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第28話『手紙』

 「家出したって?」

 「家出というか……その、いなくなってしまって」


 リンちゃんの家から、エメリアさんが家出したらしい。とは言っても、エメリアさんはリンちゃんの家に泊まっているだけのようだから、具体的には失踪したという方が正しい。


 「あっ、ガンさん。緑色の服の女の子、見なかった?エメリアさんっていうんだけど」

 「いんやぁ?門を開いて、ずっと畑やってたが、それっぽい人は見てねぇぞぉ?」


 近くを通りかかったおじいさんへ、リンちゃんパパが質問を投げている。あのおじいさんが朝に村の門を開いたとして、それからずっと畑仕事をしていたとしたら、近くを通ったエメリアさんにも気づきそうではある。それか、まだリンちゃん家にいるんじゃないだろうか。


 「リディアさん。うちの中は見た?お風呂場とか」

 「見て回ったのだが……どこにも」

 「んー……じゃあ、騎士団のところは?」

 「……そうか。行ってみる」


 以前、エメリアさんは騎士団のテントへ侵入した前科がある為、またオジャマしているのではないかとして、リディアさんは騎士団の男の人を呼び止めた。急いで着替えたせいか、はたまたお腹のふくらみが元に戻っていないからか、遠目に見るとリディアさんはヨロイの着こなしが少し変である。


 「……」


 男の人がテントの入り口を開いて、騎士団の人たちに呼びかけているようだ。今の俺のいる場所からでは何をしているのか解らないので、アネットさんの手にある石へと意識を転送してみた。


 「あの緑色の服の人、来てないかって」

 「いや、見てないが」


 ここはテントの中だ。騎士団員の方々がテントの中を捜索しており、まだアネットさんは俺を手にしたまま眠っている。俺が犬の姿へ変形して立ち上がると、彼女はビックリした声をあげて目を開いた。


 「わっ……あ……ワンコロちゃん。おはよ~」

 「やっと起きたか……お前が一番最後だぞ」


 一番先に眠ったはずなのに、やっぱりアネットさんは最後に起きたらしい。クリスさんに寝袋を開けられて、しぶしぶ中からはい出てきた。そこでやっと、彼女もテントの中が騒がしいことを知った様子である。


 「え……どしたの?」

 「エメリアさんがいないっていうんで、ここに来てないか探してんだよ」


 クリスさんや男の人たちでテント内を見回ってくれたが、どこにも姿はなかったらしい。その後、俺とアネットさんで村の中も一通り歩いてみたものの、やはりエメリアさんは発見されなかった。


 「村の外に行ったんでねぇか?」

 「俺たちも探しに行った方がいいか?」

 「いや……そこまでしてもらうのは悪いし」


 話を聞きつけた村の人たちも集まり、騎士団と共に村の周辺を捜索しようと相談している。リディアさんは断ろうとしているのだけど、みんなは心配だと口をそろえて言っている。


 「……そういや、それ。置き手紙か?」

 「あ……ああ」


 リディアさんの手に紙が握られているのを知り、クリスさんが装備を整えながらに内容をうかがっている。だが、リディアさんは紙を見せようとしない。


 「大したことは書いてないんだ……」

 「ちょっとでも手がかりになりゃあいいぜ。見せてみろ」

 「いや……あの……」


 リディアさんの手から紙を抜き取り、クリスさんは文面へと視線を落とした。その内容が解るにしたがって彼女のまゆは下がっていき、最後まで読み終えたところで困惑ながらにアネットさんへ伝えた。


 「ああ……あの……なんっていうか。これ……探さない方がいいんじゃねぇかな?」

 「えー。ひどい!クリスって薄情なんだ!」

 「だって……ほら」


 置き手紙を受け取り、アネットさんも内容に目を通す。俺も気になって、彼女の肩に乗って手紙を読ませてもらった。見慣れない文字だが、不思議と意味は理解できた。ええと……。


 『エメリアです。リディアって一緒に寝ても、自分だけ満足して先に寝ちゃうし、反応も単調だし、あんまり楽しくありません。相性が悪いので、旅に出ます。探さないでください』


 「……」


 もっとこう……急な用事みたいなことが書いてあると思っていたのに、実際の内容は恋人間のもつれみたいなものだった訳で……読んだ俺の方が戸惑った。たしかに、これで捜索をして見つかったとしても、どうしよう気まずい……連れ帰っていいのかも疑問だ。


 「リディアちゃん……パジャマパーティするんなら、もっとちゃんとしたベッド買った方がいいよ?」


 「アネットは口をはさまなくていいから……おーい、みんなー。この手紙の内容なんだが」


 「ちが……ちがうんだ。これは……」


 騎士団や村のみんなへ事情を説明しに行こうとするクリスさんを呼び止め、リディアさんは顔を赤くしながらも弁明を図っている。


 「え……エメリアが、こんなこと書くはずがないんだ。おかしいんだ……」

 「なんで、そんなに……自分のテクに自信があるのか……」

 「そういう意味じゃなくて……」


 完全に彼女にフラれた人の扱いとなっており、捜索へ向かおうと動いていた人たちも手紙を読むと、ちょっと考え込む素振りで空を見上げていた。そこへ、リンちゃんがやってきてテントの入り口を開いた。


