表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/978

第25話『診察』

 「……呼吸はあるみたいだな。アネット、誰か呼んで来い」

 「誰かって?」

 「まあ……誰でもいいけど、騎士団長を運べそうな人で頼む」


 騎士団長は背が高く、装備も重量がある。クリスさんとアネットさんだけでは運べないと見て、力のある人へ応援を頼もうと相談している。倒れた人の搬送に関しては俺も役に立てないし、余計なことをすると誰かに迷惑がかかりそうだから自重した……。


 「わ……私が手伝う」

 「妊婦の方は、ご自愛ください……」

 「私は妊婦ではない……リン、寝室を借りてもいいか?」

 「う……うん」


 勘違いしているクリスさんへ理由を説明し、リディアさんとエメリアさんで騎士団長の半身を持ち上げた。上半身を騎士団の2人が持ち上げる。リンちゃんの家には裏口があり、そこの扉を開いてリンちゃんがお母さんに声をかけている。


 「お母さん。お兄さんをベッドで休ませていい?」

 「お兄さん?ええと……えっ。ど……どうしたの?」

 「兄が眠ってしまっただけだ……大したことはない」

 「リディアさん……あなたも、どうしたの……」


 パッと見、運ばれている騎士団長より、お腹の大きなリディアさんとエメリアさんの方が深刻そうに思えるが……リンちゃんのお母さんもキノコの効果は知っているようで、すぐに状況を飲み込んでくれた。寝室のある部屋へ騎士団長を運び込み、ひとまず床に寝かせる。クリスさんが騎士団長の装備をガチャガチャと外していく。


 「無駄にベルトとチェーンが多い……これ、団長の趣味なのか?」

 「兄いわく、装備のゆるみは心のゆるみらしい……」

 「アネットも言われたことある。そういうとこ、だんちょーさんっぽいよね」


 騎士団長の座右の銘を明かしつつ、リディアさんも騎士団長の小手や胸当てなどを解除していく。協力して鎖かたびらを脱がせ、すっかり軽くなった騎士団長をベッドへと寝かせた。一仕事を終えて、クリスさんは寝室の戸口へと立った。


 「頭も打ってなかったし大丈夫だとは思うが……あとで俺が先生をつれてくっから。あんたら、この人を見ててくれ」


 「先生って誰ですか~?」


 「医療班のリーダーだ。まだ救助者の診察をしてるだろうが、終わったら顔を出すよう言っておく。アネットは料理の手伝いに戻っとけ」


 「りょーかい!」


 クリスさんの言う『先生』が誰なのか、質問したエメリアさんは解っていない様子だ。でも、恐らくは救助隊にいた頭のよさそうな男の人のことだろうと思う。リディアさんとエメリアさんが騎士団長を見ている役目となり、アネットさんは先程の調理作業へと戻るよう告げられた。


 「……」


 アネットさんは俺を持ち上げて、クリスさんと一緒に部屋を出ていく。その後……何か思い返したようにアネットさんが寝室へと戻り、俺をリンちゃんに差し出した。


 「何かあったらワンコロちゃん隊員に言って、アネットを呼んでちょーだい」

 「いいの?」

 「うん」

 

 アネットさんを呼びに行くという仕事を与えられ、俺は寝室へ残ることとなった。ついでにリンちゃんから地下水のくみ上げ機の使い方を教えてもらい、アネットさんは料理の手伝いをすべくして家から出て行った。


 「……」


 お腹の重たげな2人は、それぞれ小さなイスに座っている。リンちゃんは俺を抱きしめたまま、ベッドの端に腰掛けて騎士団長の顔をのぞいていた。魔人の巣に潜入しても意識を保っていた程の人が、妹さんの大きなお腹を目にして気絶してしまうとは……よほどショックだったのだと見られる。


 「リディア……この人、起きたら怒りますよね~?」

 「それは……私が説明するから……」


 そう言って、リディアさんは自分のお腹をさすっている。またお腹は大きくなったようで、シャツのすそから丸い下腹がのぞいている。そうして黙り込んでいる2人へ、リンちゃんがおどおどと頭を下げた。


 「ごめんなさい……私がキノコを焼いちゃったせいで」 

 「リンのせいじゃない。ワンコのせいでもないから、気にしなくていい」

 「……でもさ~。リディアは食べなくてよかったよね?」

 「エメリアだけに恥ずかしい思いはさせたくないから……」

 「……リディア」


 エメリアさんはイスをリディアさんの隣に移動させると、嬉しそうな顔で彼女の肩に寄りかかった。そんなエメリアさんも、お腹はリディアさんと同様に大きく膨らんでいる。体調に問題が出てはいないかと、リディアさんはエメリアさんを心配している。


 「お腹は重くないか?」

 「まぁ……なんにも入ってないので重くはないです。動きにくいですけど……」

 「リン……たしか、体に悪くはないんだったな」

 「悪くはないし、ちょっとお腹にいいよ」


 毒キノコであれば、わざわざカゴに入れて持ち帰らないだろうし、村の男の人も無害だとは言っていた記憶がある。丸い石をお腹に抱えて歩くよりは、いくぶんかツラくないのかも解らない。


