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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第十八章

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誘い

 アルマークはアインと並んで寮の近くまで戻ってきたところで、ふと思いだして自分のローブの袖を探った。

 金属の冷たい感触。

 冬の太陽はもう傾きかけているが、まだ食堂で夕食を食べるには早い時間だった。

「モーゲンに、おいしいスープの店を教わったんだ」

 アルマークは言った。

「ザップが落ち込んでしまっていたから、ご馳走してあげようと思ってお金を持ってきたんだけど」

 そう言って、袖から銀貨を取り出す。

「ザップにはもうその必要がないみたいだから。アイン、一緒に行くかい」

「せっかくのお誘いだが」

 アインは笑って首を振った。

「僕もやることができたんだ。ちょっと校舎に戻らないといけない」

「フィッケのところだろ」

 アルマークは笑う。

「君は、本当に友達思いだな」

「よせ」

 アインは嫌な顔をする。

「言葉は呪いと同じだぞ。僕を定義しようとするな」

 そう言ってから、表情を改めた。

「クラス委員として、あまり面白がって放っておいてもいけない、というだけのことだ。注意するだけはしてやるさ」

「理屈をつけるのは君に任せるよ」

 アルマークは笑った。

「いいじゃないか。フィッケを頼むよ。みんなで中等部に上がろう」

「君こそ、頑張りたまえ」

 アインは言い返した。

「君は、フィッケに続く落第の第二候補だぞ」

 アインはそう言うと手を上げ、アルマークに背を向けて校舎へと歩き出す。

「今回のことで、図書館の借りは返したからな」

「借りだって」

 アルマークは目を丸くした。

「君に貸しを作った覚えはないな」

「そうか」

 アインは背中で答える。

「君は商売に向いていないな」

「ありがとう、アイン」

 アルマークはその背中に呼びかけた。

「君が一緒だと、何でもうまく行く気がするよ」

「それは僕も同じだ」

 アインは振り向きもせずに答えた。

「ところで、スープなら彼女と飲みに行ったらどうだ」

 アインの言葉に、寮の方へと歩き出しかけていたアルマークは振り向く。

「何だって?」

「ウェンディ。アルマークが君とスープを飲みに行きたいそうだ」

「え?」

 校舎の方から帰ってきたウェンディは、急にアインからそう声をかけられて目を丸くした。

「アイン!」

 アルマークが慌てて駆け寄ると、アインは笑いながら夕闇の中を歩き去っていく。

「ちょうどいいじゃないか。ウェンディに今日の答え合わせでもしてもらうといい」

 アインが去った後、アルマークとウェンディの間にはぎこちない空気が流れた。

「今日はアインと一緒だったんだね」

「うん」

 ウェンディの言葉に、アルマークは頷いた。

「少し、相談に乗ってもらっていたんだ」

「そう」

 ウェンディは目を瞬かせて頷く。

「突然声をかけられたから、びっくりしちゃった」

「ごめん、アインが変なことを言って」

 アルマークの言葉に、ウェンディはアルマークを見る。

「スープがどうとか、言ってたけど」

「うん」

 アルマークは頷く。

「モーゲンにおいしいスープの店を教えてもらったんだ。アインを誘ってみたんだけど、今日は用事があるみたいで」

「ああ、それで」

 ウェンディが合点したように頷く。

「アインにからかわれたのね」

「そうなんだ」

 アルマークはそこまで言ってから、これが意外なチャンスであることに気付く。

 これは、もしかして。

 このままの流れで、アインの言うようにウェンディと一緒にスープを飲みに行けるんじゃないだろうか。

 モーゲンもそういえばそんなことを言っていた。

「ウェンディ」

 アルマークは袖の銀貨をじゃらりと鳴らした。

「金ならあるんだ」

 そう言いかけて、いけない、と思い直す。

 昔、その物言いで、世話になった大人にこっぴどく叱られたことがあった。

「違う」

 慌てて首を振る。

「そういうことが言いたいんじゃなくて」

「どうしたの」

 ウェンディが微笑む。

「今日はお金があるんだね」

「うん。ザップにおごってあげようと思って」

「ザップに?」

 ウェンディがきょとんとする。

「どうしてザップが出てくるの?」

「ええと」

 アルマークは頭を掻いた。

「その話をすると、すごく長くなるんだ。夕食に遅れてしまうくらい」

「いいよ」

 ウェンディは頷く。

「アルマークは、いつも私にちゃんと話そうとしてくれるから」

 そう言って、アルマークに微笑む。

「私もちゃんと聞くよ」

「ありがとう」

 アルマークは言った。

 言うなら今だ、と思った。

「それなら、これから一緒にノルクの街に行かないか」

 そう言って、ウェンディを見る。

「僕もちょうど補習の休みは今日までだし、スープを飲みに行こうよ。ザップのことは、歩きながら話すよ」

「モーゲンのおすすめなら、きっとおいしいんだろうね」

 ウェンディは微笑んだ。

「いいよ。行こう」

「いいのかい」

 アルマークは思わず拳を握りしめた。

 言ってみるものだ。

「僕がおごるよ」

「それはいいよ」

 アルマークは勢いこんで言ったが、ウェンディは笑顔で首を振る。

「また今度、ザップにおごってあげて」

 そう言って、先に立って歩き始めた。

「その代わり、どうしてザップにおごってあげようと思ったのか教えてね」

「分かった」

 アルマークはウェンディと並んで歩き出す。

「ええと、どこから話そうかな」

「イルミス先生の補習で失敗した話は、もう聞いたからね」

 ウェンディはそう言って優しく微笑んだ。

 夕暮れに、二人の影が長く伸びた。





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― 新着の感想 ―
呪いを返されたと思ったら裏返って祝福になりましたね。 呪詛と祝福は表裏一体 アルマークとウェンディは鍵と門という呪いの言葉に縛られましたがこれは逆に取れば強大な力を得て使いこなす事で自分たちにとっての…
「金ならあるんだ」 この言葉ではいけないと、あの時の親父の事をちゃんと思い出せて、失敗を戒められてアルマークの成長が見えてほっこりします なんでもこなすアルマークが妙にポンコツな部分があったり、ズレち…
[一言] アルマーク、こういう時に話し下手になるところも、説明がすこぶる下手なのも、可愛い奴だぜ……。
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