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第106話『研究所』


 お姉さんとの久々の再会だというのに、ヘビに怯えているところを見られてしまったのだ。シロガネさんは恥ずかしそうというか、やや落ち込んしまった様子で、腰の前で両手を組んでもじもじと赤面している。お姉さんの態度も素っ気なかったし、あまり仲がよくないのだろうか。


 「ええと……シロガネさんの家は代々、侍女の家系だと聞くが、お姉さんは姫様のおつきなのか。すごいな」


 「はい。お姉さまは生まれた時から……そのように生きるよう決まっておりました故」


 「……すいません。間違って、2つ上の階に出ちゃって」


 シロガネさんのお姉さんが姿を消して数分後、ゴシキさんが階段を駆け足で降りてきた。間違って違う階にワープしてしまったようだが、そういうこともあるのか。でも、20階まで足で登っているアネットさんよりは断然早かった。2人が忙しそうにマバタキをしているのを見て、ゴシキさんが帽子の位置をなおしながらつぶやく。


 「……えっと、なんかありました?」


 「いえ、ヘビが……」


 「……ああ。王室で世話をしている魔物なんですけど、体が細いでしょう?たまに逃げ出しちゃうんですよね。かわいいですよね」


 たまに逃げ出しちゃうのは、城の中でも日常茶飯事らしい。ただ、街まで逃げて行ってしまう事態はマレだったのか、ギルドへ依頼を出すまでに至ったと見られる。ヘビだし、カゴに入れておいても、うまく脱出してしまうのだろう。かといって、特に危険性もないようだから、ストレスなく自由にさせてあげているのだと考えられる。


 「……ごめんねー!お待たせー!」

 

 ゴシキさんに遅れること1分、アネットさんが階段を上がってきた。20階……段数にすれば400段はあるはずだけど、あまり彼女には疲れた様子もない。ミニスカートから伸びる足はスラっとして細いのに、そこはやはり騎士団員。それなりに鍛えられている。


 「アネットさん来たんで、んじゃあ行きましょう。あっちの渡り廊下を行った先が研究塔です」


 ゴシキさんが案内を交えつつ、改めて研究室へと歩き出した。ここは城の下層とは違って中央階段はなく、通路にもドアが多くて人通りも多い。騎士団の事務所があるからか、書類を運んでいる人も散見される。ピカピカした白い壁や、カーペットが敷かれた通路を掃除している人もいる。


 「あっ。アネットちゃん。今日は休み?」

 「うん。遠征のあとだから、お休みもらえたっ!」


 アネットさんは城に勤めている人たちと交流が深いようで、ただ通路を歩いているだけで色々な人に呼び止められる。一方、ゴシキさんも男の人とはアイサツを交わしているな。2人とも、それなりに人付き合いは多い方らしい。人見知りの俺からすれば、すごく立派な人たちに見える……。


 「この橋の先が研究塔なんですが……少し風が吹いてるので、気をつけてください」


 ゴシキさんが開いたドアの先には橋のような通路がかかっていて、向こう側には別館として建っている塔が見えている。通路には手すりや屋根はあるのだけど、窓がないから風が吹き込んでいるな。なぜ、研究塔が城から隔離されているのか、それをリディアさんがゴシキさんに質問している。


 「どうして、このような造りになっているのですか?」


 「ああ……研究塔って、色々なものが持ち込まれるじゃないですか?何か問題が起きても対策しやすいように、別の建物にしてるんですよ」


 「前に一回、燃えたことあったよね」


 アネットさんが言うには、火事が起きたこともあるらしい。確かに、研究施設となれば危険物が持ち込まれる場合もあるだろうし、かといって騎士団の監視下に置いておかないと、調査記録などの機密を守れない。そうした諸々の理由から、このような構造になったのだと思われる。


 橋の長さは5メートルくらいで、そこを渡った先には薄暗い通路が続いた。三角フラスコみたいな絵のついたドアには鐘がぶらさげてあり、ゴシキさんが鐘に下げてあるヒモを手で引いている。強くヒモを引くたびに、乾いた金属の音がカーンカーンと響いた。