 「……エメリアさん、いなくなっちゃったの?どうして?」

 「まあ……自分探しの旅ってやつかな……」


 小さな女の子に事実を説明するはの酷と見て、なんか適当な感じにクリスさんがまとめてくれた。リディアさんの方も変に話が広がると恥ずかしいのか、構わなくていいとリンちゃんには告げている。


 「多分だが、すぐに戻ってくる。リンはお父さんの見送りに行くといい」

 「そうなんだ!お母さんがシチューを作ってるから、帰ってきたら食べようね!」


 純粋な笑顔をみんなに見せて、リンちゃんは家に帰っていった。これ……エメリアさんが帰って来なかったら、リンちゃんはぐずってしまうんじゃないかな。そしたら、リディアさんも都合が悪いだろう。ここにエメリアさんが帰ってくるかどうかは別として、やっぱり探した方がいいとは思う。


 「外を探してくる。もしもエメリアが戻ってきたら、私が村を出たことを伝えてくれ」

 「う……うん。がんばってくれ」


 ついていったとしても気まずくなると思ったのか、クリスさんや他の人たちは静かにリディアさんを見送った。でも、リディアさん1人で探しに行って、すぐに見つかるものだろうか。最悪の場合、魔物と出くわしてしまう恐れもある。いいのかなぁ……。


 「……あのね。ワンコロちゃん」

 「……?」


 装備を整えたアネットさんが、俺を抱き上げつつテントから顔を出した。クリスさんたちに気づかれないよう外へ出ると、心配半分、面白さ半分といった顔で伝える。


 「追いかけてみよっか」

 「……」


 俺もリディアさんが心配だけど、勝手な行動をとるとアネットさんが騎士団長に怒られてしまう。それもどうだろう……俺が悩んでいる内、村の入り口の方から話し声が聞こえてきた。


 「リディア。どこへ行くつもりだ」

 「エメリアを探しに行く……すぐに戻る」

 「1人で外を出歩くのは危険だ。やめておきなさい」


 あ……リディアさんが騎士団長に呼び止められている。こうなると、もう探しに行くどころではない。村から出してすらもらえないかもしれない。


 「しかし……それならば、エメリアだって危険だ……」

 「……では、私も一緒に行くから。少し待ちなさい」

 「お兄ちゃんは来なくていい……」


 なぜか、騎士団長も行く流れになっている。兄同伴で友達を探しにいくのは恥ずかしいのか、嫌そうな顔でリディアさんはお断りしている。

 

 「お前を1人で行かせるよりはマシだ」

 「お兄ちゃんがいると、エメリアと会っても気まずい……」

 「お前の保護者なのだから、気まずいことはないだろう。失礼な」


 あの2人、兄妹の間になると、それなりに素が出てしまうようだ。そうして口論すること5分、ふと騎士団長が俺たちに呼びかけてきた。


 「アネット隊員。出られるか?」

 「え?あ……はーい」


 結局、2人で森を歩くのはリディアさんに嫌がられた訳で、第三者を含めることで譲歩した模様だ。騎士団に一声かけてから、リディアさんと騎士団長、アネットさんと俺で村の門を出た。さて……どうやってエメリアさんを探そうか。


 「それで、リディア。どこへ行ったのか目星はついているのか?」

 「それは……きっと近くにいると思うのだが」

 「そういう無計画なところがよくない。だから、お前というやつは……」

 「あ……だんちょーさん。それなら、こうしたらどうかな?」


 このままではお説教が始まると見て、アネットさんが挙手ながらに騎士団長を静める。


 「ワンコロちゃんはオオカミだから、においで追いかけられるかも。お願いしてみよ?」

 「なるほど。アネット隊員は、うちの妹と違い優秀だ。リディアも見習うことだな」

 「……」


 心配する気持ちが余って、騎士団長は微妙に言葉選びがおかしい。これは早めにエメリアさんを見つけ出さないと、兄妹間の関係がこじれる気配……。


 「ワンコロちゃん。におい、解る?」

 「……」


 嗅覚スキルをオンにして、村の周辺の地面をかいでみた。いろんなにおいがするな。お酒っぽいにおいを探せば、きっとエメリアさんの行った先が……。


 「……」


 お酒のにおいはしないな。しいていえば、リディアさんからは少しするけど、彼女も昨日は少し飲んでいたから、まだ微妙にアルコールが残っているのだと思う。エメリアさんっぽいにおい……。


 「……!」


 そうか。エメリアさんが書いた手紙。それと同じにおいをさがせば……。


 「……」


 う~ん……エメリアさんのにおい。このホットミルクみたいな香りが、そうなんだろうけど……どちらの方角に続いているのかが全く解らない。そんな俺を3人は、期待の目で見守っている。


 「えっと……わかんない?」

 「……」


 アネットさんをガッカリはさせられない。そ……そうだ。においでなくても、マップを見れば人のいる場所が解る。俺は嗅覚で探すことを諦め、マップ機能を頼ることにした。こんな朝早くから、森の中をうろうろしている人が、そんなに何人もいるわけがない。これなら、すぐにエメリアさんも見つか……。


 「……」


 森の中。人のいる場所を示す緑色の丸印が、全部で5つも表示されていた。ご……5人もいるだと。なんてこった。

第29話へ続く

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