表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/978

第121話『荷物』


 「メフィストさんと別れてから、私たちも図書館に行ってきまして……」

 「図書館……ワタシも調べた。なにも見つからなかった」


 やはり、メフィストさんもアレクシアの図書館は調査済みであるらしい。彼女は主にフィールドワークに出ているイメージが強いけど、文献関係の調査に関しても、当然ながらぬかりがないようだな。一応、リディアさんは地下で見せてもらったものについても言及していく。

 

 「実は……聖女に関する記述は極秘として、地下に隠されていました」


 「……ほんと?どんなこと?」


 「ええと……クォーツ族という人たちが月の墜落について指摘したが、アレクシアの王が聞く耳を持たなかったとか。月がアレクシア帝国を押しつぶした為に、新たに作られたのが今のアレクシアであるとか……」


 「……」


 メフィストさんはリディアさんの話に頷いたり、思考を巡らせるようにうつむいたりと、様々な反応を見せている。この様子だと、地下に隠されているものまでは見せてもらっていなかったと予想される。


 「あとは……アレクシアの王が聖獣を軍事利用しようとしたことから、聖女は聖獣の操り方や接し方を誰にも教えなかったらしいとも教えてもらいました」


 「……クォーツ族とか、その辺りは知ってる。アレクシア側の対応は、ワタシも知らなかった」


 「そうか……すると、帝国は王の行いに負い目を感じて、あまり公にならないよう、聖女に関する記述を隠していたのかな」


 メフィストさんが知っている事と知らない事の線引きを見るに、アレクシア帝王の所業に不都合を感じて、帝国側が隠ぺいしようとした気配も感じ取れる。まあ、月が落ちた責任がアレクシアにあるなどと周囲の国に広まったら、何を言われるか解らないからな。そうしたメフィストさんとリディアさんの会話を受けて、エメリアさんが冗談っぽく口をはさんだ。


 「そこまで悪いことをした気持ちがあるなら、ちょっとは責任とって手伝ってほしいですね……」


 「まぁな……とはいえ、はるか昔の話だ。今の王族に責任を取れといったところで、反省しようもないだろう」


 「ですよね~……今のアレクシア王はいい人そうなので、じゃあ許します」


 なお、帝国に入って今に至るまで……まだ俺は、アレクシアの帝王の姿を見ていない。思いがけずもお姫様には謁見できた訳だけど、そちらもお姫様というまばゆい肩書のイメージに反して、非常に内気そうな女の子だった。


 前に月が落ちてきたのは遠い昔の話なので、政権交代があった可能性もあるし、血だって繋がっていないかもしれないしな。エメリアさんの発言も考慮した上で、メフィストさんはか細い声をリディアさんに向けた。


 「聖女様……」


 「……?」


 「まだ、みんな……月が落ちてくるなんて信じてない。だから、1つ。証拠を見つける」


 「……そうだな。かくいう私も、まだ月が落ちてくるなんて、実感がわかない……もっと詳しく調べる必要がある」


 もし月が再び、この国に落ちてくるなんてことになったとしても、図書館の資料だけでは国民に理解を求めるのは難しいだろう。確たる証拠が眠っているかは解らないが、今は湖の底を調べてみるのが近道ではあると俺も思う。


 「……」


 などと様々な理由をつけてはみるものの……実のところは俺も、湖の底に何があるのか見てみたいだけだったりする。きっと俺が大きな石の体を重くして、強引に湖に突入すれば、ヘビさんの力を抑えて探索することもできるだろう。けど……そんな武力行使する勇気は俺にはないし、隠してあるものを無理に暴くのは気が引ける。聖獣に助けを求める身であるからして、なるべくは穏便に事を運びたい。


 「メフィスト様。1つよろしいでしょうか」

 「はい」


 リディアさんとメフィストさんの会話が一段落したところで、今度はシロガネさんがつつましやかながらに発言の許可を求めた。ポケットからメモを取り出し、そちらへと目を向けながら会話へと参加していく。


 「図書館に保管されている魔導書をお調べしたところ、魔人の魔力と赤い月には関係性があるとの一節を確認いたしました。お気を悪くされましたら申し訳ございませんが……」


 「……?」


 「メフィスト様。赤い月の晩について、体調に変化などを感じたりはいたしませんこと?」


 「……」


 赤い月の夜は、魔人の持つ魔力がパワーアップする。だから、魔人と関わりのあるメフィストさんにも、何かしら変化があるとシロガネさんは考えたようである。メフィストさんは具合こそ少し悪そうだけど、特にイヤな顔をすることもなくシロガネさんへと返答した。


 「赤い月の夜は……体が熱くなる。力も強くなる。多分、体内の魔素と、月が共鳴してる」

 「やはり、そうでございますか……」

 「……あれは、母親だ」

 「……?」


 メフィストさんが目を閉じて、知識ではなく感覚にしたがうようにして、そう小さくつぶやいた。母親?


