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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第十六章

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ダンス

 キリーブたち3年3組の演奏役が駆け寄ってくるのを見て、トルクは肩を二三度回すと楽器を手に取った。

「これで揃ったな」

「すまん、遅れた」

 キリーブはそう言ってトルクたちの横に並ぶと、自分の弦楽器を持ち上げる。

「もう来ないと思ったがな」

 トルクの言葉に、キリーブも息を整えながら口角を上げる。

「僕も来られないと思った」

「あんな劇をやったんだ」

 トルクは口を歪めて笑った。

「てっきり説教は一晩くらい続くと思ったぜ」

「イルミス先生もそこまで暇じゃなかろう」

「そりゃそうだ」

 トルクはあっさり頷く。

「始めていいなら、始めるぜ」

「ああ」

 キリーブは大きく息を吸った。

「かまわない」

「よし」

 トルクはデグとガレインを振り返る。

「それじゃ、おっぱじめるか」

「トルクはダンスの方に行けばいいのにな」

 打楽器の前に立つデグが、残念そうに言った。

「トルクと踊りたいっていう女子も結構いると思うけどな」

 その言葉にガレインも頷く。

「前にも言ったろ」

 トルクは肩をすくめた。

「ダンスにはあんまりいい思い出がねえんだ」

 そう言って、手振りでデグを促す。

「つまんねえこと言ってねえで、始めようぜ」

「分かった」

 デグが頷き、軽快に打楽器を叩き始めた。



「始まった」

 ウェンディは微笑むと、横に並ぶアルマークの手を取った。

「私と同じ動きをしてね」

 そう言って、音楽に合わせて手を繋いだままで足を軽快に動かす。

 身体の向きを変え、手を叩いたあとで、向き合って両手を繋ぐと、ウェンディは、ここまでで一区切り、と言って、アルマークと繋いだ手を肩の高さまで上げた。

「最初に戻るよ」

「うん」

 最初は見様見真似で身体を動かしていたアルマークだったが、すぐに、このダンスが単純ないくつかの動きの組み合わせとその繰り返しであることに気付いた。

「なるほど」

 頷いたアルマークがダンスにたちまち順応し始めたのを見て、ウェンディが微笑む。

「さすがだね」

「でもまだ君と話す余裕はない」

 アルマークは一生懸命足元を見てステップを踏みながら、苦笑いした。

「油断すると間違えそうだ」

「間違えたっていいのよ」

 ウェンディは笑う。

「楽しく踊れれば、それで」

「うん」

 アルマークは顔を上げてウェンディの顔を見た。

「楽しいよ」

「よかった」

 ウェンディもアルマークの顔を見返して笑う。

 その時、一定のリズムを刻んでいた打楽器が急にテンポを上げた。

「相手を交代する時間だよ」

 ウェンディがそう言って名残惜しそうに手を離す。

「ここでお互いに右足を出して頭を下げるの」

「うん」

 アルマークたちは向き合って頭を下げた。

「ウェンディ、一番最後にもう一度僕と踊ろう」

 アルマークは言った。

「その時までにちゃんと踊れるようになっておくから」

「分かった」

 ウェンディが嬉しそうに頷く。

「それじゃあ、また後でね」

 アルマークとウェンディが距離を取ると、周囲でも最初のペアが一斉にばらけていく。

 最初は男子同士で踊ることになってしまった男子たちが、目当ての女子を捕まえに走る。

「ウェンディ」

 エストンが息せき切ってウェンディの前に立った。

「僕と踊ろう」

「うん」

 ウェンディは優しく頷く。

「いいよ。踊ろう」

 それを見て数人の男子が諦めたように足を止めた。

 ウェンディは大人気だ。最後にちゃんとウェンディを捕まえられるかな。

 そんなことを思いながら、アルマークは周りを見回す。

 僕も相手を探さないと。

 その時、横から腕をぐいっと引っ張られた。

