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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第十九章

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遠く

 翌日。

 朝、アルマークはウェンディと一緒に登校しようと、彼女の部屋を訪ねた。

 ノックすると、勢いよくドアが開いてカラーが顔を出した。

「あら。アルマーク」

「やあ、カラー。おはよう」

「おはよう」

 そう言ってから、カラーは首を傾げる。

「ウェンディならもう出たわよ」

「えっ」

「部屋にいても落ち着かないみたいだったから。早めに行くって」

 カラーはそう言って、探るようにアルマークを見る。

「ウェンディ、昨日帰ってきてから、少し塞ぎ込んでいたみたいだけど。またけんかでもしたの?」

「いや、けんかなんてそんな」

 アルマークが慌てて手を振ると、カラーは顔をしかめた。

「あなたたち、仲良さそうに見えて、結構よくけんかするよね」

「だから違うってば」

 アルマークは首を振る。

「まっすぐぶつかり合うばかりが恋愛じゃないわよ」

 カラーはそう言って腕を組む。

「お互いに一歩引いたり踏み込んでみたりして、ちょうどいい距離を探しなよ」

「いや、僕らは恋愛というか、その」

 アルマークは首を振りながらドアから離れる。

「とにかく、もうウェンディは出たんだね。ありがとう」

 そう言って身を翻した。

「あなたの足なら、走れば追いつくんじゃない。急げ急げ」

 カラーの呑気な声が後ろから追いかけてきた。



 寮を出て、しばらく走ると、カラーの言葉通り、ウェンディの後ろ姿が見えてきた。

「ウェンディ!」

 駆け寄りながらそう声をかけると、ウェンディが驚いたように振り向く。

「アルマーク」

「おはよう」

 そう言ってアルマークは隣に並んだ。

「おはよう」

 ウェンディが答える。

 その顔はやや青ざめ、表情も硬かった。

 昨日の補習で自分が言ったことをまだ気にしている様子だった。

「昨日の夜、あの後にね」

 アルマークは言う。

 ウェンディがアルマークの顔を見た。

「マルスの杖の試練に合格したよ」

 その言葉に、ウェンディの頬にぱっと赤みが差す。

「えっ」

「君のおかげだ」

 アルマークは感謝を込めてウェンディの顔を見た。

「私は別に何も」

 ウェンディは首を振る。

「でも、そうなんだね」

 そう言って、嬉しそうに頷いた。

「合格したんだね。よかった」

「うん」

 アルマークも頷く。

 ウェンディの嬉しそうな顔に、自分も胸が高鳴るのを感じる。

「話していいかな」

「もちろんいいよ」

 ウェンディはそう言って、足を速めた。

「今日はまだ少し早いから。校舎の先まで歩こうよ」

「いいね」

 アルマークは歩きながら、ウェンディに昨日のことを話し始める。

 自分の力任せにぶつけた魔法が、まるで通用しなかったこと。

 グリーレストにマルスの杖を手放せと言われ、その危機にコルエンとポロイスが駆けつけてくれたこと。

「あの二人、まだ探してたんだね」

 ウェンディが目を丸くする。

「うん。コルエンの食いついたら離れない性格のおかげで助かったよ」

 アルマークは頷いて、話を続けた。

 コルエンとポロイスが連携してグリーレストに立ち向かったこと。

 だがやはり打ち倒され、コルエンが殺されかけたこと。

 とにかくコルエンを救わなければ、という一心でアルマークはグリーレストを退け、最後はモーゲンとウェンディの教えてくれた光の網でグリーレストを捕らえたこと。

「すごい」

 ウェンディが息を吐いた。

 話がそこに至る頃には、もう二人は校舎を通り過ぎ、森へ向かう道の途中にいた。

「それで、合格したんだね」

「うん」

 アルマークは頷く。

「グリーレストさんが言ってた。胸を張れって」

「胸を?」

「そう。胸を」

 アルマークは頷いて、自分で大げさに胸を張ってみせる。

「自分が鍵の所有者だって、胸を張って言ってもいいって」

「なあに、それ」

 ウェンディが不思議そうに笑う。

「試練に合格したら、もっと何かあるんじゃないの? マルスの杖が強力になるとか、新しい能力が使えるようになるとか」

「うん。僕もそれを期待したんだけど」

 アルマークは苦笑した。

「グリーレストさんが言ってたよ。何もないんだって」

「じゃあ、何のための試練なの」

 笑いを含んだウェンディの声に、アルマークも明るい声で答える。

「僕も君と同じことを思った」

 でも、とアルマークは言った。

「なんとなく分かったんだ。きっと試練に意味なんてないんだって」

「どういうこと?」

 ウェンディが眉をひそめる。

「試練の意味は、さ」

 アルマークはマルスの杖を握った。以前よりも手に馴染むその感触をもう一度確かめる。

「試練を受けた人自身が見つけるんだよ」

 ウェンディが首を傾げて、アルマークを見た。

「アルマークは見つかったの?」

「うん。見つかった」

 笑顔で頷くアルマークに、ウェンディは目を瞬かせる。

「何? 教えて」

「君の隣で戦う自信がついた」

 アルマークは答えた。

「もうこの杖を操られて君を危険な目にあわせるような、そんな無様な真似はしない」

「あ……」

 ウェンディが目を見張る。

 気付けば、二人はあの石の前にいた。

 魔術祭の初日、関係修復のために二人が待ち合わせ、ライヌルの襲撃を受けた場所。

 そこはいやがうえにもあの日のことを思い出させた。

「次は、もっとうまくやる」

 アルマークは言った。

 戦場に、次はない。

 失敗したら、それは命を落とすことを意味するからだ。

 だが、もしも命を拾うことができたなら。

 父は生きて帰った部下を前に、よく口にしていた。


 次はもっとうまくやれ。

 そのために、お前は命を拾ったんだ。


 次はもっとうまくやる。

「二人で闇なんて打ち消そう」

 アルマークはそう言ってウェンディを見た。

「うん」

 ウェンディは頷く。その目が少し潤んでいた。

「思ったより遠くまで来ちゃったね、私たち」

「え、ああ」

 アルマークは言葉の意味を図りかねて、ウェンディを見る。

 ウェンディは笑顔で校舎の方を振り返った。

「戻ろう。授業に遅刻しちゃう」



 実践場の扉が開くと、ラドマールがぎょっとしたように目を見開いて、すぐに顔を背けた。

 入ってきたのはウォリスだった。

 クラス委員であり、補習を担当する最後の一人。

 実践場の中央にいたアルマークが、ウォリスに声をかける。

「ウォリス。来てくれてありがとう」

 ウォリスは目を細めてアルマークを見た。

「ああ」

 鷹揚に頷くウォリスを見て、アルマークは思った。

 さて、今日のウォリスは、どのウォリスだろう。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ウォリスガチャ笑
[一言] 先に書いた446話の感想でロズフィリアとレイラの治療合戦が端折られたと書きましたが、本編の中でという意味ではなく、アルマークのウェンディへの状況報告会の中でということです。 言葉足らずですみ…
[一言] あ、ロズフィリアとレイラの治癒術合戦が端折られた。 カラーみたいにずばっと恋愛の話にされるとたじろぐけど、実際の二人はもうそういうとこ超越してずっと側にいるというか将来の約束をしているも同…
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