編成
「2組で、9グループ中6グループを編成する」
ウォリスは言った。
「だから、コルエンたち以外にあと1グループずつ、君達のクラスから出してほしい」
「それだけでいいのか」
ルクスが腕を組んでアインを見た。
「2組の負担が大きすぎねえか」
「さっきも言ったとおり、僕たちのクラスには闇との戦いの経験がある」
ウォリスはそう言って、周囲の生徒たちをぐるりと見回した。
「見たまえ。魔影を目にしただけで戸惑っている生徒も多い。そういう生徒に、邪悪な石の魔術師の相手が務まると思うか」
アインとルクスも周囲に目を向ける。
魔影たちはじわりじわりと近付いてきているが、まだ排除しなければいけないほどの距離にはいない。
その判断ができて比較的落ち着いている2組の生徒たちに対して、1組と3組の生徒の多くはどう対処していいかあまり分かっていないようだった。数人ずつで固まって、不安そうに魔影の黒い影を見ている。
「これは、2組が優れているとか1組と3組が劣っているとか、そういう話ではない。ただ、僕らには経験があり、今はそれを生かすのが最善だろうという話だ」
ウォリスの言葉に、アインは肩をすくめた。
「まあ、いいだろう」
その頭脳を目まぐるしく回しているのだろう、冷静な口調でアインは言う。
「2組が先行してもし失敗したら、そこには誰か代わりの生徒を行かせなければいけないわけだ。それはうちか3組の生徒ということになる。経験の少ない生徒には、差し当たって予備として魔影たち相手に経験を積んでもらう」
「そうしてくれると助かる」
ウォリスが頷くと、アインは彼を一瞥して付け加えた。
「ちなみにその経験とやらは、僕にはあるからな。ウォリス」
「存じ上げているよ」
ウォリスは目を細めてそう答えると、ルクスに目を向ける。
「君もそれでいいか、ルクス」
「まあ、うちはもうコルエンたちが出ちまってるからな」
ルクスは腕を解いて頭を掻いた。
「あと1グループだろ。それくらいなら出せる」
「よし。決まりだな」
ウォリスは微笑んだ。
「グループの編成は君たちに任せる。僕も自分のクラスの編成を決める。急ごう」
「ああ」
「よし」
三人のクラス委員は頷き合い、別れた。
「ウェンディはどうだ」
ウェンディを守るようにその傍らにうずくまっていたアルマークは顔を上げた。
金髪のクラス委員が、皮肉な笑みを浮かべるでもなく、真剣な目で見下ろしていた。
「見ての通りさ。怪我はしていないけど、目は覚まさない」
そう答えて、アルマークは立ち上がる。
「クラス委員の話し合いは決まったかい」
「ああ」
ウォリスは頷く。
「君にも戦ってもらうぞ」
「もちろんだ」
アルマークは言った。
「ここで待て、なんて言われたら、聞かずに飛び出すつもりでいた」
「そうだろうな。だから、そんな無駄なことは僕は言わない」
ウォリスは口元だけで笑い、それから右腕を挙げた。
「2組は、僕のところへ!」
すぐに2組の生徒たちがウォリスのもとに集結する。全員が厳しい顔をしていた。
横たわるウェンディを囲むように、2組の生徒たちは自然と円になった。
「待たせたな。戦うぞ」
ウォリスの言葉に、全員が頷く。
ウォリスはクラス委員同士で話したことを手短に伝えると、それぞれの顔を見まわした。
「この中で、グループ編成に加えてほしくない者はいるか」
その問いには、誰も答えない。
「よし」
ウォリスは頷いた。
「六つのグループを編成する。気心の知れたもの同士がいいだろう」
「俺は、デグとガレインと行く」
トルクが言った。
「それでいいか」
「ああ。僕もそうしようと思っていた」
ウォリスはトルクに頷くと、他の生徒たちを見る。
「異論は」
誰も答えないのを見てから、ウォリスは続けた。
「トルクに先を越されてしまったが、僕の考えたグループを伝える。意見があれば言ってくれ」
そう言うと、ウォリスはアルマークを指差した。
「アルマーク。君はモーゲンとだ」
「ああ」
頷くアルマークの横で、モーゲンがほっとした顔をする。
「次に、ネルソン、レイドー、ノリシュの三人」
「おう」
ネルソンが吼えるように応えた。レイドーとノリシュも厳しい顔で頷く。
「頼むぞ。次は、セラハ、キュリメ、バイヤーの三人だ」
セラハとキュリメが顔を見合わせて頷く。バイヤーが大きく息を吸った。
「バイヤー。二人を頼むぞ」
「任せてよ」
ウォリスの言葉に答えるバイヤーの声は緊張で裏返っていたが、誰も笑う者はいなかった。
「次に、レイラとリルティの二人」
