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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!
第十六章

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ロズフィリア

「ちょっといいかしら」

 ロズフィリアの声に含まれる有無を言わさぬ威厳に、皆が思わず口をつぐんだ。

 教室が一瞬にして静まり返る。

 ロズフィリアは立ち上がった。

「劇は明日なのよ。いつまでも言い争っていても仕方ないわ」

 そう言って、エストンたちを見る。

「エストン。キリーブ、ゼツキフ。あなたたちには劇をもっといいものにしようという気概はあるの」

「無論だ」

 エストンが答え、他の少年も頷く。

「そう」

 ロズフィリアは微笑み、ルゴンたちを見た。

「ルゴン。レヴィンも、ティアも。あなたたちはどう? 劇をもっといいものにしようという気持ちはあるの」

「それはあるさ。だけど」

 ルゴンが答える。

「俺たちばかりが苦労するのは間違ってる」

 その言葉に、他の平民の生徒たちも頷く。

「分かったわ」

 ロズフィリアは頷き、ルクスを見る。

「それじゃあルクス。クラス全員が公平に苦労する。それならどうかしら」

「公平に苦労? ああ、それなら大歓迎だ。うちのクラスに苦労を厭うやつはいないさ。なあ、みんな」

 ルクスの言葉に、コルエンを除く全員が頷く。

「そう」

 ロズフィリアの笑みが大きくなった。

「なら、この劇の演出は全て私とルクスがやるわ」

 突然の提案に、全員が呆気にとられた。

 いきなり名指しされたルクスが目を剥く。

「なんだって、ロズフィリア。ええと、俺とお前が演出を全部」

「そう」

 ロズフィリアは頷く。

「全部やるの」

「お、おい。いくら俺とお前でも」

「苦労は厭わないと言ったわよね」

「そりゃ、言ったが」

「大丈夫よ。この劇にそんな派手な演出は必要ない」

 ロズフィリアはつかつかと前に進み出ると、全員の顔を見渡した。

「あなた方全員に劇に出てもらう」

 突然の宣言に、裏方役の生徒たちがざわめく。

「そんな」

「いまさら、何を」

 口々に言う生徒たちを、ロズフィリアはたった一度、ぱん、と手を叩くことで黙らせた。

「大丈夫。あなたたちはいい演技ができるわ」

 そう言って、ロズフィリアは手に持った紙片を広げた。

「あなたたちが今言い争いの中で言った言葉を全部書き留めてある。どう? 心からの言葉ばかりでしょ?」

 皆、自分が言い放った、あるいは吐き捨てた言葉がそこにはっきりと書き留めてあるのに気付き、息を呑む。

「全部あなた達の生きた言葉よ。これなら感情が込められるでしょ? これを劇に組み込ませてもらう」

「おい、ロズフィリア。ちょっと待て」

 キリーブが喘ぐように言った。

「勝手に話を進めるな。劇にみんなの言葉を入れる? 無茶苦茶だ。ストーリーはどうなる」

「ストーリー?」

 ロズフィリアが訝しげな顔をする。

「あなた、もしかしてまだあの自分たちが書いた下らない台本で劇をしようというつもりじゃないでしょうね」

「な、なんだと」

「台本なら書いておいたわ」

 ロズフィリアがそう言って右手を振ると、その手の中に新しい台本が現れる。

「どうせ、あなた達の書いた台本なんてどこかでダメになると思っていたから、私の方で用意しておいたのよ。まさか出すのが前日になるとは思わなかったけど。それでもまあ、おかしな妥協で済ませずに、こうしてクラスで真剣にぶつかり合えたのは良かったわ」

