組合せ
始まる前は何だかんだと言っていた女子たちも、くじを引く時になるとやはり楽しそうに笑い合う。
「同じ番号の紐を引いたやつ同士がペアだからな」
ネルソンはそう言うと、忙しなくデグとガレインを連れて茂みに駆け込んでいく。
木札を置いたり、脅かす準備をするつもりなのだろう。
「リルティもやればいいのに」
セラハが明るい声で言うが、リルティは首を大きく振った。
「絶対だめ。気を失っちゃうに決まってる」
「そうかぁ。残念」
そう言って笑うセラハの手に握られた紐の先には4という数字。
「セラハは4か。それなら僕とだ」
バイヤーが同じく4の数字の書かれた紐を持って言う。
「あ、私のペア、バイヤーなんだね」
セラハはにこりと微笑む。
「よろしくね」
アルマークは、ウェンディの紐に書かれた3という数字を見て、残念そうに微笑んだ。
「ばらばらになってしまったね」
「うん。残念」
ウェンディもアルマークの2という数字を見て苦笑する。
「仕方ないね」
「うん」
二人は仲間たちに向き直る。
「ええと、2番は誰だろう」
アルマークが女子の顔を見回すと、ノリシュが手を挙げた。
「私、2番」
「ノリシュか。よろしく頼むよ」
「いいなぁ、ノリシュ。アルマークとなんだ」
セラハが笑う。
「絶対安心だよ」
「うん。アルマークとなら少しは安心だけど」
ノリシュは頷いて、茂みの奥を睨んだ。
「でもあいつら、何をしてくるか分からないから。油断できない」
「ウェンディは3番か」
そう言ったのはレイドーだ。
「僕とだね」
「レイドーが3番だったんだ。よろしくね」
ウェンディは微笑む。
「アルマーク。君には悪いけど、くじだから仕方ない。僕がウェンディをエスコートするよ」
「え、いや僕は別に」
レイドーの突然の言葉に、アルマークは驚いて首を振った。
「ウェンディ。僕で我慢してくれ」
「え、あのその」
レイドーにそう言われ、ウェンディも顔を赤くして口ごもる。
「アルマーク。君もネルソンに恨まれないようにね」
レイドーはアルマークの肩を抱き、穏やかに囁いた。
「え、ネルソンにかい」
アルマークが目を白黒させると、レイドーの背中をノリシュが強く叩く。
「レイドー、さっきからあなたはおかしなことばかり言って」
「いてて。まあ、余計なことは言わないようにするよ」
レイドーは笑ってノリシュから逃げるように離れる。
「ねえ、これって1番の人が最初に行くのかな」
1と書かれた紐を持ったキュリメが、不安そうな声を上げた。
「どうだろう。あいつ、そこまで考えてないと思うけど」
ノリシュが首を傾げる。
「こういうのは、さっさと終わってみんなが帰ってくるのを待つほうが面白いんだよ」
ピルマンがそう言って1と書かれた紐をぷらぷらと揺らした。
「ええと、整理しましょう。結局、誰と誰がペアになったんだろう」
ウェンディが言って、決まったペアごとに並んで立たせる。
1番が、ピルマンとキュリメ。
2番が、アルマークとノリシュ。
3番が、レイドーとウェンディ。
4番が、バイヤーとセラハ。
参加しないリルティを交え、それぞれのペアで話をしていると、ネルソンが一人で帰ってきた。
「おう、決まったか。じゃあ、1番から行くか」
「えっ、もう始まるの」
キュリメが不安そうな声を出す。
「そりゃそうだろ」
ネルソンが歯をむき出して笑う。
「それとも、もっと真夜中になるのを待ったほうが盛り上がるかな」
「それは嫌」
キュリメが首を振った。
「早く済ませたい」
「よし」
ネルソンは笑顔で頷いた。
「じゃあ、ゆっくり百数えたら来いよ。次のペアはキュリメたちが帰ってきたら出発な」
そう言ってピルマンの肩を叩いて、元気に茂みの方へと走り去っていく。
「うう、いやだなあ」
キュリメは心細そうに自分の肩を抱いた。
「ピルマン、姿消しの術とか使わないでね」
「うーん、本当に怖かったら消えるかも」
ピルマンの言葉にキュリメがさらに不安そうな顔をする。
「ピルマン、そういうこと言っちゃだめよ」
ノリシュが言った。
「僕がいるから大丈夫、くらいのことを言わないと」
「そういうものかい」
ピルマンは目を瞬かせてレイドーとアルマークを見た。
「なんて言えばいいんだろう」
「そうだね、女子が不安そうにしているのなら、安心させてあげればいいと思うよ」
レイドーが答える。
「どういう言葉をかけるのかは、その人によると思うけれどね」
「そうか、そういうものなんだ」
ピルマンは腕を組む。
「ええと、それじゃあキュリメ」
「はい」
「怖くなったら、一人では姿を消さないから」
「え?」
キュリメがきょとんとする。
「それってどういう意味?」
「だからさ」
ピルマンは少し照れくさそうに言った。
「僕がいるから大丈夫、とは言えないけど。怖くなったら一人で姿は消さないよ。二人で一緒に姿を消そう」
その言葉に、ウェンディがくすりと笑う。
「ピルマンらしい」
「そうだね」
ノリシュも微笑む。
キュリメも、少し表情を緩めた。
「変に大丈夫って言われるよりは安心するかも」
「それが君の言葉だね」
レイドーがピルマンの肩を叩く。
「僕の言葉は何だろうな」
アルマークが考え込む。
「あなたはいいのよ」
ノリシュが笑った。
「そこにいるだけで安心だから」
「そうだね。君の場合は、存在感のほうが雄弁だ」
頷くレイドーを、ウェンディがいたずらっぽく覗き込む。
「レイドー、あなたは? 何て言ってくれるの?」
「僕かい?」
レイドーは意表を突かれたように目を瞬かせる。
「そうだな」
そう言って、顎に手を当ててしばらく考えた後、ウェンディを見て微笑んだ。
「今の君は、別に僕の言葉を必要としていないからね。必要になったら、そのときに考えるよ」
「なあに、それ」
ウェンディが苦笑する。
「うまく逃げられた感じ」
「ところで、いいのかい」
最後尾でセラハに薬草の話をしていたバイヤーが不意に言った。
「誰も百数えてないけど」
「あっ、そうだった」
ピルマンが声を上げる。
「やばい。行こう、キュリメ」
そう言って、キュリメの手を取る。
「あ、う、うん」
二人が駆け出す。
ピルマンの左手の上で揺れる炎の灯りとともに、二人の姿が茂みの奥に消えると、セラハが、ぷっと吹き出した。
「なんだかんだ言って、キュリメも元気に行っちゃったね」
そう言って、二人が消えたほうを優しい目で見やる。
「言葉でどうこう言われるより、結局手を引っ張ってもらったほうが安心するんだよね」




