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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第七章

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圧力

「おお、痛い」

 低い声で言いながら、目の前の男がゆっくりと立ち上がった。

「子供相手に無様よの」

 寸分違わぬ声で、後ろの男が言う。

「いきなり後ろからぞ。お主も食ろうてみればいい」

 目の前の男は言いながら、ゆっくりと杖を持ち上げた。

「さて、どうしてくれようか」

 アルマークは身体を動かそうとしたが、やはり指一本ですら動かない。かろうじて目だけがわずかに動かせた。

「そもそもこの小僧はなんだ」

 後ろの男が言う。

「知らん」

 目の前の男が首を振る。

「突然飛び込んできおった」

 腐臭。

 腐臭。

 腐臭。

 二人の男が口を開くたびに腐臭が漂う。

 いささか間の抜けたやり取りのあと、目の前の男が、結論を下す。

「くびり殺すか」

「それがよかろう」

 後ろの男もあっさりと頷く。

「どうせ派手な魔法を使うわけにはいかんのだから。静かにくびり殺せばよい」

「わしがやるぞ」

 目の前の男が杖を突き出す。

「やられたのはわしじゃからな」

「好きにせい」

 後ろの男が、アルマークの横をすり抜けて部屋の中央へと出る。

「我々にはやらねばならんことがあるのだ、早く済ませい」

「言われんでも」

 ふん、と鼻を鳴らして最初の男が杖をアルマークに向ける。

 ずしん、という衝撃。

 動くことのできないアルマークの身体に、強烈な圧力がのしかかってきた。

 それも、全方向からだ。

 まるで紙屑を握りつぶすように、アルマークの身体全体に圧力がかかってくる。

 絶叫をあげるほどの激痛が襲うが、アルマークは声さえも上げることができない。

 身体がめきめきと軋む。

「邪魔をしおって。憎い小僧じゃ」

 杖をかざしてそう言いながら、男が笑う。

「いい気味じゃ。潰れてしまえ」

 意識が飛びそうになる凄まじい激痛の中で、アルマークは必死に身体を動かそうともがいた。

 動け。

 動け。

 動け動け動け。

 しかし、身体はやはりピクリとも動かない。

 逆に、かかる圧力がますます強くなるばかりだ。

 こんなところで。

 アルマークの鼻から、耳から、目から、血が流れ出す。

 こんなところで、こんな得体の知れない奴にやられるのか。

 こんなところで、終わるのか。

「ほ。意外にしぶとい。頑丈な身体じゃ」

 男が笑う。

 終わるわけにはいかない。

 アルマークは強く念じた。

 動け。

 動け。

 動け動け動け。

 父さん。

 母さん。

 ウェンディ。

 アルマークは親しい人たちの名を呼ぶ。

 僕は終わるわけにはいかないんだ。

 こんなところで僕は。

 だが、必死の抵抗もむなしく、意識は徐々に遠ざかっていく。

 動かない。

 どんなに念じても、身体はピクリとも動かない。


 畏れるな。


 不意にアルマークの脳裏をイルミスの声がよぎる。


「君はもう、あの日の君ではない」


 それは天啓だった。

 そうだ。

 アルマークは気付く。

 魔術師。

 僕は、魔術師だ。

 身体が動かないなら、練ればいい。

 たとえ身体が動かなくても、心は自由だ。

 身体の自由を奪っても、僕の瞑想を妨げることはできない。

 練ればいいんだ。

 アルマークは薄れゆく意識をギリギリで繋ぎ止めた。

 集中しろ。

 魔力を練れ。

 丁寧には練れない。そんな余裕はない。

 だが、必死にうねりを作る。

 流れろ。

 流れろ、僕の魔力。

 うねれ。

 うねりが強くなると、まるで魔力が意思を持つかのようにアルマークの心を衝き動かす。

 この程度の魔法で。

 魔力が叫ぶ。

