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第176話『一休み』


 「これでよし!」


 地中に雑草を全て放り込み、しっかりと土をかけて穴を埋め直す。親分が体重をかけて地面を踏み固め、これにて雑草の駆除作業は完了となった。


 「リン、ジェム。何を見とるんだ?」


 リンちゃんとジェムちゃんが盗賊団を監視している姿に気づき、村のおじいさんが2人に声をかけている。作業を終えた盗賊団の人たちも、こちらへとやってきて会話に参加する。


 「おおい!雑草を埋めといたぞ。ん……どうしたよ。子どもたち」

 「親分さん!親分さんって、フローラさんが好きなの?!」

 「……ッ!」


 リンちゃんの質問が非常に率直だった為、親分は気圧されたようにのけぞっている。子分の2人は何も言うまいとして、親分の反応をそっと見守っている。


 「オレサマは……フローラさんが、好きなんじゃねぇやい!」


 「じゃあ、キライなの?」


 「あのね、お嬢ちゃん。オレサマちゃんはなぁ!清楚で物腰が柔らかくて……ロングヘアで優しそうでスレンダーで美人なら、誰でも好きなんだい!」


 「じゃあ、フローラさんだ!」


 まあ、そこまで好みが合致しているならば、ほぼフローラさんが好きと同意義である。線の細い女性が好きだとすると、親分はリディアさんたちを見かけても、全くときめかなさそう。リディアさんやエメリアさんほどではないししろ、シロガネさんも結構、体型にメリハリあるし……。


 「あの……親分さん!」

 「な……なんだ。少し大きめのお嬢ちゃん」


 フローラさんが好きなのだと確証が得られたところで、ジェムちゃんが両手をグッと胸の前で構えて申し出た。


 「フローラさんは、帝国に片思いの相手がいるの!」

 「な……なにぃ!?だが、あんな美人を放っておくたぁ……下らねぇ男に違いない!」

 「それが……若くして、帝国騎士団所属のお医者さんなの」

 「な……なにぃ!」


 うん。公務員でお医者さんで頭もよさそうで……なにより、既婚者なのである。ただ、そこまでの情報はジェムちゃんもフローラさんから聞いていないらしく、特には言及されない。そして……親分は一切の勝ち目が見いだせず、ただただ愕然としている。


 「でげすが、親分。そんなモテにモテそうなやつが、そこらの村娘に振り向くとは……」

 「て……てめぇ!フローラさんをただの田舎の村娘みたいに……ちっくしょー!」

 「親分!どこ行くでやんすか!」


 卵っぽい体型の人がフォローしようとするが、今の親分には逆効果だったらしい。親分は涙ながらに駆け出し、俺につまづいて転んだ。こんなところにいて、すみません……親分さん。


 「……ちっくしょー!」

 

 親分は服についた土もはらわず、村の門を通って外へと走り去ってしまう。犬っぽい子分の人が親分を追いかけていく。卵っぽい人は親分を気づかってか、どっしりと腕を組んで、その後ろ姿を見送っていた。親分のことをかわいそうに思ったようで、おじいさんはジェムちゃんに優しく言い聞かせている。


 「ジェム。フローラさんが、お医者さんとお付き合いできるとも限らんのだよ」


 「でも、フローラさんは私のお姉さんみたいな人だから、好きな人を見ていてほしかったし。親分さんも後で知って傷つくよりいいと思って……」

 

 そこまで大きな村でもない訳で、ジェムちゃんとフローラさんは血のつながりはないとはいえ、姉妹同然に育ったのだろうと思われる。それで……必要以上に入れ込んじゃったんだろうなぁ。様々な思惑が絡み合い、フローラさんのいないところで、話は微妙にこじれた……。


 「でげすが……これでよかったんでげす。親分は、こんなところで一生を終えていい男ではないのでげす」


 「そうなの?」


 「親分は……世界一の盗賊になると豪語する男でげす」


 卵っぽい体型の人が物知り顔で、親分の夢について語ってくれている。それを聞いたリンちゃんは卵体型さんのマネをして両腕を胸の前で組みつつ、もうちょっと詳しく聞きたいといった様子で質問している。


 「親分は……何をしたら、世界一の盗賊になれるの?」

 「……それは知らんでやんす」


 明確な夢があるようで、それでいて漠然としていた。なんにせよ、世界一の盗賊になったとしても、それが職業として認められるかは謎……いや、聖女が職業なのであれば、盗賊もれっきとした職業になりえるのだろうか。港町では海賊の存在が認められていたし、この世界で一番の盗賊とあれば、それなりに名誉あるのかもしれない。


 「話はおしまいだ。親分さんは悪い人ではないのだろうが、まだ知り合って間もない。お互いのことが解ってくれば、自然と答えは出るだろう。ささ、みんなでおやつを食べよう」


 おじいさんが話を締め、みんなはおまんじゅうを食べに家へと戻っていった。親分に精神的ダメージは入ったものの、それ以外は問題もなく、この場は収集がついた様子だ。


 「……」


 みんなでおやつか……人間っていいな。などと考えながらリンちゃんの家の前へ戻ったら、祭壇のような場所におまんじゅうが置かれていた。忘れずに俺にもくれたようである。食べることはできないんだけど……ありがとう。置いてくれた村の誰か。


 俺はリンちゃんの家の照明としての役割を果たすべく、家の前にある大きめの体を光らせた。村から駆け出していった親分の様子を見に行こうかとも思ったが、ひどく落ち込んでいたら見るに耐えかねない。止めておこう……。


 「……」


 それから10分くらい経った頃、親分さんが犬っぽい子分の人と一緒に村へと戻ってきた。リンちゃんの家の前にある水のくみ上げ機を動かして手や顔を洗い、親分さんは決意を表明した。


