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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第十八章

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視覚化

「さあ、やってみよう」

 穏やかな表情でレイドーは言った。

 放課後の魔術実践場。

 アルマークの目の前には、水の張られた桶がある。

 レイドーは、自分の前にも同じように置かれた桶の水面にそっと手をかざした。

 その手のひらから魔力がじわりと水面に落ちていくのがアルマークにも分かる。

「魔力が水面から、水全体に行き渡るイメージで」

 レイドーは言った。

「そして水の中の魔力を、活性化させていく」

「活性化」

 アルマークはレイドーを見る。

「ええと、それはこの場合は」

「魔力同士をぶつけ合うようなイメージさ」

 レイドーは水面から目を離さずに答えた。

「水の中に行き渡らせた魔力を、手放さずに操るんだ」

 やがて、水面から湯気が立ち上ってくる。

「もうちょっとかな?」

 レイドーは微笑んで、しばし手をかざすと、それから顔を上げてアルマークを見た。

「確かめてくれ。温度はどうだい」

「ああ」

 水に手を差し込んだアルマークは頷く。

「あたたかい。ちょうどいいよ」

「その調節が難しいんだ」

 レイドーは答える。

「水をいっぺんに蒸発させるような大雑把な魔法のほうがよっぽど簡単だからね」

「なるほど」

 アルマークは頷いて、自分の前の桶に張られた水にそっと手を差し入れる。

 冬の冷たい水だ。

「よし。それじゃやるよ」

「ああ。どうぞ」

 レイドーは微笑む。

 アルマークは改めて水面に手をかざした。

 身体から魔力を右手に集め、そこからじわじわと水に行き渡らせていく。

「活性化して」

「分かった」

 レイドーの指示に頷く。

 水の中で魔力をぶつけるイメージ。

 アルマークは魔力を動かした。

 突如水面がうねり、大きく波打ったかと思うと、桶の水が全て外に飛び出す。

「うわっ」

 まともに水を浴びたアルマークは顔を背けて後ずさった。

「ごめん、失敗した」

「うん」

 レイドーはいつの間にか水のかからない場所でそれを眺めていた。

「失敗すると思って最初から避けていたから、僕は大丈夫」

「失敗すると思っていたのか」

 アルマークは肩を落とす。

「難しいな」

「きっと君の魔法全般に言えることだと思うけど」

 レイドーは、髪の先から水を滴らせるアルマークに布巾を手渡しながら、穏やかに言った。

「イメージが、雑なんだ。だから魔力がいつも跳ね上がる」

「雑か」

 アルマークは髪を拭きながらレイドーを見た。

「自分では丁寧にやっているつもりなんだ」

「うん」

 レイドーは頷く。

「雑、という言葉はよくなかったかもしれないね」

 そう言って微笑んだ。

「君の場合は、きっともともとの魔力が大きすぎるんだ」

 レイドーは言う。

「だから、僕らがイメージする程度の詳細さだと、君には足りない。君はもっともっと鮮明にイメージしないと魔力をコントロールしきれない」

「成功することもあるんだ」

「イメージにムラがあるんだろうね」

 レイドーは言った。

「知っての通り、僕もムラのある人間だから、いろいろとやり方を考えたんだ」

「たとえば、どんな」

「イメージをはっきりとさせるには、目で見るのが一番だよ」

 そう言ってレイドーは準備してきたらしい革袋を隅の方から持ってくる。

「見ていてくれ」

 レイドーが袋を逆さにすると、中から小さな木の実がたくさん出てきた。

 アルマークが見守る中、レイドーはその木の実を両手で鷲掴みにして桶の水の中に入れる。

 水面にたくさんの木の実が浮いた。

「これが、魔力だと思ってくれ」

 レイドーは木の実を指差してそう言うと、微笑んで水面に手をかざす。

 水面で揺れていた木の実がその瞬間、全てぴたりと動きを止めた。

「水に行き渡らせた後も魔力の制御を続ける」

 木の実がゆっくりと移動し、水面に整然と並んだ。

「さあ、活性化させるよ」

 レイドーが言うと、木の実の一つが隣の木の実にこつんとぶつかった。

 ぶつけられた木の実もその隣の木の実にぶつかる。

