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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二十章

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出発の朝

「アルマーク、こっちだ」

 ネルソンが笑顔で手を振った。

 寮の倉庫に積まれたテントの袋を、モーゲンやレイドーが重そうに担いでいる。

「僕も持つよ」

 アルマークが駆け寄ると、倉庫の中からデグがにゅっと顔を出した。

「アルマークは、こっちだ」

 そう言って、テントの支柱の束を差し出す。

「結構重いぜ」

「分かった」

 受け取ったアルマークは慣れた手付きで紐を縛り直す。

「背中に背負ってみてくれよ」

 デグが言った。

「アルマーク、夜の薬草狩りのときに剣を背負って来たじゃないか。俺、あれがかっこよくて好きだったんだ」

 その言葉に、アルマークと同じ支柱の束を肩に担いだガレインが顔を出して頷く。

「剣とはだいぶ感覚が違うからな」

 アルマークはそう言いながら、支柱の束を背負った。

「こうかい? あんまりかっこよくないと思うよ」

「いや。アルマークが持つと」

 デグは嬉しそうにガレインを振り返る。

「剣を何本も持ってるみたいだ。な」

「ああ」

 ガレインもにやりと笑った。

「そうかな」

 アルマークは苦笑いして首をひねる。

「忘れ物はないか、確認してくれ」

 レイドーが言った。

「ひとつでも忘れたら、テントが建たないからね」

「去年は参ったよな」

 ネルソンが思い出したように笑う。

「大事な支柱を一本忘れてさ」

「それ、まずいんじゃないか。どうしたんだい」

 アルマークが尋ねると、レイドーが答えた。

「海岸でちょうどいい流木を拾って、代用したのさ」

「あれはあれで面白かったけどな」

 ネルソンが笑う。

「忘れ物がないなら、もう行こうよ」

 テントを担いだモーゲンが声を上げた。

「このテント、本当に重いよね。これじゃ港につく前に汗だくになっちゃうよ」

「浮かせればいいんだ」

 デグがそう言いながら、自分の持つテントをふわりと宙に浮かべた。

「このままで持っていけば楽だぜ」

「身体は楽だけど、港まで浮かせたままじゃ魔力がもたないよ」

 モーゲンは首を振る。

「お腹が空いて倒れちゃう」

「それなら文句言わずに持つしかねえな」

 ネルソンが笑顔でモーゲンの肩を叩いた。

「さ、行こうぜ」

「仕方ないな」

 モーゲンも覚悟を決めた顔で歩き出す。

「頑張れば頑張った分、ご飯がおいしくなる」

 そう自分に言い聞かせるように言う。

 アルマークたちは倉庫を離れて、正門に向かって歩き始めた。

「他の人は?」

 アルマークが尋ねると、レイドーが答える。

「バイヤーが先にノリシュと一緒に港に行って船の手続きをしてくれてる。女子はこっちに寄らずに直接港に向かってるはずだよ」

「なるほど」

 アルマークは頷く。

「ずりいよな、女子は」

 ネルソンが言った。

「俺たちにだけ重い物持たせてよ」

 レイドーは笑って首を振る。

「テントは俺たちが持っていくから心配すんなってノリシュに豪語したのは君じゃないか」

「そうだっけな」

 ネルソンは肩をすくめた。

「そういえば、ピルマンは?」

 アルマークが尋ねると、どこからかピルマンの声がした。

「僕はここさ」

 その言葉とともに、ピルマンが姿を現す。

「思い出してくれてありがとう」

「姿消して遊んでんじゃねえよ、ピルマン」

 ネルソンが、担いでいたテントの袋を一つ地面に置く。

「お前の分だぞ、頼むぜ」

「はいはい」

 ピルマンがその袋を担いだ。

 まだ日も昇らない時刻だ。正門を抜け、冬の朝の静かな街をアルマークたちは歩いた。

 重いテントを、途中で魔法で浮かせてみたりしながら、みんなで苦労して運ぶ。

「モーゲン!」

 明らかに肩で息をして遅れ始めたモーゲンに、ネルソンが振り返って声をかける。

「しっかりしろ。港はもうすぐだぞ」

「モーゲン」

 アルマークはモーゲンに駆け寄った。

「僕が持とう。君は少し休んで」

「いや」

 モーゲンは汗まみれの顔を横に振った。

「ありがとう、アルマーク。でも自分の分は自分で運ぶよ」

「そうか」

 アルマークは頷く。

「君がそう言うなら」

