勝ち名乗り
「モーゲン! モーゲン!」
観客席からバイヤーの興奮した甲高い声が響いている。
女子たちの黄色い歓声も上がっている。
武術大会最終試合。
一方的になるかと思われた試合の、一瞬の決着。
その意外な勝者に、観客席はどよめいていた。
しかし、番狂わせを演じた勝者は、硬い表情のままで動かない。
「いや、まいったな」
口を開いたのは、敗者の方だ。
コルエンが、モーゲンに突かれた自分の胴をぽんぽんと左手で叩きながら言う。
「やられた。モーゲン、お前強いんだな」
モーゲンは何も答えられなかった。
モーゲンの全身全霊を込めた突きは確かにコルエンの胴を捉えた。
だが、コルエンは微動だにしなかった。
まるで硬い岩に剣をぶつけたような感触だった。
トルクでさえ、尻餅をついたのに。
コルエンは何事もなかったかのような顔で、笑顔を見せている。
「油断したつもりはなかったんだ」
コルエンは頭を掻く。
「握手したときに、手が汗でびっしょりだったし、震えてたからさ」
そう言って、モーゲンを見る。
「それで、お前が本気で俺に勝つつもりなんだなって分かった。だから、俺も本気でやった」
「うん」
モーゲンは頷いた。
今更ながらに震えが戻ってきていた。
震えが止まったのは、コルエンの胴を突いた、その瞬間だけだった。
「それなのに、負けた」
コルエンは言った。
その顔に悔しさは見られない。
コルエンのモーゲンを見る目は、強い者が強い者を認める目だ。
「お前は強いな」
モーゲンはその視線が面映ゆくて、目を伏せる。
「またやろうぜ」
「もういいよ」
モーゲンは急いで首を振った。
「僕はもう二度と君には勝てない」
それは本心からの言葉だった。
「君に勝つことのできる、最初で最後の一回を今日使ったんだ」
「そうか」
コルエンは屈託なく笑った。
「俺はその一回に負けたのか」
「うん」
「すげえな、お前」
そして、コルエンは身を翻して3組の選手席に向けて手を合わせる。
「わりい! 負けちまった!」
会場中に響くほどの大声。
3組の選手席と応援席からは、笑い声と「お前が負けたんなら仕方ねえよ!」という声が返ってくる。
エストンも苦笑いしている。
ポロイスは憮然とした表情だ。
それを見て、ようやくモーゲンはコルエンに勝ったんだという実感が湧いてきた。
「コルエン、ありがとう」
モーゲンの言葉にコルエンが振り返る。
「僕を侮らないで本気で突いてきてくれて」
恐ろしいほど速い、本気の突きだった。
でも、そのおかげでモーゲンも本気の攻撃を被せることができた。
「君がもし僕をからかってフェイントでも入れていたら、きっと僕は」
「そんな話はよせよ、モーゲン」
コルエンは首を振った。
「お前の本気が伝わった。だから俺も本気で応じた。フェイントだって? 俺にそんな選択肢はなかったぜ」
「……うん」
「もっと誇れよ、俺に勝ったことを」
そう言ってコルエンが笑顔でモーゲンの肩を叩くのと、モーゲンの勝利が場内に告げられるのは同時だった。
「ほら、呼ばれてるぜ」
コルエンの言葉に、モーゲンがまた慌てて頭を下げる。
滑稽な仕草だったが、もう誰も笑う観客はいなかった。
雨のような拍手がモーゲンに降り注いだ。
モーゲンは肩を震わせたまま、いつまでも頭を上げなかった。




