(閑話)ルタの聞き込み(2番手ルート)・中編
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寮の談話室から、賑やかな笑い声が聞こえてくる。
それを聞いただけで、あなたにはすぐにぴんと来た。
ああ、あれはセラハとうちのクラスのカラーだ。
セラハはいつも誰かと仲良く喋っているが、その相手が今日はカラーというわけだ。
あなたは談話室に足を踏み入れると、テーブルを挟んだソファで向かい合って楽しそうに笑っているセラハとカラーに近付いた。
テーブルの上には、お菓子がいくつか置かれている。
「ノリシュがそんなことを言うものだから、私もまあいいやと思って廊下を曲がったら、まさにそこにウェシンハス先生がいて」
「うわ、最悪じゃない」
「とっさに逃げようと思ったけど、それよりも先に目が合っちゃって」
「合うよ、合う。ウェシンハス先生、眼力強いもん」
セラハの話にカラーが相槌を打ち、合間合間にくすくすと笑う。
「ここで何をやっているのかね、セラハ君。1組と違って2組は、フィーア先生がずいぶんと奔放に教育されているようだが。とか言われちゃって」
「待って。やばい。似てる。お腹痛い」
セラハが、我らが3年1組の担任のウェシンハス先生の悪意ある物真似をして、それを見たカラーがげらげらと笑う。
あなたは、自分も大した貴族の出ではないが、それにしてもカラーの気取らなさ具合はちょっと異常なレベルなのではないか、と思った。
笑いすぎて目尻に伝った涙を指で拭いたカラーが、後ろに立っているあなたにようやく気付いた。
「あれ、ルタ」
「え」
セラハもあなたを振り返る。
その顔にはさっきまでの笑いが残ったままだ。
「やあ、二人とも」
あなたは手を挙げて近付いた。
「楽しそうだね」
「なあに? ルタもセラハのウェシンハス先生の物真似を見に来たの?」
カラーが言うと、さすがにセラハがばつの悪そうな顔をして、テーブル越しにカラーの腕を叩く。
「ちょっと、カラー。やめてよ」
「それをウェシンハス先生風に言うと?」
「やめたまえ、カラー君。本当に君たち2組の生徒は品がない」
セラハが律儀に先生の物真似をして、それを見たカラーが手を叩いて笑う。
「似てる。お腹痛い。苦しい。死ぬ」
カラーは黙っていればそれなりの美少女なのだが、態度がこれなので、全くそういう感じがしない。実に残念な美少女だ。
「だから、やめなさいってば」
自分でも結構乗り気でやったくせにセラハがもう一度そう言ってから、ソファーを横にずれて、あなたの座るスペースを空けてくれる。
「ルタ、どうぞ」
「ありがとう、セラハ」
あなたはセラハの隣に腰を下ろした。
「ああ、面白かった」
カラーがそう言って、テーブルの上のお菓子に手を伸ばす。
「これから夕食なのに、お菓子をそんなに食べて大丈夫かい」
「大丈夫に決まってるでしょ」
カラーはあなたの言葉を気に留める様子もなく、お菓子を口に放り込む。
「お菓子は心の栄養なのよ。夕食は身体の栄養」
都合のいい話だ。
「ルタがこんな時間に談話室に来るのって珍しくない?」
セラハがさりげなく話題をあなたに向けてくる。
「どうしたの?」
「いや、実はセラハに話があってね」
「え、私?」
きょとんとするセラハの前で、カラーが、ほう、という顔をした。
「ルタにしては大胆ね。じゃあ私はお邪魔ということね」
そう言ってさっさと立ち上がる。その際にお菓子を二つ、ローブの袖に入れるのも忘れない。
「別に君がいたって構わないけど」
あなたが言うと、カラーは首を振る。
「私はそんな野暮じゃありません。じゃあ、セラハ。またね」
「うん。また」
セラハは笑顔でカラーに手を振った後で、隣に座るあなたに顔を向けた。
勧められるままに隣に座ってしまったものだから、お互いの距離が妙に近い。