 「……明日、村を出るぞ」


 「へえ!ですけど、フローラさんは……いいんすか?」


 「オレサマは盗賊だぞ?一緒にいたら、フローラさんを危険にさらす。好きな子には、幸せになってほしいじゃねぇか……なぁ?」


 「親分……」


 村の外で悩んだ結果、フローラさんを諦めるという答えにいきついたらしい。といっても、盗賊団は指名手配されているふうでもないから、一緒にいても何も問題はなさそうだが……どうでしょうか。なんにせよ、思いやりは感じられる。


 「あっ……親分さん」

 「ああ……フローラさん!?」


 おまんじゅうを持って、フローラさんが親分さんの元へとやってきた。先程のお話は耳に入っていないようで、いつも通りの笑顔で盗賊団の2人へとおやつを渡す。


 「草むしりの件、ありがとうございました。これ、私も手伝って作ったので、召し上がってください」


 それだけ言って、フローラさんは民家の中へと戻っていく。そんな彼女の背中を見送って、親分と子分の2人はおまんじゅうへかじりついた。


 「……しょっぺえなあ」

 「へぇ。そうっすか?甘いっすけどね」


 あんこっぽいものが入っていて、おやつは甘そうなのだけど……親分だけは、しょっぱそうな顔で口に入れていた。なんだか見ていたら可哀そうになってきたので、そろそろ俺もリディアさん達のところへ戻ろう。


 『現在地:リュウモン樹海』


 リディアさんの胸に下げてある石へと意識を転送する。まだピィさんは森を抜けていないようで、洞窟を前にして今は休憩をとっていると見える。リディアさん達は……ピンク色をしたトカゲみたいな生き物と対峙している。


 「ぎゃば!」

 「……リディア!この魔獣、ドラゴンじゃないですか?」

 「……トカゲじゃないか?」


 エメリアさんはドラゴンと呼ぶが、魔獣の体長は小型犬くらいである。他の魔獣たちに違わず、このトカゲさんもリディアさん達を襲う素振りは見せない。口を大きく開いて、折れた木の枝を一生懸命にかじっている。


 「ぎゃば!」

 「枝が黒くなっている」


 トカゲさんがかじった枝は黒くなっていて、それをリディアさんがしゃがみこんで観察している。唾液がついて黒くなった……という感じじゃないな。焦げて黒ずんだように見える。トカゲさんは黒い枝を地面に置き、ふーふーと息を吹きかけている。


 「……おお。火がついたぞ」


 ふっと強く息を吐いた。燃え盛る……とはいかないまでも、種火として使えそうな程度の火が枝の先に灯る。そんな小さな火を守るようにして、トカゲさんは自分の体で輪を作って囲んだ。体を温めているのだろうか。


 「……これ、たき火にできるんじゃないですか?」

 「……?」


 エメリアさんは近くに落ちている枝を折って、トカゲさんが体で囲っている弱い火へくべる。次第に枝からは煙が上がり、少しだけ火が大きくなった。この大きさの火なら風よけも必要ないと見て、トカゲさんは丸めていた体を伸ばした。


 「このくらいでいいかな……」


 リディアさんも何本か枝を追加し、ちょっとした料理ができそうなくらいのたき火が出来上がった。適当な石に腰掛けて、みんなで火にあたる。ピィさんも起きる様子は全くないし、しばらくはゆっくりできそうと見て、リディアさんは携帯食料を口に入れた。


 「……」


 トカゲさんはたき火のすぐ横によりそって、今にも体に燃え移りそうな距離で火にあたっている。呼吸と共に火が口の中へと吸い込まれており、炎を食べているようにも見える。


 「火って美味しいんですか?」

 「味はともかく、マネはしない方がいいと思うぞ……」


 トカゲさんの仕草を見て、すかさずエメリアさんが食べられるか否かと話題を出す。さすがに実践はしないとは思われるが、リディアさんが念のために注意だけはしてくれている。


 「お嬢様。本日の移動は、ここまでなのではないかと」

 「……そうかもしれませんね」


 シロガネさんが予想を告げる。ここは陽の光が入る程度には明るいし、ピィさんも目を閉じて眠りに入っている。それに、このトカゲさんも、リディアさん達を温めようとして、火をつけてくれたようにも思える。ここで、今日は野宿するつもりなのかもしれないな。


 「あの中、見てくる」

 「気をつけて、行ってきてください」


 近くにある洞窟が気になったようで、メフィストさんがリディアさんへ断りを入れつつ腰を上げた。あとの3人は揺れる火を見つめたり、トカゲさんを観察したり、ゆったりとした時間を過ごしている。たき火って見てると、なんだか心が落ち着くな。


 「……結局、この子はトカゲなんですか?ドラゴンなんですか?」

 「……」


 まだエメリアさんは、目の前の魔獣の分類を探っていた。リディアさんも答えが出せず、無言でトカゲっぽい魔獣を観察している。俺としてはトカゲかドラゴンかより、火を食べているという行為の方が不思議でならないが……それはともかく、エメリアさんの疑問を受けて、シロガネさんが小さく挙手して見せた。


 「ワタクシ、以前……本で見かけましたのですが」

 「……?」

 「耳が頭の上の方にあるとドラゴン。横にあるとトカゲ……とのことですわ」

 「……」


 分類としては、そういった見分け方をしている人もいるらしい。そんな話を聞いて、リディアさんとエメリアさんは、火にあたっている魔獣の頭に注目した。


 「……」


 ……。


 「……耳?」

 「……シロガネちゃん。どれが耳ですか?」

 

 見分け方はともかくとして……その前提である耳、らしきものが見つけられなかったようだ。世界には、まだまだ解らないことがたくさんある。


第177話へ続く

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