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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十章

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寝起き

 港から帰ってきたノリシュたちは、焚火の傍でほかの男子と一緒にパンをかじっているアルマークを見て目を丸くした。

「アルマーク!」

 セラハが真っ先に嬉しそうに声を上げた。

「もう起きられたの?」

「うん。もう大丈夫だ」

 アルマークは頷いて立ち上がる。

 それを見てセラハは目を丸くして笑った。

「さすが、タフね」

「ありがとう。君たちに命を助けてもらったおかげだ」

「私たちは、別に大したことはやってないわよ。ねえ、ノリシュ」

「そうね」

 セラハに視線を向けられたノリシュは、微笑んで頷く。

「私たちは別に」

「そうそう」

 ネルソンが焚火で温めたパンを頬張りながら頷いた。

「こいつは大したことはやってねえよ。俺と同じくらい」

「あんたには言われたくないわよ」

 ノリシュがネルソンを睨む。

 それを見たセラハが、あはは、と明るく笑う。

「ネルソンのいびき、うるさかったよね」

「そ、そんなことねえだろ」

 ネルソンが顔を赤くした。

「アルマーク」

 ノリシュは優しい目でアルマークを見る。

「私たちへのお礼の言葉は、全部ウェンディのためにとっておいてあげて」

「うん。でも、僕の気が済まない。みんなにも言わせてほしい」

 アルマークは二人の顔を見る。

「ありがとう、ノリシュ。ありがとう、セラハ」

 まっすぐに感謝の言葉を口にするアルマークに、セラハは照れくさそうな顔をして、ノリシュの腕をつつく。ノリシュは笑顔で頷いた。

「あなたにそう言ってもらえて、私たちも嬉しいわ」

 それからアルマークはその後ろのリルティにも顔を向ける。

「ありがとう、リルティ。僕はあんなに美しい北天の歌を聞いたのは初めてだった」

 リルティはその言葉に、恥ずかしそうに目を伏せる。

「補習であなたの歌を聞いておいてよかった」

 リルティは小さな声で言った。

「イルミス先生に感謝しないと」

「イルミス先生に」

 アルマークは久しぶりにその名を聞いた気がして、思わず微笑む。

「そうだね」


 試験までに起こる全てのことを、君の糧としたまえ。


 イルミスの言葉が蘇る。

 イルミス先生は、この島で何が起きるのか分かっていたのだろうか。星読みである学院長から、何か聞かされていたのだろうか。

 そんな感慨に捉われたのは一瞬だった。アルマークは最後に、一番後ろにいた少女に声をかける。

「ありがとう、キュリメ。心配をかけたね」

「私はあまり心配はしていなかったわ。あなたが強いのは知っていたから」

 キュリメはそう言って複雑な表情を見せた。

「でも、闇の力が私の予想よりもずっと強かったから、驚いた」

「うん」

 アルマークは頷く。

 “銀髑髏”。“陸の鮫”。南の地で出会うはずのない、北の傭兵たち。

「とても強かった」

「まさか、あなたがあんな状態になるなんて」

 キュリメの瞳が揺れた。

「怖かったわ」

「命を失う、ほんの一歩手前だった」

 アルマークの言葉に、ノリシュやセラハも息を呑む。

「でも、生き残れた」

「それって」

 セラハがおそるおそる尋ねる。

「アルマークが勝ったのよね」

 そう言って、探るようにアルマークの目を覗き込む。

「別の何かが、あなたの身体を乗っ取ったりしてない? あなたの中に何かいない?」

「君の魔女と同じだよ」

 アルマークは答えた。

「呪われた剣士アルマークなら、多少は僕の中にいるかもしれない」

 冗談めかしたアルマークの言葉に、セラハが笑ってアルマークの腕を叩く。

「これはアルマークね」

 セラハは言った。

「このつまらない冗談は間違いないわ」

「確かに」

 ネルソンが笑う。

「勝ったのはアルマークだ」

「勝てたのは、僕一人の力じゃない」

