住宅における悲哀
あれからどのくらいたったんだろう?
正直日数まで覚えてないので何ヶ月たったのかは分かってない。
ハイハイができるようになる頃には念願の虎が出てきた。
思わず歓声を上げたらアリーが慌てたように部屋に飛び込んできたり、その寸前にリスが落ち込んでたりしたが気にしない。
落ち込みながらもアリーに見つかることなく消えたリスも可愛いので今度は撫でてあげようと思う。
実体はないようだが触れてみるとぬくもりのようなものを感じるのだ。
リスのお気に入りは顎の横あたり。指先でうりうりっとやってやると顔を摺り寄せるようにしてくる。
今まで見たのは、リス、鳥、蛇、鹿、馬、虎の6種類。
みんな薄くて透明でパステルっぽい淡い色だった。
どの子も可愛いので見てるだけで楽しい。
一匹だったり複数でいたりとそこらへんは気まぐれなようだ。
歩けるようになってからは家の中を散策した。
二階には子供部屋、両親の寝室、あと客室っぽいのが二部屋。階段を下りると玄関に通じる廊下があって右にはキッチンにダイニング、左には応接間とでもいうのかな?があった。
結構広い家だよなぁ。
見上げながらそんな事を考えていたらメイドのターニャに声をかけられた。
「お嬢様?どうなさいました?」
お嬢様って・・・・いや雇い主の娘だからいいのか?
「お庭でてもいーい?」
そうこの家には庭まである。
日本の住宅事情を知る身としては羨ましいかぎりなのだ。
実家を出て一人暮らしする事になって初めて入ったのは2階建てのアパートだった。しかも、今の子供部屋よりも狭いワンルーム。
ロフトがあったので実際よりは広く使えると喜んだものだった。
実家とて一軒家ではあるものの自転車を2台置けるスペースのほかには庭とも呼べぬ花壇がある程度だった。
たしか25年~30年のローンを組んだとか聞いた。
この家はどうなんだろうか?
いやいや、そんな事はいいのだ。
家の中はあらかた見終わったので今度は外に出てみたいと思ったのだ。
「もう少し大きくなってからにしましょうね?」
まだまだ幼児という事か。外は危険なのか?庭くらいいいじゃないか。
とも思うものの彼女の仕事はまだまだあるのだろうし目を放した隙になにかあっても困るのだろう。
「むぅ。じゃぁご本見たい」
ここは不満を見せつつも妥協案でいってみる。
この家は本が少ない。
読み聞かせてもらった絵本が数冊のほかには10冊程度だろうか。
どれもそれなりに厚みはあるものの少々古い感じで表紙は色が落ちてたり、紙も日焼けしてたりする。
こうやって本を見たいと強請るのはいつものことだ。
最初はそう強請られるとアリーに許可を取りに行ってたりしていたターニャだが、今では「しかたないですね」と言いながらすぐに本を出してくれる。
本さえ渡せばしばらくは静かだというのを知っているからでもあるし、アリーからもいつでもいいと許可がでているからだろう。
「どれになさいますか?」
『魔術師入門』
『冒険者必見!初心者でも安心なダンジョン編』
『薬学入門 薬草と毒草はここが違う!』
『四大精霊と聖獣』
この世界では漫画はない。
あっても絵入りの図鑑くらいなもので、写真もないのに良くここまで細部まで書けるものだと関心すらする。
お気に入りは『四大精霊と聖獣』なんだけど何回も読んでいるので今日は違うものにしよう。
「これー」
手に取ったのは『冒険者必見!初心者でも安心なダンジョン編』だった。




