赤ん坊のお仕事

生まれたはいいものの、暇だ。

お腹が減れば泣き。

オムツが濡れれば泣く日々だ。

まだまだ、言葉は喋れないのでしかたない。

コミュニケーションが取りづらい。

読み聞かせてくれる絵本で文字を覚えた。

やっぱりというか、なんというか、文字が違う。

まぁ、そんな気はしてたんだけど。

母親の名はアリー、父親の名はダナン。これはお互いが呼びあっていたのを聞いただけなので愛称なのかもしれない。

なんせ私の名前はアリフィリアなんだから。

青い小さな花で、初夏の頃に咲くらしい。

ていうか、今、春だよね？

普通生まれた季節の花でつけない？

いゃ、いいんですけどね？

愛称で「アオ」って付けてもおかしくないかな？どうなんだろう？

やっぱり馴染みのある名前のほうが違和感ないしね。

そうそう、絵本といえばこの世界では勇者や魔王、英雄や魔物という感じのものが多いみたいだ。

聖獣やら精霊獣なんていうのもあって結構面白い。

けど、善悪がはっきりしていて必ず悪は滅び、善は平和に暮らした。という終わりになっていた。

「泣いた赤鬼」のように魔物の一部にも優しい魔物もいるんだ。というような物はないらしい。

少なくともまだ読んでもらったことはない。

言葉の練習はひたすら声を出してみるだけ。

「あ～」とか「う～」とかしか出ない。

調子に乗って前世でどこかの国の国歌だったはずの歌を「あ～う～う～」だけで歌ってみたら、聞いていた母親、アリーが騒ぎ出した。

「この子は天才だわ！シキョウ様に会わせなきゃ！」

きゃいきゃい言うのがちょっとウザい。

シキョウ様が誰だか知らないけどもう歌うのは止めよう。

少なくともアリーの前では歌わない。

もちろん父親を連れてきたアリーに「もう一度歌って？」と言われても首を傾げておいた。

ダナンも「まったく仕方ないなぁ」と言いながらアリーを落ち着かせていた。

親の欲目ですごく天才に見えたんだと思ってくれただろう。

身体もちゃんと動かす。

ぱたぱた手足を動かすだけだけど結構疲れる。

体力がすぐ切れるのか良く動き、良く眠る赤ん坊だろう。

身内の子と友人の子と数時間過ごした程度の私に他の赤ん坊と比べることはできないけどね。

そうだ、一般的に赤ん坊っていつ喋り出したり、歩きだしたりするんだろう？

下手に早いとアリーが騒ぐ気がする。

気を付けよう。

こうなってくるとペットでもいたらなぁと思う。

もふもふなでなでしてるだけで癒されるし言葉はいらない。

でもこの家にはいないようだ。残念。

それとも、赤ん坊との接触は控えてるとか？

喘息とかアレルギーの引き金になったりするから前世でも控える事が多いはず、この世界の清潔レベルがどうなってるかわからないからなんとも言えないけど。

今まで飼ってたのは

犬や猫、ハムスター、リスといった小動物もいたなぁ。

うん。もう少し大きくなったらおねだりでもしてみるか。

「う？」

どんなペットをねだろうかとあれこれ考えていたら、唐突にそれは現れた。

形はリスなんだがあきらかにリスじゃない。私の知ってるリスは茶色もしくは茶色に縞の入ったやつだ。

ましてや、空中に浮いてたりしないし、透き通ってもいない。

薄く淡い緑をしたリス擬きは首を傾げたりしながらこちらを見てくる。

なんだろう？コレ？？

私もリス擬きを見る。

と、近づいてくる足音がした。

見つかっちゃうから隠れて！

そう思ったらふわっと消えた。

ほんとになんだったんだ？