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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十五章

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それぞれの帰還

「やった! いたいた、みんなあそこにいるぞ!」

 辺り一帯に響き渡った場違いに明るい声に、生徒たちは振り向いた。

 だが、声の主が誰なのかは、確かめなくても皆分かっていた。

 あんなに元気な声を出す生徒は、三年生の中でも一人しかいない。

「ネルソン」

 アルマークは微笑んだ。

「おうい、みんな元気かよ!」

 ぴょんぴょんと跳び上がって両手を振るネルソン。その隣でノリシュが苦笑している。

「やっと戻ってこれたぜ!」

 その声だけで、辺りの空気が少し軽くなったような。空の太陽が光を増したような。

 誰もがそんな錯覚に陥るほどの明るい声だった。

「三人揃って帰ってきたわね」

 カラーがほっとしたように言った。

「アインもトルクも戻ってこないから、心配してたけど」

 その言葉通り、ネルソンとノリシュの後ろから、穏やかな表情のレイドーも歩いてくる。

「みんな、元気そうでよかった」

「うん」

 アルマークは頷いた。

「僕は、ネルソンたちは負けるはずがないと思っていたんだ」

「どうして?」

 カラーの問いに、アルマークは微笑む。

「ネルソンは騎士だからね。そして、騎士の心を一番分かっているのがノリシュとレイドーの二人なんだ」

 はしゃいで跳ね回るネルソンを見て、ノリシュが顔をしかめてレイドーに何か言っている。

 ネルソンはそれに気付かず、こっちに向かって一生懸命手を振っている。

 いつもの三人。

 まるでいつもの放課後のような、三人の空気感。

「三人がそれぞれ普段通りの力を出せる組合せだ。負けるわけがないよ」

「まだ一年しか一緒にいないのに、よく分かるのね」

 アルマークの言葉に、カラーはそう言った後で思い出した。

「でも、そうか。魔術祭であなたは騎士ネルソンと戦ったんだものね」

「うん。僕は、ネルソンとノリシュに負けたんだ」

 アルマークのどこか誇らしげな口調に、カラーは微笑む。

 近付いてきた魔影に危うくぶつかりそうになったりしながら、ネルソンたち三人は賑やかに仲間のところに戻ってきた。

「いやー、参ったぜ。帰り道があんまり長いから、来るときはこんなに遠かったかなって心配になっちまった」

 ネルソンがそう言って汗を拭う。

「森を抜けた時は心底ほっとしたぜ」

「まだ先だっていくら言っても、全然信じないのよ、ネルソンったら」

 ノリシュがその後ろで呆れたように言った。ネルソンは悪びれもせずに腕を組み、納得したように頷く。

「行くときは気合が入ってたから、距離とか全然気にならなかったんだろうな。いやー、それにしても遠かった」

「三人とも、大変だっただろう」

 ネルソンたちに声をかけたのはこの場にいる唯一のクラス委員のウォリスだ。

「おう、ウォリス」

「君たちには大きな怪我はなさそうだが……向こうで治療してきたようだな」

 三人が負傷したことをウォリスは見抜いていた。レイドーが頷く。

「うん。僕はつららを刺されてね、出血もあった」

 そう言って、破れたローブの袖を見せる。

 その腕には、まだ痛々しい傷跡が残っていた。

「まだ完全には治っていないんだけど、石を届けるのが先決だと思ってね」

「誰かに治癒術を頼もう。僕が手配する」

 ウォリスはそう言った後で、ネルソンに顔を向ける。

「だが、その前に」

「おう。分かってる」

 頷いて、ネルソンはローブの袖から白く輝く宝玉を取り出した。

「白の石だ」

 ネルソンは言った。

「嫌な野郎だったけど、石に戻っちまえばきれいなもんだ」

 そう言って屈託なく笑うと、アルマークに歩み寄る。

「アルマークも帰ってたんだな。緑の石は持ち帰ったのか?」

「ああ」

「さすがだな」

「君たちこそ」

 アルマークは微笑んだ。

「お疲れ様、ネルソン」

「なんてことねえよ」

 本当になんということもなさそうな口調でそう言ってネルソンが差し出した白い石を、アルマークは受け取った。

「ネルソンが途中でなくさないか、冷や冷やしたの」

 ネルソンの後ろから、ノリシュが言った。

「持ち帰れてよかった。お疲れ様、アルマーク」

「ありがとう、ノリシュ。レイドーも」

 二人に感謝を込めてそう言うと、アルマークは白い石をウェンディの腕輪にそっと嵌める。

 次に戻ってきたのは、レイラとリルティだった。

 リルティはひどく疲れた顔をしていたが、その足取りはまだしっかりしていた。

「リルティ!」

 ノリシュが大きく手を振ると、一番の親友でもあるルームメイトの姿を見たリルティは嬉しそうに顔を綻ばせ、小さく手を振り返した。

「おう、リルティが手を振ってらあ」

 ネルソンが笑う。

「珍しいな」

「よっぽど嬉しかったんだろうね」

 レイドーも微笑んでそう応える。

「レイラと二人で行ったから、緊張していたんじゃないかな」

 だがそのリルティが隣を歩くレイラに笑顔で話しかけるのを見て、二人は意外そうに顔を見合わせた。

「なんか仲良さそうだな」

