ガルエントル
馬車は街道をごとごとと進む。
「見ろ、モーゲン」
アルマークが道の先を指差す。
街道のはるか先、霞んだように巨大な都市が姿を現していた。
「ガルエントルだ」
「いつ見てもでっかいねー」
ノルクの街何個分あるんだろう、とモーゲンがのんきな感想を漏らす。
「まだお昼までずいぶんあるけど、もう着いちゃったんだね」
そんなモーゲンの言葉に、御者が振り返る。
「バカ言うな坊主。まだあんなにちっちゃいのに着くわけねぇだろ。ガルエントルが目の前いっぱいに広がって、右にも左にもガルエントルしかなくなった頃、やっとガルエントルに着くんだよ」
「はー」
モーゲンが間の抜けた声を上げる。
「さすがガライ王国の王都だねー」
「賑やかだがいろんな人間がいるからな。坊主たちも気を付けろよ」
口は悪いが人は良さそうな御者はそう言って前に向き直った。
王都ガルエントル。
正式なガルエントル市街は城壁に囲まれており、中に入るには衛兵の厳重な検査を受けるため、城門には毎日長蛇の列ができている。
城壁の内側だけでも十分に巨大な街なのだが、乗り合い馬車が着くのは城壁よりも外、壁の内側のさらに何倍もの大きさで広がる平民の街だ。
ガルエントルにいよいよ近づくと、アルマークたちの馬車だけでなく、何台もの乗り合い馬車がそこここの脇道から合流し、ガルエントルに向かって走っているのが分かった。
「全ての道はガルエントルに通じるってな」
御者が言いながら馬にムチを入れる。
「こいつらより後に着くと待合所でだいぶ待たなきゃならなくなる。こっからは飛ばすぜ!」
競走馬にするかのように馬にムチを入れ始める御者。周りの景色が飛ぶように流れ始め、馬車の車体が激しく軋む。
「あ、他の馬車も飛ばし始めたよ!」
外を見ていたモーゲンが余計なことを言う。
「他の連中も考えることは一緒だぁ! お客さんがた、しっかり掴まってろよ!」
すっかり目の据わった御者が叫ぶ。
「モーゲン、外見ないで掴まってろ! 落ちたら死ぬぞ!」
アルマークがモーゲンの腕をつかむ。
「う、うん!」
ガルエントルに着くまではなんとか車体がもってくれ、と祈りながら二人は車内で体を小さくするのだった。
どうにか待合所に二位で飛び込んだアルマークたちの馬車は、到着の手続きを早々に終えることができた。
「今回はまあまあだったな」
と満足そうな御者に、王の道の白馬車の乗り場を尋ねる。
「坊主たち、次は白馬車に乗るのか? 野宿するわりには白馬車に乗ってみたり、金持ちか貧乏かよく分からねぇな」
と言いながら、親切に乗り場を教えてくれる。
幸い乗り場は城壁よりも外にあるようだ。煩雑な検査を受けなくて済みそうだ。
二人は御者に礼を言って歩き出す。
モーゲンにとっては数回目、アルマークにとっては二回目のガルエントルだ。
待合所の近くにはたくさんの商店や露店が並び、王都に着いたばかりの旅人の財布の紐を緩めようと狙っている。
「うわ、あれおいしそう」「あれ見て、おいしそう」
モーゲンはきょろきょろと店を見ながら食べ物屋を見つける度に「おいしそう」を連呼する。それを聞いた店主たちが愛想のいい顔で手招きするので、モーゲンの両手はたちまち色とりどりの食べ物で埋まってしまう。
「モーゲン、そんなに買って食べきれるのか?」
やや呆れながらアルマークが尋ねるが、モーゲンは心から幸せそうにそれらの食べ物にかぶりついている。
「うまい! アルマークは食べなくてもいいのかい?」
「僕はいいよ。白馬車の待合所に行こう」
歩き出すアルマークを、慌ててモーゲンが追いかける。




