自主練習2
翌朝。
アルマークたち四人がいつもの場所で練習をしていると、
「こんなところでやってるのかよ」
と声をかけられた。
「トルク」
意外な人物の出現にアルマークが声を上げる。
トルクがガレインとデグ、ピルマンを連れて姿を現したのだ。
「遠すぎじゃねえのか。寮からだいぶ歩いたぜ」
「何の用だよ」
ネルソンが剣を下ろしてトルクを睨む。
「冷やかしならお断りだ。こっちは真剣にやってるんだ」
「それは願ってもねえな」
トルクは抱えていた防具や剣を地面に下ろす。
「俺たちも今日からここで練習する」
アルマークの後ろでモーゲンが、げっと声を上げる。
「どういう風の吹きまわしだい、トルク」
アルマークがトルクに尋ねる。
その顔がすでに笑っているのを見て、トルクが顔をしかめる。
「俺たちは1組に問題なく勝つつもりだが」
トルクは言う。
「3組のエストンだのポロイスだの、あんな連中に目の前で勝ち誇られたら癪でしょうがないからな」
「俺たちだって勝つ」
ネルソンが言う。
「3組になんか負けねえよ」
「だから」
トルクが言う。
「俺たちもここで練習するって言ってるんだ」
「それは助かるな」
アルマークが言い、ネルソンが不満げに振り向く。
「アルマーク。お前さえいれば別にトルクの助けなんかいらねえよ。気分わりいだけだ。俺たちだけで練習しようぜ」
その言葉に、モーゲンが一生懸命頷く。
「賛成」
「昨日エストンとポロイスの二人に会ったよ」
アルマークは言った。
「二人とも体格が大きかった。ちょうどトルクくらいだ。あいつらと戦うことを想定したら、トルクが練習相手にちょうどいい」
ついでに、とアルマークは付け加える。
「ネルソン、君の言葉通り二人ともいけ好かない奴らだった。ちょうど昔のトルクくらいだ。あいつらと戦うことを想定したら、トルクが練習相手にちょうどいい」
「おい」
トルクが顔をしかめ、レイドーがぷっと吹き出す。
「冗談だよ、トルク」
アルマークはトルクに断って、続ける。
「僕もあんな奴らに負けるのはごめんだ。ネルソン、あいつら……」
アルマークはネルソンの顔を見た。
「ノリシュの名前も覚えてなかったよ」
「あいつら」
ネルソンは顔を歪めて吐き捨てる。
「何様だ。思い知らせてやる」
地面を何回か乱暴に蹴って、ネルソンはそれで自分の気持ちにけりをつけた。
「……仕方ねえ。2組の中でごちゃごちゃ言ってる場合じゃねえ。トルク、仮想エストンとポロイス戦だ。練習相手になってもらうぜ」
「だから最初からそう言ってるじゃねえか」
トルクはそう言い捨て、さっさと防具を着け始める。
「じゃあデグにはレイドーと試合してもらおう。ピルマン、君はモーゲンと。ガレインは僕とだ」
アルマークは手早く全員に指示を出す。
「全員で勝とう」
「おう!」
ネルソンが返事をし、レイドーとデグが頷く。
ガレインは俊敏さに欠けるものの、なかなかのパワーの持ち主だ。
アルマークはガレインの突きを受けながら、
「いいぞ。ガレイン、筋がいいな」
と誉めてやる。
ガレインがにやりと笑う。
不敵な笑みに見えるが、これがガレインの素の笑いだということはもうアルマークにも分かっている。
笑い方で損をしている男なのだ。
「そのままいこう」
しかし、意外にもすぐにその剣先が鈍り始める。
「どうした、ガレイン」
声をかけるが、ガレインは、はあはあと肩で息をし始めた。
要は体力がないのだ。
「きつくなってからが本番だ。ガレイン、もう少しだ」
アルマークはガレインにはっぱをかけて、最後はわざと胴でガレインの突きを受けてやった。
