表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/978

第186話『救助』


 「もう、あの人……自力で帰ったんじゃないですか~?」

 「でも、手錠のカギは、エメリアが持っているのだろう?」

 「あんなのはオモチャなので、ひっぱれば簡単に壊れますよ」


 消えた女の人の行方について考えている中で、エメリアさんが考えを述べている。リディアさんの指摘通り、エメリアさんは手錠のカギを指先でいじっているのだが、そもそも手錠の耐久性的に見て、壊すも外すも容易な事ではあるらしい。それを見抜いて去ったとなれば、帰った線もありえるっちゃありえる。


 「そもそも……お前、なんで手錠なんて持ち歩いていたんだ?」


 「リディアを縛って好き放題するのが……私の夢なんです。この旅が終わったら、成功報酬として請求したいと考えてます」


 「事前に承諾を得ていない報酬は無効だぞ」


 エメリアさんはお酒も持ってきていたし、ここまでの道のりに関しても旅行感覚だったのかもしれない。それか、この旅で大事があった際に思い残すことがないよう、精一杯に今を楽しんでいるのか……それは俺には解らない。まあ、俺だって出発する前は、もっとこう……危険な旅を想像していたしな。


 「それか……エメリア。においで追えたりできないのか?」

 「人を魔獣みたいに……そこまで器用じゃありません」


 エメリアさんの嗅覚は水のにおいが解るレベルなので、人のにおいも追えそうなものだが……本人ができないというのであればできないのだろう。


 それはともかく、これは俺の直感なのだけど……あの女の人をこのまま放っておいては危険な気がする。こちらに不都合が生じるという意味ではなく、あの人自身がケガをするのではないかという不安だ。早く見つけてあげた方がいいように思える。


 「……」


 スキルを用いてマップを開いて見たところ、聖獣がいるであろう湖の近くに1つ、人間の居場所を示すマークが確認できた。ここより他には人のいる場所は近くにないから、ここに例の女の人がいると見て間違いなさそうだ。


 「……」


 どうにかして、リディアさん達を湖の方に誘導できないだろうか……そうだ。体を光らせれば、みんなを誘導できるかもしれない。でも、ここは陽が差していて明るいからな。気づいてくれるかな。


 「きゃ!」

 「お嬢様。どうされました?」

 「いや……また石が」


 発光のスキルを使用したと同時に体が動いてしまい、リディアさんの胸が俺の下で重そうに揺れた。やっぱり、ここだと俺の光は日光に隠れてしまって目立たない。かといって、あまり動くと迷惑になりそうだし……そう考えていたところ、金色のネココが再び道案内を開始した。


 「ミミミ!」

 「あちらへ行ったのだろうか。追いかけよう」


 リディアさんがネココに気づき、追跡を開始してくれた。どうやらネココは女の人が聖獣の住処に近づいているのを知り、リディアさん達になんとかしてもらおうと走り始めたようだ。なんにせよ、これで女の人が危うい行動を取っていたとしても、みんなが止めてくれるはずだ。よかった……。


 「さっきリディア、可愛い悲鳴をあげてましたけど、どうしたんですか?」

 「いや、ちょっと……この石が震えただけだ……」

 「勝手に震える石なんですか?今度、ちょっと貸してください」

 「何に使うつもりなんだ……それによってはお断りする」


 自動的に震える石と聞き、エメリアさんが強い興味を示している。具体的な使い道は解らないが、なんとなく……いやらしいことに使われそうな予感。それはやめていただきたい……。


 「……もうちょっとで湖に着く」


 ここまで来れば迷わないとばかり、メフィストさんが地図をしまい込んだ。木々の向こうに水の色が見えてくる。あそこは……湖だ。森から抜け出したと同時に、喉を切り付けたような大声が聞こえてきた。


 「聖獣!いるんでしょ!出てきてよ!」

 「……!?」


 この声は……あの女の人のものだ。彼女は包帯だらけの姿で湖畔に座り込み、海のように広い湖へと大声で叫んでいた。手錠はされていても指は使える為、口元に巻かれていた包帯も自分で外したみたいだな……。


 「出てきてよ!私の話を聞いて!」

 「ミミミ!」

 

 やや怖がるようにして身を震わせ、ネココがリディアさんへと視線を向けている。とはいえ、リディアさんだって、あんな悲痛な声で叫んでいる人物へ接触するには勇気がいるのだろう。やや足をすくませて、シロガネさん達と顔を見合わせていた。


 「あの人は……とめた方がいいのか?」

 「ですが……お嬢様が聖女であるのならば、あの者に聖獣は呼び出せないのでは?」

 「う~ん……」


 シロガネさんとしては放っておいても問題ないと考えているらしい。まあ、あの調子ならば喉も長くは持たないだろうし、聖獣が出てこないことに絶望して身投げしないよう見張っておけば、事態は勝手に収拾しそうな気もする……。


 「……?」


 静かに揺れていた湖面が波打ち始め、次第に大きく盛り上がりを見せ始めた。そして、リディアさん達の立ち位置まで届くほどの水しぶきを上げ、遠くの山々を隠すくらいの巨大なヘビさんがヌッと顔を出した。