「頑張るのはいいけど、船の時間もあるからな。無理なら早めに言ってくれよ」

 ネルソンが言い、それにレイドーも頷く。

「そうだね。モーゲン、これは訓練じゃなくて遊びだからね。辛いことを頑張ってやるのは、今日は無しだ」

 その言葉に、モーゲンは頷いた。

「うん、分かってる。僕だって、港からまたこれを持ってそのまま寮に帰るのはごめんだからね」

「それだけ軽口が叩けりゃ平気だな」

 ネルソンが笑う。

「だから俺みたいに浮かせたほうがいいってば」

 荷物を浮かせて涼しい顔で歩くデグに、ネルソンが苦笑する。

「お前のそれは名人芸だって。よくそんなにずっとバランスとってられるよな」

 やがて、ようやく港が見えてきた。

「星の守り号」のような大型の商船の停泊する波止場とは違う、比較的小型の船が停泊する波止場に足を向ける。

「やっと見えた」

 上気するほど汗だくになったモーゲンが声を上げた。

 アルマークたちの目にも、すでに集合している五人の女子と、バイヤーの姿が見えた。

 輪になって談笑している女子の姿は、普段よりどことなく華やかに見える。

「あ、男子来たよ」

 セラハがアルマークたちを見て声を上げた。

「お疲れ様。こっちこっち」

 そう言って、大きく手を振る。

「おう。やれやれ、間に合ったな」

 ネルソンが安心したように息を吐いた。

 ずっと軽口を叩いてはいたが、内心では船に間に合うか冷や冷やしていたようだ。

「ありがとう。テント、重かったでしょう」

 そう言いながら駆け寄ってきて手を貸そうとするウェンディに、ネルソンは笑って首を振る。

「いいよ、いいよ。さすがにウェンディには持たせられねえ」

「大丈夫だよ、ウェンディ。ネルソン、力だけはあるから」

 船員たちと話をしていたノリシュが振り返ってそう言うと、ネルソンに手を振った。

「ネルソン、ここまで持ってきて」

「おう」

 ネルソンが返事をする。

 ネルソンに続いてアルマークたちも荷物をノリシュの元に運び、最後にモーゲンの荷物をアルマークが代わりに運んで船員たちに託すと、ようやく身軽になった男子グループも女子たちに合流した。

「おはよう、ウェンディ」

 改めてアルマークが声をかけると、ウェンディは嬉しそうに微笑む。

「おはよう、アルマーク」

 毎日、寮で顔を合わせているはずなのに、こうしていつもと違う服で港で会うというだけで、なんだか特別な感じがする。アルマークの胸も沸き立った。

「重かったでしょ、テント」

「ああ、うん」

 アルマークは頷く。

「僕はそれほどでもなかったけど。モーゲンが大変そうだったよ」

「それじゃ、船の上ではゆっくりと休んでもらわないとね」

 ウェンディは波止場にへたり込んでいるモーゲンを見て微笑んだ。

「そうだね、頑張っていたから」

 アルマークもモーゲンを優しい目で見る。

「ところで、僕は実は全然分かってないんだけど。クラン島にはどれくらいで着くんだろう」

「ええとね」

 ウェンディは少し考える素振りを見せた。

「お昼前には着くと思うよ」

「へえ。そんなに近いのか」

 アルマークが驚くと、ウェンディは頷いた。

「うん。着いたら、クランの漁村で必要なものを買って野営場に行くの」

「漁村にもお店があるんだね」

「漁村っていっても、観光地みたいなところだから」

「なるほど」

 ウェンディの言葉にアルマークが納得して頷いていると、含み笑いをしたネルソンが近付いてきた。

「おい。今、船員の人たちが話してるのを聞いちまったんだけどさ。面白そうなこと話してたぞ」

「面白そうなこと?」

 アルマークが目を瞬かせると、ネルソンは頷いた。

「ああ。俺もちょっと聞いただけだから詳しいことは分からねえけど」

 ネルソンが声をひそめる。

「最近、クラン島の沖合に幽霊船が出るらしい」





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― 新着の感想 ―
[一言] さてはピルマン、意外とひょうきんなやつですな? クラスにもいたなぁ。普段影が薄いけど、実は面白いやつ
[良い点] ピルマンww もしかしてはしゃいでますね?
[一言] うん、いきなり出だしからフラグの回収が始まったね……いやいや早すぎるよねw 北関連か、闇関連か…ライヌル関連では無いよね?
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