「おっ」

 アルマークはそちらを振り返り、意外な相手に微笑む。

「ロズフィリア。君か」

「呪われた剣士殿と、ぜひ踊ってみたかったのよ」

「それは光栄だな。でも」

 アルマークは言いながら、ロズフィリアと手を繋いだ。

「僕はこのダンス、覚えたてなんだ。お手柔らかに頼むよ」

「ええ、それじゃ私の動きに合わせなさい」

 ロズフィリアがそう言って、優雅にステップを踏む。

 同じダンスをしているのに、ウェンディのダンスとはまるで印象が違う。

「怪我はもういいのかい」

 アルマークは遅れないようにステップを踏みながら尋ねた。

「ええ。もうすっかり」

 ロズフィリアは微笑んでアルマークの手をぎゅっと握ってみせる。

「ほらね」

「なるほど」

 アルマークが真面目な顔で頷くと、ロズフィリアはくすりと笑った。

「2組の劇、良かったわ」

「ありがとう」

「あなたが来てから、本当に2組は変わった」

「そうかな」

 アルマークは首を傾げる。

「僕には、僕の来る前のことは分からないからね」

「変わったのよ。いい方に」

 ロズフィリアは言った。

「だから、私もうちのクラスを変えようとしてみたの」

「それがあの劇かい」

「どうだった?」

 ロズフィリアがそう言ってアルマークの目を覗き込んだ。

 その目が一瞬心配そうに揺れたのを見て、アルマークは意外に思う。

「あれを、劇と呼んでいいのかわからないけど」

 アルマークは答えた。

「面白かったよ。僕にも3組の良さが分かった」

「そう。やっぱりね」

 頷くロズフィリアは、もういつもの不敵な表情に戻っていた。

「それなら私の狙い通りだわ」


 ロズフィリアと会釈し合って別れたアルマークの元には、その後も自ら探すまでもなくいろいろな女子がやって来た。

 ノリシュは、ネルソンのダンスが雑すぎると愚痴をこぼして行った。

 リルティは、おとなしい普段の彼女と違い、心地よさそうに音楽に身を委ねながら、何度も声を上げて笑った。

 キュリメは、ダンスが苦手だと自ら話したとおり、覚束ない足取りで何度もアルマークにぶつかりそうになった。

 1組のカラーに中等部の寮の話を聞かされた頃には、アルマークもすっかりこのダンスに慣れて、軽快にステップを踏みながら会話ができるようになっていた。

「アルマーク」

 1組のチェルシャと別れたアルマークのところに、他の生徒の脇をすり抜けるようにしてセラハが駆けてきた。

「踊ろう」

「いいよ」

 アルマークが頷いて手を伸ばすと、セラハは嬉しそうにその手を握る。

「やっと来られた」

 そう言ってアルマークの隣に並ぶと、ほっと息をついた。

「私が最初にいたところ、3組に近くて。あのクラス、男子ばかりじゃない」

「うん、そうだね」

「次から次へと、3組の男子が」

 セラハは苦笑いした。

「でも、みんな魔女セラハを褒めてくれたけどね」

 そう言って、まんざらでもない顔で笑う。

「頑張った甲斐があった」

「それは良かった」

 アルマークは頷いて、セラハの動きに合わせてステップを踏む。

「うまいね、アルマーク」

 セラハが目を見張る。

「このダンス、どこかでしたことがあるの」

「いや。さっき教えてもらったばかりだよ」

「さすがだね」

 セラハは目を細めた。

「私の剣士アルマーク」

 不意に魔女の声色でそう言うと、アルマークが戸惑って目を瞬かせるのを見て、セラハは楽しそうに笑った。




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― 新着の感想 ―
家の事で色々あったんだろうなぁ…それでも人にバカにされないように色々努力してるっぽいトルクが微笑ましいですね。 アルマークは学年どこのクラスにもモテモテだなぁ…逆にウェンディが気をつけないといけない立…
[良い点] クラスの垣根を越えて ほっこり。
[良い点] セラハ可愛い
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