 「……」

 「……」


 呼んだら本当に聖獣が出てきてしまい、女の人は軽くのけぞったまま絶句している。ヘビさんの顔から表情は読み取れないが、目の前の女の人を観察している様子だ。その後、ギロリと光る丸い目をリディアさんへと向けてくる。ヘビさんの視線が外れてようやく、女の人がカラカラになった声をふり絞った。


 「あ……あなたが聖獣ね。私、聖女。私の言うことを……」

 「……シュー!」

 「ぎゃああぁ!」


 女の人が自身を聖女と申し立て、ヘビさんへと何か伝えようとする。だが、そんな言葉には聞く耳も持たず、ヘビさんは長い舌をしゅっと延ばし、目の前にいる女の人を転ばせてしまった。


 「……大丈夫ですか!」

 「あああ……」


 女の人は倒れたまま体を震わせている。すぐにリディアさんが駆け寄るが、自分で立ち上がるのは難しいようで、小刻みに声を発しながら身をもだえさせていた。ヘビさんはリディアさん達に構わず、湖の中へと戻っていってしまう。


 「と……とにかく、この人を助けましょう。シロガネさん、応急処置をお願いします」

 「はいですわ!」


 まずは女の人の救助が第一だと判断したようで、リディアさんはシロガネさんと協力して女の人を湖から遠ざける。ヘビさんの方はメフィストさんが気にかけてくれているが、もう湖の底へともぐっていってしまったようで、湖面は余韻を残すようにして大きく揺れていた。


 「あなた。息はしておりますか?」

 「う……ううん」

 「痛みはございますか?」


 草むらへと女の人を寝かせる。シロガネさんは女の人の体についている包帯や手錠などを全て外し、声をかけながら体を触り始めた。弱々しくも声は出ているし、息はしていると思われる。ただ、体のしびれだけは一向に取れる気配がなく、女の人は横たわったまま起き上がれずにいた。


 「全身がマヒしている状態ではございますが……命に危険はございませんわ。そこの、あなた。すぐにテントを張ってくださいまし」


 「あ……はいはい~」


 救助の様子を眺めていたエメリアさんが、シロガネさんに言われてテントを取り出す。女の人は体がしびれている様子ではあるが、死に至るほどではないらしい。それを知り、リディアさんも安心して女の人の近くへとしゃがみこんだ。

 

 「お嬢様。よろしければ、そちらのネックレスをお借りしたく」


 「これですか?」


 「そちらの石は、かなり多くの体調不良に効果が期待できます。こちらの方が回復されるまで、お貸しいただければと」


 俺を装備しておけば回復を早められると聞き、リディアさんが俺を首から取り外した。そして、俺は女の人の手へと収められる。すると、やや体の震えが小さくなったように感じられる。


 「……ネックレスを外したら、急に体が寒いな」

 「コートがございます。こちらを」


 シロガネさんは速やかにコートを取り出し、リディアさんの肩にかけてあげている。やはり俺を装備から外すと、体の抵抗力が格段に落ちるらしい。オリハルコンってスゴイな。まあ、俺の自画自賛みたいになっちゃうんだけど……別に努力してつかんだ力でもない。何の自慢にもならないことである。


 「その人……死んだ?」

 「あ……いえ、まったく問題ないらしいです」


 リディアさんがメフィストさんへと生存報告をしている。ひとまずヘビさんが襲ってくる心配はなさそうと見てか、メフィストさんがテントの組み立てを手伝い始めた。エメリアさん1人だと全くはかどらなかったテント張りが、メフィストさんの手にかかるとあっという間である。


 女の人をテントへと運び込み、リディアさん達3人はテントの外へ出る。シロガネさんが看病を続けること10分、やっと女の人は目を開いた。


 「……うう」

 「あなた。目は見えますの?」

 「……はっ!」


 女の人はシロガネさんの顔を見て飛び起き、その拍子に俺をテントの床へと落としてしまう。


 「な……なに?なによ。あなた」

 「その様子であれば、問題はなさそうですわね。そちら、お嬢様の宝物でございます。返却ください」


 そう言って、テントの床に落ちた俺をシロガネさんは拾い上げる。そして、2人きりになれたところで改めて、シロガネさんが先程の件について尋問を開始した。


 「あなた。自らを聖女と称しておりましたわね。ご説明、いただけます?」

 「し……知らない」


 女の人がテントから出ようとするも、シロガネさんは逃がすまいと体を動かし、テントの出口をふさいでしまう。やや顔を赤らめてうつむいてしまい、女の人は何も話そうとはしない。


 「……やはり、語ってはいただけませんか」

 「……」

 「では、仕方がありませんわね……そこのあなた、お入りなさい」

 「……?」


 シロガネさんがテントから顔を出し、外にいる誰かを呼んでいる。数秒後、エメリアさんがテントの中へと入ってきた。


 「なんですか?」

 「抵抗せずにお話をいただければ、手荒な真似は慎みましたのに。やむを得ません」


 さっき外した手錠をエメリアさんへ返し、シロガネさんは背中を叩いて送り出した。


 「拷問を許可いたしますわ」

 「ラジャ!」

 「ええ……拷問!?いやあぁぁ!」


 この後、シロガネさん監修のもと、安全かつ丁寧に、軽度の拷問が行われた……。

第187話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