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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第十九章

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勝負

「魔術師同士の勝負って、僕は初めてだ」

 アルマークは言った。

「どうやるんだい」

「ルールなんか無しでやったっていいんだが」

 トルクは腰に手を当てた。

「一応は試験前だ。あんまりひでえ怪我をするのも外聞が悪いからな」

 そう言うと、右手を挙げて空中にぐるりと円を描く。

 それと呼応して、アルマークとトルクの二人を取り巻くようにして地面に大きな光の輪が描かれた。

「この輪の中が勝負の場所だ」

 トルクは言った。

「相手の身体をこの輪から外に出すか、地面に倒したほうが勝ちだ。ただし」

「魔法以外は使ってはならない」

 アルマークがそう口を挟む。

「そうだね?」

「ふん」

 トルクは肩をすくめる。

「直接相手の身体に触れるのは禁止だ。ハンデに、その背中に背負ってる杖を使ってもいいぜ」

「君は素手でやるんだろ?」

「ああ」

「じゃあ僕も素手でやる」

 アルマークが言うと、トルクは、ちっ、と舌打ちした。

「舐めた野郎だ」

 それから、肩をゆっくりと回す。

 武術大会の試合でもトルクが見せた仕草だ。

 本気になって熱が入ってきたときのトルクは無意識に肩を回す。

「灯を消せ」

 トルクは言った。

「輪が光ってるから、お互い相手は見えるだろうが」

「ああ」

 アルマークは頷いて、左手の炎を消した。

 これで、両手が使える。

「何本勝負にする」

 トルクは、アルマークの嬉しそうな様子を見て言った。

「お前の好きな一本勝負でもいいぜ」

「いや」

 アルマークは首を振る。

「何本でもやろう。君と僕が満足するまで」

「ふん」

 トルクは自分の足元を見た。その唇が、笑うように歪むのが見えた。

「それが、舐めてるって言ってんだ」

 不意にトルクが顔を上げた。

 勢いよくかざされた右手からまた見えない圧力の塊が飛んでくる。

 身をよじってかわしたアルマークは、いつの間にか自分の足首に地面から伸びた草が絡みついているのに気付いた。

 トルクが左手もかざす。

 よけきれない。

 アルマークは不可視の盾を作り出そうとするが、その瞬間に強い風が顔に吹き付け、一瞬視界を失った。

 ぐん、と身体が浮く。

 足首の草は、絡みついたときと同じくいつの間にかほどけていた。

 しまった、と思った時にはアルマークの身体は光の輪の外に放り出されていた。

「これで、俺の一勝だ」

 トルクが顎をそらす。

「やられた」

 言いながらアルマークは立ち上がった。

「すごいな」

 素直に思ったことを口にする。

「いったい、今の一瞬でいくつの魔法を使ったんだ」

「怖気づいたか?」

 トルクは笑う。

「まだお前には早かったかもな」

「いや」

 アルマークは首を振った。

「やり方が分かったよ。次は負けない」

 そう言いながら、輪の中に歩み入る。

「ほう」

 トルクの顔が凶悪に歪む。

「それじゃ、見せてもらおうか」

 その右手が握り込まれているのを見て、アルマークはとっさに不可視の盾を前面に大きく展開した。

 炎の指。

 トルクが勢いよく開いた手から、別々の軌道を描いて五つの火の玉が飛ぶ。

 あれが自由に飛び回ると面倒だ。

 アルマークは不可視の盾を張ったままで一気にトルクの間合いを詰めた。

「む」

 トルクが顔をしかめる。

 火の玉たちは見えない障壁にぶつかって火の粉を散らして四散した。

 よし。

 アルマークは、空中に心のペンでまっすぐトルクの背後まで伸びる線を引く。

 デグ直伝の、物体浮遊の術。トルクの身体がふわりと宙に浮いた。

 その瞬間、トルクがにやりと笑った。