「ええ」
レイラが静かに頷く。
「構わないわ」
ここに集まってからずっと、レイラは横たわるウェンディの顔をじっと見つめていた。
「ウェンディをこんな目に遭わせた奴は、絶対に許さないわ」
静かな怒り。
それがレイラに以前の氷のような雰囲気を取り戻させていた。
リルティは無言でその傍らに立つ。
「そして、最後に」
「僕とウォリスだね」
そう答えたピルマンに、ウォリスは首を振った。
「いや、ピルマン。すまないが最後は僕一人で行く」
「えぇ?」
「おいおい、大丈夫かよ」
ネルソンが顔をしかめる。
「いくらウォリスだって、たった一人で」
「一人の方が動きやすいのでね。僕の心配はいらない」
そう言った後で、不満そうなピルマンの肩を叩く。
「ピルマン。君には実は他にやってもらいたい大事な任務があるんだ」
ウォリスが2組の生徒たちを引き連れて戻ると、1組のアインとフィッケとエメリア、3組のルクスとエストンとロズフィリアが待っていた。
「決まったようだな」
ウォリスの言葉に、アインが頷く。
「ああ。1組はこの三人で行く」
そう言ってから、ウォリスの背後のアルマークに目を向ける。
「アルマーク。ウェンディはルームメイトのカラーが見てくれるそうだ」
「ありがとう、アイン」
アルマークは頷いた。
「カラーなら安心だ」
「さっさと戻ってくるからよ」
フィッケが場違いなほど明るい声で言った。
「多分、うちが一番早く帰ってくるぜ。なんたって、この魔獣殺しのフィッケ様が、おっと」
フィッケは慌てて口を手で押さえた。
「いけねえ。これは言わないつもりだったのに」
「頼りにしてるよ、フィッケ」
アルマークは微笑んだ。
「アインが君を選んだ理由が分かる気がする」
その言葉に、アインが少し嫌な顔をする。
「3組からは、ロズフィリアとエストンが行くぜ」
ルクスの言葉に、ウォリスが意外そうな顔をした。
「ルクス。君は行かないのか」
「行ってもいいなら行くけどよ」
ルクスは渋い顔をする。
「ウォリスもアインも行くんだろ? だったら、クラス委員一人くらいはここに残った方がいいだろ」
「確かにな」
ウォリスは目を瞬かせて頷いた。
「初めて君に感心したぞ」
「初めては余計だ」
ルクスはますます渋い顔をする。
「ま、この二人なら不満はねえだろ。うちでも最高クラスの戦力だ」
「ああ。異存はない」
ウォリスはロズフィリアに微笑んで見せた後で、腰に手を当てた。
「さて、これでコルエンたちを含めて9グループができたわけだが、あとは石がどこに飛んだのかだな」
「緑と黄色は向こう、黒はあっちだよ」
そう言って彼方の森を指差したのは、モーゲンだった。
「あと、紫は向こうに落ちた」
「さすがモーゲン」
アルマークが微笑んで肩を叩く。
「目がいいな」
「全部は見切れなかったんだ」
モーゲンは少し悔しそうに言った。
「私はもう色を決めてるの」
ロズフィリアがそう言って、一方の方角を指差す。
「こっち」
「そっちに飛んだのは、金だったな」
ウォリスの言葉に、ロズフィリアは嬉しそうに頷いた。
「ええ。どうせなら、一番派手な石を狙うわ」
「おそらく強敵だぞ。大丈夫か」
「エストンが嫌なら、変えてもいいわ」
「そんなことを言うはずがない」
エストンがむっとした顔で答える。
「それなら任せよう」
ウォリスは微笑んで、それから他の生徒を見た。
「他の石の飛んだ方向を見た者は?」
ウォリスの問いかけに、ばらばらと意見が上がり、じきに全ての石の飛んだ方向が分かった。
「時間が惜しい。後は僕が決めるが、いいか」
「そうしてくれ」
アインは頷く。
「その方が効率的だ」
「分かった」
ウォリスは、まるでもう決めていたかのように手早く指示を出す。
それに異論も出ず、すぐに九つの石を取りに向かうグループが決まった。
赤の石を、アイン、フィッケ、エメリアが。
青の石を、コルエン、ポロイス、キリーブが。
白の石を、ネルソン、レイドー、ノリシュが。
黒の石を、トルク、ガレイン、デグが。
緑の石を、アルマーク、モーゲンが。
黄の石を、セラハ、キュリメ、バイヤーが。
紫の石を、レイラ、リルティが。
銀の石を、ウォリスが。
金の石を、ロズフィリア、エストンが。
「杖を忘れるなよ」
ウォリスは言った。
「魔影がそろそろ増えてきた。魔力は極力温存を」
それから、この冷静なクラス委員にしては珍しく声を張った。
「イルミス先生の言い残されたとおりだ」
そう言って、仲間たちの顔を見まわす。
「全員が、無事で!」