「そうだね」

 リルティと言葉を交わすレイラは笑顔こそ浮かべてはいなかったものの、その表情からは出発時の厳しさが消え、柔らかな雰囲気をまとっていた。

 出迎えたウォリス達と軽く言葉を交わした後で、レイラはアルマークとウェンディのところにやって来た。

「レイラ、お帰り」

「取ってきたわ」

 レイラはそう言って、紫の石をアルマークの差し出した両手の上に載せる。

「ありがとう」

 アルマークは石をしっかりと握りしめ、それからレイラの顔を見て声を潜めた。

「レイラ。紫の魔術師と何かあったのかい」

「え?」

 レイラが長い睫毛を瞬かせる。

「何が?」

「いや、何て言えばいいのかな」

 アルマークは言葉を探しながら、レイラの美しい顔を見つめる。

「君が、少し傷ついたような顔をしているから」

 アルマークの声が聞こえていたカラーが、驚いたように二人を振り返った。

 レイラたちを出迎えた仲間たちの誰一人として、ウォリスですらそんなことは言わなかったし、カラーにも分からなかった。

 けれど、アルマークにそう告げられたレイラは、確かに小さく息を呑んだ。

「別に」

 レイラのその反応はごく一瞬のことだった。無表情で、レイラは肩をすくめた。

「何もなかったわ」

「そうか」

 アルマークもそれ以上追及しなかった。

「じゃあ僕の気のせいだ」

「そうね」

 レイラはそっけなく頷く。

 それからアルマークがウェンディの脇に屈みこんで紫の石を腕輪に嵌めるのを見守ったレイラは、不意にぽつりと言った。

「助けてくれてありがとう、アルマーク」

「え?」

 顔を上げたアルマークがその言葉の意味を尋ねようとした時には、レイラはもう彼に背を向け、リルティたちの方へと歩き出していた。


 セラハたち黄の石チームと、コルエンたち青の石チームの帰還は重なった。

 どちらのチームも賑やかに騒ぎながら帰ってきた。

 この頃になると、戻ってきた生徒の数が増えたことに加え、ネルソンの相変わらずの快活さもあって、待つ生徒たちも皆すっかり元気になっていた。

「おっ、あいつらも元気だな」

 ネルソンが戻ってくるセラハたちを見て嬉しそうに言う。

「ははは。バイヤーが一生懸命何か話してるぞ」

「そういえば、バイヤーは女子二人と一緒の、両手に花のチームだったんだね」

 レイドーが改めて彼らを見てそう言った。

「行くときはそこまで頭が回らなかったよ」

「へえ、レイドー」

 ネルソンが珍しそうにレイドーを振り返る。

「冷静そうに見えて、お前も結構緊張してたんだな」

「当たり前じゃないか」

 あくまで穏やかに、レイドーは言う。

「僕を何だと思ってるんだい。ウォリスやアルマークとは違うんだよ」

「おい、コルエン、ポロイス、キリーブ!」

 ゼツキフが、ようやく帰ってきた3組のクラスメイトたちの名を呼んだ。

「遅かったじゃないか。苦戦したのか」

「仕方ねえだろ、こっちは三回も戦ってるんだ」

 コルエンがそう叫び返す。その言葉の意味が分からず、生徒たちは顔を見合わせた。

「ゼツキフ、間違えるな。呼ぶ順番が違う」

 キリーブが、ポロイスの隣でそう叫んだ。

「いいか。キリーブ、コルエン、ポロイス。呼ぶならこの順番だ」

「何だ、そりゃ」

 ゼツキフがきょとんとすると、キリーブは小柄な体をいっぱいに反らして胸を張った。

「勝利に貢献した順番だ」

「お前、そういうこと言うんじゃねえよ」

 コルエンに後頭部を叩かれて、キリーブが前につんのめる。

「痛いじゃないか!」

「ポロイスがかわいそうだろうが」

「仕方ないだろう、ポロイスが善戦虚しく負けたという事実は事実として受け止めないと」

「一人だけ負けちまってがっかりしてんだから、更に追い込むようなことを言うんじゃねえ」

「ふん、ポロイスにだけは優しいじゃないか。僕のことはあれほど追い込んでおいて、よく言うな」

「お前は追い込まれたおかげで勝てたんだから、いいじゃねえか」

「じゃあポロイスも追い込んでやればよかっただろう。ポロイスだってそうすれば勝てたんじゃないのか」

「ポロイスは自分で自分を追い込んでただろ。それでも負けちまったんだから」

「二人とも」

 ポロイスは、言い合いを続ける二人の肩を静かに掴んだ。

「もうその辺でいい」





やまだのぼる、ツイッター始めました。

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― 新着の感想 ―
賑やかになってきてちょっとほっとしますね。アルマークの野生の勘というか察し力はほんとに凄いな。少し声掛けてもらうだけでも、心に整理がつけやすくなるだろうからレイラにアルマークがいて良かった
[良い点] どんどん賑やかになっていく生徒たち。まだまだ油断のならない状況とはいえ、皆が無事に戻ってきてひと安心する様子が目に浮かびます。 そしてアルマークのレイラに対する察し力の高さ……! これはカ…
2023/02/07 22:58 退会済み
管理
[良い点] みんなおかえりー! 結果は既に知っているけれど無事に戻れてよかった。 アルマークのレイラ観察眼は流石ですね。 コレが下心とかなくやれから凄い。
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