 キリーブが真っ青な顔でふらりとよろめいた。

「お、おい。さすがに今から新しい劇なんて」

 エストンが言いかけると、ロズフィリアは皆まで言わせずに首を振る。

「大丈夫よ。外枠はあなた達の書いた台本とそうは変わらない。それに、台詞もかなり削っておいたわ。一人を除いてはね」

 その言葉に、ポロイスが慌てた声を上げた。

「おい。まさか僕の演説のシーンは」

「ないわよ、あんなもの」

 ロズフィリアは言った。

「あの2組の劇を見たあとで、あんな浅くて幼稚な演説をまだする勇気があるというのなら加えてもいいけど」

 ポロイスは口をぱくぱくとしばらく動かして、やがて諦めたように首を振った。

「あなた達の生きた台詞を劇に取り入れる」

 ロズフィリアはもう一度言った。

「ただし劇でその台詞を喋るのは、今日その言葉を言われた側よ」

「なに」

 エストンが反応する。

「どういうことだ」

「エストン。キリーブ。あなた方貴族諸君には、無責任な平民の役をやってもらう」

 その言葉にエストンが絶句する。

「ルゴン。レヴィン。ティア。あなたたちには、嫌味で横暴な貴族の役をやってもらう」

「なんだって」

 ルゴンもそう言ったきり、言葉を失う。

「お互いを知るいい機会だわ。台詞は多くない。今夜一晩必死になれば、あなたたちなら完璧に覚えられるだけの量よ」

 ロズフィリアはそう言ったあとで、もう一度クラス全員を見回した。

「それとも、あれだけ言い合ったあとで、やっぱり元のエストンたちの劇に戻る? 勇ましいのは口だけで、元のままの劇をやって、1組2組の失笑を買いたいというのなら止めないけれど」

 その視線に耐えかねたように何人かが下を向く。

「ただ、保証するわ。私のこの台本なら間違いなく観客の度肝を抜ける。1組とも2組とも全く違う方向でね」

 ロズフィリアの言葉に、しばらく沈黙が流れた。

 やがて、一人の男子が手を挙げた。

「やるよ」

 ルゴンだった。

「俺はロズフィリアに乗る」

 そう言って、ロズフィリアの目を挑戦的に睨み返す。

「俺も」

「僕も」

 平民の生徒たちがルゴンに続く。

「ルゴンたちはやるそうよ」

 ロズフィリアは微笑んでエストンたちを見た。

「あなた達は? とてもそんな勇気はないかしら」

「……分かった」

 悔しそうに、だがはっきりとエストンが言った。

「やる。やればいいんだろう」

 それにキリーブやゼツキフも続いた。

 ショックを隠しきれない様子のポロイスも、それでも頷く。

 ロズフィリアは満足したように頷くと、教室の後ろを振り返った。

「他人事のようにそこで見ているけれど」

 そう言ってコルエンに微笑みかける。

「台詞が一番増えたのはあなたよ。コルエン」

 一番後ろでにやにやと笑いながらロズフィリアの独壇場を眺めていたコルエンが、危うく椅子からずり落ちそうになった。

「は? 俺?」

「当たり前でしょう」

 ロズフィリアは笑った。

「このクラスの二つの派閥を繋げるのは、あなたしかいないんだから」

「嘘だろ。死ぬほどめんどくせえ」

 コルエンはそうぼやいたあとで、ロズフィリアを睨んだ。

「それでお前は、自分では演出だけなのか。劇には出ねえのかよ」

「私は、そうね」

 ロズフィリアは笑顔のままで言った。

「魔神にでもなるわ。何もかも打ち壊す、ね」





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― 新着の感想 ―
魔神!?有無を言わせないロズフィリアの圧凄いな...前日だからこそ受け入れられた面白い脚本ですね。
おー煽る煽る…平民チームは勿論貴族チームには効果覿面ですわこれw そんで何もかも打ち壊す…ね
[良い点] ごめんなさい、ロズフィリア。 ぜんぜんホラーじゃありませんでした。 最高です……! [一言] うざい陽キャっぽい輩感のあるコルエン、すごく好きです。 ちょっとだけ距離感のあるお友達になりた…
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