あなたはセラハの真っ直ぐな視線にちょっと照れて、テーブルのお菓子を見る。
「良かったらルタも食べて」
セラハは気さくな口調でそう言うと、あなたに微笑んだ。
「それで、今日は何の話?」
「うん。実はね」
あなたは口を開く。
「この間、武術大会があったじゃないか」
「うん」
「アルマークっていう編入生が活躍しただろ」
「ああ、アルマーク」
セラハは笑顔で頷く。
「うん。活躍した。それで?」
「どんな子なのかと思ってね」
あなたは横目でセラハの顔を見る。
「彼は」
「アルマークのことが知りたいってこと?」
セラハは目を瞬かせて、あなたの二の腕を叩く。
「ルタ。あなたらしくないじゃない。それなら直接アルマークに話しかけに行けばいいのに」
「そうは言うけど」
あなたは答える。
「放課後はほとんど彼の姿を見ることはない気がする。一体どこにいるんだい」
「ああ、そういえば放課後はずっとイルミス先生の補習なのよ」
セラハは思い出したように言う。
「まだ魔法が全然使えないから」
「そうらしいね」
あなたはバイヤーの言葉を思い出して頷く。
「それじゃあなかなか苦労しているんじゃないのかい」
「苦労はしているのかもしれないけど」
セラハは人差し指を自分の頬に当てる。
「でもいつもすごく楽しそうだよ」
「楽しそう、か」
あなたは腕を組む。
「どうして、魔法も使えないのに楽しそうなのかな」
「お菓子食べないの?」
セラハはあなたの疑問に答えず、笑ってお菓子を一つ摘まむと、それをあなたの口の前に持ってくる。
「はい、どうぞ」
「ああ」
無意識にセラハの指からそれをぱくりと口にした後で、あなたは何だか急にすごく恥ずかしくなってしまった。
セラハは気にした様子もなく、自分の指に付いた菓子の粉をぺろりと舐めとると、あなたに微笑む。
「そのお菓子、おいしいでしょ」
「う、うん」
「アルマークが楽しそうにしてるのは、きっといい仲間に恵まれたからだと思う」
セラハはあなたの動揺に気付いているのかいないのか、そう言って自分の言葉に頷く。
「だって、彼と仲がいいのってウェンディとモーゲンだもの。二人ともすごく優しいし親身になってくれるから」
「ウェンディとモーゲンか」
あなたは自分が何の話をしていたかようやく思い出して、頷く。
「じゃあその二人に聞いてみようかな」
「うん。そうしなよ」
セラハは笑顔であなたの二の腕をまた軽く叩く。
「実は私もアルマークとそんなに深く話したことないの。ごめんなさい」
そう言ってぺろりと舌を出したセラハの顔を、あなたはもうまともに見られなかった。
「どうしたの、ルタ」
セラハが心配そうな声を出した。
「顔、赤いみたいだよ」
そう言って、あなたの額に手を伸ばしてくる。
「いや、大丈夫」
あなたは立ち上がった。
これ以上セラハの隣に座っていたら、まずい。この子のことを好きになってしまいそうだ。
「ウェンディかモーゲンを探してみるよ」
「うん。それがいいと思う」
セラハは頷いた後で、そういえば、と付け加えた。
「後はうちのクラス委員のウォリスに聞いてみるって手もあるかもね。ウォリスは何でも知ってるから」
「分かった。ありがとう」
あなたはセラハに手を振って談話室を出た。
「あれ、ルタ。話はもういいの」
ちょうど談話室に戻ってきたカラーにすれ違いざまにそう尋ねられたが、あなたは頷いただけでそこを離れる。
廊下で一人、ふう、と一呼吸する。
危なかった。
さて、気を取り直して。
ウェンディとモーゲン、それからウォリス。
夕食前に話を聞けるのはこれが最後だろう。
誰に話を聞いてみようか。
……女子はまずいな。ウェンディも可愛いし、セラハみたいなことをされたら今度こそ好きになってしまうかもしれない。
よし。ここはモーゲンにしておこう。
あなたはそう心に決めた。




