表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/978

第125話『頼み事』


 「こうして見ると、まくらや布団の素材にも、色々とあるんだな……」


 黄金マクラを買おうか迷っているルビィさんはさておいて、リディアさんは他の商品の物色を始めた。店にはベッドと見間違うくらいの大きいマクラや、ワンちゃんが寝る程度の小さいベッドもある。様々な人種が暮らしている街だからして、寝具のラインナップも幅が広い。


 「……」


 店の壁際の方に、たくさん箱が並んでいる場所がある。その箱の中にはワタみたいなものが詰め込まれており、箱には手のマークも描かれているからして、素材の触り心地を試すための箱なのだと思われる。箱ごとに、中に入っている素材も違っているようだな。


 「リディア。これ、いいですよ」 

 「……?」


 エメリアさんが手を入れている箱の中には、茶色くて細かい粒が大量に入っている。箱には『豆殻』と書かれているな。ああ……あれか。もみがらマクラとか、そばがらマクラみたいな感じの寝具に使われるものだろうな。寝心地はいいのだけども、マクラに穴が開くと、こぼれて大変なことになるやつだ。


 「植物の殻で作ったマクラか。においもいいな」

 「欲しいです……」

 「お前、寝てる時にマクラをかむ癖あるだろう……やめておいた方がいいぞ」


 いつも一緒に寝ているだけあって、リディアさんはエメリアさんの睡眠中の癖まで熟知している。まくらの素材は豆殻の他にも、千切った紙をまとめたものや、干し草を縛ったものなどなど、形や色も多種にわたる。ここは異世界ということもあって、さすがに低反発やスポンジみたいなものはないな。


 「……?」


 そんな手触り体験コーナーの一番端にはガラスケースが置かれており、オレンジ色をした羽が中に1枚だけ入っている。羽はキラキラと輝いていて、光の反射に黄金色が映り込むほどのまばゆさだ。他の素材とは違って触れないようになっているけど、これもマクラや布団に使われるものなのだろうか。箱に書いてある素材の名前は……。


 『黄金鳥の羽』


 黄金鳥か。その名前からして、宝物みたいに美しい鳥であることは想像に容易い。そして、お値段もお察しの通りである。1……10……100……1000……桁は万を遥かに超えて、金額がスゴイことになっている。珍しいものを見つけたとばかり、ルビィさんがしゃがみこんで羽を観察している。


 「おお!金色をまといし、豪華絢爛なる羽!」

 「ルビィさんは、これで作った寝具も持っているのですか?」

 「え?め……滅相もない!私の家の財産をはたいても、まくらが1つ買える程度です」


 ルビィさんの家はお金持ちのようだけども、さすがに黄金鳥の羽で作られた寝具は持っていないのだと言う。お店にも羽の一枚が飾られているだけで、完成品は1つも置かれていない。盗まれでもしたら大変だから、注文を受けてから製作が開始されるものだと考えられる。


 「ですが……いずれは我が手中に!このような極上の寝具に身を預ければ、ほんの10秒で眠りに落ちることは必然!」


 「これは確かにいいものだが、今の私では手の届かないものだ……こんなに高いものだったとは知らなかったな」

 

 含みのある言い方をしているあたり、リディアさんの実家には黄金鳥の寝具があったのかもしれない。まあ……たとえ今、大量にお金があったとしても、発注したマクラが完成するより先に、メフィストさんの方が自然治癒するような気もする。他の方法を探した方が、金銭的な面で見ても現実的かな。


 「……なにやら、いい香りがするな」

 「んん。美しき芳香は、悪夢をはらい聖夜に染める……お線香です」


 リディアさんが、店内のにおいに気づく。お店の奥の方が、やや白くもやがかかっている。火事……じゃないみたいだな。ルビィさんの詠唱から察するに、線香がたかれているのだと考えられる。俺も嗅覚スキルをオンにして、お線香の香りを少しだけいただいてみた。


 「……」


 果物……桃に似た、淡い香りが店内を漂っている。煙の出どころは金属製の皿の上で、短い線香にポツリと火が灯っているのが見えた。あれだけ短かったら、けむたくなる前に自然と消えてしまうだろう。この香りに包まれて眠れば、いい夢を見られるような予感はするな。


 「これは……結構、安いな。買ってみるか」

 「あら、お客様。どちらか、お試しになりますか?」

 「あ……では、よく眠れる香りのものを、おすすめで」


 線香の他にも、キャンドル風のものなどもズラリと並んでいる。色々と種類はあれど、どれもお値段は一律で2ジュエルだ。たくさんあって目移りしてしまったようで、リディアさんは店員さんのオススメを教えてもらうべく、適当なものを1つたいてもらおうとお願いしている。店員さんが選んだのは……深い緑色をしたロウソクであった。


 「キレイですね。私、それ買います」

 「お前、本当に緑色のもの好きだよな」

 「緑色のものを見てると目がよくなるって、父ちゃんが言ってました」


 香りを楽しむより先に、見た目を重視してエメリアさんが購入を決めている。なお、その香りは……あれだな。和室に敷かれた畳っぽい香り。俺は割と好きである。これはエメリアさんが買うとして、リディアさんもお線香を1つ手に取っている。


 「受け皿と線香とロウソク……あわせて、6ジュエルでございます」

 「エメリア。2ジュエル出してくれ」

 「はい~」


 金属製の受け皿と、エメリアさんのロウソクもあわせてお会計。マクラや布団ではなく、香りで寝心地をよくするというのは盲点であった。メフィストさんの香りの好みは解らないが、なんにせよ収穫はあってよかった。店を出る際に再び、10秒で眠れるという黄金のマクラを触ったりした後、3人は寝具店をあとにして街道へと出た。


