戦いを終えて
モーゲンが試合場を下りると、2組の選手たちが一斉にモーゲンに駆け寄った。
アルマークチームもトルクチームもない。
「モーゲン!」
興奮で顔を真っ赤に染めたネルソンがモーゲンに抱きつく。
「すげえ。お前、本当にあのコルエンを。すげえ、すげえよ」
「ありがとう」
モーゲンはぎこちない笑顔で答える。
「おめでとう、モーゲン」
少し涙ぐんだウェンディが言う。
「あなたの勇気が伝わってきた」
モーゲンはネルソンに抱きつかれたままで、その言葉に照れた笑顔を返す。
「ありがとう、ウェンディ」
「可能性はゼロじゃねえと思っていたが」
とトルク。
「コルエン相手にやってのけるとはな。大した奴だぜ」
「僕だけの力じゃ」
首を振ろうとするモーゲンの肩をデグが叩く。
「モーゲン、かっこよかったぜ」
「本当にやってくれたね。練習通りに身体が動くだけでも凄いのに、きっと今日の君の動きはその上を行っていたよ」
レイドーもそう言って頷く。
「ありがとう」
モーゲンは彼らの後ろにようやくアルマークを見つける。
「アルマーク」
アルマークはトルクとデグの間から笑顔で頷く。
「モーゲン、おめでとう」
「やっぱり怖かったよ」
モーゲンは言いながら、自分の持っていた剣をアルマークに差し出す。
「もう僕は当分、剣は握らなくていいよ。まだ震えてる。武術はお腹いっぱいだ」
その剣を受け取りながら、アルマークは言う。
「僕は何の心配もしていなかったよ、モーゲン。君はやるべき時にやる男だから」
その言葉にモーゲンは顔をしかめて抗議する。
「だから、いつも君がそうやって僕を買いかぶるから」
それで、僕はこうやって。
その後の言葉をモーゲンは飲み込んだ。
笑顔で首を振る。
「でも、こんな経験は初めてだ。ありがとう、アルマーク。全部君のおかげだ」
「君が自分で自分の力を証明したんじゃないか」
アルマークはそう言って笑う。
「僕は練習に付き合っただけさ」
そのアルマークの声をかき消すように、ネルソンが叫ぶ。
「これで俺たち2組の優勝だぁ!!」
その声に、観客席の2組の女子たちからも呼応するように大歓声が上がった。
「あ、そうか」
観客席。
フィッケが今気付いたように声をあげる。
「そうだよ、この試合で3組が勝てば俺たち1組の優勝だったんだ。俺、どうして2組を応援してたんだろう」
「なんだ。僕は君がそれでも2組を応援してるのかと思って、少し感心してたんだぞ」
アインが呆れ顔でフィッケを見ると、フィッケは顔をしかめて首を振る。
「アイン、お前頭いいくせに何バカなこと言ってるんだ。どこの世界に競争相手を応援する奴がいるんだよ。知ってりゃ3組を応援したに決まってるだろ。ああ、くそ。コルエンの奴、なんで負けたんだ」
地団駄踏んで悔しがるフィッケを見て、アインはため息を一つついた後、試合場の2組の様子を見て呟く。
「でも、もともとの僕の予想では2組は最下位のはずだった。彼が転入してくるまでは」
その目は、穏やかな笑みを浮かべているアルマークに注がれていた。
「ウェンディやネルソン、それにモーゲン。みんな以前とはまるで別人みたいだった」
「トルクだって前より強かったぜ」
フィッケが口を尖らす。
「なんか変に落ち着きが出ちまってさ」
「そうだな」
アインは頷く。
「クラス委員のウォリスがいないのに2組はよくまとまっていた。あのトルクまで、自分達のリーダーをアルマークだと認めていた」
決して前に出るタイプではないのに。
「不思議な奴だな」
アインは笑みを湛えた目でアルマークを見つめた。
試合を終え、再び2組と3組の出場選手全員が試合場の中央に整列する。
「ありがとう、楽しかった」
アルマークは、目の前に立つポロイスに言う。
「色々と懐かしい気持ちを思い出せた。君のおかげだ」
ポロイスはその言葉に一瞬怪訝な表情をしたが、すぐに厳しい顔になって、答えた。
「僕はもう誰が相手であっても決して見くびったりはしない。それが今日の教訓だ」
アルマークに、というよりも自分に言い聞かせるように。
「うん」
アルマークは穏やかに頷く。
「僕だけじゃなく、君にも得るものがあったのなら僕も嬉しいよ」
「今日の借りは必ず返す」
エストンがネルソンに言う。
「ネルソン。名前を覚えたら僕はしつこいぞ」
「おう。望むところだ」
ネルソンは笑顔で頷く。
その顔に、エストンは指を突きつける。
「次はノリシュ無しで勝負だからな」
「最初からノリシュに助太刀なんか頼んでねえよ」
ネルソンは顔をしかめる。
が、エストンの真面目腐った顔を見て、苦笑する。
「だけどまあ、またやろうや」
「素晴らしかったわね。モーゲンは」
ロズフィリアが、レイラに言う。
「まさかコルエンが負けるなんて。あなたたちのクラスの団結は本物ね」
「……次は勝つわ」
レイラはたった一言、それだけ言った。
「……ええ。またやりましょう。私に勝つ方法を一生懸命考えてらっしゃいな」
ロズフィリアはそう言って、微笑んだ。
「負けたよ、ルゴン」
レイドーの言葉に、ルゴンはためらいがちに言う。
「途中までは完全にお前のペースだったぜ。最後、どうして……」
レイドーは首を振る。
「勝ったのは君の強さ。負けたのは僕の弱さだ」
「……お前にもいろいろあるってことかな」
「君と同様にね」
レイドーは頷いて、笑って見せた。
「武術って合同授業ねえのかな」
コルエンが背を屈めてモーゲンに囁く。
「え、どうして」
モーゲンが聞き返すと、コルエンはちらりと横目でアルマークを見る。
「俺、アルマークと試合やってみたいんだよな」
「アルマークはきっと頼めばやってくれると思うよ」
「本当かよ」
コルエンは満面の笑みを浮かべる。
「今度、寮の部屋に行くって言っておいてくれ」
「試合が終わったばかりなのに……君はすごいね」
モーゲンは苦笑いする。
「僕は、もう当分剣を見るのも嫌だよ」
「そりゃそうだろ」
コルエンは笑って、自分の胴を叩く。
「お前は自分のやる気を、残らず全部ここにぶつけたんだから」
「うん」
モーゲンは頷く。
「受け止めてくれてありがとう」
それを聞いてコルエンは、おかしそうに笑う。
「ありがたいと思うなら、よくよくアルマークに言っておいてくれ」
その笑顔を見ているうちに、モーゲンはようやく身体の震えが止まっていることに気付いた。