 「なんとなくしか解らない……でも、少し解る。あの月が生み出した。きっと、魔人をたくさん」


 「……!」


 「それに……月が落ちてくる前は、この星に魔人はいなかった。どんなに古文書を読んでも、魔人の誕生に関する記述……なかった」


 すると……つまり、この世界に落ちてきた月が、魔人の発生源だということか。だとしたら、次に月が落ちてきた時には、新たな魔人が世界に足を降ろす恐れも出てくる。月の力でパワーアップした魔人がはびこる世界は、想像しただけで身の毛もよだつな……。


 「ごほ……ごほっ……」

 「ありがとうございました。あまり無理はなさらず、お休みになってくださいませ……」


 シロガネさんはコップに水をくみ、メフィストさんの手の届く場所へと置いてあげた。それを一気に飲み干した後、メフィストさんは毛布をイスに置いて立ち上がった。

 

 「ありがとう。ワタシ、行く。今から大神殿に……ごほっ」

 「無理はしないでください……それに、こちらも準備が整っていないので……」


 メフィストさんは今にも出発したいといった様子だけど、白魔法をかけられたせいで体も本調子ではない。このままでは大神殿の探索にも響くと見て、リディアさんはメフィストさんを制止させつつ、シロガネさんへと魔法の解除法を求めた。


 「シロガネさん。魔法を解く方法は……自然に解呪する他にないのですか?」

 「申し訳ございません……魔法の解除法につきましては、ワタクシも専門外ですわ」

 「リディア!」


 シロガネさんの知識にも解決法がないと見て、今度は意気揚々とエメリアさんが挙手する。


 「おお……エメリア。何か知っているのか?」


 「私の両親が言ってましたけど、白魔法を早く解きたい時は、かかってる魔法と全く違う感じのこととかすると、回復するとかしないとか……です!」


 「……」


 自信満々な口調の割には、かなりふわふわとした対応方法を伝授してくれた。それを聞いて、リディアさんが一言。

 

 「……具体的には、何をすればいいんだ?」

 「解りません!」

 「万策尽きたな……お医者さんに見てもらおうか」


 エメリアさんの発言があてにならず、リディアさんは別の解決法に頭を切り替えた。そうしてメフィストさんの看病に戸惑っていると、玄関先でドアをノック音が鳴った。シロガネさんが玄関へと応対に向かい、来客の素性を知ると再びリビングへと顔をのぞかせた。


 「ルビィ様がいらっしゃいました。お招きしてもよろしいでしょうか?」

 「夕方に来るものと思っていたが、存外に早かったな」

 「はい。なにやら、お荷物が多いので、そちらを置きにいらしたとか」

 「あっ……お邪魔でしたか!?ふ……ふがいなき」


 シロガネさんの後ろから、申し訳なさそうにルビィさんが顔を出している。手にはギターケースほどもあるバッグを持っていて、背負ったリュックも体が潰されんばかりに大きい。今日から泊まり込みで家を調べると言っていたし、着替えや雑貨など必要なものを運んできたと見える。


 「ちょっと、ルビィさんを案内してくる。シロガネさんはメフィストさんとエメリアをお願いします」


 「かしこまりましたわ」


 「バッグ、1つ持ちます」


 「あ……すみません。超絶、感謝します」


 リディアさんはメフィストさんの看病をシロガネさんへと任せ、ルビィさんを2階へと案内していく。多々あるバッグの1つを預かり、階段を登り始めた。リディアさんの後ろをついて歩きつつ、ルビィさんがリディアさんに声をかけている。


 「あの……もしや、取り込み中でしたか?」

 「近々、探索に出るかもしれません。数日、家をあけることになるかと」

 「あ……お構いなく。我、お邪魔とはなりませぬよう、努力します想い」


 人の家に泊るとなって緊張しているからか、今日のルビィさんは一段と不思議な口調である。2階にある使用していない部屋のドアを開き、リディアさんはカーテンを開いて室内を見回している。部屋にはベッドとクローゼットと、小さなテーブルが1つ。管理人さんが掃除しているのか、ほこりなどは見当たらないな。


 「ベッドやクローゼットは用意があるので、自由に使ってください。それ以外は何もない部屋ですが……」


 「いえ、滅相もありません。お気に入って至極です」


 部屋に到着し、やっとルビィさんは大荷物から解放された。ハンカチで汗を拭いている傍ら、リディアさんは荷物の中身を気にしている。


 「かなり大荷物ですが……何が入っているんですか?」

 「これには……えへへ。我が友がおさめられているのだ」

 「……?」


 そう言って、バッグの1つを開く。まずは着替え。下着もあわせて、ぎっしりと10着以上。次のバッグからは枕が出てきた。生活に必要なものが出そろったものの、まだまだバッグは残っている。


 「これです」

 「ああ……ぬいぐるみか」


 友というのは、ぬいぐるみのことらしい。様々な動物をモチーフとしたぬいぐるみが、バッグの中に丁寧にしまってあった。


 「ネココのネーネルでしょ。レリクスのレック。ルポスのルーリー。ええと……あとはー」 

 

 1つ……2つ……3つ……出るわ出るわ。まさかのバッグ3つ分、全て中身はぬいぐるみであった。それをベッドの上、タンスの上、テーブルの上、場所を探して置いていく。その数、総勢20個以上。


 「……これだけ並ぶと壮観だな」

 「これより、ここを我が研究室とす。我が友共々、お世話になります」


 何もなかった素朴な一室が、この数分でファンシーな空間に様変わりしてしまった。なんか、いいな。女の子らしくて。これも、呪術の研究に使うものなのだろう。どんな研究をするのか気になるな。


 「ルビィさん。ぬいぐるみは、呪術に用いる道具なのですか?」

 「それは、否です」


 うん。

 

第122話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