 「んふふ……リディアが部屋に来たら、このキャンドルを使いますよ~」

 「いつも冷やかしているようだから、あの拷問器具店でも、たまには何か買うんだぞ」

 「あそこ、なんか全体的に高いんですよね~」


 エメリアさんは拷問器具店では何も買わないが、買い物自体は好きなようで、ロウソクの入った紙袋をのぞき込みながら嬉しそうに歩いている。一方、リディアさんは夕食の献立などを考えているようで、商店街の店先に並んでいる食品の良し悪しを見極めている。そんなリディアさんの後ろの方で、ルビィさんがエメリアさんに話しかけているのが聞こえる。


 「エメリアさん!これでメフィストさんの魔法が緩和されるといいですね!」

 「うん。でも、これより……」

 「……なんと!それは一体?」


 ルビィさんとエメリアさんが気になる会話をしているのだが、こそこそ話の内容までは俺も聞き取ることができなかった。なんの話をしているのだろう……。


 「……あの!リディアさん!」

 「……?」


 豆らしきものを購入して店を出たリディアさんの元へ、とことことルビィさんが歩いてきた。上目遣いの目をうるうるさせ、何か言いたげな様子ではあるのだけど……いまいち踏ん切りがつかないといった様子で口をつぐんでいる。


 「ええと……ルビィさん。どうかしましたか?」


 「あ……いえ!ああっ……あの!リディアさんて……キレイですけど、普段からケアとかしてるんですか?」


 そういうルビィさんも十分に美少女だとは思うのだけど、リディアさんほど見た目に非の打ち所がない人は、街でも滅多に見かけない。リディアさんは女の人としては背は高そうだし、髪も川の水みたいに艶やかだ。その美容の秘訣を聞きたくて、ルビィさんは声をかけたのだろうか。

 

 「大したことは……強いて言えば、水は多く摂るようにはしています。あとは、十分な睡眠と……偏りのない食事くらいで」


 「そ……それだけ?」


 「この体型に関しては……まあ、おかしなものを食べたせいもあるので、あまり追求しないでください……」


 リンちゃんの家で変なキノコを食べた為に、胸が大きくなってしまったんだったな。ある意味では、あれもリディアさんにとっては、何かしらのターニングポイントだったのかもしれない。ちなみに、ルビィさんは背こそ高くはないのだけど、胸は割と大きい印象である。腰のあたりをバンドみたいなものでしばっているから、なおさらそう見えるのかもしれない。


 「では、化粧品とかは……」


 「王族や貴族主催の祝宴などへ出る際は、シロガネさんにメイクしてもらっていましたが、冒険者になってからは特には……」


 「すっぴん!」


 俺はリディアさんと肌身離さず一緒だけど、そういや……お化粧をしているところは見たことがない。これだけキレイだと、万が一にも旅先でケガなど作ってはもったいないと、リディアさんのお母さんが心配する気持ちも解る気がする。


 「ああぁ……ええぇ……リディアさんの美を保つ秘訣。参考にはなりませんでしたが、我も頑張ります」


 「ルビィちゃん……本当に聞きたかったのは、それじゃなかったんじゃ……」


 美容に関する話題が終わったところで、ルビィさんにエメリアさんがささやきを入れた。つい別の話題をふってしまったようだが、本当は他に用件があったとの事。エメリアさんから背中を押されると、ルビィさんは口をはわはわさせながら、恥ずかしそうに頑張って声を出した。


 「はわはわ……あの……ぜひ、お願いが……」

 「……?」

 「……私……私……だだだ……だだだだだ」

 「あの……急ぎの用でなければ、もっと人のいない場所で聞きましょうか?」

 「……」


 ルビィさんは顔が真っ赤であり、今にも煙をあげて爆発しそうになっている。ここでは話しにくいことなのだと判断し、リディアさんは硬直しているルビィさんをエメリアさんに返した。


 「エメリア。夜、何が食べたい?」

 「お肉とか……お野菜とか。魚介も……」

 「つまり、全部だな……ルビィさんは?」

 「お野菜とか……お魚とか……」


 何を食べたいかはともかくとして、2人に好き嫌いが多くないという事は解った。メフィストさんにも滋養となるものを用意するようで、今日は夕食の買い出しも量が多い。荷物持ちとしてエメリアさんとルビィさんも協力し、買い物を終えた3人は家路を辿った。路地裏へと入ったところで、リディアさんは先程の頼み事へと話題を戻した。


 「それで、先程ルビィさんは、何をお願いしたかったのですか?」

 「あ……はい。ええええええととと……」


 思い出したら恥ずかしさがこみあげてきたようで、またルビィさんは目を回し始めてしまった。頭の中が冷静になるまで、立ち止まって待ってあげる。すると、つばを飲み込んだ末にルビィさんが、小さく小さく口を開いた。


 「あの……あの……」

 「……?」

 「……」


 もじもじと体をゆすりつつ、ルビィさんは自分の髪に指を巻きつけて照れ隠ししている。まるで愛の告白でも始まりそうな空気の中、口先をとがらせて、視線を壁へと逃がしながら、頼み事の真相を打ち明けた。


 「あの……リディアさん。私……私を……」

 「……」

 「私を抱いて、くれません……か?」

 「……ん?」


 ほぉ……。


第126話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