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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第二章

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エルド

 トルクの意外な笑顔にアルマークは少し驚いたが、すぐに地面に寝かされたエルドのところに歩み寄る。

「怪我は」

「外傷は無さそうだがな」

 トルクはエルドの命に別状無さそうと見て、既に彼から興味を失っている。

 アルマークは、エルドに出血がないのを確認し、耳元で呼び掛けた。

「エルド。エルド、しっかりしろ」

 しかし、エルドは低く呻くだけで意識を取り戻さない。

 アルマークは根気強く呼びかけ続けた。

 エルドのあまりの反応の無さに、ジャラノンの死体をしげしげと眺めていたトルクも戻ってきた。

「目を覚まさねぇのか」

「気絶しているだけのはずだけど……」

 アルマークが首を捻る。

「あの魔物は何か毒でも持ってるのか」

 トルクの言葉に首を振る。

「何も持ってないはずだ」

「じゃあ何で目を覚まさねぇんだ」

「分からない」

 その時、森を一陣の風が吹きぬけた。

「先生!」

 アルマークは声をあげた。風とともに杖を携えたイルミスが現れたのだ。

「アルマーク、トルク。二人とも怪我はないか」

 イルミスは厳しい表情で言う。

「はい。僕たちは……でもエルドが」

「なに」

 イルミスは素早くエルドを抱きかかえた。

 外傷の有無を手際よく確認し、白い光に包まれた右手をエルドの身体にそって滑らせる。その後で、ようやくふっと表情を緩める。

「この子は大丈夫だ。……魔力を使い果たしているだけだ」

「魔力を」

 意外な言葉にアルマークとトルクは顔を見合わせた。

「校舎に駆け込んできた一年生の女の子……シシリーと言ったかな? 彼女が言っていたよ。原っぱに魔物が突然現れた時、エルドが自分をかばって辺り一面を霧に包んでくれた。早くにげろ、と言ってくれた、と」

「……そうでしたか」

 アルマークは目を覚まさないエルドの顔を改めて見て、先日の彼の言葉を思い出した。

『僕は間もなく霧で辺り一面を包めそうな気がする』

 よくある一年生の強がりかと思っていた。しかし、嘘ではなかった。エルドは自分の魔力を使い果たし、命を危険にさらしてまでシシリーを守ったのだ。彼もやはり、その才能を認められた天才の一人。

「こいつ、やるな」

 アルマークの気持ちをトルクが代弁してくれた。

「なかなかできることじゃねぇ」

「そうだね」

 アルマークは素直に頷いた。自分には勝つ算段があった。技術と知識があった。だからすぐに動くことができた。けれど、もし自分がエルドと同じ立場だったら……? 出来ただろうか。同級生を救うために自分に出来うる最良の選択を、それも自分の命の危険を計算にいれることなく。

「こいつはお前の面倒見てやってるような口ぶりだったが」

 トルクはアルマークを見てにやりと笑う。

「こんな立派な一年坊主に面倒見てもらえて幸せだな」

 アルマークは穏やかな顔で頷く。

「そうだね。彼からはまだまだ学ぶことが多いみたいだ。もうしばらく面倒を見てもらうよ」

 はっ、とトルクが笑った。嘲りの響きはあったが、棘は感じなかった。

 ジャラノンの死体を検分していたイルミスが、アルマークたちを振り返る。

「これは、君たちが?」

「……はい」

「ほとんどがアルマークです、先生」

「そうか」

 イルミスは立ち上がった。

「まさか二体も出るとはな。二人とも、よくやってくれた」

「この森にも魔物がこんなに出るんですね」

 トルクの言葉に、イルミスは頷く。

「多少はな。……だが、今年は少し様子が違うな。こんな浅いところまで魔物が下りてくるとは」

 厳しい顔で続ける。

「近いうちに森の奥の実態調査を行い、あわせて危険な魔物の巣を駆除することになるだろうな」

「先生、俺も参加させてください」

 トルクが言うが、イルミスは首を振る。

「調査隊は教師と高等部の学生が中心となるだろう。初等部の学生にはまだ早い」

 トルクが悔しそうに顔を歪めたとき、再び風が吹きぬけ、後続の教師たちが続々と現れた。

「トルク君、アルマーク君!」

 フィーア先生もやって来ていた。

「心配したわ。二人とも怪我はない?」

 大丈夫です、と返事する二人を見て、フィーアは安堵のため息を漏らす。

「他のみんなも心配してるわ。さあ帰りましょう」

「……はい」

 アルマークはエルドが薬湯を飲ませてもらっているのを見届けてから、ゆっくりと帰路についた。トルクもその後ろを黙って歩く。

 と、不意にトルクが前に出た。

「お前は俺の後ろを歩け」

「なんでさ」

「ずっと俺の前を走っていただろう」

 よく分からないトルクの言葉に、アルマークは首を捻りながらも、笑顔で答えた。

「わかったよ」




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― 新着の感想 ―
[良い点] やまだ様の本領発揮という感じで、アクションも心理描写も大変面白かったです。 トルクはレヴィンに出てきたジャイアン(キャラ名失念)みたいかと思っていたら、全然違いましたね。 読んでいて、十五…
[良い点] おお、ようやくトルクにも認められましたね。 こういう風にアルマークが成長して行く過程が楽しいです! トルクもですが、皆、色々な価値観を持っていて 良い意味で人間臭くて読んでいて感情移入がし…
[良い点] 他のみんなもそうなんですけど、トルクがただの意地悪っていうだけじゃなくて自分でも色々なこと考えてて血の通ってる一人の人間に感じられてすごい好きです。
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