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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十一章

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使い道



「魔術師というものは」

 講堂。

 壇上に立つヨーログの、穏やかだが威厳のある声が響き渡った。

「己の力を常に把握していなければならない」

 そう言って、自分を見上げる初等部3年の生徒たちを見回す。

「なぜだか分かるかね」

 ヨーログは問いかけた。

 それから一拍間をおいて、中段あたりに座る一人の生徒を指差す。

「アルマーク」

 ヨーログはその生徒の名を呼んだ。

「君に答えてもらおうか」

「はい」

 学院長から指名されて、アルマークは立ち上がった。

「ええと」

 言葉を探すように宙を睨む。

 隣に座るウェンディが心配そうにアルマークを見上げた。

 だが、すぐに彼は答えを見つけたように小さく頷く。

「魔術師は」

 そう言って、アルマークはヨーログを見た。

「あるがままを見る必要があるからです」

「ふむ」

 ヨーログは頷いた。

「それだけかね」

 そう問われて、アルマークは困ったように首を傾げる。

 ヨーログは微笑んで、手を軽く挙げた。

「ありがとう。だが答えが少し抽象的だね。それでは、その後ろの」

 ヨーログはアルマークの後方に目を向ける。

「トルク。君はどうかね」

「はい」

 アルマークが着席するのと入れ替わりに、指名されたトルクが立ち上がる。

「己の力を常に把握するのは、強くなるためです」

 トルクは答えた。

「自分の力を知って、もっと強くなるため」

「なるほど」

 ヨーログはまた頷いた。

「トルク。君らしい答えだ」

 それから、ヨーログは目をさらに後方に向ける。

「2組の生徒ばかりを指すのは不公平かな。3組の生徒にも聞いてみようか。コルエン」

「はい」

 名を呼ばれたコルエンが立ち上がった。

「すみません。最初の質問を聞いていませんでした」

 その言葉に、クラス委員のルクスが渋い顔でため息をつく。

「そうか。しっかり聞いていたまえ」

「すみませんでした」

 コルエンが頭を下げて着席する。

「それでは、その隣の」

 ヨーログはコルエンの右隣に目を向けた。

「キリーブ」

「はい」

 キリーブが勢いよく立ち上がる。

「君はどう思うかね」

「はい。僕は」

 キリーブは前のめりに喋り出した。

「適切な場合に適切な魔法を使うためには、その時の自分の状態をきちんと把握しておく必要があると思います。もちろん僕が今言っている状態というのは身体のことばかりではなく、精神の状態や魔力の状態も含みます。精神が整わずに余計な雑念が入ってしまっては判断を誤ることも往々にしてありますし、これだという魔法を使ってもきちんと魔力が練れなかったり、そもそも魔力が枯渇しているような状態であっては魔法の効果を顕現させることもおぼつきません。ですので、常に自分を見つめ、自分を最高の状態に整えておくことで、自分の目指す最高の魔術師としての自分を保つことができるのです。それはつまり」

「自分、自分って何回言うんだよ」

 コルエンが小さな声でそう呟いて、くくく、と笑う。

「なんだと」

 キリーブが顔を赤くしてコルエンを睨んだ。

「おい、聞こえたぞ。まるで僕が自己中心的な人間のような言い草を」

「言ってねえよ、そんなこと」

 コルエンがそう言って肩を震わせる。

 キリーブはますます顔を赤くして声を荒げた。

「そもそもお前が学院長先生の話をちゃんと聞いていないから」

 そのやり取りにあちこちで忍び笑いが漏れる。

「ふむ」

 ヨーログは頷いた。

「君の言いたいことは分かった。ありがとう、キリーブ」

「はい」

 コルエンを睨んで肩で息をしながら、キリーブが腰を下ろす。

「色々な意見が出た」

 ヨーログはそう言って、生徒たちを見回した。

「だが、まだ出ていない理由がある。それが私の最も言いたいことでもある。誰かほかに、これだと思う者は」

 その呼びかけに、ばらばらと数人の手が挙がる。

 ヨーログは微笑んで、その中の一人を指差した。

「ウェンディ。君の意見を聞こう」

「はい」

 アルマークの隣に座っていたウェンディがすっくと立ち上がる。

「私たち魔術師が使う魔法には」

 ウェンディは、よく通る澄んだ声で言った。

「責任が伴うからです。私たち魔術師は、使った魔法について責任を負う義務があります。自分の力を見誤って、責任を負うことのできない魔法を使ってしまわないために、私たちは自らの力を常に把握していなければなりません」

「うむ」

 ヨーログは頷いた。

「その通りだ。ありがとう」

 そう言って、手振りでウェンディを着席させると、ヨーログは改めて生徒たちを見た。

「この学院にいるとその感覚が麻痺してしまうが、実は君たちの使う魔法というのは、魔術師ではない一般の人々にとってはとても恐ろしい力だ」

 その青い目が、きらりと光る。

「ゆえに、君たちはその使い道を誤ってはならない」



「ギルフィンが動くぞ」

 黒狼騎兵団の中の目ざとい傭兵が、ギルフィンのわずかな前進を見て声を張り上げた。

「気を付けろ、でかい魔法を使ってくるぞ」

 それに呼応するかのように、黒鎧の騎兵たちが散開する。

 ギルフィンに的を絞らせないつもりだろう。

 ふん、さすがによく見ている。

 ギルフィンは口元を緩めた。

 気を付けるべき相手が誰かも分かっている。

 だが。

 ギルフィンは馬上で短い杖を、ぐい、と突き出した。

 気を付けろ、だと?

 その身体の中で、狂暴な魔力が渦巻いた。

 気を付けてみろ。気を付けられるものならな。

「マハド。まず5番だ」

 ギルフィンの言葉に、マハドが直ちに呼応する。

「5番!」

 ギルフィン魔道傭兵団の部隊長たちがそれを復唱する。

「5番!」

「5番だ!」

 それと同時にギルフィンの配下の傭兵たちが一斉に顔を伏せた。

 次の瞬間。

 光。

 ギルフィンの魔力が杖を通して凄まじい光の奔流となって溢れ出した。


 貴様らの常識で、俺の魔法を量ろうとするな。


 ギルフィンの口元に抑えきれない凶暴な笑みが浮かぶ。

 戦場に、まるで太陽が降ってきたかのような強烈な光が炸裂した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] キリちゃんはやっぱりキリちゃん!学院長の前でもブレない子!ww [一言] 学院長のことばと、力の使い方を誤ってしまったギルフィン。その対比が鮮烈ですね。 ギルフィンのときの苦い経験は、ア…
[一言] 「己の力を常に把握していなければならない」 自分のメラがメラゾーマ並みに強いならちゃんと把握しとかないと味方巻き込んだりして危ないですからね 自分の力の強さに無自覚なのはいけませんな
[良い点] 1組アイン「不公平だ」 ヨーログの問いかけに他の登場人物ならどう答えるのか考えるのも楽しい。
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