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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十三章

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ベリー

「まあ、君も座ってよ」

 モーゲンはアルマークを自分の隣に座らせる。

「手がかりはあるのさ」

 そう言って、モーゲンは先ほど偽者のアルマークにしたのと同じ説明を繰り返した。

「パイに入っていたフォーンベリーは、フルベリーよりも酸味が強くて、粒は一回り大きかった。色までは分からないけど」

「フルベリーよりも大きかったのか」

 アルマークは手を伸ばして、自分の積み上げた果実やベリーの山を崩す。

「そこまで分かってるなら、話は早い。ベリーからいこう。それらしいものを候補に出してみるよ」

 そう言いながら、色とりどりのベリーを並べていく。

「これはフルベリーよりも小さいな」

 毒々しい赤紫のベリーを脇によける。

「うん。それは小さすぎるね」

 モーゲンは頷いて、その左隣のベリーを指差す。

「そっちは逆に大きすぎるね」

「ああ、これか」

 アルマークは鮮やかな緑色のベリーを同じようによける。

 そんな風にしてめぼしいベリーをより分ける頃には、モーゲンの脇腹の痛みもほとんどなくなっていた。

「よし。傷も治ったよ」

 モーゲンはそう言って治癒術の光を消す。

「よかった」

 アルマークはほっとした表情を見せた。

「でも、結構魔力を使ってしまっただろう」

「うん、そうだね」

 モーゲンは頷く。

 この森で目覚めてから、次々に現れた三匹の魔物と戦い、その後で傷を癒すための治癒術まで使っている。事実、モーゲンの魔力は相当消耗していた。

 だが、そんな弱音をここで吐くわけにはいかない。

「大丈夫。食べたら元気になるよ」

 モーゲンは言った。

「ちゃんと食べれば大丈夫。僕のことは知ってるだろ、アルマーク」

「ああ」

 アルマークは頷いて、一瞬何か言いたそうな顔をしたが、すぐにそれを隠すように微笑んだ。

「ベリーや果物じゃ、あまり君のお腹には溜まらないかもしれないけど」

「さっきのパイをもう一切れもらっておくんだったね」

 そう答えながらモーゲンにも、アルマークが自分の疲労に気付いていることは分かった。

 けれど、彼がそれ以上何も言ってこないことがありがたかった。

 モーゲンも、今ここで余計な気遣いをしてほしくはなかった。

 この森で、僕はアルマークに守ってもらう足手まといじゃなくて、アルマークの相棒なんだ。

 モーゲンは自分に言い聞かせる。

 だから、自分のできることを全力でやる。

「じゃあ、これからいこうかな」

 そんな決意はおくびにも出さず、モーゲンはそう言って青いベリーを手に取った。

 口に入れる前に、丹念に匂いを嗅ぐ。

「ふうん。ミクベリーに似てる」

 色も形も全然違うのにな。

 ベリーの表面をつぶさに見つめた後で、モーゲンはベリーを顔から離すと、摘まんだ指にちょっと力を入れる。ベリーがわずかに潰れて、指に付いた青い果汁を、モーゲンは慎重に舐めた。

