薬湯
入浴タイム。
ニハールに掃除を言いつけてからホワイトラビィを連れてトイレ兼洗い場になっている所に入った。
トイレは手動水洗というのか用を足したら水がめから水を流すという感じで、広さは2畳ほどになると思う。これは洗い場としてのスペースのためで、ユニットバスのようなものでバスタブの代わりに木の盥が置いてある。大きさは各家庭で違うんだろうけど大体3個はあって身体を拭く時に使うものと洗濯物のときに使うもの、その他の用途に使うものと分かれている。
その他の盥の中に水を入れようとして三個ある水がめを見たが水が溜まっているのは一個だけだった。
「なんで入ってないんだよ」
これはサボってると言わざるを得ない。基本水は井戸から汲み上げるしかないので多めに溜めておいて使ったらこまめに補充するのが一般的だ。
もちろんまだ子供でメイドまでいるのでリーアはやったことないのだが。そして水がめは家族の人数分であることが多い。人が多ければ使う分が多いので当然だけど。
「使ってみるかな?」
本当はやってみたいというのが本音だけど家や人目のあるところでやってみるのは躊躇われた。これはきっと良い機会なのだとリーアは先ほどの怒りも忘れ期待に目を輝かせる。
「ニハール来ないよな・・・」
入り口を振り向くといつの間にか扉の前にいつもの鹿が寝そべっていた。淡い藍色の鹿は扉を塞ぐようにそこにいてじっとリーアを見つめている。まるで私はここにいるよ!と言いたいかのようだ。
「え・・と、見張っててくれる?」
思わず問いかけると、きぅ!と嬉しそうに鳴いた。鹿ってこういう風になくの?と思いつつ、きっとニハールが来れば知らせてくれるのだろうと任せることにした。
「後は・・・水はもちろんだけどそれだと冷たいから・・・」
盥に手を向けて水が沸くイメージを重ねる。手のひらが温かくなるような感じがして水がにじみ出てくる。でもそれだと冷たいままだ、少しずつにじみ出した水を見ながら温泉を思い出す。入れないような熱さのじゃなくてぬるいくらいのそれでいて間欠泉のような勢いじゃなく海とか湖の中でこぽこぽと出てるくらいのだ。
盥に1cmくらい溜まり始めたところで気付く、いつの間にか他の子たちもいたのだ盥を抱き込むように淡いクリーム色の虎、盥を覗き込むように淡い水色の蛇、後ろにも気配を感じれば淡い紅色の小鳥、丁度扉の近くだったからか小鳥は鹿の頭の上に乗っていた。
その微笑ましい光景に思わず笑みがこぼれる。
「よし!」
気合を入れると微かに湯気の昇るお湯が一気に盥の半分くらいまで沸いてきて慌てて手を引くとちょっと溢れてお湯は止まった。手を入れて確認してみると丁度いい湯加減になっている。
「おいでー」
と言いつつ鹿と向かい合っていたホワイトラビィを抱き上げてゆっくりとお湯に沈めた。ホワイトラビィはお湯に後ろ足が入ったら少しだけ暴れたけど特に害は無いと分かったのか首の辺りまで入ってくれた。
指を軽く立てるようにして毛というよりは皮膚から汚れを落とすように洗っていくとみるみるうちにお湯は濁っていく。
「うわぁ・・・・」
もはや泥水?と思えるほどのそれをトイレに流してもう一度お湯を出して今度は頭も洗っていく。やはりと言うべきか皮膚はちょっと弱っていそうで(汚れ、脂を放置すれば皮膚病のもと!)ふと思いつく。良い物があると。
三度目のお湯を溜めてその中に薬草の粉を一握りほど入れてかき混ぜると入浴剤を入れたように全体的に薄茶色にかわり薬湯となった。
そしてホワイトラビィ三度目の入浴、入れすぎかとも思うけどシャンプー無いし一回目で泥落とし、二回目ですすぎ、三回目で皮膚改善とすれば良いか、とホワイトラビィに薬湯揉みこみつつ納得することにした。
次回は乾燥ですね!