 この程度の魔法で我らの宿主を潰そうというのか。

 うねった魔力が全身から溢れ出す。

 この程度の魔力で我らの宿主の自由を奪おうというのか。

 アルマークの全身を縛り付けていた男の魔力を、アルマークの魔力が内側から押し返していく。

「なんじゃ、これは」

 男が狼狽した。

「この小僧の魔力か。わしの魔力を押し返しておるのは」

 アルマークは、ゆっくりと自分の右腕を曲げた。

 動く。

「動きおった」

 男が叫ぶ。

「なんじゃ、この小僧は。これは一体何の冗談じゃ」

 アルマークは歯を食いしばって、男に向かって一歩踏み出す。

「こいつ門でもあるまいに。この魔力は何じゃ」

「何をしておる」

 もう一人の男が、アルマークに向かって杖をかざした。

 二人目の魔法がアルマークの身体を襲う。

 今度は全方向ではなく、上から下への強い圧力。

 いきなりの力の方向の変化に、たまらずアルマークは背を丸めてうずくまった。

 床に押し付けられるような強烈な圧力に、息も出来なくなる。

 だが、その拍子に、立てかけてあった木の棒が倒れ、アルマークの足元に転がってきた。

「ぬ」

 男が声をあげる。

「小僧の足元に」

 喋ったのがどちらの男かはもう分からない。

 アルマークは棒を見た。

 普通ではありえない幸運。

 だが、アルマークはそれを何度も経験してきた。

 アルマークは、目だけを自分の相棒である長剣に向けた。

 あの鞘の中。

 きっと、光っている。

 母さんのペンダントが。

 アルマークは、身体中の魔力を総動員する。

 のしかかる、男たち二人分の魔力。

 かまわない。

 アルマークの全身の魔力が叫んでいる。

 この程度の魔力など、ものの数ではないと。

「があっ」

 アルマークは叫んだ。

 男たちの魔力をはねのけ、棒を掴む。

「小僧、掴みおったな」

 男が叫ぶ。

「だが、それを掴んで何とする」

「それが何かも分からぬ小僧が」

「そんなものを掴んでどうする気じゃ」

 二人の言葉に嘲りの響きがある。

 もうどちらが喋っているのか分からない。

 単純な圧力ではアルマークを仕留めきれないと見て、男たちは次の魔法を準備しようとしていた。

「やむを得ん。焼き尽くすか」

「やむを得ん。切り刻むか」

 ……これを掴んでどうするかだって?

 アルマークはうずくまったまま、棒を掴んだ右手に力を込める。

 知らないのか。

 僕たち北の傭兵の息子が、物心ついた時から。

 いや、物心つく前から。

 棒を持ったらどうするのか。

 僕たちが何をして育ってきたのか。

 やることは、ただ一つだけだ。

 アルマークはもう一度吼えた。

 知りたければ教えてやる。

 全身の魔力が弾け、身体が一瞬完全な自由を取り戻す。

 アルマークは目の前の男に向かって跳んだ。

 それが最初の男か、それとも後から来た方か、そんなことはどうでもよかった。

 棒を水平に振るう。

 その凄まじい速さの一撃が、男の首をへし折った。

「貴様、なんと野蛮な真似を」

 もう一人の男が叫んで杖をかざす。

 アルマークを再び圧力が襲う。

 アルマークは全身からあらん限りの魔力を発散して、男の魔力を跳ね返し、もう一度跳躍する。

「それが何か知って」

 言いかける男の脳天へと、まっすぐに棒を振り下ろした。

 鈍い感触。

 男が音もなく崩れ落ちる。

 覚えておけ。

 アルマークは思った。

 棒を持ったら、こうするんだ。





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― 新着の感想 ―
棒を持ったら、こうするんだ。いいねぇwww
2人がかりの魔法を打ち破るアルマークの潜在能力すごいな… これはおじいちゃんに推薦されるわけだわ
必殺の……アルマーク棒で殴るッッッ!!!
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