姉さんの指示に従い、アネットさんも陣の中に文字を書いていく。その作業自体は5分ほどで終了し、俺は陣の真ん中にそっと置かれた。


 「よーし。やるぞー」


 アネットさんが俺の頭に手を置くと、魔法陣からまばゆい光が発せられた。発光は数秒で消えるが、やっぱり俺に変化はない。ステータスにも特に追記はないな。


 「……先輩!どう?成功した?」

 「う~ん……失敗みたいね」

 「えー?なんでー?」


 俺の分類はギガントゴーレムというらしいが、それが魔物として扱われるのか、単純に物体として認識されるのかは謎である。もしかすると、契約自体が無理なのかもしれない。


 「アネットの何が悪いのかな……きらわれてる?」

 「これで失敗するとなれば……ワンコちゃんは、すごく強い魔獣なんじゃないかしら」

 「……そうなの?なにもの?」


 お姉さんの説明で、なんとなく契約できない理由は解った。俺……ステータス上ではレベル999で上限だ。つまり、これ以上のレベルはない。他の魔物と比べても桁が1つ違う。誰とも親密にならないというのはさみしい気もするし、誰のものにもならない安心感もあるような……まあ、気持ちとしては複雑である。


 「どれ。私がやってみよう」

 「え……だんちょーさん。ワンコロちゃんと契約するの?もうハクリューがいるじゃん」

 「ワンコロちゃんには助けてもらったからな。ここで別れるのも惜しい」

 

 アネットさんでは無理と見て、今度は騎士団長が魔法陣を描き始めた。白竜は騎士団長と契約している魔物らしく、こころなしか仲間が増えるのを期待しているような目で俺へ視線を下ろしている。騎士団長なら大丈夫だろうと、お姉さんも楽観的な様子で後ろから見学している。


 「団長さんは帝国でも屈指の魔力保持者ですし、武術の心得もございます。間違いありませんね」

 「よし。始めるぞ」


 1分後、契約の儀が無事に終了し、騎士団長が俺の頭から手を離して立ち上がった。


 「すまない。ワンコロちゃん。ここで、お別れだ……」

 「……」


 ……失敗した。騎士団長でもダメなんじゃ、絶対にダメじゃん。俺、永遠に独身だな。


第32話へ続く

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