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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第七章

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ラープス

「やったな、トルク」

 アルマークが試合を終えて帰って来たトルクに応援席から声をかける。

「恐れ入ったよ。あの時の戦法を本当に本番で使うなんて」

 フィッケのような特殊な戦い方の相手だから、トルクもとっさに切り替えたのだろう。

 しかしトルクは汗を拭いながら、嬉しくもなさそうに顔をしかめた。

「ざまあねえ。苦戦しちまった」

 そう言い残して、ガレインたちのところに戻っていく。

「確かに、フィッケは前から変わった戦い方するやつだったけど」

 ネルソンが言う。

「あそこまでやたらと飛び跳ねるような真似しなかったけどな」

「トルク用の戦法って感じだったね」

 アルマークは頷く。

「まともに正面に立たずに速度とジャンプで撹乱するっていう」

「アインの入れ知恵だな」

 ネルソンは顔をしかめる。

「あいつ、ほんと食えないやつだからな」

「まだ色々と仕掛けてきそうだね」

 アルマークは1組側の応援席を見た。

 アインが身を乗り出して次の選手に何かを指示している。

「めんどくせえやつらだぜ。堂々と戦えっての」

「まあ、戦いに作戦は付き物だからね。別に卑怯ってわけじゃない。それでもトルクは勝ったわけだし」

 アルマークがそうネルソンをなだめているその向こうで、ガレインがゆっくりと試合場に上がっていく。

「ガレインー!!」

 応援席からノリシュたちの声。驚いたことに、おとなしいリルティの声まで聞こえてくる。

 幸先良く一勝して、応援している女子たちの意気も上がっているのだろう。

「さあ、次はガレインだ。僕らもしっかり応援しよう」

「おうよ。ガレインー! 続けよ!」

 ガレインがいつもの不敵な笑いでアルマークたちに軽く手を挙げる。

「お、緊張してねえ」

「ガレインのあの変化のない表情は、相手には結構負担だと思うよ」

 対する相手は、先程のフィッケ同様、細身の少年だ。

「1組は細いやつばっかり出してくるな」

 とレイドー。

「だな。さっきとあんまり対比が変わらねえ」

 ネルソンの言葉に、アルマークも納得する。

 確かに大柄なガレインと細身の相手が向き合う姿は、先程のトルクとフィッケの試合とあまり変わらない。

「相手はどういう奴だい」

「えーと、俺はあいつと同じクラスになったことねえな。確か……」

「ラープス」

 レイラが後ろから答えた。

「去年同じクラスだったけれど、とりたてて武術に秀でていたわけではなかったわ」

「そうか。ならガレインが勝つな」

 ネルソンの言葉に、レイラが首をかしげる。

「でも、あのアインが二番目に出すからには何か考えがあるのかもね」

「あいつ、食えねえからな」

 そんな話をしているうちに、試合場の中央のガレインとラープスの名前が紹介され、二人が剣先を合わせる。

「はじめ!」

 ボーエンの開始の掛け声。

 その声とともに、ガレインが一気に間合いを詰めた。

 いきなり、重い突きをラープスに打ち込む。

 ラープスは腰の引けた体勢でなんとかそれを受けるが、ガレインはそのまま連続で突きを繰り出していく。

 トルクほどの迫力はないが、それでも重量感のある連続攻撃で、ラープスを追い詰めていく。

 一方のラープスは何とか凌いではいるものの、いつ胴に打ち込まれてもおかしくない状態だ。

「いいぞ、ガレイン!!」

 ネルソンが叫ぶ。

「そのままいけ!!」

 その言葉に後押しされたかのように、ガレインは攻撃の手を緩めない。

 ラープスの身体はガレインの強烈な攻撃で右に左にふらふらと揺れ、力なく後退する。

 観客席からも、ガレインの果敢なラッシュに歓声が上がる。

「ガレイン、いけー!!」

 応援席の女子から黄色い声援も飛ぶ。

 ガレインの攻撃は続く。

 がきん、がきん、と剣のぶつかる鈍い音が武術場に響く。

 表情を変えることなく、淡々と強烈な攻撃を続けるガレインは、観客たちの目から見ても少し異様に映るらしい。どよめきが起きる。

 逆にラープスは、ここまで一度も攻撃できていないのではないか、というほどに防御で手一杯だ。決定打だけは避けているが、何度か危うい打撃が防具を掠める。

 ガレインが、はっ、と荒い息を吐く。

 攻撃を続けるガレイン。

 突きを打ちながら、大きく口を開く。

 その様子を見ていたアルマークは、不意に悪い予感に駆られた。

 1組の応援席のアインを見る。

 アインは口許に薄く笑みを浮かべたまま、じっと試合を見ている。

 ああ、やっぱりこれはあいつの想定通りなんだ。

 アルマークは思った。

 だとすると、まずい。

「ガレイン、決めろ!」

 アルマークは叫んだ。

 まだ間に合う。この勢いのままで押し切れ。

「逃がすな、ここで一気に決めろ!」

 気付くのが遅かった。もう後戻りする余力はない。

 その声を聞いて、アインがアルマークを見た。

 アインの目が笑っている。良く気づいたね。そう言いたげな目だ。

 ガレインはアルマークに言われるまでもなく、猛攻を仕掛けている。

 ラープスは、それを頼りなく、受ける。

 かわす。よける。

 また、受ける。

 ガレインが何度攻撃を仕掛けても、のらりくらりと。

 受ける。受ける。

 当たらない。

「あいつ、下手そうに見えて」

 ようやくネルソンが違和感に気付いて声を上げる。

「防御だけはやたらにうまくねえか?」

 アルマークは頷く。

