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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十四章

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またね

 四人の少年少女が見守る中、ゆっくりと石板が下りてきた。

 石板の上には、『リラのゲーム ゴールはここ』と書かれた旗が翻っている。

 円状の石畳の上に着地した石板に、ゆっくりとバイヤーが近付いた。

「……僕でいいのかな」

 バイヤーは、確かめるように三人の少女の顔を見た。

「ええ。あなたが掴んで」

 とキュリメ。

「一番頑張ってたもんね」

 とセラハ。

「別に、バイヤーでいいんじゃない? でも掴んだら爆発するかもよ?」

 とリラ。

「嫌なことを言うなよ」

 バイヤーは顔をしかめた後、真剣な顔つきで旗に向き直る。

「……それじゃあ」

 石板に足を掛け、バイヤーが旗を掴んだ。

 その瞬間、周囲を黄色い光が包んだ。

「うわっ」

 バイヤーが思わず声を上げる。

「おめでとー!」

 前もって準備されていたと思しきリラの声とともに、どこからか花吹雪が舞ってくる。

 わー、という歓声も聞こえてきた。

 だが、光のあまりの眩しさに、もう誰も旗を直視できなかった。三人はローブの袖で顔を隠す。

「ちょっと待て、リラ。これは」

 バイヤーが叫ぶ。

 と、不意に歓声が収まった。

 三人が顔を上げると、もうそこは元の森だった。

 しん、と静まり返った中に、かさかさという葉擦れの音だけが響いていた。

「ああ、終わっちゃった」

 少し寂しそうなリラの声に、三人は振り返る。

 黄色いワンピースの少女は、三人を見てにこりと笑った。

「いいところでみんな死んでもらおうと思ってたのに。結局、最後まで行かれちゃった」

「僕らはしぶといからな」

 バイヤーが胸を張る。

「簡単には死なないぞ」

「よく言うよ。セラハとキュリメがいなかったら、とっくに死んでたくせに」

「そ、それは。その、何て言うか」

 バイヤーが言葉に詰まるのを見て、リラはくすくす笑う。

「でもバイヤーがいなかったら、他の二人だって死んじゃってたもんね」

「そう! そうなんだ。僕が言いたかったのはそれだ!」

 バイヤーの大きな声に、キュリメが半ば呆れたように苦笑した。

「バイヤーって本当に元気ね」

「なんだかんだで、ずっと元気だったわね」

 セラハも頷く。

「でも、その元気がすごく頼もしかった」

「そうね」

 セラハとキュリメは、リラと言い合いを続けるバイヤーを優しい目で見た。

「ああしてると、なんだか兄妹みたいだね」

 セラハが言うと、キュリメが噴き出す。

「どうしたの」

「さっき、私とバイヤーも同じことを言ってたの」

「同じこと?」

「ええ」

 キュリメは首を傾げるセラハを見た。

「あなたとリラが二人で踊ってるところ、まるで姉妹みたいだねって」

「なんだ、そんなこと言ってたの」

 セラハは苦笑する。

「でも確かに、私とあの子、すごく息が合ったのよ」

「見てたわ」

 キュリメも頷く。

「二人とも、素敵だった。私もあんな風に動けたらいいのにって思ったわ」

 そう言って、泥だらけのローブを見る。

「私は足を引っ張ってばかりだった。情けないね」

「誰にだって得意不得意があるもの。私には、あなたが書くみたいな物語は一文字だって書き出せない」

 セラハはキュリメの肩を抱く。

「お互い様よ」

「そうなのかな……うん、そうかもね」

 キュリメが躊躇いがちに微笑んだとき、顔を赤くしたバイヤーが二人のもとに駆け寄ってきた。

「聞いてくれ、二人とも! リラのやつ、やっぱり薬草には興味がないと言うんだ。こんなに面白さを教えてあげたのに!」

「だってひたすら一人で喋ってるだけなんだもん。楽しそうなのは自分だけじゃない」

 悪びれもせずに、リラが言う。

「ああ、それはバイヤーが悪いわね」

 セラハが言った。

「面白いことって、伝えるのにも工夫が要るのよ」

「なんだって」

「キュリメの劇の台本を見習ったら?」

 ぐっ、とバイヤーは喉にものが詰まったような音を出す。

