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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第五章

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日々の仕事

「……」

 アルマークの沈黙に、モーゲンが慌てて言葉を足す。

「また僕の持ち込んだ下らない噂だとか思ってるでしょ!」

「だってこの寮に地下室なんてないじゃないか」

「前に1組のやつから聞いたんだよ! どこかに隠されてるかもしれないじゃないか」

「秘密の地下室ってこと?」

「そう、秘密の場所! マイアさんだけが知ってるその秘密の場所に、自分に逆らった子供を閉じ込めるんだよ」

「閉じ込めるねぇ……この学院で行方不明になった学生っていたっけ?」

「そ、それは、僕が入学してからはいないけど……」

 モーゲンがしどろもどろになったところで、アルマークはため息をついて言った。

「もういいよ。確かに僕たちは最上級生だからね。カッシスさん……だっけ? が元気になるまで頑張ろう」

「うん」

 しかし、アルマークには疑問が残る。

「……でも、残ってる中で三年生って僕らだけだっけ? ほかにもいた気がするけど」

「残ってるうちの半分は三年生だよ。……運が悪かったのさ」

 モーゲンが首を振る。

「マイアさんの視界にたまたま入った僕らの運がね」

「うーん……」

 釈然としないアルマーク。

「なんだか……納得いかないなぁ……」

「じゃあやらないかい? マイアさんに断りに行って、誰か他の子にやらせてくれって言うかい? それともあの年のマイアさんに、あんた一人でやれって言うかい?」

「……わかった、わかったよ。もう言わないよ。やるよ、モーゲン」

 降参したアルマークは、モーゲンと二人で用具室に行き、工具を持ち出すと三階の階段に向かった。

 壊れた木の手摺を、工具で器用に直すモーゲンを見て、アルマークが感嘆の声をあげる。

「すごいな、モーゲン」

「まあ、木こりの息子だからね。本職じゃないけど、木を扱うことならこのくらいは」

 モーゲンは、まんざらでもない様子でそう答える。

「君が傭兵の息子だから、戦いが強いのと同じだよ」

「……そうだね、そういうものか」

 アルマークは妙に納得して、モーゲンが操る工具の動きを飽きずに見つめた。



 翌日から、朝食の後、管理人室に顔を出し、その日の仕事を言いつけられる日々が始まった。

 マイアは管理人室で二人を待ち受けていて、顔を見るやいなや、

「来たね。今日はこれだよ」

 と言いながら用事を言いつける。

 大半は、簡単な修繕や日用品を校舎に取りに行くなどの些細な用事で時間もかからずに終わったが、時にはうまくいかずに半日がかりの作業になるようなこともあった。

 最初はモーゲンに付き合う形で渋々引き受けたアルマークだったが、意外に日常の刺激にもなり、だんだんとこの仕事が気に入りはじめていた。

 毎日の仕事は、ほとんどの場合大した時間もかからず、瞑想や読書の邪魔にはならなかったし、モーゲンの生き生きとした作業を見ながら、それを自分で真似してみるのも楽しかった。

 確かにマイアは言いたい放題で、いまだに二人にありがとうの一言も言ったことはなかったが、その物言いにももう慣れてきて、アルマークもモーゲン同様、「ああ、この人はそういう人なんだ」と思うようになっていた。

 モーゲンによれば、一年生からこの学院にいる他の三年生たちはもうとっくにその境地に達しているらしかった。

 誰かがやらなきゃならないことなら、別に僕らがやればいいか。

 アルマークは今では、そんな感覚で仕事をしている。

「もし魔術師になれなかったら、二人でこんな風に何でも屋みたいなことをやるのもいいかもね」

 モーゲンが言う。

「そりゃ君はいいけど、僕は何にもできないぜ」

 肩をすくめてアルマークは答えた。

 アルマークは自分も器用なつもりでいたが、こと工具を使っての作業に関しては完全にモーゲンのほうが上手だということを認めていた。

「じゃあ君は僕の護衛役ってことで」

 にこにこしながらモーゲンが言う。

「僕を守ってよ」

「どうして、何でも屋に護衛が必要なんだよ」

 アルマークは苦笑いで答える。

 二人は朝食を食べ終え、今日も管理人室に向かっていた。

「今日はどんな仕事かな」

「どうでもいいけど、カッシスさんの風邪ってまだ治らないのかな」

 そんなことを話しながら管理人室の前に到着し、アルマークが扉をノックする。

 マイアはノックしたからといって返事はしてくれないのだが、ノックしないで入ったらそれはそれで怒られたので、ノックしてから返事を待たずに入る、ということに二人は決めていた。

「入りまーす」

 二人で声を揃えてそう言い、扉を開けて中に入る。

「ああ、来たね」

 マイアが部屋の奥の安楽椅子から二人をじろりと見る。

「今日の仕事はそれだよ」

 指差されたテーブルの上に置かれていたのは、古びた鍵。

 アルマークが手に取る。子供の手にはやや大きく、ずっしりと重い。

「これは……?」

「地下室の鍵さね」

 マイアがさらりと言う。

 モーゲンが、ひっ、と声をあげた。

「つ、ついに出た! ち、ちち地下室だ」

「何言ってんだい、あんた」

 マイアはモーゲンをじろりと見る。

「そろそろ休暇も終わりだろ? そうしたら地下室にある看板を出してこなきゃだろう」

「看板?」

 モーゲンが聞き返す。

「休暇があけてすぐに武術大会があるだろ。あれでお客さんがたくさん来るからね。迷っちまう人がいないように寮の周りにも色々と看板を立てなきゃならないのさ。それが地下にしまってあるんだよ」

 それを聞いたモーゲンが恐る恐る確認する。

「こ、この寮に地下室なんてないじゃないですか」

「あるから鍵があるんだろ」

 マイアが呆れたように言って鼻をならす。

「さっきから何を言ってんだい、あんたは」

「どこにあるんですか、地下室って」

 アルマークが尋ねる。

 少なくとも、寮の中に一階から下に降りる階段はない。

「なんだい、知らないのかい。あんた達、子供の癖に外に出てないんじゃないのかい。裏の植え込みの陰の壁に小さな扉があるだろ。あそこが物置の入口だよ」

「も、物置?」

 モーゲンが聞き返す。

「地下室じゃないんですか?」

「どっちだっていいだろ。地下にある物置なんだから」

「も、物置なんですか。秘密の地下室って物置だったんですか」

「誰が秘密だなんて言ったんだい」

「いえ、誰も言ってません」

「物置の奥の木箱の中に看板が入ってるからね。いいかい、ひとつ残らず持ってくるんだよ。中に入ってる木材にも余計な物はないからね。一本でも足りないと看板が組めなくなるから絶対に忘れるんじゃないよ」

 マイアは恐い顔で念を押した後で、

「さあ分かったらさっさと行っとくれ。こっちは忙しいんだ」

 と言い、いつものように編み物を始める。

 どう見ても忙しそうには見えない。

「行こう、モーゲン」

 アルマークは、モーゲンを促して部屋を出た。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] モーゲンが「君が傭兵の息子だから」と何気なく言ってますが、三階の階段の手摺を修理してる場所が声が響きやすい階段周辺であるなら寮にいる他の生徒に聞かれてしまう可能性は高いのではないかと思…
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