「きっとそれに特化した練習をしてきたんだろう。さっきのフィッケみたいに」

「え?」

「対ガレイン用の作戦だ。ガレインの弱点の……」

 アルマークの言う傍から、ガレインの動きが目に見えて鈍くなってくる。

 与しやすい相手と見て、一心不乱に攻撃を続けてきたツケがここへ来て出始めた。

「持久力の無さを狙われたんだ」

「だからバテるの早えって!」

 ネルソンが頭をかきむしる。

「最初から長期戦狙いだったってことか?」

 ネルソンの言葉にアルマークは頷く。

 気付いたときにガレインを止めたとしても、もうあそこまで消耗した状態では既に手遅れだっただろう。

 それよりも勢いで押しきる方が可能性は高いと踏んだのだが、ラープスの防御の上手さが予想以上だった。

 トルクやネルソンなら打ち破れただろうが、ガレインの技術では少し足りなかった。

「ラープスは体力があるからか? でもさっきのフィッケといい、そんなにちょうど自分に都合のいい相手が出てくるか?」

 アルマークは、アインに目をやる。

「でも現にそうだったということは、つまり」

「アインの奴、こっちの順番を読んでたってことか」

 アルマークは頷く。

 自分の組との試合に誰が出てくるのかということは、それぞれが何となく分かる。だが、誰が出るかだけでなく、その順番まで全部読むというのは、並大抵のことではないし、予想したとして外したときの危険も大きい。

 だが、それでもアインはそれをしたのではないか。

 アルマークには、そんな気がしていた。

「やりかねねえな。あいつなら」

 ネルソンはアインを見て、顔をしかめる。

 その時、アインが叫んだ。

「ラープス!」

 その声が合図だったかのように、ラープスが初めて攻勢に転じる。

 決めきれなかった。

 ガレインは既に完全に息が上がってしまっていた。

 ラープスの攻撃は防御のとき同様、迫力のないものだったが、的確にガレインの胴を狙ってくる。まだまだ体力に余裕があるのだ。

「ガレイン!」

 トルクがこの試合で初めて叫んだ。

「ここが正念場だぞ、こらえろ!」

 ガレインが汗だくの顔で頷いて、顎を引く。

 まだ目は死んでいない。

 後は、気力の勝負だ。

 ガレインは、ラープスの力のない攻撃を防ぐ。

 二度、三度。

 しかし、今度はラープスの攻撃が止まらない。

 ぎこちないながらも、ここで勝負を決しようと連続で打ち込んでくる。

「そうだ、ここで決めろ、ラープス! 休ませるな!」

 アインが叫ぶ。

 攻撃を受けるガレインの足がもつれる。

「ガレイン!」

 トルクがもう一度叫ぶ。

 その声を聞いて、ガレインは思い出す。

 昨日、トルクとデグと三人で、密かにかわした約束。


 辛いときにこそ、守りに入らず、攻撃を。


 ガレインが踏みとどまった。

「があっ!」

 気合いとともに渾身の突きを繰り出す。

「いいぞ」

 思わずアルマークが声を上げた。

 それほど腰の入ったいい突きだった。

 しかし、突ききる前にまた足がもつれた。

 突きの軌道が逸れる。

 それをギリギリでかわしたラープスの剣が、ガレインの胴を打った。

「それまで!」

 ボーエンの声が響いた。

 ラープスが腕を突き上げ、ガレインは天を仰いだ。

 観客席から、大きな拍手。

「……仕方ねえ。ガレインは頑張った」

 ネルソンが拍手する。

「そうだな。最後の突きは、良く出したよ」

 アルマークも拍手しながら、頷く。

 ここは戦場ではない。

 負けたからといって、ガレインの何が失われるわけでもない。

「大丈夫。まだ一勝一敗だし、次はウェンディだ」


 うなだれて引き上げてくるガレインの肩に、歩み寄ったウェンディがそっと手を触れる。

「お疲れ様。惜しかったよ、ガレイン」

 ガレインは荒い息をつきながら、うつむいた。

「ごめんな、ウェンディ。俺はダメだ。攻撃もちっとも当たらなかったし、体力も途中で切れて」

 ウェンディは優しく首を振った。ガレインの背後を指差す。

「見て、ほら」

 ガレインは汗を滴らせながら振り返る。

 ウェンディの指の先、1組の応援席で、アインたちに出迎えられながら、笑顔のラープスが全身から流れるような汗を滴らせていた。

「……さっきまで、あんなに汗は」

 ガレインが意外そうに呟いて、ウェンディを見る。

「ずっと元気に動き回ってたのに」

「あなたがずっとあれだけの攻撃をしてたんだもの。そんな簡単に捌けるわけないじゃない。彼も必死だったんだよ」

 ウェンディは穏やかな顔で言った。

「勝敗はその時の運だよ。ガレイン、あなたは彼の汗の量だけ自分を誇っていい」

 そして、きっ、と表情を引き締める。

 慈愛の天使のような穏やかな顔から、ガレインが思わず見とれるほど美しく勇ましい、戦士の顔へ。

「見てて。あなたの分まで、私が勝ってくるから」





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― 新着の感想 ―
[一言] ウェンディが主人公すぎる引き。 アインもすごいキャラなんだなぁということが分かる回でした。 3年生のオールスター選んだらアインも5本の指には入ってきそうなキャラ感じ。 イメージ的には先鋒アル…
[一言] 柔よく剛を制すと言いますが、実際は剛のほうが柔よりもずっと有利なのだそうです。 相性が良くて作戦があっても、両者の間にはなかなか覆しがたい戦力差があったはずです。 それでも柔の側が勝てたの…
[良い点] みんなまだ小学3年生なんだよねぇ キラキラしてる 順番を漏らしてる内通者がいると思ったら、アルマークはアインの読みを褒めてて自分の汚さを恥じた ワイは蛮族や…
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