 「……なかなか来ないですね」


 やや時間をおいて、ゴシキさんが再び鐘を鳴らす。ガチャリとカギの外れる音がしてドアが開き、白衣を着た女の人が顔を出した。


 「遅れてすみません。アレですよね」

 「あ、はい。あれです。入国審査の」

 「……来客はリディアさんと、シロガネさんでしたか」


 女の人はゴシキさんと短めに会話をした後、リディアさんとシロガネさんへ視線を向けた。アネットさんがいることについても、特に問題はないらしい。キョロキョロと不安そうにドアの周囲を確認し、顔を赤らめながらもリディアさんへと質問を向ける。


 「……今日、夢魔の人はいないのですね」

 「城には入れてもらえなかったので、今はいないです」

 「……どうぞ、中へ」

 

 ……よく見たら、この人はキャンプでエメリアさんに襲われていた人だな。リディアさんが来ると聞いて、またエメリアさんに会うのではないかと怯えていた様子だ。危険人物はいないと見て、みんなを研究所の中へと招き入れた。


 「魔封箱をお預かりします」

 「ああ……はい。調べるのに時間はかかるのですか?」

 「ものによりけりですが……急いでましたか?」

 「いえ、時間は問題ないです」


 リディアさんから箱を預かり、研究員さんは重さを確かめるように抱えている。ドアの奥には登り階段と下り階段があるのだが、研究室は下の階にあると見られる。リディアさん達を研究所へ送り届けるも、ゴシキさんは中へ入ろうとはしない。


 「自分、ここでお役御免です。もし、第一級危険物だった場合、また呼んでください」

 「了解しました。お疲れ様でした」


 ここまで送り届けたことで仕事を終えたようで、研究員さんに断ってゴシキさんは城へと戻っていった。研究所で危険物と判断されたら、ハイシリカも取り上げられちゃったりするのかな。そしたら、メフィストさんと大神殿を探す計画にも、それなりに影響が出てくる。無事に終わることを願うばかりである。


 「足元が暗いので、気をつけてください」


 下り階段に灯りは少なく、ここは城と違って壁も床も、ゴツゴツした石で作られている。魔女でも住んでいそうな雰囲気だな。そんな階段を下りながらも、研究員さんは箱の中にあるものについてリディアさんへと尋ねている。


 「……これ、どこで見つけました?」

 「国の門を出たところに神殿がありまして、聖女の力で出てきたみたいなのですが……」

 「……ちょっと、おっしゃっている意味が」

 「ですよね……」


 やっぱり研究員の人たちもハイシリカが入っていたものについては、存在すら認識していない様子であり、メフィストさんと出かける前のリディアさんたちみたいな反応を見せている。まあ、帝国の近くに神殿があるとか言われても、あのブロック状のものを神殿と呼ぶのには未だに違和感がある。


 「そうそう。パーズちゃん。もう、おやつできてる?」

 「はい。リディアさんたちも、よければ食べて行ってください」


 アネットさんが研究員さんの名前を呼んでいる。彼女はパーズさんという名前らしい。まだ階段は下へと続いているが、途中で横道があり、そこを通った先には灰色のドアが用意されていた。パーズさんのあとに続いて部屋へ入る。室内にはゴミ捨て場かと見間違うくらい、ゴチャゴチャと物が積み上げられている。


 「ハカセー。リディアさんたちでーす」

 「……」


 パーズさんが博士を呼んでいるが、ガタンと物の崩れる音こそすれども、どこからも返事はない。物をまたいで先へと進んでみる。案外、足の踏み場はしっかりと用意されていて、そこを辿っていけば部屋の先へと入っていけた。


 「……パーズさん。そちらが、リディアさん?」

 「あっ。はい。あと、シロガネさんと、アネットさん」


 ガレキに埋もれているモップらしきものが、のそりと動いて話しかけてきた。よくよく見るとモジャモジャしているのは髪とヒゲであり、その奥につぶらな瞳が見えている。声からするに、男の人だろうか。


 「ハカセなら、解析室に行ったぞ」

 「ありがとう」


 パーズさんが普通に会話している感じからして、あのモップみたいな人も研究員でいいんだよな……お城に勤めている以上は人間だと思うのだけど、どう見ても人間には見えない。それに関してはリディアさんも同じ気持ちだったのか、先程のモップさんについてアネットさんに小声で聞いている。