「大丈夫かい」

 アルマークが心配そうにのぞき込む。

「食べられそうなものを選んだつもりなんだけど」

「うん」

 モーゲンは頷いて、ベリーを割り、果肉を口に入れる。

「ちょっと青臭いのを我慢すれば意外といける」

 もぐもぐと口を動かしながら、モーゲンは言った。

「だけど、これじゃないなあ」

 そう言いながら次のベリーに手を伸ばす。

 同じ手順で慎重に味見をしてみてから、やはり首を振る。

「うん、これは食用には向かないやつだ。毒はなさそうだけど」

「そうか、これもだめか」

 アルマークは残りのベリーをモーゲンの前に丁寧に並べる。

「僕も手伝えたらいいんだけど」

「気にしないで」

 モーゲンは言いながら、次のベリーの匂いを嗅ぐ。

「あっ、これは悪くないな」

 そう言いながら、果汁を舐めた瞬間、モーゲンは顔をしかめてそれを吐き出した。

「これはだめだ」

 モーゲンは渋い顔で舌を出す。

「舌が痺れちゃった」

「えっ」

「刺激性の魔力が流れてる。もしかしたら、ちゃんと熟すまではそういう性質があるベリーなのかも」

 モーゲンは口の中で舌を動かしてみる。

 動きに影響はないが、味覚はしばらく戻らなそうだ。

 怪我ではない以上、治癒術で治すこともできない。

「ベリーの味はしばらく分からないや。ごめん、アルマーク」

「いや、謝るのは僕の方だ。僕がそんなものを持ってきたのがいけなかった」

「匂いはすごくいいんだ。これは僕も気付かないよ」

 そう言ってから、モーゲンは悔しそうにそのピンク色のベリーを見た。

「でも時間がもったいないな」

「それじゃあ、ユキメイズミの蜜っていうのはどうなんだい」

 アルマークが気を取り直したように提案する。

「今のうちにそっちの候補も選別しよう」

「ああ、ユキメイズミはね」

 モーゲンは申し訳なさそうに、アルマークの持ってきた果実の山を見た。

「きっとこの中にはないと思う」

「えっ」

 アルマークは目を見張る。

「見たことがあるのかい」

「いや、ないよ」

「それならどうして分かるんだい」

「うん。あくまで僕の予想なんだけど」

 モーゲンは前置きした。

「ユキメイズミっていうのは、木の名前だと思う」

「木」

 アルマークはその言葉を繰り返した。

「草や花じゃなくて、木の名前なのかい」

「ノルク島には生えていないんだけど、僕の地元にはユウセノイズミっていう木があってね」

 モーゲンは言った。

「根がすごく地中深くまで張っていて、吸い上げた水分を、幹に蓄えた魔力で甘くするんだ。夏の暑い時期には、この木の幹から染み出した樹液に虫がたくさん集まるんだよ」

「樹液か」

 アルマークは合点のいった顔をする。

「確かに、木の名前も似ているね。ユキメイズミと、ユウセノイズミ」

「父ちゃんが言ってたよ。まるで泉みたいに水分を幹に溜めこむから、そういう名前が付いたんだって」

 モーゲンの言葉に、アルマークは深く頷いた。

「君の父さんが言っているのなら、間違いないね」

「いや、アルマークは僕の父ちゃんに会ったことないでしょ」

 モーゲンが苦笑いすると、アルマークは真剣な顔で、関係ないよ、と首を振る。

「木工の匠たる君の、さらに師匠に当たる人じゃないか。そんな人がそう言っているなら、それはもう間違いないよ」

「僕が木工の匠っていうのも、君が勝手に言っているだけだけど」

 モーゲンはそう言うと、それでもまんざらでもない様子で立ち上がった。

「そういうわけで、僕の舌が治るまで、ユキメイズミの木を探しに行こうよ」

「賛成だ」

 アルマークはまだモーゲンが試食していない残りのベリーをローブの袖に入れると、自分も立ち上がる。

「ユキメイズミの生えていそうなところに、心当たりは?」

「ユウセノイズミなら、葉っぱを見れば分かるんだ」

 モーゲンは答えた。

「どこか、高い場所に行きたいな。そこから探せれば」

「木に登ってみるかい」

「僕には木登りは無理だよ」

 モーゲンは慌てて首を振る。

「それに、君に登ってもらうにしても、もうちょっと見晴らしのよさそうなところの木がいいな」

「そうだね」

 アルマークは頷いた。

「ここに来るまでに、それっぽい地形は見たよ。行こう」

「うん」

「傷は大丈夫かい」

「もちろん」

 モーゲンが両腕を上げてみせると、アルマークは表情を和らげた。

「この森では、君が頼りだ。木登りとか魔物の相手とか、そんな簡単なことは全部僕に任せてくれ」

 普通は、そっちの方がよっぽど難しいんだけどな。

 モーゲンは思わず噴き出した後で、不思議そうな顔のアルマークの肩を叩いた。

「分かったよ、そういう君にしかできないことは君に任せる。ゆっくりしていられないからね、行こう」





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― 新着の感想 ―
[一言] モーゲンとか、バイヤーもそうなんですが、好きなものだからといってこんなに詳細によくわかるものなのかというか、自らを省みてみるとこんなにわかるものってないなあって思うので、すごいなあと思います…
[良い点] 「アルマークの相棒なんだ」と自分を奮い立たせるモーゲンが良かったです。後ろについていくのではなく、アルマークが言ってくれているように隣に並びたい。そんな彼の気持ちを感じました。 ユキメイズ…
2022/04/16 07:17 退会済み
管理
[良い点] アルマークとモーゲン2人の信頼関係が羨ましいです。若くしてお互い一生モノの親友を手に入れましたね! [気になる点] モーゲンは大丈夫だと思いますが、いつか毒見して当たらないかと心配です!
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