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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第十章

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決闘の続き

「モルフィス。おい、モルフィス、しっかりしろ」

 ガレルが、地面に倒れたままの相棒を揺さぶる。

「くそ、目を覚まさない。なんてひどい真似を」

「加減したから大丈夫」

 アルマークは言う。

「じきに起きるよ」

 ガレルはそんなアルマークを、まるで化け物を見るような目で見る。

「モルフィスをたった一発で。一体何なんだ、お前は」

「立会人だって言ってるだろ」

 アルマークはそう答えてガレルの隣に跪く。

「で、決闘は続けるのかい」

「む、無論だ」

 ガレルが顔をひきつらせて答える。

「だ、そうだけど」

 アルマークはそう言って立ち上がって、ポロイスを見る。

「ポロイス、君もいいね」

「あ、ああ」

 ポロイスも気圧されたように頷く。

 アルマークの背後で、コルエンの笑い声がした。

 アルマークが振り向くと、コルエンは楽しそうに笑っていた。

「お前のせいで肝心の二人がびびっちまった。この勝負、決着はつくのかね」

 まるで他人事のようにそんなことを言う。

「しかし、まさか殴り飛ばすとはな」

 コルエンは笑顔のままで言った。

「驚いたぜ。そんなにモルフィスに腹が立ったのか」

「いや、別に」

 アルマークは素っ気なく答える。

「力を示せって言うから。あれが一番手っ取り早いし分かりやすいだろ」

「最短距離だな」

 コルエンはそう言ってまた、くくく、と笑う。

「でも、すげえな。武術大会の時も強いとは思っていたが、どうやらそれ以上みたいだな」

 その時、低い呻き声をあげて、モルフィスが目を覚ました。

「モルフィス!」

 ガレルがモルフィスの肩を掴む。

「大丈夫か」

 唸りながら上体を起こしたモルフィスは、いてえ、と呻いた後で、きょろきょろと辺りを見回した。

「あれ? ここは……」

 それからガレルに不思議そうに尋ねる。

「ガレル。俺、こんなところで何してるんだ?」

「覚えてないのか」

 ガレルが悲痛な声をあげる。

「僕とポロイスの決闘じゃないか。君は僕の付添人としてここに来たんだ」

「決闘……」

 モルフィスはそう呟いてから、しばらく考えていたが、やがて首を振った。

「わからねえ」

「なんてことだ」

 ガレルが肩を落とす。

「じゃあ付添人も目を覚ましたし、再開しようか」

 アルマークが声をかけると、ガレルが怯えた顔で振り返る。

「お、お前は何を言ってるんだ。モルフィスにはさっきまでの記憶がないんだぞ」

「また説明し直せばいい」

 アルマークはあっさりと答える。

「それとも僕が説明しようか」

「自分が何を言っているか、分かっているのか。お前が殴ったせいなんだぞ」

 ガレルが絶望的な声をあげる。

「なんでそんなに冷静なんだ」

「殴ったのは僕だけど、記憶をなくしたのは彼自身のせいじゃないか」

 アルマークは答える。

「忘れたくないなら、殴られても覚えていればいい」

「ど、どういう理屈だ」

 ガレルがひきつった顔で立ち上がる。

「ガレル、さっきから何の話をしてるんだ」

 モルフィスが怪訝そうにガレルを見上げる。

「こいつは一体誰なんだ」

「む、無効だ」

 ガレルは叫んだ。

「この勝負は無効だ。付添人が決闘のことを忘れたら決闘にならない。僕らは帰る。行こう、モルフィス」

 ガレルは、ぼんやりしているモルフィスの腕を取って立ち上がらせる。

「無効かどうかは僕が決めるよ」

 アルマークがそう言って近付くと、ガレルは、ひっ、と声をあげた。

「く、来るな」

 そう叫んで後ずさる。

「とにかくこの勝負は無効だ。貴様らが勝ったと言い触らしたいなら好きにしろ」

 それだけ言い捨てて、ガレルは身を翻した。

「行くぞ、モルフィス」

「えーと、確か今日は俺、朝起きてから……」

「ほら、もう思い出しそうじゃないか」

 アルマークの言葉に、ガレルは

「うるさいうるさい!」

 と叫ぶ。

 それから思い出したように、自分の決闘相手をきっと睨んだ。

「覚えていろよ、ポロイス」

「お前の相棒に言え」

 コルエンが笑って応じる。

 それにはもはや何も答えず、ガレルはモルフィスを引きずるようにして去っていった。

 残された三人の間には、しばらくしらけた空気が漂う。

 やがて、笑い声が沈黙を破った。

 笑いだしたのは、ポロイスだった。

 身体を曲げ、心底おかしそうに笑っていた。

「僕があんなに、必死で戦ったのに」

 ポロイスは苦しそうに笑いながら、途切れ途切れにそう言う。

「君は、モルフィスをあんな簡単に。こっちがバカらしくなる」

「すまなかった」

 アルマークは謝った。

「コルエン、僕は嘘をついた」

 その言葉に、コルエンがアルマークを見る。

「実は、モルフィスに少し腹が立った。それで短気なことをした」

「やっぱりな」

 そう言ってコルエンが嬉しそうに笑う。

「そのせいで、ポロイス。君の決闘を台無しにしてしまった。すまない」

 アルマークが頭を下げると、ポロイスの笑い声がいっそう大きくなった。

「やめてくれ。君は常に正しい裁定をしていた。謝るのは僕の方だ」

 それからポロイスはようやく笑いやみ、アルマークに向き直ると、深々と頭を下げた。

「僕の個人的な揉め事に巻き込んで、不愉快な思いをさせてすまなかった」

「おお」

 コルエンが声をあげる。

「初めて見たぜ。ポロイスが平民にそんなに深々と頭を下げるのを」

「僕にだって、プライドがある」

 顔を上げたポロイスは、そう言ってコルエンを睨む。

「そりゃすまなかった」

 コルエンは肩をすくめると、ガレルが残していった剣を拾い上げた。

「まあ、あいつらもそんなに悪い奴らじゃねえぜ。剣は忘れてもちゃんと友達は連れて帰るしな」

 そう言って、意味ありげにアルマークを見る。

「ポロイスはああ言ってるが、立会人が決闘をぶっ壊すのはやっぱりよくねえよな、アルマーク」

 コルエンは、アルマークにぐい、と剣を差し出した。

「何事も、途中でやめるってのはよくねえからな。その責任は取ってもらうぜ。決闘の残った最後の一本は、アルマーク」

 コルエンの顔から、一瞬で笑顔が消えた。

「俺とお前でやろう」





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― 新着の感想 ―
あーやっぱ頭には来てたのねw にしても茶番が有耶無耶になったから対戦しろとか…お前関係ないだろコルエン
[良い点] さては最初っからそれが目的だったんだな、コルエン! 間髪入れずに『 相棒に言え 』と突っ込んだり、相当に頭が切れるようだなキミは( •̀∀•́ )✧
[良い点] 色々笑いましたw [一言] みんな魔法を収めに来てるはずなのに、なんでこんなにみんな脳筋なの…?w
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