 トルクの背後の地面から突然、火の玉が湧き上がるようにしてアルマークを襲った。

「あっ」

 浮遊の術に集中していたアルマークの反応が遅れる。

 とっさの判断で浮遊の術を解除して火の玉をかわしたときには、もう逆にトルクの浮遊の術に捕らえられていた。

 乱暴に輪の外に放り出されたアルマークは、地面を叩いてあえいだ。

「くそ」

 それから上体を起こしてトルクを見る。

「やられた。最初に炎の指を使った時に、火の玉を一つだけ自分の後ろに隠していたのか」

「面白えくらいにうまく引っかかるな」

 トルクは笑った。

「これで、俺の二勝だ」

「まだまだ」

 アルマークは立ち上がった。

「次は勝つよ」

「そろそろ怪我するぜ」

 トルクはそれがいいことででもあるかのように言う。

「試験を受けられなくなっても恨むなよ」

「恨むもんか」

 アルマークは答える。

「感謝しかないよ」

「はっ」

 トルクは歯をむき出して笑う。

「気色の悪い野郎だ」

 今度は僕からいく。

 アルマークは右手をかざした。

 トルクがさっきから使っている、目に見えない圧力の塊を放つ。

 気弾の術。

 アインがよく指でフィッケの額を弾くのに使っているこの魔法は、大きさから速さまで応用のきく範囲が広い。

 アルマークが放った気弾の術を、トルクはよけもしなかった。

 トルクの身体に届く直前で圧力の塊が四散したのが分かる。

 おそらく、不可視の盾。

 その瞬間にはアルマークはトルクに的を絞らせないように素早く動いていた。

 輪から出ないように、目にも止まらぬ速度でトルクの側面に回り込む。

「ちっ」

 トルクが顔を歪める。

 汚え野郎だ。その身体能力が魔法そのものじゃねえか。

 地面から伸びた草が、アルマークを捉えきれずに虚しく宙を掴んだ。

 アルマークの放つ気弾の術がトルクの不可視の盾を揺らす。

 威力は十分だ。

 アルマークがさらにトルクの背後に回り込んだ。

 速え。

 トルクはアルマークに向き直りながら、飛びずさる。

 アルマークがそこに鋭く踏み込んだ。

 その手に風の力が渦巻く。

 だが、足元から突然走った電流がアルマークの身体を突き抜けた。

「ぐっ」

 思わず硬直するアルマークの身体を、トルクの作った強風がなぎ倒した。

「ぐうっ」

「ふう」

 トルクは息をついた。

「相変わらず、すばしこい野郎だ」

 アルマークはあえいで地面を叩くと、またすぐに立ち上がった。

「どうだ。もう諦めるか」

 そう言ってアルマークを見たトルクは、その目が無邪気に輝いているのを見て眉をひそめる。

「楽しいな、トルク」

 アルマークは言った。

「こんな勝負もあるんだな」

 命の奪い合いのない勝負。

 だが、それだけではない。

 何度失敗してもいい。

 試行錯誤しながら自分を高めていくことができる。

 常に真剣勝負だった北の戦場はもちろん、最初からほかの生徒よりも圧倒的に強かった武術の試合では、得られなかった感覚だ。

 ひと勝負ごとに発見がある。

 自分の中にあった魔術師としての常識やイメージが、急速に書き換えられていくのが分かる。

「本当に、勉強になる」

 アルマークの顔が、隠しきれない興奮で綻んだ。

「もっとやろう」

「へっ。おかしなやつだぜ、本当に」

 トルクは地面に唾を吐く。

「だが、もうそろそろ手加減しねえぞ」





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― 新着の感想 ―
おー、無制限バトルと来ましたかぁ。 でもアルマークは飲み込みが速いからどこまで優勢を保てるかなー? 後圧倒的なフィジカルの差。
[良い点] 青春ですやん! [一言] 素直じゃないトルクの、好漢としての独自の成長も本当に楽しみです。
[良い点] 描写はアルマークが多いけどトルクも絶対楽しいやつ [一言] これはララパルーザ 観客が居ないのがもったいない
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