第124話『寝具』
店に入る前は不安だったけど、思ったより品ぞろえが面白かった拷問器具専門店。ただし、商品の使い道については未だに神秘。
「39……40……」
「ん?全部、小石で払うのかよ……別にいいけど、サイフ重かっただろうに」
リディアさんがお財布の中から、小さなお金を1個1個つまみ出している。お札に該当するものが手持ちにないらしく、きっちり宝石50個で無音玉を購入。他にお客さんもいないので、店長もお支払いを気長に待ってくれていた。見た目は怖いのに、この人も良い人だったな……。
「まいど。無音玉は口に入れるもんだんで、ちゃんと使ったあとは洗って、乾燥させるように」
「ありがとうございました」
「……リディア。これとあと、メフィストちゃんの眠気もなんとかするんですよね?」
商品の入った紙袋をバッグに詰めていると、エメリアさんが次の目当てについて話を始めた。そういや、メフィストさんはノドの痛みに加えて、眠気もなんとかしたいと言っていたな。その場合、どういったものが必要になるのだろうか。
「……」
今回はノドの痛みを和らげる為に、しゃべれなくする道具を買った。つまり、眠気をおさえるためには、目がさめないくらい、ぐっすりと眠った方がいいのだろう。そんな道具、どこに行けば売っているのかな。買い物にちなんで、リディアさんが店長に聞いてみている。
「店長さん。つかぬことをお聞きしますが、人を眠らせるものについて、ご存知では……」
「ん?あぁ、ダメダメ。睡眠導入系は犯罪に直結するやつだから。ここにはないぜ」
「なるほど……」
このお店は怪しいものこそ売っているが、ちゃんと商品の取扱いには線引きがあるようだ。まあ、即効性の睡眠薬なんてドラッグストアでも見た事ないからな。効果の強いものに関しては、ちゃんとしかるべき場所で購入しないといけないのだろう。
「んじゃ、お姉さん。また来てね~」
「……あれ?てんちょー。私は?」
「ん?あんたは結局、なんも買ってないじゃない……」
言われてみれば、今回のお会計もリディアさんのお財布から出た訳で、エメリアさんの冷やかし記録は不本意ながら更新された模様であった。そして、この機を逃したならば、すでに何十回も来店しているというエメリアさんが買い物をする機会も、金輪際なさそうだと俺は思う。
それなりに高額商品を購入した為か、店長さんは階段の上まで見送りに来てくれた。階段を上がり、空が見える場所へ出る。ルビィさんは一歩たりとも移動せず、大事そうに笛を持ったまま立ち尽くしていた。
「ルビィさん。何事もなかったですか?」
「あ……はい。さっき1人、すれちがったくらいです」
「ん?うちの客は紳士淑女ばかりで、既婚者も多いしな。ここら実は、治安がいいぞ」
ルビィさんに渡したギルドの笛も、幸いなことに出番はなかったようである。SMグッズというのは相手がいるからこそ使い道もある訳で、結婚している人が買いにくるのも道理である。そんなことを教えてくれながらも、店長は店の入り口にフタをしている。どこかへ出かけるのかな。
「ん?俺、配達に行くぜ。店、閉めちゃうけど、忘れ物ねぇな?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
さっき看板に何か書いていたが、あれは店を留守にするという残し書きだったらしい。この店、配達もやっているのか。まあ、ここに来ているのを人に見られるとなれば、怪しいものを買っていると同意義だからな。足を運びたくない人も多いのだと思われる。
「それじゃ、ばいば~い」
「ありがとうございました」
店長さんが走り去るのを見届けた後、リディアさんは買ってきたものをバッグから取り出した。持ち帰る前に、ルビィさんに無音玉を見てもらうことにしたようである。
「これが……無音玉というものらしい。口にくわえると、声が遮断される」
「このようなものがあるとは!珍品!」
口にくわえるものである故に、ルビィさんは衛生面を考慮して、紙袋の口から中をのぞいている。無音玉を見て1つうなづくと、ルビィさんは無音玉の入った紙袋をリディアさんに返却した。
「のどの呪いには、静寂が薬なり。こちらを用いれば、少なからず効果が期待できるはず。おいくらですか?」
「50ジュエルだった」
「安価に入手できてよかったです!私も半分、出しましょうか」
「いえ……いいです。こちらは協力してもらっている身なので、逆に払ってもいいくらいで」
ルビィさんにとって、50ジュエルの商品は安物の範疇であるらしい。でも、ぬいぐるみの話をしていた際には、リディアさんの持っている高級ドールをうらやましがっていたな。なんとなくだけど、リディアさんの家とルビィさんの家のお金持ち序列や、ルビィさんの金銭感覚が読み取れた。まあ……程度はあれど、どちらもお金持ちなのは違いない。
「これで、ノドにかけられた魔法はOKです!あとは……深き眠りへ誘いし、何かを探さないと」
「それなのだが……エメリアは、睡眠の魔法が使えたよな。あれではダメなのか?」
「リディア……白魔法をかけられた人が、別の人から更に魔法をかけられると、ちょっとした大変なことになりますよ」
ちょっとした大変なこと。それが些細なのか大変なのかは不明だが……とりあえず、やらない方がいいであろう事だけは解った。ちなみに……どう大変なことになるのか。それも必然的に話題にのぼる。
「私も、そういった話は聞くが、事実……白魔法を上書きすると、どうなるんだ?」