「ほら、セラハだってああ言ってるよ」

 リラがけらけらと笑った。

「くそう、それなら僕が、お前にも興味が持てるように話せばいいだけじゃないか。聞かせてやる。薬草のことで、僕にできないことなんてあるもんか」

 悔しそうにリラに向き直ったバイヤーは、「いいかい、そもそも」と言いかけたところで目を見張った。

「リラ。お前、足が」

 その言葉に、セラハとキュリメも彼女を見て、息を呑んだ。

 リラの足が透けかかっていた。

「ああ、これね」

 リラは少し寂しそうに微笑む。

「私の作った試練は終わっちゃったから、それで契約も終わり。私はまた石に戻るのよ」

「……そうか」

 最初から分かっていたことだったが、目の前ではっきりとそう言われると、やはり粛然とした雰囲気が漂った。

「あーあ。ゴールさせるつもりなんかなかったのに、最後は自分でやっちゃった。ばかみたい」

 リラはそう言って、くるりと回った。

 ワンピースのスカートが風をまとってふわりと広がる。

「でも、仕方ないか。ダンス、楽しかったから」

「リラ」

 セラハが手を伸ばした。

「ありがとう、力を貸してくれて」

「どういたしまして」

 リラはセラハの手を握った。

「ああ、あったかいね。人の手は」

 リラは微笑んだ。

「私、知ってるんだ。こんなにあったかいから、人の命ってあっという間に燃え尽きて消えちゃうの。だから、私はきっとセラハたちとはもう会えない」

「リラ」

「さようなら、セラハ。キュリメもありがとう。楽しかったよ」

 セラハと手を繋いだまま、リラの姿が薄くなっていく。

「おい、リラ」

 バイヤーが叫んだ。

「僕もだ、ありがとう」

「バイヤー」

 リラはバイヤーを見て、にこりと微笑んだ。

「仲間にしてくれて、ありがとう。私、本当にあなたを連れて帰りたかった」

「また会えるぞ!」

 バイヤーの言葉に、リラは目を瞬かせた。

「え?」

「今度は僕がお前を呼びだす。だから、また会える。セラハとも、キュリメとも」

「そうよ、リラ」

 セラハが頷く。

「また会えるわ。約束よ、必ず」

 その言葉に、キュリメも頷く。

 リラは一瞬、泣き笑いのような顔を見せた。

「あなたたち人間は、自分たちがどれだけ短命なのかを知らないから」

 そう言いかけて、けれど、すぐに無邪気な微笑みを三人に向けた。

「いいわ。それなら約束よ、バイヤー。また会いましょう」

「ああ、約束だ」

「本当に、あなたって面白い」

 リラは目を細める。

「じゃあ、またね」

 その言葉と零れるような笑顔を最後に、黄色いワンピースの少女は消えた。

 後には、ワンピースと同じ色に輝く宝玉が残った。

 セラハが、それを静かに拾い上げる。

 三人はしばらく無言でその宝玉を見つめた。

「またね、か」

 バイヤーがぽつりと呟く。

「ええ」

 セラハが頷く。

「いつか、きっと」

「そうだね」

 やがて、三人は顔を上げた。

「……さあ、戻りましょう」

 セラハが言った。

「きっと、ウェンディが待ちくたびれてるわ」





ここまでアルマークの物語を追いかけてくださった皆様に、お伝えしたいことがあります。

現在、KADOKAWA MFブックスから、「アルマーク」書籍版の第一巻、第二巻が発売しています。

ウェブ版で書き足りなかった部分を大幅に加筆し、ここまで読んできてくださった皆様だからこそ、さらにより楽しめる内容になっていると確信しています。

アルマークの世界をもう一歩先へ進めるために、ぜひ!! 手に取っていただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
絶対またあって欲しい!一緒に双六とかも楽しそうですね。
[良い点] コミックの方で知り、WEB版を1話から読み始め、ついにここまで来ました。 期待以上の大作で、読み進めるのが止まりません。 好きなキャラTOP3は、 ①アルマーク ②リルティ ③バイヤー …
[一言] ここまでのベストバウトは、ダントツでキリーブ戦だったのですが、リラ戦は甲乙つけ難いですね! 面白かったです!
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