 「……あの方は?」

 「なんかねー。もう10日間も家に帰ってないんだって。火の実験をしてるみたい」


 アネットさんも詳しくは知らないようだが、火を使った実験の最中らしい。以前、火事を起こした経緯もあって、目を離せないのだと思われるが……職場がブラックなのか、好き好んでやっていることなのかは微妙なところである。声に疲れが感じられなかったことから察するに、後者のような気はしている。


 「ハカセー」


 天井に光のついている明るい部屋があり、そこをのぞきながら研究員のパースさんが呼びかけている。この部屋は先程の部屋と違って物が少なく、床に直置きしてあるものもない。その代わり、床には模様のようにして、魔法陣みたいなものが描かれているな。


 「……おお。パーズ助手。ご苦労」

 「ハカセ。リディアさんとシロガネさんと、アネットさんです」

 「おお、アネットちゃん。また来たか」

 「来たよー。おやつ食べにだけど」


 奥にあるデスクに博士が座っており、よぼよぼとこちらへ手を振っている。なお、『デスクに座っている』とはデスクの近くに置かれたイスに座っているのではなく、本当にデスクへと直に腰掛けているので、そこは間違いなく。


 「パーズ助手。あれだろう?ほら。あれだ。くれたまえ」

 「こちらです」

 「おぉ~。これだこれ。調べるから、あなたたちはお菓子を食ってて」


 パーズさんから魔封箱を預かると、博士はオモチャをもらった子どもみたいにスキップを始めた。チラリと俺の方にも視線を向けるが、今は箱の中のブツを調べるのが先決として、またデスクに乗りかかって魔封箱の開封を始める。


 「おやつを用意します。リディアさん達は、そちらにかけて待っていてください」


 部屋の奥の方に大きなテーブルがあり、そこにもビーカーやビン、資料がところせましと乗っている。リディアさん達は勧められるがままに、間隔も適当に配置されているイスへと座る。パーズさんは壁についている重そうなトビラのハンドルへと手をかけ、体重をかけてグッと開く。


 「なんだ……肌寒いな」

 「ごめんなさい。すぐに閉めますので」


 トビラの奥からは白いスモークが流れ出しているし、なんだか青い光も漏れている。リディアさんが肌をこすっているということは、あそこから冷気が吹き出しているのか。そこからパーズさんはカップを取り出して、スプーンと一緒にテーブルへと並べてくれる。


 「溶ける前にどうぞ」

 「……冷たいな」

 「なんかね。氷のおやつなんだってー」


 そう言ってアネットさんがカップのフタを開くと、灰色をしたピカピカしたものが中に入っているのが見えた。それをスプーンですくい、アネットさんは嬉しそうに口へと運んでいる。氷のおやつというと、アイスクリームに近いものなのかな。とすれば、あの青白い部屋は、冷蔵庫か。この世界にもあるんだな。


 「……氷菓か。実家にいた頃は、たまにシェフが作ってくれていたな」

 「リディアちゃんの家、こんなの出るんだ!すごい!」


 魔法で氷が作れるから、リディアさんもアイスに関しては食べたことがあるらしい。でも、その味は奇抜であるらしく、スプーンを口にくわえたまま、まゆをしかめて目を細めている。誰に聞かれるより先に、パーズさんが冷蔵庫について説明を始めた。


 「あの部屋には、氷の魔法が循環しているんです。なので、こんなのが作れたりして」

 「そうなのですか。で……これは、どのような材料を使ったお菓子なのだろうか」

 「不思議な味ですわ……」


 美味しくないわけじゃないようだけど、その味の正体がリディアさんにもシロガネさんにも解らない様子だ。ちょっとした前置きをはさみながら、パーズさんもアイスを口にしている。


 「……実験に際して、あらゆる物質に毒性があるかないかを検査しているのですが、その経過で新たな食の調査もすすめており、こちらも実験の副産物でして」


 「……」


 「とどのつまり、そちらは……凍らせた砂です」


 ……砂アイスであった。う~ん……口の中がじゃりじゃりしそう。


第107話へ続く

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