瞑想
昼食をたくさんの生徒とともに食堂で食べるのは、やはりアルマークにとっては新鮮な体験だったが、あまりに早く食べ過ぎてしまい、モーゲンたちに笑われてしまった。
味わって食べるという食べ方も学ばないといけないな、とアルマークは思った。
午後も様々な授業があったが、どれも初めて経験することばかり。
どうにかその日の授業を終えたアルマークは、クラスメイトらと別れ、一人魔術実践場に赴いた。
入口の扉を押し開けると、暗くかび臭い場内に昼間のやせぎすの教師が待っていた。
イルミス先生、とアルマークは声をかけた。
「来たね。でも君は今日はまだここを使うのは早いようだ。場所を変えよう」
イルミスに促され、外に出る。
外の傾きかけた日差しの中で見てもやはりイルミスの顔は青白い。
校舎に戻り、教室の一つに入る。
アルマークが席につくとすぐに、イルミスはこんなことを尋ねてきた。
「さて、ではアルマーク。君に問うとしよう。魔法を使うのに、杖は必要か否か。君の考えは?」
アルマークは少し考えて、答えた。
「魔術師はみな杖を持っています。それは魔法を使うのに必要だからではないでしょうか」
「なるほど」
イルミスは頷き、アルマークの回答には触れず、次の質問に移る。
「では魔法を使うのにローブをまとう必要はあるのか否か。君はどう思う」
「……魔術師はみなローブをまとっています。先生も僕たち学生も。それは必要があるからではないでしょうか」
「なるほど」
イルミスは再び頷いた。
「君は魔術師を見たことがあるのだね」
「はい」
「どこで?」
……戦場、と答えそうになってアルマークは危うく飲み込んだ。
「学院に来る旅の途中で」
「そうか。では君は魔術師というものを知っているのだね」
「はい」
アルマークが頷くと、イルミスも頷いた。
「よくわかった。アルマーク」
そして厳かに告げる。
「では、今まで君が知ったと思い込んでいた魔術師というものを、全て忘れなさい」
「えっ」
アルマークは戸惑い、返答に詰まる。
「君が見てきたもの、見たと信じてきたものは魔術師の外見、表面上の姿に過ぎない。魔術師の別名を君は知っているかね?」
「魔術師……見えない力を行使する者」
「そうだ」
イルミスは頷く。
「魔術師の本質はその外見にはない。杖、ローブ、それらはどれも魔術師の本質ではない。魔術師の本質とは、その操る力同様、目には見えないところにある」
「目には見えないところ……」
「それに気付いている者は、実は巷の魔術師の中にも多くはない。しかし君はこの学院で学ぶ以上、少なくともそれを理解しなければならない。そこから始めなければならない。私がここで君に教える魔法……それらを習得する際に、君には杖もローブも必要はない」
「それではなぜ」
杖やローブをみなが持っているのですか、と聞きたかったが、イルミスに穏やかに制された。
「君は賢い。これまで、目から、耳から、たくさんの知識を吸収してきたことだろう。君の疑問に私がここで口で説明することは容易い。しかしそれは君の真の理解をかえって妨げることになるだろう。君が賢すぎるがゆえに」
イルミスはアルマークに目を閉じるよう促した。
「魔法の全ては瞑想から始まる。君の体内に宿る魔力を君自身がきちんと感じることから始めなければならない。初等部入学したての生徒たちは、毎日何時間も瞑想して自らの魔力を練るのだ。じっくりと時間をかけて。とはいえ、君はもう三年生だ。君に残された時間はそう多くはない。だが私は学院長の言っていた君の才能とやらに期待しているよ。さあ、始めよう……」
イルミスはその日、日暮れまでの数時間、ずっとアルマークの瞑想に付き合ってくれた。