 「……?」


 ドアをノックする音が聞こえ、リンちゃんが俺を抱えたままドアを開きに向かう。部屋の外に立っていたのは……お医者さんの先生であった。


 「失礼します。騎士団長が倒れたと聞きまして……」

 「あなたが、お医者さん?」

 「そうだよ。入ってもいいかな?」


 白衣を着た男の人はリンちゃんに断って、寝室へと足をふみ入れた。お腹の大きなリディアさん達を一瞥するも、特に驚いたりすることなくベッドの横に座り込む。


 「ちょっと失礼……」


 お医者さんは騎士団長の頭を持ち上げ、後頭部をのぞいてみたり、まぶたを指で開いてみたりしている。口を開き、のどの様子も確認している。


 「……結構、瘴気を吸い込んでいるな。ノドが荒れている」

 「瘴気……兄は無事なのですか?」

 「この人、単独で魔人の巣に入っていったからね。普通は無事ではないが……騎士団長だから」

 「え……1人で?」


 ……そうか。リディアさんは、まだ救出作戦の概要を知らないのか。俺も一緒に潜入はしたけど、俺は人間じゃないから、騎士団長が1人で入ったという事実は揺るがない。むしろ、近くで目の当たりとした俺からしても、なんで騎士団長が無事だったのか解らない程度には、あそこは悪環境だったと認識している。特に臭いがヤバかった……。

 

 「ルクロームさん。きっと体調も限界だったのだろう。みんなに心配をかけぬようにと辛抱していた矢先、突然のショックに耐えきれなかったのではないかと」


 「兄は……何か後遺症などは……」


 「それは、大丈夫ですね。心労です。じきに目覚めます」


 何も問題はないと気楽に告げ、先生は騎士団長の首をゴキッと鳴らして見せた。騎士団長の診断を済ませ、ついでに先生はリディアさん達の身体についても尋ねている。


 「それ、ふくろダケ?」

 「あ……はい」

 「あれは、帝国では販売禁止の代物でね。検閲に引っかかるから持って行っちゃダメだよ」

 「そうなの?なんで~?」

 「これを食べて、恋仲の男の人に会いに行く事案が横行しまして……」


 さすがお医者さんだ。キノコにも詳しい。リンちゃんは意味を理解していないといった面持ちだが、リディアさんとエメリアさんは合点がいったようである。つまるところ、妊娠したと偽って男の人に迫れば、責任を取って結婚しないといけない可能性がある……といったところだろうか。引き続き、先生は2人にキノコの効能を説明している。


 「お腹は、もうちょっと大きくなると思う。胸も張るかも。明日の昼前には元に戻るけど」

 「そうなんですか……」

 「どのくらい摂取したの?」

 「1人、1本……」

 「1本?」


 食べた量を聞き返され、リディアさんが恥ずかしそうにうつむいている。驚いたといった顔で、先生がリンちゃんを見ている。どことなく空気を読んだのか、リンちゃんは俺をベッドに置いて部屋を出て行き、ふくろダケを手にして戻ってきた。


 「これだけど」

 「絵では見た事あったけど、実物は初めて見た!へぇー、こんななんだ!」


 先生も初めて見たらしい……レアなアイテムなのかな。ややテンションが上がっている。


 「もらっていいかい?」

 「いいよ!」


 そして、先生……キノコを懐に入れた。持ち帰るの?そう疑問に思っていたところ、先生は言い訳を残してくれた。


 「乾燥させて粉にすれば、お腹の膨らむ効果が消えて、食あたりの薬になるんだ。加工すれば帝国内にも持ち帰れるからね」


 「へぇ~」


 先生は男の人だから妊娠詐欺もできないだろうし、本当に薬にするのが目的なのだろう。収穫を得たところで、キノコの摂取量の話へと戻した。


 「しかし、1本分も食べたら、かなり多いな……」

 「もしかして……私たち、死んじゃったりしますか~?」

 「……いやいや。そうじゃない。体に害はないよ。でも……うん」


 先生の重たげな口ぶりを受け、エメリアさんが珍しく青ざめている。じゃあ、何が問題なのか。先生は思い出し思い出しながらに、ふくろダケを大量に摂取した場合の効果を述べた。

  

 「お腹は元に戻るが……」

 「……」

 「胸が元の大きさより、1・2倍から1・5倍くらい大きくなる可能性がある……」

 「ええ……」

 「ええ……」


 意外な事実を言い渡され、2人は戸惑いの声をあげている。先生は仕事を終えると、騎士団長に毛布をかけて立ち上がった。


 「騎士団長が起きたら、誰かに声をかけてくれれば回収にくるから。よろしく」


 丁寧な検診を成し遂げ、先生は寝室をあとにした。俺も含めた部屋にいる全員が、口を開いたまま寝ている騎士団長を見つめる。それから、大きなお腹に乗っているエメリアさんとリディアさんの胸へ、すっと視線を移した。


 「リディア……私、これ以上いらないんですけど……」

 「私も体にあう装備がない場合、よろい剣士から転職せねばならないかもしれない……」


 地球にいた頃の俺は男だったから、胸の話は解らないけど……例えば、『明日、身長が30センチ伸びます』と宣告された感じに近いのだろうか。身長160センチだった俺でも190センチになる訳で、しかも2人は元から胸が大きい……これは絶対に困る。


 「……わん」

 「なに?ワンコロちゃん」


 胸を小さくできそうなキノコはないのかと、ダメもとでリンちゃんに聞いてみた。


 「……いや、小さくするのはないと思うよ?」

 「わん……」


 意外と言葉が伝わった上、もうどうしようもないことが発覚した……ごめんなさい。リディアさん。エメリアさん。俺には何もできそうにありません……。


第27話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 緑のきのこ、ほしい。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