 アルマークは言った。

「みんなの魔力が背中を押してくれた」

「届いたんだね、僕らの魔力が」

 新たな薬草を煮込み始めながら、バイヤーが言う。

「多少は役に立てたわけだ」

「もちろんだよ。多少どころか」

 その時不意に、がさがさ、と女子のテントが揺れ、その中で物音がした。

「アルマークの声がしたわ」

 慌てた様子のウェンディの声。

「アルマーク、もう大丈夫なの?」

「ああ、ウェンディ」

 アルマークはテント越しに呼びかける。

「ありがとう。君にまた命を助けてもらってしまった」

 ばさり、とテントの入り口の布が開かれ、ウェンディが顔を出した。

 アルマークの顔を見て、その表情がくしゃっと歪む。

「よかった」

 心からほっとしたように、そう呟く。

「ウェンディ」

 アルマークも思わず頬を緩めた。

「君も、無事で」

「うん」

 ウェンディは頷いた後で、はっと何かに気付き、慌てて顔をそむけた。

「見ないで、アルマーク」

「え?」

「私、今起きたばかりでひどい顔をしているから」

「何を言ってるんだ」

 アルマークは目を瞬かせる。

「ウェンディにひどい顔なんてない」

「違うの、そういうことじゃなくて」

 ウェンディは乱れた髪を手で押さえながら、顔を伏せた。

「昨日はたくさん泣いたりしたし、今は、ちょっと」

「え?」

「ごめんなさい」

 そう言って、テントの中に顔を引っ込めてしまう。

「ウェンディ。どうしたんだ」

 驚いてそう声をかけ、テントに歩み寄ろうとするアルマークの肩を、レイドーが止めた。

「アルマーク。しばらくウェンディに時間をあげよう」

 そう言って、焚火の向こうの海を指差す。

「ほら。海でも見ながら待ってあげたらいいと思うよ」

「いや、でも」

 アルマークは戸惑った顔でレイドーを見た。

「僕はウェンディにお礼を言いたいんだ」

「ウェンディがこっちに出て来たら、ゆっくり言ってあげて」

 ノリシュがそう言ってアルマークの背中を押した。

「ほら、アルマーク」

 モーゲンが手を上げてのんびりとアルマークを呼ぶ。

「僕のスープをもう一杯飲みなよ」

「そうだぜ、アルマーク」

 デグがそう言って、それでも女子のテントを心配そうに振り返るアルマークを見てにやりと笑った。

「俺の尊敬するトルクなら、今のアルマークを見てこう言うぜ。な、ガレイン」

 デグがガレインの肩を叩く。

 ガレインが口を開いた。

「ふん、情けねえ面しやがって。ウェンディは逃げやしねえよ。どっしり構えてろ」

 模声の術。それは久しぶりに聞くトルクの声だった。

 思わずアルマークも噴き出す。

「そうだね」

 そう言って、おとなしくテントに背を向け、モーゲンの隣に腰を下ろす。

「トルクの言う通りだ」

 アルマークはレイドーに言われた通り、眼下の海を見た。

 昨夜の苦闘が嘘のように、青く穏やかな海。

 それを見ながらトルクの声を思い出すと、不思議と落ち着いた気持ちになれた。

「ウェンディは逃げやしねえ、か」

 アルマークは呟いた。

 確かにその通りだ。

 ウェンディは逃げたりはしない。

 海風が、アルマークの頬をそっと撫でた。




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― 新着の感想 ―
[一言] ウェンディにひどい顔なんてない、ってそりゃそうでしょうけれども(笑)。 デグのふりからのガレインの模声、流れるような連携プレーに拍手。
[良い点] お礼を言ったり、冗談を言ったり、笑い合ったり。ようやく平穏な時間が戻ってきた感じがします。みんなで窮地を乗り越えたからか、一層絆が深まっているようにも感じて嬉しくなりました。 [一言] 慌…
2021/04/10 14:44 退会済み
管理
[良い点] よっ! トルク兄貴待ってました〜! 回想でも何でも、どこかで登場してくれるんじゃないかと密かに期待してましたが、なんと美味しすぎる出番、、、!
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