 その木の実もまた隣の木の実に。

 水面でたちまち無数の木の実が互いにぶつかり合い始めた。

 だが、レイドーが制御しているのだろう。その動きは決して無軌道なものではない。全ての木の実が連動しているかのように規則的にぶつかり続ける。

 ぶつかった木の実は場所を変えるが、そこに新たにぶつかって弾かれた木の実が入ってきて、全体としての整然とした並びは崩れない。

「これが、魔力の活性化のイメージだよ」

「これが」

 アルマークは目を見張る。

「木の実でやるのはこれが限界だけど」

 レイドーは言う。

「実際には、これを水面だけでなくもっと立体的に、上下の動きも加えて水の中全体でやっていると思えばいい」

「この動きを」

 アルマークは目を見開いて水面の木の実の動きを見つめた。

「なるほど」

 一度でも、実際に目で見たものはイメージがしやすい。

 木の実の規則的な動きがアルマークの脳裏に刻み込まれていく。

「そうか、これか」

 アルマークは目を輝かせた。

「ありがとう、レイドー。これなら僕にも分かるよ」

「それならよかった。これがいいと思ったんだ」

 レイドーは頷いた。

「弟に物を教えるときはね。実際にそれを見せてやるのが一番理解が早いんだ」



 アルマークは水面に手をかざした。

 水面から湯気が立ち上る。

 レイドーが指を水面につけた。

「うん」

 レイドーは笑顔で頷く。

「今回も適温だよ、アルマーク」

「よかった」

 アルマークは微笑む。

 レイドーにイメージを膨らませてもらったおかげで、アルマークは練習を重ねるうちに湯沸かしの術を失敗することはなくなっていた。

「さすがに覚えが早いね」

 レイドーは言った。

「次回、僕が教えに来ることがあったら次は逆に挑戦しよう」

「逆?」

「水を冷やすほうさ」

 レイドーは言った。

「できるかい」

「成功したことはあるよ」

 アルマークは覚束なげに答える。

「よく失敗もするけど」

「そうだろうね」

 レイドーは頷き、イルミスとラドマールのほうを窺う。

「先生たちもそろそろ終わるみたいだ。こっちも終わりにしようか」

「ああ」

 アルマークはレイドーに向き直った。

「ありがとう、レイドー」

「どういたしまして」

 レイドーは微笑む。

「このペースなら、休暇にクラン島に行けそうだね」

「そうだといいけど」

 アルマークは苦笑した。

 それからふと思いついてレイドーを見る。

「そういえばクラン島には、あと誰が行くんだい」

「ほとんどみんな行くよ。行かないのは」

 レイドーは顎に手を当てて思い出す素振りをする。

「ウォリスとトルク。それにレイラくらいじゃないかな」

「そうか」

 アルマークは3人の顔を思い浮かべて顔をしかめた。

「全員で行けないのは残念だけど、仕方ないね」

「みんな事情があるからね」

 レイドーも残念そうに笑う。

「遊びに行くのに無理強いはできないよ」

「そうだね」

 アルマークが頷くと、レイドーは表情を改めた。

「ところで、明日の先生は厳しいだろうから、今日はしっかり休んでおきなよ」

「明日」

 アルマークは目を見張る。

「誰が来るんだい」

「言っていいのかな」

 レイドーは首を傾げた。

「まあいいか。僕もネルソンにばらされてたしね」

 そう言って、レイドーは翌日の先生役の生徒の名を告げる。

「明日はレイラが来るよ。何を教えるか、彼女なりに一生懸命考えていたみたいだから、期待していいと思うよ」





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― 新着の感想 ―
北の戦場を駆け巡ったアルマークは安定度より瞬発力と爆発力に偏ってるのかな? 魔力が人より格段に大きくコントロールが難しい、でもハマると強い天才型っぽい 当面は魔力の制御が課題ですねー
[良い点] イメージを掴ませるための工夫が素晴らしい! レイドーはいい教師になれそうですねー
[一言] レイドー兄貴さすがやな・・・普通に、教職に高い適正ある気がします。やさしいイルミス先生みたいになりそう。 そして次はレイラですか コミュ苦手勢なりに一生懸命考えてくれてるみたいだけど、さて…
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