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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十五章

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【閑話】クレープ屋に行こう11

 カラーの大きな声に、隣を歩いていたウェンディが驚いたように振り返る。

 誘いを断られてしまったウェンディと顔を合わせるのは、少し気まずかったが、やむを得ない。アルマークは観念した。

「やあ」

 アルマークは手を上げる。

「こんなところで会うなんて、偶然だね」

「偶然っていうか」

 カラーはなおも大きな声で言った。

「アルマークでもこんなところに来ることがあるんだね、意外!」

「そ、そうかな」

 アルマークはちらりと周囲を見回す。こんなところと言われても、ここがどこなのかまだ分かっていない。

「ところでここ、どこだい」

「え?」

 カラーは訝し気にアルマークの顔を見てから、合点のいった顔をした。

「ああ、そういうこと」

 笑いながらウェンディの肩を叩く。

「道に迷ってたのね。私はてっきり、一人でこっそり誰かのためのプレゼントでも買いに来たのかと」

 そう言って、意味ありげにウェンディを見る。一方のウェンディは困った顔で、申し訳なさそうにアルマークを見た。

「声をかけてごめんなさい、アルマーク。もしも邪魔だったのなら」

「ああ、いや、別に」

 おかしな誤解が生まれないうちに、アルマークは二人に歩み寄る。

「本当に迷ってたんだ。ええと、ここって」

「ここは青風通り」

 カラーが答える。

「雑貨や小物を扱う店が並んでるから、女子がたくさん来るのよ。ほら」

 カラーに周囲を示されて、それでようやくアルマークも気付いた。確かに歩いているのはほとんどが若い女性ばかりだ。学院のローブ姿もちらほらと見えるが、やはり女子生徒だ。

 そうか。ここが青風通りか。

 名前を聞いたことはあったが、アルマークはまだ足を踏み入れたことがなかった。

 魔法具の店の立ち並ぶ角笛通りや、魔法や魔術師に関する書籍を扱う書店の集まる銀弓通り。それに、モーゲン行きつけの食堂街、さざ波通り。そういった場所とは、歩いている層が全く違う。

「なるほど」

 ようやくアルマークは、カラーがなぜあんなことを言ったのか理解した。

「それでプレゼントか。ごめん、僕は本当に道に迷って、あの路地から出てきたところなんだ」

 アルマークが、自分が出てきたばかりの狭い路地を指さすと、ウェンディとカラーは顔を見合わせて不思議そうな顔をした。

「あそこから?」

「うん」

「だって、あそこは確か」

 カラーがすたすたと歩いていって、路地を覗き込む。

「……うん、やっぱり。アルマーク、こんなところで何をしてたの?」

「え?」

 アルマークはカラーの後ろからその路地を覗いた。

 狭い路地は、少し行った先でもう行き止まりになっていた。

「……あれ?」

 そういえば、とアルマークは考える。

 影を追っているときに、奇妙な感覚に襲われていた。どうやら空間を捻じ曲げるような力が働いていたようだ。

 そのときちょうど、行き止まりの塀の上を一匹の猫が通りかかった。

「猫を」

 アルマークがとっさにそう言うと、カラーは噴き出した。

「猫を追いかけて、塀を乗り越えてきたの? アルマークって、やることが突拍子もなさすぎない?」

 カラーの笑い声に、白黒模様の猫はアルマークたちの方を胡乱な目で見てから、歩き去っていく。

「撫でさせてくれなくてね」

 アルマークは言った。

 カラーの誤解を利用させてもらうことにした。

 自分の影と対峙していた、などと言うよりは、猫を追いかけていたと思われる方がよほどましだった。

「野良猫ってそんなもんだよ、アルマーク。北にはいないの? 今度、私が猫の人気者になれる近付き方を教えてあげる」

「ああ、頼むよ」

「アルマーク」

 けらけらと笑うカラーの横から、ウェンディが遠慮がちに声をかけてきた。

「今日は、モーゲンたちとクレープを食べに行くんじゃなかったの?」

「うん、そうなんだけど」

 アルマークはローブの袖を探って、整理券を取り出す。

「ほら。人気店だから、この整理券だけもらったんだ。みんな、今は街に散ってるよ。この時間に再集合っていうことで」

「あ、そうなんだ……」

「クレープ? 人気店?」

 突然、目の色を変えたカラーが割って入ってきた。

「もしかして、新しくできたところ?」

「ああ、うん」

 アルマークが頷くと、カラーは甲高い悲鳴を発した。思わずアルマークもウェンディも耳を押さえる。

「それ! ブレンズから聞いて、私も食べたかったのよ! 行きたい!」

「行きたいって、カラー」

 ウェンディはますます困った顔をする。

「アルマークは整理券って言ったでしょ。今からじゃもう間に合わないよ」

「えー!」

「いや。実は、この整理券で一人二つまでクレープが買えるんだ」

「えっ」

「だから、もしよければ」

「そうする!」

 カラーはアルマークに皆まで言わせなかった。

「ありがとう、アルマーク!」

「君の用事はもう済んだのかい」

「買うものは買ったわ」

 鼻息荒く、カラーは答える。

「だから後は、クレープを食べるだけ。私の用事は、もうそれだけ」

「ええと、それじゃあ私は……」

 ウェンディが遠慮がちに離れようとすると、カラーがその腕をがっしりと掴んだ。

「どこへ行くの、ウェンディ。あなたも一緒に行くのよ」

「でも、整理券で買えるのは二個までだって」

「大丈夫だよ、ウェンディ」

 アルマークは言った。

「僕は要らないから、君とカラーで食べればいいよ」

「だめよ、そんなの。悪いわ」

「いや。僕は本当にいいんだ。どうせ味はそんなに分からないし。君に食べてもらった方が」

「だって私、あなたの誘いを断ったのにそんな図々しいこと」

「君が図々しいだなんて。そんなこと思ってないよ」

「二人とも、何をごちゃごちゃと言ってるのよ」

 カラーが呆れたようにため息をついた。

「アルマークの整理券は、あなたたち二人で使えばいいでしょ。私がそんな野暮なことする女に見える?」

「え。でも」

「アルマーク。ほかのメンバーってあと誰がいるんだっけ?」

「ええと」

 アルマークがクレープ屋のメンバーの名前を挙げると、カラーはふむふむと頷いた。

「なるほどね。まずモーゲンとネルソンは除外ね。あの子たちは絶対二つ食べる。意外とリルティも甘いものにかけては侮れないのよ。ノリシュは優しいからそれに付き合ってあげる可能性があるわ」

 真剣な顔でそう言うと、にこりと微笑む。

「つまり、狙いはレイドーかピルマンね。行きましょう!」





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― 新着の感想 ―
カラーには感謝しかない
やはりカラー!カラーしか勝たん!! 前話の影との対立を霧の魔法のように、雲散霧消してくれる、日常回の絶対的象徴、それがカラー! あっさりとクレープ購入作戦を導き出すところなんて、カラーの面目躍如ですね…
影の薄いピルマンなら美少女カラーに真っ先に声をかけられたら喜んで応じちゃいそうw
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