「そうだ、今の突きを覚えておくんだ。苦しいときにもそれが出せれば勝てるよ」
アルマークの言葉に、ガレインは喘ぎながらも頷く。
アルマークはガレインを休憩させて、ネルソンとトルクに目を向けた。
ネルソンは、トルクとほとんど互角の戦いをしていた。
さすがにこの夏全てを剣に捧げただけのことはある。
トルクの重量級の突きをうまく捌いて、決して正面に立たず、防戦一方になることなく効果的な突きを繰り出している。
しかしトルクも簡単に下克上を許しはしない。
ネルソンの突きを豪快に打ち払って主導権を譲らない。
最終的には、ネルソンのテクニックをトルクのパワーがねじ伏せた。
「くそっ」
ネルソンが膝をついて喘ぎながら悔しがる。
「あと少しだったのに」
「あと少し? まだまだだ」
トルクが額の汗を拭いながら言う。
「これで俺の三戦三勝だ。お前が思っている以上に差はでかいからな」
「いつもぎりぎりじゃねえか」
ネルソンが言いながら上体を起こす。
「実力は迫ってるんだ。認めろよ」
トルクは、ふん、と鼻を鳴らす。
「ま、夏前よりは上達したのは認めてもいいがな。大会にも多少は希望が持てそうだ」
「うるせえ。素直に認めてんじゃねえ」
自分から認めろと言っておいて、ネルソンは首を振る。
「お前はいつもみたいに憎まれ口叩いてりゃいいんだ。その方がこっちはやる気が出るんだよ」
トルクは口角を上げてネルソンを見る。
「ネルソン、いつも威勢だけだ、お前は。減らず口を叩く前に一度でも俺に勝ってみろ」
「だから勝つって言ってんだ」
二人のやり取りを見て、アルマークはこの二人はしばらく放っておいても大丈夫そうだ、と判断した。
レイドーとデグの勝負は一進一退だ。
というよりは、レイドーの調子が良ければ彼が勝ち、調子が悪ければデグが勝つ、という具合で勝負の行方が完全にレイドーの調子に委ねられている。
アルマークは二人にいくつかアドバイスして、モーゲンとピルマンを見た。
ピルマンはガライ王国の農村の出身で、彼もお世辞にも運動神経がいいとは言えないが、モーゲンはそのピルマンに圧倒されていた。
腰の引けた突きをいなされ、あっさりと胴を突かれて膝をつく。
同じようなやり取りが繰り返され、ピルマンがどんどん自信をつけていくのが分かる。
その逆に、モーゲンの身体から、ただでさえなかった自信がさらに抜けていくのが分かる。
ああ。僕はピルマンとやってもこんななのか。ダメなやつだ、僕は。
モーゲンの背中がそう言っているのが手に取るように分かる。
これは一度止めよう。
アルマークは二人の間に入り、ピルマンに休憩してもらいモーゲンを呼ぶ。
「もうダメだ」
開口一番、モーゲンは今にも泣きそうな顔で言った。
「ピルマンとなら、少しは勝負になるかと思ったけど。ごめん、アルマーク。僕は何の役にも立たない奴だ」
「何言ってるんだ」
アルマークは首を振る。
「モーゲンは僕の恩人だ。こんな武術大会の練習ごときで君への信頼は揺るがない」
そう言いながらも、アルマークは考える。
モーゲンにこれから基礎的な実力を伸ばしてもらっても、大会には到底間に合わないだろう。
所詮、大会は一発勝負だ。
モーゲンにもできることを考えよう。
「モーゲン」
アルマークはモーゲンの肩を叩いた。
「今日から、僕と特別練習をしよう」
「え?」
モーゲンが怯えた顔をする。
「怖いのは嫌だよ」
「大丈夫。君がダメなやつなんかじゃないってことを僕が証明する」
アルマークは笑顔で言い切った。