「一度、遊び感覚で自分の体でやったことありますけど……効果と効果が混ざり合って、想像もつかないことになります」
「なかなかチャレンジャーだな……」
エメリアさんは好奇心は強いようで、自分の体で人体実験をしているらしい。ご自愛ください……。
「それをやった日は一日中、体がほてって仕方なくなりました……熱を静める為に、リディアを襲ったかどうかも憶えていなくて」
「……思い出したぞ。どうも様子がおかしいと思ったら……お前のイタズラ心で、私を犠牲者にするな」
体が火照るくらいなら、程度としては大したことはなさそうである。でも、魔法の使用者すら予期できぬこととが起こるのは間違いないらしい。魔法による効果を与えるのはよろしくないと見て、それ以外の方法を模索することとなった。
「……」
魔法は使えない。とすれば、あとは……。
「……?」
ふと気づいたのだが、俺の持っているスキルは、魔法に入るのだろうか。一応、岩を飛ばすスキルなどには魔法という表記もあるけど、それ以外のスキルの説明書きには魔法とは書かれてない。その判断基準が気になったようで、リディアさんとルビィさんも同様の議題をあげている。
「ルビィさん。魔法に魔法を重ねるのはダメでも、薬などはいいのでしょうか」
「生き物が使う魔法には、少なからず意思が混ざるので、それが干渉しあうのが問題なのです。無機物や植物由来の効果、無意識に発生している魔素などでしたら、問題ありません」
そうか。だから無機物である俺のスキルは、基本的には魔法としては扱われないのか。いざとなったら、メフィストさんの役に立てるかもしれないな。
「ん~……」
「う~ん……」
路地裏を歩きがてらに女の人が3人、うんうんとうなりながら考え事をしている構図である。こういう時、シロガネさんがいてくれれば何かしら案を出してくれそうなのだけど、現メンバーでは良いアイディアも産まれてこないようである。
「……仕方ない。まくらでも見に行ってみるか」
うんうんうなっていても始まらないと見て、リディアさんは寝具を見に行こうと提案する。ルビィさんとエメリアさんも同意し、裏路地から商店街へと抜ける道へと足を進めた。その道中、何気なしにリディアさんが、ルビィさんへと質問を向けた。
「ところで……ルビィさん。アネットさんって知ってますか?」
「え?な……なにゆえ?」
「いえ、アネットさんがルビィさんを友達だと言っていたので」
ルビィさんはアネットさんの名前を耳にした途端、慌てて首を横に振り始めた。
「ととと……友人!よもや、盟友にあらず!同志にもあらず!」
「そうなのですか。あちらは親しい様子でしたが……」
「我、陰の者。ひきかえ、アネットは友達たくさん陽の者。相容れぬ存在……」
「そこまで卑下しなくても……」
ルビィさんはほほを紅潮させ、涙目ながらに訴えている。友達ではないと言っているけど、呼び捨てで名前を言える程度には仲がいいのは解った。そして、ルビィさんほどのコミュ力のある人が陰の者だとすれば、俺は一体なんだというのか。深海魚かなにかであろうか。まあ……石に転生したようなやつなので、なんにせよ底辺である自覚はある。
「と……とにかく、アネットは友達じゃないの!良き?」
「よきです」
「よきですよ~」
これ以上は追及しても可哀そうと見て、リディアさんとエメリアさんは適当な感じで話を終わらせた。寝具を取り扱っている店は商店街通りにあるようで、道を進むに従って周囲に人の姿も増えていく。俺は人混みが苦手なのだけど、あの薄暗い路地から出てきた今となっては、人の姿も恋しいものであった。
「リディアー。あそこ、薬屋さんありますよ」
「あそこは、自店で調合している店だな。睡眠薬は医者から買わないと、まがいものもあると聞く。医者は患者を診察しないと、薬を処方してくれない」
エメリアさんが薬屋さんを見つけてくれた。でも、怪しい薬をメフィストさんに飲ませるわけにはいかないので、薬で眠りに誘う手段はとれないとリディアさんは判断している。
「我、まくらはモミュの毛が詰まったもの!」
「私は……羽毛のものを買うことが多いな」
「私は別にこだわりないです~」
各々のまくらへのこだわりを語っている内、大きなまくらの看板がついた店の前に到着した。おお……ふとんとかマクラとかが、お店の中にたくさん詰んであるぞ。なんか、うにょーんって長いぬいぐるみみたいなのもある。抱き枕かな?
「……リディア!これ!見てください!」
「……?」
ドアを入ってすぐのところに、金色に輝くまくらが展示されていた。ええと……なにか書いてあるぞ。
『10カウントで眠れる魔法のまくら!お値段、3ジュエル!お試しの際は、店員へお声がけください!』
10秒!すごいな。面白いものを見つけたとばかり、エメリアさんも強い関心をあらわとしている。
「リディア。試してみたらいいんじゃないですか?」
「お前がやればいいだろ」
試したくはないが効果だけは知りたいようで、にやにやしながらリディアさんとエメリアさんは体験をゆずりあっている。そうこうしながら検討している内、売り文句の下に小さく小さく、注意書きがなされているのを発見した。
『ただし、10カウントで目が覚めます』
「あ……ダメだな。これ」
「ですね」
やっぱり、安いものには理由があるんだな。でも、これだけ金色でキレイならば、ベッドの飾りにするにはよさそうである。そして、ルビィさん……すごい欲しそうな顔をしている。
第125話へ続く




